がん患者「先生、この抗がん剤は効きますか?」 担当医師「そうですね50%くらい利きますね」 抗がん剤治療を受ける際にこんな質問のやり取りはよくあると思います。 上の会話のように担当医に「この抗がん剤は50%効きます」「奏効率が高い抗がん剤です」と言われると、多くの患者さんは「がんが治る」と考えてしまいがちですが、実は違います。 「抗がん剤」という名前からして、「がんに抗う薬」、投与すれば、多くのがん細胞を消してくれるのだろうと多くのがん患者は考えてしまいますが、抗がん剤は、多くの場合は「がんを治す」のではなく、「がんを一時的に弱らせる」こと、「延命」を目的として使用されます。 抗がん剤が「効く」について「医師」と「患者」の深い溝 抗がん剤の効き目の評価には、「生存率」だけでなく「奏効率」(一時的にがんの大きさが50%以上小さくなった患者さんの割合)をよく使います。 がんが「治る」のではなく「一時的に小さくなった」割合を評価する数字です。 実際は、単にがんを「一時的に半分縮小」させる「奏効率」の話をしているだけなので、注意してください。 縮小させること、「奏効率」=「治る」ではありませんし、「奏効率」=「延命率」ですらないのです。 「奏効率」50%とは、約半数の癌患者の腫瘍が、半分以下に縮小する期間が4週間続きます。 ・・・ということです。 この4週間というのが曲者です。 縮小していたがんが4週間経過後に増大しようが、患者が死のうが、「奏効率50%」の効果を発揮した=「この抗がん剤は効いた」ということになるのです 「奏効率」の他にも「生存期間中央値」や「5年生存率」や「延命効果」など様々な指標がありますが、 この奏効率を用いて抗がん剤の治療効果を測るのが、日本では主流となっています。 しかしながら、驚くべきことに、そもそも「奏効率」の高さが「生存期間」の延長にどれほど有益なのかというと、実は関連性はあまりないのが実態なのです。 以下の進行胃がんのデータでは、 抗がん剤で「がんは完治しない」〜「奏効率」に騙されるな〜 最上段の「UFT+マイトマイシン」が奏効率9%なのに対し、 その下の「5FU+シスプラチン」の奏効率が34%となっており、 「奏効率」で見ると「4倍効いて」いるように見えます。 しかし、肝心の生存期間中央値(MST)は、 「UFT+マイトマイシン」は6.4ヶ月 「5FU+シスプラチン」は7.7ヶ月 となっており、「奏効率」の差ほどの優位な差はあまり無いのです。 せいぜい患者にとっては1ヶ月程度の延命につながった・・・に過ぎないのです。 このデータを見ると 「どういうことだ!? 抗がん剤はがんを縮小させるけど、延命効果にはつながらない?」 驚かれる方も多いでしょうが、 実は、抗がん剤に「延命効果」の確認が厚労省に義務付けられたのが、わりと近年になってから・・・と聞いたらさらに驚かれることでしょう。 つまり、それまでは、延命効果が全く無くても、どんなに患者の副作用がつらくても、「一時的に目に見えて」、「がんを縮小させられれば」抗がん剤と認められていたのです。 [抗がん剤承認:「延命効果」基準。来年4月から適用]
厚生労働省は新しい抗がん剤を承認する際の臨床試験(治験)で、患者の延命効果の確認を義務付ける。抗がん剤の治療結果の評価指針をこのほど改定、2日までに都道府県に通知した。来年4月から適用する。抗がん剤の有効性や安全性を見極められるようにする。従来は腫瘍の縮小効果が認められれば原則的に承認していた。欧米並みの基準にすることで世界に通用する抗がん剤の開発につながる。 患者が多い非小細胞肺がん、胃がん、大腸がんなどが対象となる。安全性を調べる第一相試験、腫瘍縮小効果を確かめる第二相試験のデータに加え、延命効果を調べる第三相試験のデータを求める。海外で実施したデータの利用も認める。 患者が少なく延命効果を確認しにくい抗がん剤については、従来どおり腫瘍縮小効果だけでも認める。 また第二相試験で極めて高い効果が見られた場合も、この段階で承認し、その後、承認が妥当かどうかを検証する仕組みにする。抗がん剤治療で腫瘍が一旦縮小しても再び大きくなり延命できないケースがある。欧米では延命効果を原則的に承認の条件としている。 出典:2005/11/2 日本経済新聞夕刊 2006年から始まった、欧米並みの基準での新抗がん剤治療。 しかし、それ以前に「延命効果」が確認されていないまま、国内の病院で【抗がん剤】として承認され、未だ使用されている抗がん剤もたくさんあるのです。 欧米では、「副作用との兼ね合いを考えた延命効果」を重視 欧米は違います。欧米が一番重視しているのは、「副作用との兼ね合いを考えた延命効果」です。 患者の寿命が治療によってどれくらい伸びたかが重要なのです。 欧米では「患者」の立場が重視されていると思いませんか(国民皆保険で皆均等の治療を進める日本型病院と、資本主義で患者様はお客様という欧米の病院の違いかもしれませんが)? 主治医から「治る」と言われて、実際に「癌が縮小」して喜んだのもつかの間・・・ということは「抗がん剤治療」では日常茶飯事です。 「がん病巣の縮小」を「延命効果」と勘違いさせてしまうのはいかがなものでしょうか。 仮に4週間以後がんが増大し、仮に2ヶ月後に患者が死亡したとしてもその治療は「有効」とされてしまうのです。 EBM(=データに基づいた医療)が謳われて久しい医療業界ですが、一時的な縮小効果だけを示した「奏効率」は真に患者のためになるデータと言えるのでしょうか。 ほとんどの患者は一時的な癌の縮小効果を期待して、つらい「副作用」に耐えているわけではありません。 また、奏効率=50%とは、別の見方をすれば半数の患者には全く効果がなく、副作用だけが残るということです。 効果がないばかりか、むしろ身体にダメージだけがあり、延命どころか寿命を縮める結果になってしまっている患者も半数近くいるということです。 このような「抗がん剤治療」の現実を患者は知っておく必要があります。 そもそも外科医は抗がん剤の専門家ではない 日本では、統計的には延命効果はほんの1〜2ヶ月しかなく、ほとんど副作用に苦しむだけ・・・という状況でもむやみに抗がん剤を使用してしまうケースが多いです。 これは日本の医療が外科医主導というのもかなり影響していると考えられます。 がん大国日本の「がん医療」体制の未熟さの項で述べましたが、日本では深刻な医師不足が起きています。 外科医も当然不足してはいるのですが、化学療法の専門医である「腫瘍内科医」などは数がまったく足りていません。 化学療法(抗がん剤)の分野では、外科医が主導して化学療法を行っているというのが「実情」なのです。 確かに癌がどんどん進行して全身に転移してしまうと「手術」のしようがなく、「抗がん剤を打つくらいしか病院側がやれることがない」のですが、治療の見込みもない、副作用に苦しんでいる患者に「どんどん抗がん剤」を使用するのは多大な疑問があります。 事実、抗がん剤の副作用により、かえって死期を早めてしまう患者さんも多いのです。 欧米では抗がん剤の副作用を「毒性」という言葉で表現しています。 患者が「抗がん剤」を拒否すると退院を勧告されることも少なくありませんが、少なくとも治療の見込みのない状況であれば無理に「毒性」の強い抗がん剤を打つ必要はないと思います。 (「抗がん剤」がもし、「抗がん毒」という名称だったら抗がん剤治療をする人は非常に少なかったでしょう)。 まとめ
@抗がん剤で完治が見込めるのは一部の癌だけ A基本的に「抗がん剤」は「がんを一時的に弱らせること」を期待して使用される。 B「奏効率」=「延命効果」ではない C副作用と延命との兼ね合いの見極めが重要 http://がん治療と副作用対策.net/kougan/entry16.html
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