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「鉄欠乏症」=「鉄不足」+「鉄利用障害」 たがしゅうブログ
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投稿者 BRIAN ENO 日時 2017 年 8 月 01 日 22:29:27: tZW9Ar4r/Y2EU QlJJQU4gRU5P
 

「鉄欠乏症」=「鉄不足」+「鉄利用障害」

そもそもなぜ鉄は不足するのでしょうか。

鉄は生物の生命維持にとって非常に重要な物質です。

鉄が機能しなければミトコンドリアでのエネルギー産生、ストレスに関与するドーパミンやセロトニンの合成などを中心に重要システムに支障をきたします。

そんな鉄が不足するのは、普通に考えれば鉄分の摂取が少ない時という事になりそうですが、

よく考えてみて下さい。鉄はFeという原子です。原子とはそれ以上分解されない存在です。

イオン化する事はあっても、代謝で使われたからといってバラバラに分解されるわけではありません。

これがブドウ糖(C6H12O6)なら代謝を受けて、最終的に水(H2O)と二酸化炭素(CO2)へと姿形を変えますが、それとは違ってFeは使われた後もFeの形のままで消え去らずに体内に存在します。

そうすると鉄は代謝で使用された後、生体内でどのような運命をたどるのでしょうか。
実は代謝で使用された鉄は網内系と呼ばれるマクロファージなどの貪食細胞が関わるクリーニングシステムを通じて再利用されます。

日本内科学会雑誌 Vol. 99(2010) No. 6
特集●鉄代謝の臨床 鉄欠乏と鉄過剰:診断と治療の進歩

(以下、p1177-1178より引用)

4.網内系による鉄のリサイクル

人体にはおよそ3〜4gの鉄が存在する。

そのうち約3分の2は赤血球中のヘモグロビンに存在する。

前述のように、消化管から吸収される鉄は1日約1〜2mg程度であるが、

赤血球造血に必要とされる鉄は1日約25rであり、全く足りない。

このため、造血に必要な鉄の大部分は網内系のマクロファージを介したリサイクルシステムによって供給されている。

赤血球の寿命はおよそ120日で、老朽化した赤血球は毎秒約200万個という早さで網内系のマクロファージに貪食されている。

貪食された赤血球はリソソームで分解され、リソソーム内に遊離した鉄はNRAMP1を介して細胞質へと輸送される。

細胞質内に入ったFe(U)はフェロポルチンによってFe(V)に酸化されてTf(トランスフェリン)と結合し、骨髄へ運ばれる。

骨髄の赤芽球はTfR1(トランスフェリン受容体1)を高発現しており、Fe-Tfを盛んに取り込んで新たな赤血球を作り出す。

(引用、ここまで)

要するに、大部分の鉄代謝で用いられる鉄はリサイクルされているのであって、

食事から吸収される鉄分は鉄代謝全体の中でさして大きな割合を占めていないということなのです。

そしてリサイクルされずに排泄される鉄は基本的にごくわずかで、腸管上皮細胞の剥離や皮膚や汗、髪の毛、爪などから1日約1r程度の損失しかありません。

上述の引用文でも消化管から1日約1〜2mgの程度の鉄の吸収があるとのことですので、それで収入と支出のバランスは十分に整うということになります。

ただ例外的に一気に大量の鉄分を喪失するイベントが失血です。血液の中の赤血球には大量のヘム鉄が含まれています。

そして女性は基本的に月に1回月経という生理現象により個人差はあるものの平均して約40mlの血液を喪失します。

全血100mlには約50rの鉄が含有されていると言われていますので、40mlでも20rの鉄分です。

汗や上皮脱落の鉄喪失分と比べて多いですが、ただし月に3〜7日間程度の現象ですので、1日換算にすれば2〜5mg程多く鉄を喪失することになるでしょうか。

ですので、女性により鉄不足の問題が顕在化しやすいということになり、この点に関しては全く異論のないところです。


しかしながら、生物のシステムの合理性で考えた場合、

鉄が重要な物質だとして、それを定期的に喪失するシステムを備え、鉄を積極的に摂らないと生命を維持できない状況・・・

それがデフォルトで設計されているということにはちょっと違和感を感じるのです。

本当に人間は生き続けるために鉄分をせっせと摂らなければいけないのでしょうか。

ここでもう一つ頭に入れるべきなのは、鉄の吸収の問題です。

食物中の鉄は主に十二指腸から吸収されますが、その吸収具合は無機鉄か有機鉄(ヘム鉄)かで5倍くらい差があります。

また胃酸により酸性度が高まれば、無機鉄が三価の鉄イオンになり、これが十二指腸上皮細胞で二価の鉄イオンに還元されて細胞内に取り込まれやすくなります。

一方で胃内に炎症が存在すれば、鉄代謝調節ホルモンのヘプシジンの発現が亢進し、網内系による鉄リサイクルシステムがストップします。

つまり私が言いたいのは、もともとヒトが備える鉄代謝システムを乱す要因が加わっていなければ、

少々鉄が少なかろうと多かろうと、絶妙な鉄調節システムで何とか生命活動をやりくりできるのではないかということです。

つまり鉄欠乏の本質は鉄が足りないことだけにあらず、

鉄が使えなくなるように代謝環境を乱す要因が加わることも大きな割合を占めていると思います。

冒頭の質問、そもそもなぜ鉄が不足するのか、という質問に回答するならば、

「吸収障害」と「リサイクルシステムの故障」が二大要因で、それらをまとめて「鉄利用障害」があるから、ということになります。

勿論「鉄が物理的に不足している」ことも一因ではありますが、大事なことはそれだけではないということです。


では鉄があるのに鉄を使えなくしている「鉄利用障害」の原因はなんでしょうか。

同じように、脂肪があるのに脂肪が使えないという問題を私は以前記事にしたことがあります。

答えの一つは糖質過剰です。

もっと本質的に言えば、解糖系優位の代謝システムにしてしまうことです。

ミトコンドリアの活躍の場を少なくしてしまうことです。

だから糖質制限は鉄欠乏の根治療法へとつながるのです。

もう一つ解糖系優位の代謝システムを作るのはストレスです。

ストレスがかかれば血糖が上昇し、急場をしのぐために即座に使えるエネルギーの産生を要求されます。

その結果、やはり解糖系優位の代謝システムとなり、

一過性ならまだしも、慢性的になれば鉄があるのに鉄が使えない環境を作るわけです。

さらに言えば糖質摂取による高インスリン、ストレスは炎症を惹起します。

炎症は鉄代謝を調整するヘプシジンというホルモンの発現を亢進し、網内系での鉄のリサイクルシステムを止めてしまいます。

ということは約1〜2mg/日以上に鉄を喪失させてしまうことにつながります。

加えて、ヘプシジンは十二指腸からの鉄の吸収を抑制するとも言われています(Pellicano, et al. 2004)(PMID 15510085)。

炎症があるとフェリチンは上昇するけれど、組織内では鉄が利用できない状況になるという事はよく知られています。

まさに炎症は外からも内からも鉄が使えない状況を作ってしまうのです。

この辺りの話は鉄剤を補充してもフェリチンがなかなか上がらない人の原因を一部説明している所があると思います。

逆に言えばこうした環境要因をコントロールして、人体本来の機能をいかんなく発揮すれば、

月経分を上増しして毎日の鉄喪失が6〜7mg/日になる女性においても、

消化管が正しく機能し、リサイクルシステムをうまく働かせることで、

鉄吸収能を約1〜2mg/日以上に高め、鉄喪失量を1r未満に抑えることができるのではないかと思います。

そうすれば普通に鉄分を摂取していても、鉄代謝に支障が現れない状況を作ることは十分可能なのではないかと思います。

さもなくば、女性はわざわざ人為的に鉄分を積極的に摂らない限り、

誰もが鉄欠乏で悩まされるよう運命づけられているというような変な話になってしまいます。

そんなはずはないと私は思うのです。でないと食料が今ほど潤沢にはない先史時代から

命のバトンをつないで来れたはずはないと思うのです。


ということは鉄欠乏症に対しての根治療法は何でしょうか。

鉄が多くても少なくてもうまくやりくりできるように身体の代謝を整えること、

具体的には「糖質制限+ストレスマネジメント」です。

これならばいつの時代でも行うことができたのではないかと思います。

http://tagashuu.blog.fc2.com/blog-entry-1042.html

たがしゅう

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2017-07-28 素朴な疑問 Comment:0 Trackback:0

 

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