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宮嶋 泰子
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2018年9月3日
今回の体操暴力&パワハラ事件に関して、何やら、私のところにSNSでの誹謗中傷もかなり来ています。
テレビで体操協会の暴力事件は塚原夫妻の陰謀であるという意見を体操OBがテレビで伝える中、私は塚原陰謀説を否定してきました。偶然この事件の発端からじっとそばで見ておりましたので、今日は私なりの見解をお伝えします。
塚原夫妻の陰謀説を唱える人は次のような主張をしていました。
「1年以上前の暴力事件が今頃取り出され、速見コーチが処分されるのはおかしい。宮川選手と速見コーチを切り離し、宮川選手を朝日生命に入れるつもりだったんだ。これまでも選手引き抜きをしてきた朝日生命体操クラブの塚原夫妻の陰謀に違いない」
男子体操OBたちが色々な番組に自ら出演を申し出て主張を繰り返してされていました。しかし、私の見解は異なります。ここにそれを整理してお伝えします。
1:なぜ数年にわたって繰り返し行われてきた速見コーチの暴力が今頃急に問題になったのか?
以前の所属先やナショナルトレーニングセンター(NTC)などで繰り返し行われてきた速見氏の暴力ですが、同じ練習場所でトレーニングをしていた選手やコーチが、このことについて塚原千恵子強化部長に報告しました。選手たちの練習環境を確保維持するのは強化部長の大きな仕事です。これを体操協会に報告します。すると偶然これと同じ時期に、別ルートから日本スポーツ振興センター(JSC)にも速見氏の暴力の報告と調査依頼が提出されていました。
慌てたのは体操協会です。
自分たちがこの問題をきちんと処理しなければ、JSCがこの暴力問題を徹底的に調査し始めます。JSCから調査が入り体操協会の不祥事が明るみになればこれは体操協会の不名誉な出来事となります。そこでまずは、日本体操協会内でこれを徹底的に調査するので、JSCの調査はそれが不十分だった場合に行ってもらうようにしたのです。山本専務理事による選手やコーチ及びクラブの聞き取り調査が始まり、多くの目撃証言が寄せられ、早い決断で、無期限資格停止となりました。この処分は本人が悔い改めしっかりした指導がなされれば戻ってくることも可能というものです。大会への出場やNTCでのトレーニング指導はできませんが、一般の体育館での指導は可能です。その指導者の生活権までは奪わないというものです。
この迅速な処理によって、JSCからの調査は行われないこととなりました。生半可な結論ではJSCからの再調査が行われる可能性があったのです。
これが、なぜ急にこの暴力問題が取りあげられ早い処置がなされたかという理由です。塚原夫妻が選手とコーチを離す意図で早い処置をしたという推測は間違いだとお分かりになると思います。
2:宮川紗江選手が感じた恐怖の下地は引き抜き?
7月15日の第一次ナショナル合宿の初日、私もカメラクルーを伴ってNTCの体操練習場におりました。この日は30人ほどの選手とコーチがいました。
この日に、宮川選手は塚原夫妻から控室に呼ばれ、「暴力があったのかなかったのか」と聞かれました。最初は「暴力はありません」と答えていた宮川さんですが、最後は「でも私は平気でした」と認める答えをしたそうです。
宮川さんは後日記者会見でも語っていますが、この時に、速見コーチと自分が離されて朝日生命に入れられるんだという恐怖を感じたと言います。宮川さんや速見コーチは以前から、塚原夫妻の引き抜きが頻繁に行われていると信じていました。そして今それが行われていると思っていたのです。
実は私はこれは「思い込み」だと感じています。
確かに朝日生命体操クラブには日本全国から優秀な選手が15歳ぐらいで移籍してくるケースがありました。しかしそれは自分で望んだり、移籍した選手の好成績を見て後を追って移籍して来たり、または親同志のコネクションで移籍して来たりするケースが多かったようです。塚原千恵子さんは「自分で勧誘したことは一度もない」と言っています。
又、昨日私のところに入った元朝日生命選手からのコメントによると、7年間の在籍中に引き抜かれてきた選手は一人もいなかった。テレビで男性体操OBが話している「引き抜き」は思い込みに過ぎない、きちんと調べてから発言してほしいと明言していました。
ちなみにクラブ間の移動はよく行われることですが、地方の小さなクラブから東京の大きなクラブへの移籍となると目立ってしまうことになります。反対に朝日生命から他のクラブに移っていった選手も多くいます。
ただ、この件に関しては、強豪選手を出して強い朝日生命の監督がナショナルチームの監督も兼任しているというシステムの中で、あのクラブに行けば自分もナショナル選手になれるかもしれないという思いが生じても仕方ないと思います。これは夫妻のせいではなく、強豪クラブの責任者がナショナルチームの責任者であるというシステムの問題でしょう。
3:塚原夫妻のハラスメント
71歳の強化本部長と70歳の副会長を前に18歳が座らされて質問されるというシチュエーションそのものがハラスメントと感じられても仕方がないという見方もあります。質問者の口調は穏やかだったとしても、こうした中で質問される側がハラスメントだと感じたというのなら、これは感じた人の問題なので、ハラスメントになります。これから指導者は様々なことに気を使っていかなくてはならないでしょう。
もともと、自分の考えを前面に押し出す塚原千恵子さんは、「おかしいものはおかしい」とはっきり口に出すタイプでした。ですから体操界でも塚原さんから嫌われている人も多くいました。反対に、塚原千恵子さんを嫌う人も多くいたことになります。こうしたことも、今回、体操OBが塚原攻撃に出た一つの要因でしょう。「おかしいものはおかしい」と言ってしまうことも、今の時代はハラスメントにつながると指摘する弁護士もいます。
4:専属コーチの暴力問題から、協会幹部へのハラスメントへ
今回宮川紗江さんと並んで記者会見などに臨んだ山口弁護士の手腕は見事でした。コーチの暴力問題を協会幹部から選手へのハラスメントへ移行させてしまったのですから。顧客である宮川サイドの応援という意味では完璧だったでしょう。
ただ、だからと言って、暴力問題が薄まるわけではないということです。これは絶対にダメなのです。そして暴力を受けた選手が「私は大丈夫です」などと言ってもいけないのです。これは共依存かストックホルムシンドロームを疑われても仕方ありません。
そして組織の幹部もハラスメントにもっと意識を向けなくてはいけないということです。昔の体育会の上意下達の世界で育ってきた幹部連中には選手がコーチの指示を聞くのは当たり前という思いがあります。しかし時代は変わり、選手とコーチが話し合いながら、よい方法を考えて実践していく時代に入ってきているのです。そこを認識する必要があるでしょう。
昨夜塚原夫妻のお詫びのコメントがファクシミリで流れました。そのあたりに二人が気付いてくれたとしたのならうれしいことです。
5:これからの宮川紗江さん。
体操選手はほとんどがクラブの所属です。クラブに月謝や部費をはらって体操を教えてもらったり練習する環境を提供してもらっています。または学生です。学校を卒業して企業に就職し、そこから給料をもらう選手もいます。男子のコナミの選手たちは子供たちを教え、午後から練習をして、給料をもらえるというシステムです。
しかし、宮川さんは違います。宮川さんは高校を卒業して今年春、「私は内村航平さんと同じプロです」と公言しています。プロとなったからこそ、今回のような記者会見を行ったとも言えます。
しかし、現実的には練習環境の確保や資金繰りなど難しい面も多々あったのでしょう。この記者会見の時には所属先も決まっていない状態でした。宮川さんは大阪体育大学ダッシュプロジェクトの4年契約がありましたが、それもどうなったのかわからないままで、さらには2か月ほど所属したスポンサー企業から外れることを宮川さんサイドが強く要望し、8月下旬に外れています。こうした、今、自分が置かれている状況を打開したいという思いもあったでしょう。今回の件で、スポンサーがつき、安心してトレーニングができることになればこれ以上のことはありません。
10月下旬から11月にかけて行われる世界選手権を辞退し、ナショナル合宿にもいかないということなので、次回宮川選手を見るのは4月の大会になるはずです。私はこれはとても良い決断だと思っています。ゆかと跳馬が得意であるにも関わらず、試合の度に足首を痛め、思うように着地ができず、7月1日の全日本種目別では7位に終わってしまっています。根本的な治療とトレーニングの改善を行い、4月に向けて基礎からやり直していくことが求められます。体操協会から練習場所の斡旋などがあると望ましいのでしょう。
今から来春の宮川選手の演技が楽しみになっているファンも少なくないと思います。
6:まとめ
スポーツは時代と共に変わっています。NTC内で行われているナショナル合宿も年々変わってきているようです。今、各選手のコーチたちが互いにアドバイスし合い刺激し合って合宿を行っている様を見ると、強化本部長の方針も昔に比べとても柔らかくなっていると感じています。以前は選手同士の会話もご法度だった時代があります。今は比較的和やかにそれでいて一人一人が独立して合宿が粛々と行われているように感じています。体操は個人が行う競技ですが、団体戦などではチームワークも求められます。そのあたりのハンドリングは決して簡単ではないのでしょう。しかし、この事件をきっかけに、みんなが一致団結して世界選手権でメダルを獲るという目標に向かい、東京オリンピックの団体出場権を獲得してほしいと思っています。
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