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風邪に「抗菌薬」は効かない!(shutterstock.com)
風邪に「抗菌薬」は効かない! しかし約45%の医師が処方せざるをえない現状はなぜか?
http://healthpress.jp/2016/11/post-2669.html
2016.11.22 ヘルスプレス
天地開闢(かいびゃく)の神代から「恋の病に薬なし」「馬鹿に付ける薬なし」だったのだろう。恋煩いは手の施しようがないし、馬鹿はお手上げだからだ。
ところが、世間は「病み女に風邪引き男」とシャレて粋狂を愉しんだりする。患い女の目は、うるんで色っぽい。風邪引き男の喉に巻いた白いガーゼは、粋に見える。うーん、そんな苦し紛れの見立てはどうだろう?
しかし、改めて考え直せば、分かっているようでよく分かっていないのが「風邪」の正体。風邪って、そもそも何だろう?
■風邪の主原因はウイルス! 抗菌薬は風邪に効かない!
米国国立医学図書館『PubMedHealth - Common colds: Overview』、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)、米国国立アレルギー・感染症研究所 (NIAID)などのデータによると、風邪(common cold)は、ライノウイルスやコロナウイルスなどのウイルス感染によって発症する急性上気道炎(普通感冒)だ。風邪症候群と呼ぶこともある。
主な症状は、咳、咽頭痛、鼻汁、鼻づまり、くしゃみなどの局部症状(カタル症状)のほか、発熱、倦怠感、頭痛などの全身症状を伴う。
胃腸などの消化管がウイルス感染すれば、嘔吐、下痢、腹痛などの腹部症状と全身症状を合併する感冒性胃腸炎(お腹の風邪、胃腸かぜ、腸感冒)となる。感染後2日以内に発症し、およそ1〜3週間後に快復するが、重症化すれば肺炎に進行するリスクがある。
日本呼吸器学会『呼吸器感染症に関するガイドライン』や『臨床に直結する感染症診療のエビデンス』(文光堂)などは、「抗菌薬は風邪に効かない」と明記している。
つまり、風邪の主原因はウイルスであり、ウイルスは抗菌薬に抵抗するので、抗菌薬は風邪に効かない。日本呼吸器学会などのアカデミアは、抗菌薬は必要ないという論調が強いが、現場で風邪に抗菌薬が処方される場合が少なくない。それはなぜか?
■約45%の医師は「風邪に抗菌薬を処方すべきではない」と答えているが……
こんなデータがある――。
『日経メディカルOnline』(2016年10月12日)は、2016年9月5 〜11日にわたって、3365人の医師を対象に「風邪に処方する抗菌薬についてのウェブアンケート」を実施。その結果、医師の約45%は「風邪の患者に抗菌薬を処方すべきではない」と回答している。
薬剤耐性菌の増加が懸念され、医師の意識変革が求められているが、現場には抗菌薬を処方せざるを得ない実情があるようだ。それは、どのようなケースか?
患者の希望が強い時や、高熱で細菌感染症の可能性が否定できない時は、抗菌作用の強いペニシリン系をできるだけ短期間で処方する(40代内科勤務医)。
喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)などの内科呼吸器疾患を持つ患者は、二次感染が生命予後に影響を与えるリスクがあるため、積極的に処方するが、ニューキノロン系やカルバペネム系は処方しない(50代内科勤務医)。
風邪が細菌感染症の続発を招く場合があり、患者が再診しない場合も多いので、最初から抗菌薬を投与するケースがある(50代内科勤務医)。
そのほか、「細菌感染症でないと確定診断できる根拠がない時は、抗菌薬を出す」「高齢患者の二次感染による重症化が恐ろしいので、処方する」「高齢患者の総合感冒薬による排尿障害が心配な時は、抗ヒスタミン薬を処方しづらいが、患者の適応状況や投与期間の短縮を考慮した上で、抗菌薬を選ぶ」といった意見があった。
■風邪という疾患の曖昧性に問題の根がある?
いかがだろう? 出したくないが、出さざるを得ない医師らの苦しい心境が読み取れる。風邪という疾患の曖昧性に問題の根があるような印象も受ける。
たとえば、EBウイルスやサイトメガロウイルスなどの全身性ウイルス感染症による発熱も、感染性心内膜炎などの細菌感染症や膠原病などの原因不明の急性熱性疾患なども、一見すると風邪の症状と酷似しているため、風邪に見えるのだろうか?
そのような時、医師は何か重大な疾患を見逃している不安や怖さが強まるが、これらの急性熱性疾患の中には抗菌薬が有効な場合もあるため、「念のために保険的に」抗菌薬を処方するインセンティブが働くことは、否定できない。これらの複雑な事情が、現場に混乱に招いている一因かもしれない。
■風邪の対策は「予防」だけしかない
風邪に抗菌薬は効かない――。
2005年に抗菌薬による治療群とプラセボ群とのランダム化比較試験(RCT)が行われた結果、症状の緩和、有症状期間の短縮、二次的細菌感染症の予防のアウトカム(成果)のエビデンスが評価され、抗菌薬の有効性は期待できないと発表されている。
抗菌薬による副作用のリスクも高い。特に成人は、胃腸障害(胃のむかつき・吐き気・下痢・便秘・腹痛・消化不良・味覚異常)、皮膚障害(かゆみ・湿疹・蕁麻疹・光線過敏症)、全身倦怠感(だるさ・筋肉痛)などのほか、腸内細菌のバランスが崩れることから、免疫力の低下にもつながる。
風邪の正体は、掴みにくい。ならば、方策はただひとつ。予防だ。耳タコだが、王道は揺るがない。手洗いとうがいの励行、マスクの着用、乾燥の防止と喉の保湿、栄養・休養・運動・睡眠による体温の保持、禁煙などだ。万が一、風邪に捕まっても、特に重い症状がないかぎり、抗菌薬を使わずに、経過を見ることが大切だ。
ただし、喉が真っ赤に腫れて痛い、急に高熱が出た、首のリンパ節がぐりぐり腫れている、咳や鼻水が一切ないなどの場合は、溶連菌などによる細菌性咽頭炎が疑われる。
また、咳がひどく高熱が続くなら肺炎の恐れや、微熱、寝汗、体重減少などがあれば、結核、がん、慢性呼吸器疾患の恐れも多分にある。このような重篤な徴候や症状が見られた時は、躊躇せずに内科や呼吸器科などを受診してほしい。
侮っても過敏になってもいけない――。風邪は「人生訓」の教師かもしれない。
(文=編集部)
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