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製薬会社の営業マンが本音を告白「"安くて安全な薬"より、"高くて危ない薬"を出すんです」 誰のための医療なのか?
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49037
2016年07月06日(水) 週刊現代 :現代ビジネス
■超高額な薬で荒稼ぎ
大手製薬会社に勤めるMRが言う。
「製薬会社が高い薬を売りたがるのは、仕方がない。薬の値段には、広告宣伝費や、研究補助の名目で大学の先生に寄付した研究費、そして全国で6万人といわれるMRの人件費などが反映されていますから。
MRは正しくは『医薬情報担当者』と言いますが、要するに先生のところに行って『この薬はこういう患者さんに使ってください』『これ、何とか使っていただけませんか』と頼むのが主な仕事です。
降圧剤などは、言ってしまえば『処方してもしなくても、死にはしない』薬ですから、どのメーカーの薬を使うかは、『MRとの人間関係で決める』という先生も、実は多いんです」
現在、医薬品の売り上げランキング上位には、高価な新薬が並んでいる。昨年の国内1位・4位は、ともに同年発売されたばかりのC型肝炎の薬ハーボニーとソバルディ。'07年に認可された抗がん剤のアバスチンや、'09年に発売された糖尿病薬のジャヌビアなど、比較的新しい薬の名前ばかりだ。
「ハーボニーは、1ヵ月あたりの費用総額が200万円超えという、超高額な薬です。また、今話題のがん治療薬オプジーボは、年間の費用が3500万円(いずれも患者負担は3%)とケタ違い。オプジーボは、当初は皮膚がんの薬として'14年に保険適用が認められましたが、その後肺がんにも使えるようになって爆発的に売り上げが伸びたのです。
これらの薬は確かに薬効はあるのですが、まだ症例が少なく、どんな副作用が起きるか完全には分かっていません。しかも、血圧や糖尿病の薬と違って、副作用が命にかかわる可能性も高くなる。
もし今後、重大な案件が発生すれば、下手するとその薬自体にストップがかかりかねません。患者にとってもメーカーにとっても、いわば両刃の剣です」(前出・MR)
究極の「高くて危ない薬」——今まさに、「オプジーボのような高い薬を医療保険でまかなうと、国の財政が破綻してしまう」という激論までも起きている。
こうした超高額な薬でなくとも、多くの人が飲んでいる「売れ筋」の薬の中には、もっと安くて効果も遜色がないものがあるにもかかわらず、あえて処方されている「高い薬」も少なくない。
分かりやすいのが、高血圧の治療薬だ。
例えば、古くから使われているループ利尿薬のラシックスなどは、1錠あたりの価格が15円前後。それに対して、近年主流のアジルバやオルメテック、'13年に論文不正が問題になったディオバンなどのARB(アンジオテンシンU受容体拮抗薬)は、1錠130~140円と高価で、患者の年間負担額に直せば前者が5000円、後者が5万円と、10倍近い開きが出ることもある。
■安い薬は製造中止に
都内の大学病院に勤める内科医が言う。
「一昨年の薬の売り上げベスト10には、3種類もARBが入っていました。ARBは、いまだに3000億円を超える巨大市場です。『これを飲めば、血圧が穏やかに下がる』という売り文句で、この10年あまりで爆発的に成長したのです。
しかしそもそも、ARBを使わずに、ずっと安価な利尿薬やカルシウム拮抗薬を使っても血圧は下げられる。そのほうが、ARBの3割程度まで薬価を抑えられますし、医療費の節約にもなる」
ダイエットや、塩分を控えるといった生活習慣の見直しも重要なのは、言うまでもない。
「薬を使わないで血圧を下げる方法を考えたほうが、よっぽど患者のためになると、医療関係者は皆分かっているんです。でも、ARBの開発には何百億円という莫大な金がかかっている。その費用を回収しないわけにはいかない」(前出・内科医)
また、新潟大学名誉教授の岡田正彦氏は、自身の経験を踏まえてこう話す。
「血圧の薬は歴史が古く、その分、作用も副作用も調べつくされている。
私自身は昔からあるサイアザイド系利尿薬だけを使っています。もちろんこれにも副作用はありますが、これまでの知識の蓄積がありますから、コントロールしやすく、万一副作用が起きても、どう対処すればいいかよく分かっているのです。
ARBのような新しい薬は、実際に多くの患者さんが使うという『大規模調査』をまだ受けていませんから、これから不測の事態があるかもしれない。しかも、サイアザイド系の薬と比べて患者の総死亡数はほとんど変わらない。むしろ統計上は、ARBを飲んでいた患者のほうが少し早死にするくらいです。
古い薬は薬価が安く、売っても儲からないので、宣伝もしませんし、医師に対しても『使うな』という暗黙のプレッシャーがあるのです。世の中のドクターはそれに洗脳されて、『今はARBを使うのが当然だ』と思い込んでいるだけです」
昔ながらの「安いけれど、いい薬」は店じまいし、かわりに「新しくて高い薬」を宣伝して、どんどん売りさばく。高血圧治療薬に劣らず、多くの人が飲んでいる糖尿病の治療薬でも、この状況はまったく変わらない。
'09年末に発売されたジャヌビアや'10年発売のエクアなど、最も新しい糖尿病治療薬「DPP-4阻害薬」の薬価は、ジャヌビア錠(100mg)が205円、エクア錠(50mg)が約88円である。
一方、歴史の古いメトホルミン塩酸塩のメトグルコ錠は250mgが10円。メトホルミン塩酸塩は高齢者には禁忌とされているが、「高齢者にはDPP-4阻害薬、若い患者にはメトホルミン塩酸塩」というふうに、厳密に使い分けられているわけでもない。
認知症治療薬では、事態はさらに深刻だ。認知症専門外来の名古屋フォレストクリニック院長・河野和彦氏がこう苦言を呈する。
「現在、多くの医師が処方しているメマリーという認知症治療薬があります。『記憶回復に効果がある』という触れ込みで'11年に認可された薬で、患者は年額約13万円のうち1~3割を自己負担します。
このメマリーはその後、記憶回復効果があまりないことが分かってしまい、今では製薬会社と学会は『怒りっぽくなった認知症患者の興奮を抑えるために使ってほしい』と言っている。
私は興奮を抑えるにはウインタミンのほうが有効だと思うので、メマリーではなくそちらを使っています。ウインタミンの薬価は年額でもおよそ6000円ですから、メマリーの20分の1以下です。
ところが、ウインタミンは古い薬で薬価も安いから、製薬会社は儲かりません。そのせいか、昔は粉薬と錠剤があったのに、今では錠剤が製造中止になってしまいました」
製薬会社が、こうして「売れる薬」「高くて儲かる薬」に力を注ぐのは、それがビジネスである以上、当然の成り行きとも言える。その背景には、製薬業界が近年立たされている「苦境」もかかわっている。
先述したようなARBなどの降圧剤、あるいは糖尿病薬、高コレステロール血症治療薬など、患者数が圧倒的に多い「ドル箱」の生活習慣病薬が、続々と特許切れを迎えているのだ。ものによっては薬価が2割以上も安くなったうえ、ジェネリック(後発薬)の出現で、儲けが目減りしている。
前出と別の外資系製薬会社MRが言う。
「首都圏の大学病院などからは、今『MRの人数を減らせば人件費を削減できるから、薬価も下げられるのではないか』という要求が出始めています。
『医局にMRを出入りさせたくない』という要望を受けて、いわゆる『立ち待ち』(病院の廊下で、MRが診察終わりの医師を待つこと)を禁止する病院もあるほどです。
そういう事情もあって、最近は正社員が減り、派遣のMRが増えている。製薬業界では、人減らしが行われているんです」
■大事なのは儲かること
近年では、テレビドラマでよく見るように、MRが医師を料亭やゴルフで接待することは、原則として禁じられている。それでも、医師に営業をかけ、使ってもらわないことには、新薬の利用を広げることができない。
「ですから、最近はもっぱら主戦場が製薬会社主催のセミナーや講演会に移っています。都内の高級ホテルの会議室を取って、高血圧なら高血圧が専門の大先生を呼び、『この新薬にはこれだけの効果があった』と、若い医師に対して話してもらう。
1回につき総額250万~500万円ほどの費用がかかりますが、今はドクターに大々的に薬の宣伝ができる機会が、このくらいしかないんです」(前出・外資系MR)
一方で、冒頭のMRはこう本音を漏らした。
「人は、死ぬ直前の2年間で最も多くの医療費がかかる。逆に言えば、その2年間がやってくる前に、医師の言いなりになって高い薬を使うのは、ほとんどの場合においてムダだということです。
内心では私も、医師は薬を使い過ぎだと思います。患者さんが『欲しい』と言えば、言われるがまま、どんどん出してきましたし、それを製薬会社も医師に勧めてきた。しかし、最近は医療費の高騰がこれほど問題になっていますし、もうそんな時代でもないでしょう。
薬というものは、特許申請から10年以上の時間をかけ、ひとつ何千億円という金をかけて世に出されます。たまに私も、こう思うことがありますよ。結局これは、われわれ製薬会社が新薬の開発にかかった費用を回収しようと、『無駄な戦い』を繰り広げているだけなのではないか、と」
「高くて危ない薬」ではなく「安くて安全な薬」が優先して処方される。それが本当の「患者のための医療」ではないか。
「週刊現代」2016年7月9日号より
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