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東京大学の処分で見えた最高学府の凋落 臭いものには蓋、正直者は徹底懲罰・・・
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2017.3.8(水) 上 昌広
モルヒネに代わる「副作用のない」鎮痛薬を開発か、研究
仏パリで撮影された錠剤〔AFPBB News〕
3月3日、東京大学は研究不正に対する処分として分子細胞生物学研究所(分生研)の加藤茂明・元教授ら4人を懲戒解雇相当、1人を諭旨解雇相当とすることを発表した。
東大は2014年に発表された調査委員会の報告書の中で、「学生らへの強圧的な態度や指導」が不正の背景と糾弾している。
懲戒解雇は6段階ある懲戒処分で最も重い。加藤元教授は退職金の一部を返還したという。
「相当」とつくのは、加藤元教授たちが既に引責辞任しており、東大が処分を下す立場にないからだ。
東大の処分に世間の違和感
読売新聞の取材に対し、加藤元教授は「到底承服できるものではありませんが、不服申し立ての手段はありません。道義的責任は痛感しており、その責任は果たしたつもりです」とコメントしている。
このコメントを読めば、「加藤元教授は反省が不十分のようだ」と感じる方が多いだろう。ところが、実態は異なる。マスコミは報じないが、医師や医学研究者の中には、東大の処分に違和感を抱く人が少なくない。実は私もそうだ。
私は、東大が今回のような処分をすれば、研究不正に対する隠蔽体質を助長しかねないと思う。その理由は東京大学の不正を働いた研究者への処分がダブルスタンダードになるからである。
確かに、加藤元教授の研究室は組織ぐるみで研究不正を行っていた。その意味で加藤元教授の責任は甚大だ。
ただ、彼がどの程度不正に関与したかは不明である。調査委員会も、加藤元教授が直接指示したとは認定していない。強制捜査権がない調査委員会でやれることには限界がある。
しかしながら、加藤研の複数のグループの中で、不正を指摘されたのが特定の個人に集中していたことは、加藤元教授が直接不正を指示しなかった可能性を示唆する。
ところが、加藤元教授は自ら責任を取った。加藤研究室の研究不正が指摘されたのは、2011年末だ。研究不正に詳しい「11jigen」氏は、2012年1月10日に論文24本の疑義についての申し立てを関係者に送った。
加藤元教授が東大を依願退職したのは、2012年3月末である。加藤元教授は、筆者に対し「一目見てアウトだと思った」と言う。
辞職後は、両親の故郷である福島の被災地で、若手医師や看護師の研究指導や子供たちの学習指導に従事してきた。彼に指導を受けることが評判となって、福島の被災地の病院には若手の医師や看護師が集まっている。
加藤元教授の活動は、あの「フライデー」ですら「論文ねつ造で辞めた東大教授、福島で(反省)ボランティアの日々」という好意的な記事を掲載している。
加藤元教授は、福島の方々からも温かく迎えいれられている。ご興味のある方は、南相馬市で学習塾を経営する番場さちこ先生の文章をお読みいただきたい。
東大の研究者では珍しい潔さ
実は、東大の研究者で、これほど「潔い」教授は珍しい。多くは問題を起こしても、自ら責任を認めることはなく、教授の地位にしがみつく。
例えば、血液・腫瘍内科の黒川峰夫教授のケースだ。2013年末、白血病治療薬の医師主導臨床研究に、ノバルティスファーマ(ノ社)の社員が不適切に関与し、患者の個人情報を無断でノ社に渡していたことが判明した。
メディア報道によれば、ノ社から医局への奨学寄付金以外に、2013年度だけでもノ社から黒川教授個人に148万円の金がコンサル料などの名目で渡っていた。
がんの治療歴という患者の個人情報を無断で営利企業に渡していたことは、基礎研究のデータ改竄・捏造などとはレベルが違う問題だ。知人の弁護士は「刑法の守秘義務違反に抵触する可能性が高い」という。
もし、同じことを金融業や流通業がやったらどうなるだろう。社長の辞任は避けられず、おそらく刑事事件になるだろう。このケースでも企業側の対応は迅速だった。ノ社では関係した日本人幹部すべてが更迭された。
ところが、黒川教授に対する東大の処分は、文書による厳重注意だけだ。黒川教授は、現在も東大教授の地位に留まり、大学生や若手医師を「指導」している。そして、日本血液学会では理事こそ務めていないものの、「教育委員会」の委員として学会員への教育を担当している。
東大医学部は、この手の話について枚挙に暇がない。
昨年8月14日および29日付で6つの研究室から発表された22報の論文に不正の可能性があることを指摘された。現在、東大は調査を実施中だ。
告発された教授6人中、5人が医学系研究科の教授だ。この告発の真偽は調査結果を待つしかない。
ただ、告発された教授の中には「前科」がある人もいる。その1人が小室一成・循環器内科教授だ。彼が千葉大在職中に主任研究者を務めたノ社の降圧剤を扱った臨床研究に研究不正の疑いがかけられた。
千葉大学の調査によれば、調査した108例のデータのうち、収縮期血圧の45%、拡張期血圧の44%に誤りがあったという。約半数のデータに誤りがあるなど、常識的に考えられない。
約半数のデータに誤りもオネストエラー
日本高血圧学会は昨年8月に、この研究について紹介した2010年の論文を撤回すると発表した。
一方、一連の疑惑に対し、小室教授は「オネストエラー(誠実に行った上の誤り)」とコメントしている。
日本高血圧学会と小室教授の言い分の何れに説得力があるかは言うまでもない。もし、小室教授の言い分が正しく、半分をミスしてしまうなら、そのような医師は教授はもちろん、医師免許も返納した方がいい。
東大は、この件について処分しなかったし、日本循環器学会は昨年3月に小室教授を代表理事に選出した。
小室教授は今年60歳を迎える。東大は60歳定年で、それ以降は最高65歳まで、1年ごとの定年延長だ。私は、東大医学系研究科の教授会が、どのような対応をするか興味を持っている。
門脇孝教授(糖尿病・代謝内科)の研究室の論文への不正疑惑も説得力がある。ご興味がある方は、サイエンスライターの託摩雅子氏の記事「論文不正の告発を受けた東京大学(2)その解析方法の衝撃」をお読みいただききたい。
彼女は、この文章の中で以下のようにコメントしている。
「キリの良い日だけに死んでいくマウスや、別の2つのデータの平均値とぴったり一致するデータ、繰り返し現れる特定の数値のエラーバー、グラフ全体が破線などは、本当に実験が行われていたのかさえ、疑問が生じてくる」
「しかし、ベクトルデータでないと解析できず、今回のような手法が使われることがなければ、おそらくその不自然さにまず気づかないだろう」
私は、この指摘には説得力を感じる。もちろん、門脇教授が直接手を下したとは思わない。日本の医学界の権威である彼が、そんなことをするメリットがないからだ。
東大の対応はダブルスタンダード
ただ、彼は、今回の告発に対し、昨年9月の米国のサイエンス誌のインタビューに答えて、「全く根拠がなく、匿名者による誤った告発」とコメントした。加藤元教授の対応とは対照的だ。
私は東大の調査委員会が、このベクトルデータの不正疑惑について、どのような調査結果を発表するか、その際に門脇教授がどのような対応を取るか関心を持っている。
私は、東大の加藤元教授への対応と、医学系研究科への教授の対応はダブルスタンダードだと思う。自ら引責辞任した教授が、退職後も懲戒解雇される一方、頬被りを続けている教授が、現職にとどまり、学会において出世していくのは誰が見てもおかしい。
今後、東大の研究者は、不正があった場合に頬被りをした方がよいと考えるだろう。正直に言った方が、メディアで批判され、懲戒解雇され、退職金も貰えなくなるのだ。誰も、こうはなりたくない。
ただ、こんなことを続ければ、東京大学への信頼は失われてしまう。現に、加藤元教授が苦渋の思いで依願退職することで、分生研は新しいスタートを切ることができた。
一方、医学系研究科は「疑惑の医学部」のままだ。いま、東大に必要なのは、オープンな議論と公平な処分だ。東大幹部の矜持が問われている。
ismedia
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