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ミトコンドリア病 治療に光
「細胞のエネ工場」働き鈍る 投薬で改善、治験進む
様々な臓器の異常にかかわる難病「ミトコンドリア病」の治療をめざす研究が活発になっている。国が指定難病として登録する患者は1400人程度だが、実際には10倍以上はいるとの見方もある。これまでは対症療法が中心だったが、治療薬の開発も進む。英国では、母親の遺伝子異常が子どもに伝わるのを防ごうと卵子核移植が合法化されて議論を呼んでいる。
ミトコンドリア病は、細胞のエネルギー工場であるミトコンドリアという微小な器官の働きが弱って起こる。ミトコンドリアは各臓器の細胞にある。どこの臓器でどれだけの異常が起きるかによって様々な症状が出てくる。このため、患者によって脳卒中や心筋症、白内障、肝不全のほか、難聴やけいれん、知能の発達障害などがみられる。
最も起こりやすいタイプが、2009年に指定難病になった。難病には指定されていないが、糖尿病の1%はミトコンドリアの異常が関係しているといわれている。
最近の研究ではミトコンドリア病の患者は5000〜7500人に1人と推定されている。日本には約1万6900〜2万5400人の患者がいる計算になるという。
千葉県こども病院の村山圭医師は「現在把握している患者数は明らかに少なすぎる。新生児で発症した場合、すぐに亡くなることも多く、患者として報告されないからではないか」と指摘する。
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ミトコンドリアでは、酸素を使ってブドウ糖からATPと呼ぶエネルギーを生み出している。反応過程で使う酵素などに異常があると、エネルギーをうまく作れない。
ATPの生産に関わる酵素の働きが弱いかどうかや細胞が消費する酸素の量が低いかどうかで患者を診断する。
細胞にある核の遺伝子の異常とミトコンドリアにある固有の遺伝子の異常のいずれかが原因になる。両親の核にある遺伝子の異常が遺伝して発症したり、母親のミトコンドリアの遺伝子の異常が伝わったりする。
エネルギー産生に関係する核遺伝子の異常は1500種類程度あるとされるが、まだ2割も見つかっていないという。ミトコンドリアには37種類の遺伝子があり、それぞれで異常が特定されている。
新生児や小児での発症は、ほとんどが両親から受け継いだ核遺伝子が原因とされる。大人になって発症する例では、ミトコンドリアの遺伝子異常で起きるケースが多いといわれる。ミトコンドリアの遺伝子は父親からは伝わらず母親から受け継ぐが、母親がミトコンドリア病でも子どもは発症しない例もある。
治療法は、発熱やけいれんを抑える薬を投与するなど対症療法が中心だった。だが、「最近では、ミトコンドリア病に対する治療薬候補の企業による臨床試験(治験)や医師主導治験が進んでいる」(村山医師)という。
久留米大学の古賀靖敏教授らは、ミトコンドリア病でも脳卒中を中心とした「MELAS」というタイプの患者に対して、脳卒中発作の急性期症状の治療と予防を目的に血管の細胞を強化するとされるアルギニンを投与する多施設の医師主導治験を実施した。治療薬として承認申請を準備している。
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古賀教授らの疫学調査ではMELASの患者は通常、6年ほどで亡くなることが多かった。予防のためにアルギニンを患者14人に服用してもらった試験では、8年経過しても13人が支障なく日常生活を送っているという。
大日本住友製薬は、けいれんや筋力低下など症状が重いリー脳症というタイプを対象に、抗酸化作用がある「EPI743」を開発中だ。
埼玉医科大学などは、リー脳症の患者で低下したミトコンドリアの働きを改善するため、アミノレブリン酸と鉄剤を投与する医師主導治験を進めている。
核遺伝子の異常で起きる心筋症やリー脳症のように重篤なケースは、妊娠中に胎児の状態を検査する出生前診断ができる。だが、ミトコンドリア遺伝子の方は異常があっても生まれた子どもが発症するとは限らず、出生前診断に取り組む施設は実質ゼロだ。
将来はミトコンドリア遺伝子の異常に対して、健康な他人のミトコンドリアと入れ替える核移植も検討されるかもしれない。
(西山彰彦)
[日経新聞7月10日朝刊P.14]
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