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コレステロール摂取は健康に影響せず、米国が発表…値が低いほど、がん死亡リスク増大か
http://biz-journal.jp/2018/03/post_22832.html
2018.03.31 文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士 Business Journal
コレステロールは悪者で、できるだけ食べ物から摂らないほうがいいと思っていませんか。また、健康診断などで「コレステロール値が高め」と言われて、食べ物からできるだけコレステロールを摂らないようにしている方も多いのではないでしょうか。
2015年2月、アメリカ政府の食生活ガイドライン諮問委員会が「コレステロールの摂取は健康に影響しない」ということを発表しました。日本でも、同じ年に厚生労働省がコレステロール摂取基準の設定を中止しているのです。なぜなら、食事から取り入れるコレステロールは、血液中のコレステロールにほとんど影響しないので、目標設定の意味がなくなったからなのです。日本動脈硬化学会も同時期に同じ内容の声明を出しています。
しかし、このことを知っている日本人はまだ少ないようで、いまだに「コレステロールの摂り過ぎに注意!」「卵は1日1個まで!」といった指導を守って実践している方もたくさんいらっしゃいます。
コレステロールはギリシャ語の「chole(胆汁)」と「sterol(個体)」の複合語で、18世紀後半に発見されました。コレステロールは体を構成するために必須の物質で、体内のいろいろなものをつくってくれる大切な物質のひとつです。決して身体に悪い物質ではありません。
たとえば、細胞膜はコレステロールからつくられます。コレステロールがない状態だと、丈夫な細胞膜を作ることができません。そのほか、神経細胞やホルモンなどの原料にもなります。脂溶性のビタミンの吸収を助けるためには胆汁酸が必要なのですが、その材料のひとつがコレステロールです。
また、コレステロール値が低いと精神的に不安定で暴力行為を起こしやすく、うつ状態になりやすいといわれています。コレステロールが少ないと、「幸せホルモン」といわれている脳内物質のセロトニンが少なくなるためと考えられています。
健康な体を維持するために1日に必要とされるコレステロールの量は1000mgから1500mgといわれています。この必要なコレステロールを、食事から摂取していると思っている方が多いのですが、実は私たちの体は肝臓でコレステロールを合成しているのです。体重50kgの人で1日当たり600〜650mg、しかも食事で摂る量が少なければ体内で多く合成し、食事で摂る量が多ければ体内で合成する量を少なくしてコレステロールの量を調整しています。常に一定量が保たれるような体の仕組みがあるので、食事からの影響を受けることはほとんどありません。
私たちの体は、コレステロールについても「摂りすぎたらつくらない」「足りなかったらつくる」という素晴らしいシステムが内蔵されています。いわゆるホメオスタシス(恒常性)と呼ばれるものです。つまり、そのようにしてコントロールするほど、人間の体にとってコレステロールは重要な物質で、生きていくためにコレステロールは必要不可欠なのです。
■「卵を食べるとコレステロール値が上がる」は迷信
そもそも「卵はコレステロール値が高いから、1日に1個まで」と、卵を摂り過ぎてはいけないといわれるようになったのは、1913年にロシアの病理学者ニコライ・アニチコワらが、ウサギにコレステロールを与えた実験が元になっています。当時、食べ物として体内に摂り入れたコレステロールが人体にどういう影響を与えるかは、まだよくわかっていなかったので、人体での実験は避けてウサギを使って実験が行われました。栄養価の非常に高い卵をウサギに食べさせ続けたところ、血中のコレステロール値はどんどん増加し、ウサギは動脈硬化を起こしてしまったのです。この実験によって「卵はコレステロール値をいちじるしく上昇させ、食べ過ぎると動脈硬化を起こしかねない」という推論が生まれたのです。
しかし、これには大きな間違いがありました。というのも、ウサギは草食動物だからです。草食動物のウサギは、卵のような動物性の脂肪を含む食品を食べることはありません。食べたことのないものなので、体内での調整機能も働かず、ストレートにコレステロール値の上昇という結果につながってしまったのです。
一方、人間は雑食です。また、もともと体の中でコレステロールの合成をする機能を持っています。食品から摂取し、体内に入ってくるコレステロールの量を調節する機能もあるので、食べ物に含まれるコレステロールがそのまま血中コレステロールになるわけではありません。私たちが日常的に信じ込まされていた「卵を食べるとコレステロール値が高くなる」「コレステロールの高いものを食べると動脈硬化を起こす」という迷信は、このロシアのウサギの実験から始まったのです。
コレステロールと死亡者数の関係については、数々の論文が発表されていますが、日本でも「J-LIT」(日本脂質介入試験)という臨床試験があります。これは、総コレステロール値と死亡者数、心筋梗塞死亡者数、がん死亡者数の関係について試験、調査したもので「コレステロール低下剤服用中の全国5万2421人を6年間にわたり追跡調査した」という大規模な臨床試験です。
この調査では、次のような結果が報告されています。
(1)コレステロール値が高くても低くても、死亡のリスク(危険性)は大きくなるが、低いほうがそのリスクは、より大きくなる。
(2)死亡のリスクが小さいのは、総コレステロール値200〜280mg/dlであり、この範囲であればリスクは変わらない。
(3)コレステロール値が低いほど、がん死亡者数が多い(総コレステロール180mg/dl未満のがん死亡者は、同280mg/dl以上の人の約5倍)。
上記と同じようなデータは、国内でも「八尾研究」などいくつも発表されています。血液中のコレステロールは、その比重によって大別すると「LDLコレステロール」と「HDLコレステロール」に分けられ、それぞれ大切な役割を持っています。
LDLは血管を通じて体の各組織に必要なコレステロールを運ぶのに対して、HDLは余分なコレステロールを肝臓に回収する働きをしています。HDLは血管中などの余分なコレステロールを回収する役割があることから「善玉コレステロール」と呼ばれ、反対にLDLは組織に運んでしまうから「悪玉コレステロール」と呼ばれています。
しかし、前述したとおり、コレステロールは人間の体にとってなくてはならない栄養素のひとつであり、LDL、HDLともに重要な役割を持っているのです。「善玉」「悪玉」という呼び方自体を見直す必要があるのではないでしょうか。
(文=宇多川久美子/薬剤師・栄養学博士)
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