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がん狙撃手現る 世界初の中性子照射装置
住友重機、19年度にも
2016/11/24付
中性子を利用してがん細胞だけを破壊する次世代の放射線治療装置が2019年度にも日本で産声を上げる。主な担い手は住友重機械工業で、京都大学などと臨床試験(治験)を進める。陽子線や重粒子線を使った先端の放射線治療装置より患者への体の負担はさらに軽くできるとみられる。日本の医療機器産業の国際競争力強化にもつながる。
関西国際空港の対岸にある京大原子炉実験所(大阪府熊取町)。敷地内の「イノベーションリサーチラボ」の分厚い扉を開けると、部屋の中に加速器と呼ばれる機械がある。この機械が次世代の放射線治療装置の実用化のカギを握っている。
■皮膚・脳腫瘍向け
次世代の放射線治療装置を使った治療の手順はこうだ。(1)がん患者にホウ素薬剤を注射する(2)がん細胞にホウ素が集まる(3)人体には害が少ないタイプの中性子を体外から照射する(4)がん細胞内にあるホウ素と中性子がぶつかり、アルファ線とリチウム粒子が発生する(5)がん細胞がアルファ線とリチウム粒子で破壊される――。
この治療法は「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」と呼ばれる。従来の放射線治療装置では、体の外からX線や陽子線などを照射してがん細胞を破壊する手法を採っている。いわば外から攻めるやり方だ。
BNCTはがん細胞を破壊するアルファ線とリチウム粒子をがん細胞の内部で作り出すところに最大の特徴がある。外からではなく、内から攻めるやり方だ。BNCTの治療装置の治験を京大と進めている住友重機械工業の亀田義仁・医療システムグループ部長は「周囲の正常な細胞に悪影響をほとんど与えない」と説く。
中性子が届く範囲は体の表面から6センチメートル程度の深さまで。BNCTの対象は皮膚がんや脳腫瘍などに限られてしまうという欠点はある。
だが、がん細胞が広範囲に転移して手術が難しいような場合でも、BNCTなら治療できる。X線や陽子線による外からの攻撃では、体に負担がかかるが、BNCTはがん細胞を内部から破壊するので、がんが再発した患者に対しても実施しやすい利点がある。
実用化のネックは中性子をどうやって発生させるかだった。実験用の原子炉から中性子を取り出して臨床研究が進められてきたが、原子炉の数は限られるうえ、稼働には安全上の制約もある。
住友重機械工業は原子炉に代わる中性子発生装置として加速器を京大と共同で開発、病院に設置できるようにした。
強力な磁場を発生させて、水素の原子核である陽電子を装置の中で光に近い速度まで加速させ、金属の一種のベリリウムに衝突させると、中性子が発生する。加速器の大きさは縦2.5メートル、横3メートル、奥行き1.6メートル程度。実験用の原子炉の約19分の1の体積だ。
住友重機械工業は18年度にBNCTの治療装置の製造販売承認を厚生労働省に申請、19年度の発売を目指す。現時点で治験に入り、実用化時期を示しているのは住友重機械工業だけだ。
住友重機械工業は建設機械や精密機械が主力製品だが、陽子線治療装置や陽電子放射断層撮影装置(PET)用サイクロトロンシステムなども手掛けている。17年3月期の連結売上高は6600億円、営業利益は430億円を見込む。
新興国の経済成長や先進国の高齢化で医療機器の市場は拡大するとみられる。BNCTを品ぞろえに加え、成長の原動力にする考えだ。
治験は京大と総合南東北病院(福島県郡山市)で進んでいる。京大の田中浩基准教授は「早く治験を終えて、がん治療の現場に生かしたい」と語る。総合南東北病院の渡辺一夫理事長は「がん患者とその家族が世界から福島に集まってくる」と地域経済への波及効果を期待する。
BNCTの実用化を後押しするもうひとつの要素がホウ素の技術だ。中性子ががん細胞の中でホウ素とぶつかったときにアルファ線とリチウム粒子を発生させやすくするには、特定のホウ素だけを取り出して濃縮し、それを薬剤にする必要がある。
この技術を確立したのが化学品製造のステラケミファの子会社だ。ステラファーマ(大阪市)は大阪府立大と共同でBNCT向けのホウ素薬剤を開発中だ。住友重機械工業などが進めている治験にも参加している。ステラファーマの浅野智之社長は「日本から世界へ最先端の医療技術を発信したい」と意気込む。
■日立系など追走
内視鏡をはじめとする診断装置では日本企業は存在感を示している。だが、心臓ペースメーカーや人工関節といった市場規模の大きい製品では、米ジョンソン・エンド・ジョンソンやアイルランドのメドトロニックといった欧米勢に圧倒され、輸入額が輸出額を大幅に上回る。
政府は20年に医療機器の輸出額を11年比2倍の1兆円に伸ばす目標を掲げている。経済産業省の担当者は「最先端の医療機器としてBNCTを海外に出す」と語る。
BNCTの実用化で住友重機械工業を追いかけているのが日立製作所の米子会社、アクシステクノロジー(カリフォルニア州)などだ。直線型の加速器で中性子を発生させるときに使う金属をリチウムにしている。住友重機械工業などが開発する装置よりコストを下げられるとみている。
リゾートトラストのグループ会社で、実験用機器などを製造するCICS(東京・江東)は国立がん研究センターと共同でアクシステクノロジーの加速器を使ったBNCTの治験の準備を進めている。CICSの藤井亮取締役は「承認を得られれば、年2台は販売したい」と語る。
東芝もBNCT実用化レースに加わった。筑波大学や高エネルギー加速器研究機構などと一緒に17年度にも治験を始める。東芝は医療機器子会社のキヤノンへの売却を決めているが、放射線治療装置に関する部門は本体に残している。原子力発電所の建設や運営を中核事業としていることもあり、中性子に関する知見は豊富だ。「安価で使い勝手のよい装置で寄与できれば」と東芝の原子力事業部新技術応用プロジェクト部の平田寛部長は語る。
(井上孝之、熊本支局長 佐藤敦)
[日経産業新聞2016年11月24日付]
http://www.nikkei.com/article/DGXKZO09834340S6A121C1X11000/?dg=1
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