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その薬・検査、本当に必要?
米発「賢い選択」運動日本でも 医師らに意識改革求める
不必要な医療行為をなくそうと、「Choosing Wisely(賢い選択)」と呼ばれる米国の医療界発の取り組みが日本で始まった。不必要な投薬や検査が横行すれば、弊害を及ぼすこともある。「その薬や検査は本当に必要か」。医師と患者が一緒になって見つめ直し、無駄を省いて医療の質を向上させようという試みだ。
「抗生物質は出してもらえるんですか?」。11月下旬、京都市の七条診療所で熱や鼻水など風邪の症状のため来院した50代の女性患者が尋ねた。小泉俊三所長は「抗生物質は(風邪の原因の)ウイルスには効き目がない。それよりきちんと栄養を取って休むことが大切ですよ」と教えた。
過剰投与で副作用
不安だから、と処方を求める患者は少なくないという。しかし過剰投与は「薬剤耐性菌」を生む温床となる。効き目が弱まったり、全く効かなくなったりするため、耐性菌による感染症にかかると治りにくい。さらに抗生物質に限らず、多種類の薬を一緒に服用すれば臓器障害などの副作用が出る恐れもある。
小泉所長は「不要な投薬を求められたとき、患者との間に信頼が土台にあれば説明に理解を得られる」と話す。日々の診療で「息子の嫁とうまくいかない」といった悩みにも耳を傾け、関係構築に努める。
この治療方針は2012年に米内科専門医認定機構財団が始めた「Choosing Wisely」に沿ったものだ。医師らが「不必要な医療行為をやめよう」と訴えかける活動。取り組みは17カ国に広がる。
カナダもその一つ。推進団体代表、トロント大学のウェンディ・レビンソン教授(内科学)は10月、日本で医療関係者向けに講演し、「患者に利益をもたらさない医療行為をやめることは医師の責務。本当に必要なのか、自問自答すべきだ」と訴えた。
なぜ無駄ともいえる医療が行われるのだろうか。レビンソン教授は安心感を得ようと薬や検査を求める患者の存在のほか、医師らが▽最新の検査機器を使いたがる▽従来行ってきた治療法を変えたがらない――などの問題を挙げる。
検査に頼らぬ診察
米国ではそれぞれの学会が、計700以上の注意すべき医療行為を公開している。例えば小児の中耳炎。2歳以上は比較的自然に治りやすいとし、安易に抗生物質を使わないよう呼びかける。救急外来では頭にけがをした子供の約半数がコンピューター断層撮影装置(CT)で検査されるが、学会は軽傷のケースが多く、3分の1は不要と主張。検査に頼らず、頭蓋骨の骨折の兆候などを診察で見極めることが大事だとする。
日本の厚生労働省も海外の動向に注目。20年後を見据え、15年に公表した医療制度改革の提言「保健医療2035」でChoosing Wiselyに言及、検査や治療を選ぶ際は的確に吟味する必要性を盛り込んだ。
独立行政法人、地域医療機能推進機構本部(東京・港)の総合診療顧問、徳田安春医師ら総合診療医が参加する「ジェネラリスト教育コンソーシアム」は注意すべき行為を独自に書籍で公開。軽い腹痛なら自然に治ることもあり、よく診察した上でのCT検査の実施などを提言している。
ただ提言が5項目にとどまるなど、徳田医師は「他国に比べ取り組みが遅れている」と話す。5月にローマで開催された世界会議では、先行する海外の事例に驚かされたという。
米国には、医師が薬や検査の発注を電子カルテで行おうとすると「本当に必要なのか」と問いかけてくるシステムを構築した医療機関がある。オーストラリアでは動画投稿サービスを使い、過剰な投与や検査への注意を患者に呼び掛ける活動に力を入れていた。
徳田医師や七条診療所の小泉所長らは10月、任意団体「Choosing Wisely Japan」を発足。主要学会に米国のように多くの行為の公開を求める。徳田医師は「様々な意見がある中で学会として公開するのは容易でない。公開後は医師に守るよう指導し、実効性を確保する必要がある」と話す。
(辻征弥、鳥越ゆかり)
CT・MRIの台数 人口当たり、世界一
経済協力開発機構(OECD)によると、日本は人口当たりのコンピューター断層撮影装置(CT)や磁気共鳴画像装置(MRI)の台数で世界一だ。人口100万人当たりの日本のCT台数は107台(2014年)。ドイツが同35台、米国が同41台(15年)と日本は3倍前後の水準だ。MRIも同様で、日本の台数の多さは際立つ。
これら検査機器に投じた資金を回収するため、「病院で不必要な検査が行われているのではないか」という指摘がある。一方で国内に広く普及したことで、病気の早期発見につながっているという意見もある。
[日経新聞12月18日朝刊P.15]
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