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[中外時評]ロシアと中国にすきま風 日ロ関係への影響、注視を 論説副委員長 池田元博
ロシアで先月中旬、内外のエネルギー関係者を驚かせる発表があった。
国営石油最大手のロスネフチがインドに、東シベリア有数のバンコール油田の約5割の権益を売却するというものだ。プーチン大統領の側近でロスネフチを率いるイーゴリ・セチン社長が訪印し、合意文書や覚書に調印した。
インド国営の石油天然ガス公社(ONGC)の海外投資子会社に最大26%、オイル・インディアなど3社連合に23.9%の権益を売却するという。実際に履行されれば、インド側の出資比率は49.9%に上る可能性がある。
バンコールは3億6千万トンの埋蔵量を誇る巨大油田だ。資源の国家管理を強めたプーチン政権は従来、こうした大型油田やガス田開発権の外資開放に極めて慎重だった。
今回の合意はロスネフチに過半の権益が残るとはいえ、ロシアにとって異例の譲歩となる。ウクライナ危機に伴う米欧の経済制裁でロスネフチは資金繰りに窮しているとされ、背に腹はかえられなかったのかもしれない。
もっとも発表が意外感をもって受け止められたのは、もうひとつ別の理由がある。
2014年9月のことだ。プーチン大統領が中国の張高麗副首相に「我々は総じて外国パートナーの参加に非常に慎重に対処するが、中国の友人には制限がない」と、バンコールへの出資を自ら呼びかけた経緯があったからだ。
同年11月には中ロ首脳立ち会いのもと、ロスネフチと中国石油天然気集団(CNPC)が、同油田の10%の権益を売買する覚書を交わした。ところが最終合意に至らず、ロシアはついに中国を見限ってインドになびいたわけだ。
油田開発だけではない。ロシアは天然ガスを東、西の2つのルートでそれぞれ中国に大量供給する計画だが、エネルギー研究所のタチヤーナ・ミトロワ部長は「中国は西ルート経由の調達にさほど関心がない。最終合意はかなり難しい」と予測する。
中国の最近の景気減速を踏まえれば一見、当然のようにもみえる。ただ、ロシアの中国専門家、アレクセイ・マスロフ高等経済学校教授は「中国は欧米の制裁により、ロシア市場で独占的な地位を得たと意識している。中ロの経済交渉は以前より格段にやりにくくなった」と語る。
ロシアの対中貿易額は全体の約12%。国別では最大の貿易相手だが、昨年の額は前年比でおよそ3割も減った。「ロシアも当初は欧米制裁の打撃を中国が完全に補ってくれると期待したが、どれほど現実的かを直視するようになっている」と同教授は明かす。
実際、プーチン大統領は3月末に対外軍事技術協力について演説した際、有望な兵器輸出市場として中国より先にインド、イラク、エジプト、ベトナムを挙げた。過度の対中依存から脱却しようとしているのは間違いない。
中ロの実相は、経済のみならず外交にも垣間見える。
核実験などを強行した北朝鮮に対し、国連安全保障理事会は先月、制裁決議を採択した。その直前、公表された決議案の修正をロシアが求めたのは記憶に新しい。ロシアは米中がまとめた決議案を米国はおろか、中国からも事前に得られなかったという。
プーチン大統領は今夏にも訪中する予定だ。ロシアは今後も中国との「蜜月」関係を誇示するだろうが、その裏で吹き始めたすきま風の行方は注視する必要があろう。
折からラブロフ外相が近く来日し、来月には安倍晋三首相が訪ロする。ロシアが対中偏重を見直し、バランスのとれたアジア外交をめざすのなら、日ロの関係改善には追い風となる。もちろん、懸案の北方領土問題の解決に結びつくわけではないが、経済協力などを通じて互いに環境づくりを進める好機ではある。
例えばシベリアの資源開発だ。原油安と制裁の影響で開発計画はほぼストップした。日本企業連合が参画するサハリン沖資源開発事業「サハリン1」も天然ガスの仕向け先が宙に浮いたままだ。
このガスについてミトロワ部長は「液化天然ガス(LNG)にして日本、韓国に輸出するか、中国にパイプライン供給するしか選択肢はない」と指摘。LNGなら採算性の面からみて、稼働中の「サハリン2」基地を拡張して使う案が最も有望という。ただし「日本か中国かは、日中との外交関係の展開次第だ」。
原油安のいま、資源をめぐる議論は非現実的かもしれないが、ロシアが苦境に立たされている時だからこそ、長期的視野で検討に値する構想が浮上することもあり得る。
[日経新聞4月10日朝刊P.10]
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