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[私見卓見]「見落とし」に潜む医療の闇 東京大学病院医療安全対策センター長 中島勧
大学病院でがんの見落としによる患者の死亡が相次いで報告されている。単純なミスに見えるが、こうした診断に関連するエラーの原因を掘り下げてみると、医療に潜む深い闇が見えてくる。
名古屋大病院と東京慈恵会医大病院のケースでは、病院全体としてがんの疑いを診断できなかったわけではない。いずれもコンピューター断層撮影装置(CT)で検査し、画像診断の専門家である放射線科医が「肺がんの疑いがある」とする報告書を主治医に伝えていた。
ところが主治医は、検査のきっかけとなった肝硬変など別の病気の治療をして退院させていた。その後、患者が体調不良などで再び検査を受けた際に見落としに気づいたものの、もはや十分な治療ができない状態だった。いずれも報告書の見落としだった。
過去の事例を検証した両病院では他にも同じような見落としが判明し、医師同士の情報共有のあり方を見直すなど再発防止策を打ち出した。
人口当たりのCT保有台数が世界一の日本では「とりあえず画像検査する」という文化がある。患者にとってみれば、CTを撮ってもらえれば安心と感じられるためか、「念のため」としてしばしば撮影されている。
ところが画像検査は血液検査のように結果が数値化されないため、画像を読む医師に適切な診断能力がなければ診断に役立たない可能性がある。重要なのは撮影することに加えて、正しく診断し、治療につなげることである。
放射線科医が書いた報告書を見落とすだけでなく、撮影を指示した医師が異常に気付けないこともある。これは既に得られている医療情報(診断)を必要時に患者が利用できなかった点で、診断を誤る「誤診」と同根の問題だ。
両大学病院の公表は、日常的な検査結果の見落とし自体が見落とされている可能性があるという重大な問題提起である。余りに根が深く、問題視することは、パンドラの箱を開けたが如く医療界が混乱に陥る危険性さえある。
こうした診断に関連したエラーについては、1999年に医療事故の実態を白日の下にさらした報告書『人は誰でも間違える』(邦訳題)をまとめた米国医学研究所が新たな報告書を公表し、世界的に注目されている。見落としの事実を公表した大学病院の問題提起を改善につなげるためにも、日本も深い闇にメスを入れて取り組むべきだ。
[日経新聞11月30日朝刊P.31]
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