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エネルギーをセレクトしてコネクトする新時代のソーシャルサイト「ENECT(エネクト)」のテーマは「選ぶ」。これまで私たちには電気を「選ぶ」権限はなく、与えられるままに生活をしてきました。
選択には少なからず責任がつきまとい、今までよりちょっと多めの手間と知識、時には一握りの勇気も必要かもしれません。そこでENECTは、国内外で「選ぶ」ことを続け、道なき道を切り拓いてきた達人たちにお話を伺うことにしました。
記念すべき第一回目にはウルグアイより、「世界で最も貧しい大統領」としてその名が世界を駆け巡った、ホセ・ムヒカ前大統領が登場。地球のちょうど裏側から、示唆に富むインタビューをお届けします。
──今回私自身、日本からあなたに会いに来ました。あなたの謙虚かつ大胆な政策が世界から注目と評価を集めていることについてどう思いますか?
ムヒカ 世界はとても広い。ですから、各地で暮らす一部の人たちが、私の言葉に共感してくれているのだと思います。
現在人類はどの道を歩んでいいかもわからず、苦しんでいます。私たちが作り上げた文明は今や、市場原理に支配されている。道徳やモラル、信仰といった、本来であれば私たちの心の支えになるものの力が、もはや廃れてしまったのではないでしょうか。
今はただ、富の蓄積だけを追及しているようにさえ見えます。人類はこれだけの進歩を遂げたというのに、いくらたくさんの知識、技術、資源そして能力を得ても、必ずしも幸福ではありません。
そこに矛盾を感じている人たちが、実際には大勢いるということだと思います。
──そもそも「南米大陸」とはどのような場所で、現在、どのようなフェーズにありますか?
ムヒカ 南米大陸は大きなポテンシャルを持っていますが、まだまだ沢山の課題が山積みです。ここには約6億の人口がいます。しかし、それぞれの国はバラバラで、団結に欠けています。
我々はこれまで、欧州の状況にばかり目を向けてきました。今もそれぞれが一国単位で、対アメリカ、対欧州、対中国と貿易をしています。
しかし、南米の国同士での貿易はなかなか進んでいません。本来であれば、せっかく共通の言語と歴史を持ち、陸路でお互いがつながっている利点を活かして、エネルギーはもちろん、諸々のインフラを統一することがこれからの課題でしょう。
南米の国同士が統合しないと、世界の力のある国々に圧倒されてしまいます。
現に米国は、日本を含むTPPを推進していますし、アジアでも中国やインドといった国が力を増しています。欧州だってEUとして機能しているのに対し、 南米では小さな国々が別々に行動をしているだけで、全体にまとまりがありません。もちろん、団結は簡単なことではないのですが。
──ラテン・アメリカのリーダーといえば、日本の私たちの頭に真っ先に浮かぶのはキューバのフィデル・カストロさんや、亡くなったチェ・ゲバラさんです。
ムヒカ 現代のポピュラーなリーダーは、ボリビアのエボ・モラレス大統領やブラジルのルーラ前大統領がいます。
名前を挙げられたカストロ氏も含め、皆私の良き友人です。
もっと平等な社会を目指す、このようなリーダーが各地に育っていって欲しいと思います。私は、社会における経済的な豊かさよりも、一般市民が幸せに生活できる環境が大切だと思っています。
──いつ、大統領になろうと考えましたか?また、そのきっかけは?
ムヒカ 特に「大統領になろう」と考えたことはありませんでしたが、ある時気がついたら、大統領候補になっていたんです(笑)。
一つだけ言えることがあるとすれば、私は当選したからといって、周囲に合わせたり、都合のいいように振る舞うということはしてきませんでした。
やってきたことは、自分に正直に、自分自身の信念を貫いてきただけです。一国を代表する指導者として、あえて無理をして公邸に住み、必要のない使用人を雇い、少数派の生活を装うこともありません。
それが、「私のポリシー」と呼べるものなのかもしれませんね。
例えば私は、毎朝マテ茶を飲みます。マテを飲むことから一日が始まります。マテは目を覚ましてくれるだけでなく、私たちウルグアイ人は日常的に牛肉を沢山食べますから、その消化も助けてくれます。ウルグアイには、野菜を食べる習慣があまりないのです。
──所属されていた「トゥパマロス」と、その名の由来である「トゥパク・アマル」について簡潔にご説明いただけますか?
ムヒカ トゥパク・アマルという人物は、先住民であるインカ帝国のリーダーで、スペイン植民者に対する抵抗運動をはじめて、最後には殺害されてしまいました。そういった経緯があり、インディオのスペインに対する「抵抗のシンボル」ともされています。
我々はここウルグアイで、もう50年近く前の今とはまったく異なる時代に、民族解放運動をはじめました。その時にトゥパク・アマルに因み、運動を「トゥパマロス」と称したのです。
──2011年の3月から丸5年の歳月が経ちます。日本、福島県の原発が起こした事故をどのように見ていますか?
ムヒカ 現代社会にとってエネルギーは必須であり、重要な課題です。とはいえ、旧ソビエトで起きたチェルノブイリ事故を含め、過去にはいくつかの、苛烈な原発事故が起きています。そのことから私は、原子力は危険な発電方法であると認識しています。
もし私が人間の命と自然環境を大切にするのであれば、仮にそれが多少コスト高であったとしても、原発以外のエネルギー源を使用すべきだと考えています。
──福島では、例えば「放射能に対する理解」や「補償金の額」の違いなどで市民の間に分断が生じ、それまで原発を推進してきたり、事故を起こした当事者の責任を追求できていません。
ムヒカ 最初に申し上げた「市場原理が政策を支配する」という、いい例だと思います。
科学によっていくら安全性が証明されていても、人間の行いには過ちがいつしか生じます。だから、事故も起きます。原子力の使用によって、そのリスクを冒す価値はあるのでしょうか?
日本には優れた人材があります。技術力もあり、経済力もあります。それなのに、いまだに原子力を取り入れたエネルギー政策を続け、代わりとなるエネルギーの開発に消極的な事実に驚かされます。
ドイツは思い切った決断をしました。ましてや原爆投下を被り、広島と長崎の悲劇を経験した日本が、経済的な要素を重視し、国民の想いを考慮しないエネルギー政策を進めていることは、信じられないことです。
──人類はエネルギーと、どうのように向き合うべきでしょう?ウルグアイを支える電力の現状と、未来に向けた方針を教えてください。
ムヒカ 自然エネルギーへの転換を目指すべきです。すでにウルグアイはエネル ギー政策を大幅に転換しています。それも、欧州における経済の低迷によって、割安な条件で設備投資ができました。風力発電と太陽光発電の開発、そして技術 の進歩により、さらに発電の効率が向上することを願います。
また、海洋エネルギーや波力発電など、他のエネルギー資源も開発すべきですね。
トルコ、コロンビアの長期外遊から帰国し、お疲れ、そして多忙極まりない中受けていただいた、約1時間の貴重なインタビュー。80歳とは思えぬ活力で、間にマテ茶を飲みながら穏やかに、しかし経験に裏打ちされた、説得力あるお話でした。
ENECTプラチナム連載、ムヒカさんのお話はあと2回の更新、全3回です。
(第一回)世界一貧しい大統領に聞いた今、世界、福島とエネルギー ENECT
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