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2017年3月24日 井手ゆきえ [医学ライター]
治療費の高い医者が「名医」とは限らない理由
同じ病気で、同じ病院に入院しても、担当医が違うと治療費はかなりばらつくようだ。治療成績が金額に比例して上がるならまだ納得できるかもしれないが、高い治療費を払ったからといって死亡率、再入院率にはほとんど影響しないというのだから頭を抱えてしまう。右肩上がりの医療費を補填しようと自己負担増や健康保険料を引き上げる前に、ぽっかり抜け落ちていた「医師個人の臨床能力」の費用対効果と価値にスポットを当てるべき時期なのかもしれない。(医学ライター 井手ゆきえ)
治療費を決定づける3要素
患者の重症度、病院、そして医師個人
先週、米国医師会が発行する「JAMA Internal Medicine」に掲載された1本の日本人研究者による論文が、米国の医療関係者の注目を集めた。医療費高騰の背後にある治療費のばらつきには、一般に信じられてきた病院側の要因より、医師個人の診療パターンに帰する部分が大きいという結果が示されたからだ。
治療費を決める要因は、大きく(1)患者の基礎疾患や重症度(当然、重い病気を治すにはお金がかかる)、(2)病院側の要因(MRIやCTなどの設備があるか、専門病院か否か等)、(3)医師個人の診療パターン(検査をたくさんするか、高額な薬を使うか等)の3点に分けることができる。たとえば、全く同じ患者を治療していても、大きな治療費のばらつきがあれば、その責任は(2)の病院や(3)の医師にあると考えられる。
診療パターンの違いが影響か
同じ病院で治療費に40%超の開き
今回、ハーバード公衆衛生大学院の津川友介氏らの研究グループは、メディケア(65歳以上の高齢者がほぼ全員加入する公的医療保険制度のこと)に加盟している約5万人分(2011〜2014年)のデータをもとに、内科の病気で入院した患者についてメディケアから病院および医師個人に支払われた金額(償還額)と治療成績との関係を解析した。
原則、自由診療の米国では地域や病院単位で医療の価格が数倍も違うことがある。しかも、あらかじめ値引き分を想定した上乗せ請求が当たり前のように行われている。
つがわ・ゆうすけ/ハーバード公衆衛生大学院(医療政策管理学)研究員。東北大学医学部卒業後、聖路加国際病院、世界銀行を経て現職。ハーバード公衆衛生大学院でMPH(公衆衛生学修士号)、ハーバード大学で医療政策学のPh.D.を取得。専門は医療政策学、医療経済学。ブログ「医療政策学×医療経済学」において医療政策におけるエビデンスを発信している。
しかし、今回の研究ではそれらの影響を排除しているため、日本と同じように統一された診療報酬制度の下で病院や医師への支払いが行われていると考えてもらっていい。
解析にあたっては患者要因の影響を消すため、特に米国独特の医師の職種である「ホスピタリスト」2万人分のデータを使用した。ホスピタリストは入院病棟に勤務する内科医のことで、一般的にシフト勤務しており、勤務時間内に入院してくる患者を順番に担当する。患者は医師を選ぶことができず、また医師も患者を選り好みすることはできないので、一人ひとりが担当する患者の重症度や病気の内容はある程度同レベルにそろう。
また同じく病院側の要因の影響を消すため、同じ病院に勤務する治療費の高いホスピタリストと治療費の安いホスピタリストを比較している。
その結果、同じ病気に罹患した患者に費やされる治療費のばらつきは、病院より医師個人の診療パターンの違いによる影響が大きいことが判明した。同じ病院内ですら、最も金がかかる医師と最もリーズナブルな医師との間に40%以上の治療費格差があったのだ。
しかも、高額な治療費を取る医師とリーズナブルな医師との間で、入院後30日以内の死亡率と再入院率を比較したところ、差は認められなかった。つまり、「お金をかけてもかけなくても結果は同じ」だったのである。こうなると一部の医師は検査や処置をイヤというほど重ねなければ、同僚と同じ治療成績を残せないのか? と勘ぐってしまう。
患者の負担増をいう前に
医療の無駄の削減を
「この結果から医療費の高騰を効果的に抑えるには、これまでのように病院側の要因に介入するだけでなく、医師個人の診療パターンに焦点を当てるべきだということが分かります。多くの検査をしたり高い薬を使っていても、それは患者さんのためになっていない可能性があります」と津川氏は指摘する。
従来、米国では高騰する医療費を抑えようと公的医療保険、民間医療保険を問わず、支払い元が病院に厳しい基準を課し、パフォーマンスに応じた支払いを徹底してきた。
例えば、入院後30日以内の死亡率や再入院率が明らかに高い病院に対しては改善勧告が繰り返され、改善の兆しがない場合は償還率の引き下げや支払い拒否という事態もありうる。さらに2017年からは、医師個人の診療パターンや治療成績を評価し、それによって支払額が増減する仕組みも導入された。今回の結果は、その流れを後押しするもので、今後は医師個人の「腕」を評価する基準作りが進むだろう。
津川友介さんと中室牧子さんによる『「原因と結果」の経済学?データから真実を見抜く思考法』(ダイヤモンド社)が2月17日から発売予定。208ページ、1728円(税込み)
さて、破綻寸前とはいえ皆保険制度下にある日本はどうだろう。米国民ほど痛切ではないが、日本でも医療費負担が家計を圧迫している。津川氏は「今、日本でも高齢者の自己負担額の見直しや健康保険料の増額が議論されていますが、今回の結果は医師の診療パターン次第でアウトカムを損なわず医療費の無駄を減らせる可能性を示唆しています。国民の負担増をいう以前に、かぜに抗生剤を処方すると言った医療の無駄を減らすことが先決だと思います。」という。
とはいえ、日本ではようやく昨年4月から、日本版HTA(医療技術評価)が試行導入され医薬品と医療機器の費用対効果に関する評価が始まったばかり。診療プロセスの費用対効果や医師個人の診療パターンの評価なんて何年先になるかわからない。関連団体の猛反発は必至だろうし……。
とりあえず、個人的に医療の無駄を削減するには、目の前の医師とコミュニケーションをとり、検査や投薬の目的をしっかり聞き取ること。「入院したついでだから、あれもこれも検査しておきましょうか」なんて甘言にノッてしまうと、お財布にも健康にも悪い可能性がある。
http://diamond.jp/articles/-/122333
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