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3月26日、米国のニューヨークタイムスが、共和党の大統領候補ドナルド・トランプのインタビュー記事を掲載した。その中でトランプは、日本や韓国に駐留する米軍について「米国は(財政力などの点で)弱体化が進んでおり、日韓政府が駐留米軍の居住費や食費などの費用負担を大幅に増やさない限り、駐留をやめて出ていかざるを得なくなる」「日韓が(負担増を認めず米軍を撤退させる道を選ぶなら)日韓が米国の核の傘の下から出て、自前の核兵器を持つことを認めてもよい」「日米安保条約は、米国が日本を守る義務があるのに、日本が米国を守る義務がない片務性があり、不公平なので、再交渉して改定したい」という趣旨の発言をした。日本も韓国も国家戦略の基本が対米従属で、その象徴が駐留米軍だ。有力候補であるトランプの発言は、日韓両国の国家戦略を根幹からくつがえす内容だ。日韓政府は表向き平静を装っているが、トランプに対して危機感を持っている。
(In Donald Trump's Worldview, America Comes First, and Everybody Else Pays)
(Trump Suggests Pulling Troops From Japan, Korea: Let Them Build Nukes)
日韓両国とも最大の希望は、米軍の恒久駐留と永遠の対米従属であり、対米自立を意味する核武装など望んでいない。韓国の場合、北朝鮮が核兵器を廃棄し、見返りに米朝と南北が和解し、朝鮮戦争を60年ぶりに終結させて在韓米軍が撤退する6カ国協議の長期的なシナリオがある。米国は、6カ国協議の主導役を03年の開始以来、一貫して中国に押し付けており、いずれシナリオが成就するとき、韓国と北朝鮮は両方とも中国の影響圏に入る。これまで韓国を傘下に入れてきた米国が韓国に核武装を許しても、韓国の新たな(日韓併合以来約百年ぶりに戻ってくる)宗主国である中国は、韓国に核武装を許さない。だから韓国は核武装できない。
(◆北朝鮮の政権維持と核廃棄)
日本の方は、戦後一貫して、対米従属以外の国家戦略が何もない。被爆国として、核兵器保有に対する国内の反対も強い。左翼は戦争反対=核反対で、右翼は対米従属希望=核反対だ。少数の反米右翼以外、日本の核武装を望んでいない。日本人の多くが勘違いしているが、対米従属と核武装は両立できない。日本が核武装したら、米国は出て行く。対米従属を続けられる限り、日本は核武装しない。逆に、在日米軍が完全に撤退し、日米安保条約が空文化もしくは米国に(事実上)破棄され、対米従属できなくなると、日本は核武装する可能性が高い。
(多極化への捨て駒にされる日本)
(日本経済を自滅にみちびく対米従属)
(日本の核武装と世界の多極化)
トランプは「核武装容認」より先に「駐留米軍の居住費や食費などの費用負担を大幅に増やせ」つまり日本政府に「思いやり予算」の大幅増額を要求している。米国は冷戦終結の前後から、日本に思いやり予算を増額させ続けている。米国は韓国にも、駐留米軍の住宅を大増設させてきた。トランプは日韓について「自国の防衛にかかる負担を米国に背負わせる一方、同盟国であることを良いことに非関税で工業製品を米国にどんどん輸出して大儲けしてきたタダ乗りの国」と前から批判してきた。それだけを見ると「要するにトランプも、これまでの米政府と同様のたかり屋だ」「核兵器うんぬんは大騒ぎのための飾りだ」という話になる。トランプは日本にとって新たな「脅威」にならないと楽観できないこともない。
(日本の官僚支配と沖縄米軍)
(日本の権力構造と在日米軍)
だが、同じNYタイムスの記事に出た、日韓以外の世界に対するトランプの戦略表明を見ると、これまでの米政府とかなり違うことが見えてくる。最も重要な点は「NATO廃止」を主張していることだ。彼は「ロシアはソ連よりずっと規模が小さい(大した脅威でない)のに、冷戦後、米国は時代遅れのNATOを拡大し続け、巨額の予算を投入してきた」「ウクライナは米国から遠い(欧州に解決させるべき)問題なのに、ロシア敵視のNATOに拘泥する米国はウクライナに首を突っ込んでいる。馬鹿だ」「NATOを再編し(ロシアも入れた)テロ対策の国際組織に変えるべきだ」という趣旨を述べている。
(NATO延命策としてのウクライナ危機)
トランプはサウジアラビアに対しても、日韓についてと同様のタダ乗り批判を展開し「サウジなどアラブの同盟諸国が、ISISと戦う地上軍を派兵するか、ISISと戦う米軍の費用を負担しない限り、彼らから石油を買うのをやめる」と言っている。もともとISISを育てたのは米軍(軍産複合体)だが、サウジは軍産のやらせ的なテロ戦争に便乗することで米国との同盟関係を維持してきた。韓国が、北朝鮮を挑発して敵対構造を恒久化する軍産の策略に便乗して米韓同盟を強化し、日本が、南シナ海問題で中国を挑発する軍産の策略に便乗して日米同盟を強化してきたのと同じだ。軍産によるロシア敵視を使った欧州支配の道具であるNATOの廃止と合わせ、トランプの戦略は、軍産複合体を無力化し潰そうとする策になっている。
(The Trump Challenge by Justin Raimondo)
(サウジアラビア王家の内紛)
トランプは、米国の内政問題として軍産複合体を叩くのでなく(ケネディ以来、何人もの米大統領がそれをやって失敗している)軍産にぶらさがる同盟諸国に厳しい条件を突きつけ、同盟諸国と軍産との関係を切るやり方で、軍産を無力化していこうとしている(彼は、米政界を牛耳るイスラエルに対してだけは、軍産側からの反撃を減らすため、できるだけ明確な発言を避けている)。日本では、外務省筋が「日本に関するトランプの発言は人気取りの思いつきだ」といった「解説」を流布しているが、これは(意図的に)間違っている(日本外務省が本気でそう考えているなら間抜けだ。この解説は目くらましで、外務省は対米従属を維持できなくなりそうなので困っているはずだ)。トランプは、大統領になって軍産による国際政治と米国政治に対する支配を壊す戦略を表明しているのであって、日本に対する要求はその一環だ。2月にトランプの政策顧問の一人(Sam Clovis)が説明した戦略案と、今回のNYタイムスでのトランプの発言は一致しており、政策にぶれがない。
(ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
(Trump Policies Perplex U.S. Allies in Asia Amid China's Rise)
トランプは、米国の金融がひどいバブル状態になっていると知っており、いずれ巨大なバブルが崩壊し、米国の覇権が弱体化していくと言っている。マスコミのトランプ中傷報道にしか接していない人々は、これをトランプの誇張話と受け取るかもしれないが、私の記事をずっと読んできた人は、トランプのバブル崩壊予測が正しいことがわかるはずだ。トランプは米国の弱体化を見据えて、米国は世界中に軍事展開し続けることができなくなるとか、日韓がもっと金を出さないと米軍が駐留し続けられなくなると言っている。彼は「孤立主義」と呼ばれることを拒否して「米国第一主義」を自称し、米国の余力が減る中で、世界中に軍事駐留し続けることは米国の利益にならないと言って、日韓や中東や欧州からの撤退を呼びかけている。
(Trump questions need for NATO, outlines noninterventionist foreign policy)
(◆万策尽き始めた中央銀行)
クリントンやクルズといった他の大統領候補たちは、軍産や(その一部である)イスラエル系からの献金で選挙戦を回しているため、軍産が好む政策しか打ち出さない。トランプは自分で貯めた巨額資金を使い、ほかから借りずに選挙をやれるので、軍産などに媚びる必要がない。軍産に絡め取られているのは政治家だけでなく、外交官やマスコミ、国際政治学界などの「外交専門家」の多くも同様だ。マスコミや学界で誰に知名度や権威を与えるかは、軍産のネットワークが決める。だから軍産と対峙するトランプの政策顧問は、クリントンやクルズの顧問団に比べ、無名で権威のない人が多くなる。トランプの顧問団は無名(=無能)な人ばかりなのでろくな政策を打ち出せないと報じられているが、こうした報道(軍産系プロパガンダ)は、本質を(わざと)見ていない。
(Trump's Mixed Foreign Policy Agenda)
(軍産やイスラエル系から資金援助されている候補たちは、出資者を満足させるため、中東政策や対露政策などの軍事面の世界戦略を、好戦的に、確定的な公約として何度も表明しなければならない。だが米国民は911以来の無茶苦茶な戦争の末に、政府の好戦策にうんざりしている。トランプはそこを突き、自己資金で立候補し、米国民が好む政策を言って人気を獲得し、軍産を潰すような政策を静かに採用しつつ、イスラエルに言質を取らせない曖昧な態度をとっている)
(Trump Names Israel Among Countries That Will Reimburse U.S. When He's President)
米国が覇権衰退すると、世界の覇権構造は多極化していくが、そこで重要になるのが中国とロシアだ。トランプは、プーチン大統領を以前から評価しており、NATO廃止論と合わせて考えると、彼が大統領になったら、ロシアを敵視してきた軍産の策をやめて、対露協調、もしくはロシアによる自由な国際戦略の展開を可能にしてやる米国勢の撤退や同盟国外し(サウジを露イランの側に押しやることなど)をやりそうだと予測できる。
(◆ロシアとOPECの結託)
対露政策がわかりやすいのと対照的に、トランプは、中国に対する政策を意図的に曖昧にしている。彼自身「戦略を敵に悟られないようにするのが良い戦略(孫子の兵法)だ」と言っている。この場合の「敵」は中国であると思われがちだが、実は逆で、軍産が敵かもしれない。トランプは、中国が南シナ海での軍事拡大を続けるなら、中国の対米輸出品に高い関税をかけて制裁すると言っている。しかし、高関税策は必ず中国からの報復や、国際機関への提訴を招き、現実的でない。中国政府は南シナ海を自国の領海であると言い続けており、米国に制裁されても軍事化を止めない。
(中国を隠然と支援する米国)
(中国の台頭を誘発する包囲網)
AIIB(アジアインフラ投資銀行)に象徴されるように、中国は経済面に限定して世界的な影響力(覇権)を強めている。軍事力では米国が中国より断然強いが、金融技能以外の経済の影響力(経済覇権)の分野では、中国が米国より強くなりつつある(米国の金融技能はQEで崩壊しかけている)。中国に対し、経済面に集中して強硬策をとるトランプの策は(意図的に)有効でない。
(経済覇権としての中国)
(日本から中国に交代するアジアの盟主)
トランプは就任当初、中国を敵視してみせるかもしれないが、経済面の中国敵視が有効でないと露呈したあと「現実策」と称する協調策に急転換する可能性がある。トランプが米国の覇権衰退と世界からの撤退傾向を見据えている以上、彼は覇権の多極化を容認しているはずで、中国とは敵対でなく協調したいはずだ。在韓米軍を撤退したいなら、6カ国協議の主導役である中国の協力が不可欠なので、その意味でもトランプは対中協調に動く必要がある。
(◆北朝鮮の政権維持と核廃棄)
トランプが、対ロシア政策が明確なのに中国に対してあいまいなのは、ロシアに対する政策をすでにオバマ政権がシリアなどでかなり進めており、メドがついている一方、中国や日韓に対してオバマは手つかずのままなのでトランプがやる必要があるからと考えられる。オバマとトランプの世界戦略はよく似ている。以前に考察したアトランティック誌のオバマに関する記事「オバマ・ドクトリン」と、今回のトランプのNYタイムスのインタビュー記事を読み比べると、それがわかる。両者とも、米国が軍事で国際問題を解決するのはもう無理だと考え、米国に軍事的解決を求めてすり寄ってくるサウジなど同盟諸国にうんざりし、好戦策ばかり主張する外交専門家(=軍産の要員たち)を嫌っている反面、プーチンのロシアを高く評価している。
(軍産複合体と闘うオバマ)
オバマは「オバマ・ドクトリン」の中で、国務長官だったクリントンの好戦策を何度も批判している。クリントンのせいでリビアが無茶苦茶になったと言っている。次期大統領選でオバマは、表向き自分の党のクリントンを支持しているが、これを読むと、オバマは本心でクリントンを軽蔑しており、後継者として真に期待しているのはトランプでないかと思えてくる。オバマは、世界的な米覇権の退却と多極化の流れのうち、中東とロシアの部分だけぐんぐん進めた。世界の残りの、欧州とロシアのNATOの部分、それから中国と日韓朝などアジアの部分、それから多極化後を見据えた西半球(南北米州)の再協調などについては、トランプが次期大統領になって継承して進めると考えると、スムーズなシナリオとして読み解ける。(西半球についてオバマは今回キューバを訪問し、転換の端緒だけ作った)
(The Obama Doctrine)
(Trump wants to leave U.S. allies in the lurch)
オバマとトランプは、個人的に親しいわけでない。政党も違う。それなのにオバマとトランプの政策が一致し、連続できるのは「背後にいる勢力」が同じだからだろう。そうした背後の勢力を象徴するのは、米国の外交政策立案の奥の院で、戦時中から多極化を(往々にして軍産に隠れて)推進してきたロックフェラー系のCFR(外交問題評議会)だ。オバマは、上院議員になる前からCFRに評価(政治家として育成)されていた(CFRは共和党系でオバマは民主党だが、それは重要でないようだ)。かつてキッシンジャーの多極化戦略もCFRで考案された。
(ニクソン、レーガン、そしてトランプ)
オバマやキッシンジャーとトランプの政策の類似性から考えて、トランプの政策もCFR仕込みだろう。CFRの会長であるリチャード・ハースはトランプの顧問団の一人だ。トランプは、報じられているような米政界内の一匹狼でなく、CFRという強力な後ろ盾があることになる。CFR内からトランプ非難も出ているが目くらましだろう。CFRと草の根の民意という、上と下から支持を得ているトランプは、軍産が押すクルズやクリントンより優勢だと考えられる。トランプの勝算は十分大きい。
(Trump Will Make His Peace with the War Party)
NYタイムスのトランプのインタビュー記事を書いたのはワシントン支局長のデビッド・サンジャーだが、彼はイラク戦争の時に大量破壊兵器保有のウソを書きまくり、その後はイラン核武装の歪曲報道もさんざんやり、米国を今の覇権衰退に導いたネオコン系の一人だ。私は以前から、CFRのメンバーも多いネオコンたちが、意図的に米国を失敗させて覇権衰退に導き、多極化を実現した「隠れ多極主義者」の一員だち考えてきたが、そのネオコンのサンジャー記者が、多極化を推進するトランプのインタビュー記事を書くのは興味深い。
(Talk: David E. Sanger - SourceWatch)
ネオコンはトランプを仇敵とみなし、クリントンやクルズを必死に応援しているが、これもお得意の「過激に応援し、応援した相手を失敗させる」策でないか。今や草の根勢力から、米国の覇権を衰退させた好戦的な悪者とみなされることが多いネオコンからの応援を受けるほど、クリントンやクルズの草の根からのイメージが悪化する。それを十分わかっていてネオコンはクリントンらを支援しているのだろう。
(Hillary Clinton's Neo-Conservative Foreign Policy)
(Neocon War Hawks Want Hillary Clinton Over Donald Trump. No Surprise - They've Always Backed Her)
7月の共和党大会で、トランプが過半数の支持を得られない場合、共和党本部の采配でトランプでなくクルズが共和党の候補に指名されるとか、その場合トランプが共和党を離脱して第3政党を作り、同じくクリントンを擁立した民主党から離脱して第4政党を結成するサンダースと合わせ、11月の大統領選挙は4候補の戦いになり、米国の2大政党制が崩壊するといった予測も出ている。しかし、CFRがトランプをこっそり支援しているなら、7月の共和党大会より前に、トランプが一部譲歩(ネオコンを新政権に入れるとか)して党内で調整がはかられ、候補者がトランプに一本化される展開もありうる。1980年の選挙で共和党がレーガンに一本化した時はそうだった(この時にネオコンは民主党から共和党に鞍替えした)。
( Insiders to Trump: No majority, no nomination)
(It's the End of the Line for GOP as We Know It)
(Trump warns of riots, pulls plug on Republican presidential debate)
(Trump questions need for NATO, outlines noninterventionist foreign policy)
日本のことについて詳しく書かないうちに、長々と書いてしまった。全世界を俯瞰したうえで日本について見ると、日本をめぐる事態が国内で語られているのとかなり違うことに気づける。トランプが大統領になったら、日本に思いやり予算の大幅増額を求めるだろう。日本は財政難なので、要求の一部しか応えられない。可能性としてあるのが、日本が予算を出した分だけの米軍が駐留し、残りは日本から撤退するシナリオだ。普天間の海兵隊が辺野古に移らず、米本土とハワイとグアムに分散撤退し、辺野古の基地建設はこのまま止まり、嘉手納の空軍や横須賀の海軍は残るが、普天間は返還されて海兵隊が去るといった展開がありうる。この展開なら、沖縄県民もとりあえず満足できる。
(日本が忘れた普天間問題に取り組む米議会)
(従属のための自立)
米国外で海兵隊が恒久的に大規模駐留しているのは全世界で沖縄だけだが、海兵隊は東アジアの防衛に向いていない。輸送機の能力が上がったので、海兵隊の常駐は米本土だけで十分だ。海兵隊が沖縄にいるのは米国の世界戦略に基づくのでなく、日本政府がいてくれと米国に金を出しつつ懇願してきたからという、腐敗した理由による。軍事戦略的に見て、普天間の海兵隊は要らない。
(官僚が隠す沖縄海兵隊グアム全移転)
(再浮上した沖縄米軍グアム移転)
もう一つの展開は、日米安保条約に関するものだ。日本政府は、対米従属を維持するため、米国は日本を守るが日本は米国を守らないという片務的な現行条約を守りたい。だがトランプはそれを認めない。折衷案として、全世界を対象とするのでなく、日本とその外側の海域に限って、米国と日本が対等に相互防衛する態勢に移行することが考えられる。グアム以東は米国の海域なので、グアム以西から中国の水域までの間、南北では日本からシンガポールまでの海域が、日米の相互防衛の海域になりうる。グアムには「第2列島線」、中国の領海・経済水域の東端には「第1列島線」が南北に通っている。2つの列島線の間の海域が、日本と米国が対等なかたちで防衛する海域になる。
(米中は沖縄米軍グアム移転で話がついている?)
この2つの列島線はこれまで、米国と中国の戦略対話の中で出てきた。中国は第1列島線の西側(黄海、東シナ海、台湾、南シナ海)を自国の領海・経済水域・影響圏として確保・死守する姿勢を示す一方、米国は中国の求めにしたがって自国の影響圏の西端をいずれ第2列島線まで後退させる姿勢を見せてきた。2つの列島線の間の海域は、米中いずれの影響圏でもなく、緩衝地帯として、今ところ宙ぶらりんな状態だ。このまま中国の台頭が続くと、いずれ中国が2本の列島線の間の海域も影響圏として取ってしまうだろう。トランプが、日本に、この海域を中国でなく日本の影響圏として取らせ、この海域において米国勢が攻撃された場合、日本の自衛隊が米国勢を守る義務を負うような追加策を日米同盟に付加し、日米安保条約の片務性を解消しようとするシナリオが考えられる。
(見えてきた日本の新たな姿)
このシナリオは、すでに昨年、オーストラリア軍の新規発注する潜水艦群の建造を日本勢が受注しようとする流れが始まったことで開始されている。2つの列島線の間の海域を、日本が豪州やフィリピンなど東南アジア諸国と組んで管理していくシナリオが見え始めている。日本の政府やマスコミなど「外交専門家」たち(=軍産。オバマやトランプの敵)が、このシナリオについて沈黙しており、シナリオに名前がついていないので、しかたなく私は勝手にその新体制を「日豪亜同盟」と呼んでいる。
(日豪は太平洋の第3極になるか)
日本がこのシナリオに沿って動くと、日本を自立させ、世界を多極化していこうとする米国側をある程度満足させつつ、日本もしばらく対米従属を続けられるので好都合だ。国際法上は表向き、国家が領海・経済水域の外側に影響圏を持ってはならないことになっている。だが現実は、最近まで世界中が米国の影響圏だったわけだし、オバマは英仏独伊などEU諸国がリビアやシリアの内戦に不十分にしか介入しなかったといって失望感を表明している。オバマつまり米国は、地中海の反対側にある中東や北アフリカを、EUが責任を持つべき影響圏とみなしている。中東や北アフリカがEUの影響圏であるなら、西太平洋の2つの列島線の間の海域が日本の影響圏とみなされてもおかしくない。
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