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iPS細胞などの登場で倫理観や法規制を考える必要がある(※イメージ)
田原総一朗「iPS細胞と超高価薬が突きつける『生命の値段』問題」〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160617-00000069-sasahi-sctch
週刊朝日 2016年6月24日号
京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞を発見してから10年が経過した。ジャーナリストの田原総一朗氏は、iPS細胞などの登場で倫理観や法規制を考える必要があるという。
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いま、世界中で「iPS細胞」をめぐって、覇権争いが激化している。
京都大学の山中伸弥教授がマウスのiPS細胞の作製に成功したと発表したのは2006年のこと。その1年後にヒトのiPS細胞の作製に成功し、ノーベル賞を受賞した。
人間の「命」は、たった1個の受精卵からはじまり、分裂を繰り返して、さまざまな細胞に変化して身体をつくっている。
実は、こう書きながら、私は「iPS細胞」のどこがすごいのか、山中教授がなぜノーベル賞を受賞したのか、まるでわかっていなかった。そんな私にとって、「週刊ダイヤモンド」(6月11日号)の「世界を変えるiPS」は、ありがたい手引書となった。
「分裂して細胞の数が増えていくと、次第に細胞に変化が起きてくる。脳や心臓など、自分がいる場所で力を発揮できるように、細胞が専門化していく。しかし、細胞は専門化していくにつれて、他の種類の細胞になれる能力を失ってしまう。おまけに増殖する能力も下がっていく」
専門化した細胞は、他の細胞になることはできない。それはあたり前で、心臓の細胞が脳や肝臓の細胞になることはないと考えていた。だが、山中教授のiPS細胞は、こうした長い間の常識をひっくり返した。
「たった四つの遺伝子を導入するだけで、専門化した細胞が『初期化』されて、さまざまな細胞になれる能力を取りもどすということがわかった」
つまりiPS細胞は、体のどのような種類の細胞にもなれる「万能細胞」なのだという。しかも、無限に増殖できるということだ。
そして、14年9月に、先端医療センター病院(神戸市)の栗本康夫眼科統括部長が、世界で初めてiPS細胞を使って、70代の女性患者に目の手術を行った。患者の細胞からつくったiPS細胞を用いて網膜色素上皮細胞という目の細胞をつくり、シート状にして移植したのだという。
それから1年半が経つが、手術に伴う合併症も起きず、移植した細胞が拒絶反応も起こさずに定着している。つまりiPS細胞による人間への移植は成功したわけだ。
すでにパーキンソン病や心臓病、肝臓病、膵臓(すいぞう)病など、さまざまな難病に対してiPS細胞による移植が進められようとしている。今後は、従来の手術中心から、iPS細胞による再生医療が主になっていきそうだ。武田薬品工業をはじめ、日本の製薬会社がいずれもiPS細胞がらみで新薬の開発に乗り出している。
だが、医療の発達による難問も生じてくる。再生医療ではないが、いま肺がん治療薬「ニボルマブ」が難しい問題を生じさせている。「ニボルマブ」は画期的な肺がん治療薬だが、年間に3500万円(26回投与)かかる。日本の肺がん患者のうち5万人が使えば、1年間に薬代だけで1兆7500億円になる。こうなると医療保険制度は破たんをきたし、すべてが患者負担となると、低所得者は「ニボルマブ」の治療が受けられないことになる。
これまでは、人間の生命が何よりも重要で、生命を永らえるためにあらゆる手段を講じるのが当然だということになっていた。だがiPS細胞による移植、そして「ニボルマブ」のような超高価薬がどんどん登場してくると、従来は必要でなかった倫理観や法規制などを考えなければならなくなるのではないだろうか。
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