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不足の重要性を知らしめる
広島県の精神科医、藤川徳美先生が書かれた本、
「うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった」を拝読しました。
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うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった (光文社新書) 新書 – 2017/7/19
藤川 徳美 (著)
いろいろ考えさせられる良書だったと思います。
私の知る限り、ほとんどの精神科の医師は採血を定期的にフォローアップする習慣がありません。
基本的には内科などで器質的な病気が除外されているという前提で診療に当たっているので、自分の目で採血を評価しようとするスタンスの医師が極端に少ないのです。
藤川先生のおっしゃるように、精神疾患には糖質過剰、低タンパク質・鉄不足の問題が大きく関わっていると私も思います。
それを現役の精神科医で、しかもかなりの症例数を見ておられ実績もたくさんある先生がおっしゃっているのですから大変意義深いと思います。
心ある精神科の先生には、是非ともこの本を読んでとにもかくにもまずは自分のうつ病やパニック障害の患者さんに血液検査でフェリチンを測ってみようと思ってもらいたいです。
そうすれば良い医療の構築に向けて、大きな社会貢献になると思いますし、よしんば一般書だからということで精神科医が振り向かなかったとしても、
この本を読んで自分の精神状態の悪さに鉄不足が関わっていると思った患者さんは受診行動に移すことができるかもしれませんから、これはこれで大きな社会貢献です。
全6章からなる構成で、主にはうつ・パニックを中心とした精神疾患の患者で、フェリチンを測定すると1桁台の重度鉄欠乏状態が判明し糖質制限、鉄剤+αの治療で良くなったという症例が多数紹介されていました。
また第3章では鉄が生命にとっていかに重要なミネラルであるかについて、生命の歴史、地球・宇宙レベルから考察されていて参考になりました。
確かに数あるミネラルの中で鉄は重要な位置を占めていると思います。
どういう意味で重要かと言えば、特に赤血球、酸素を運ぶヘモグロビンが機能するのに必須という観点で、です。
これが不足していれば酸化的代謝を行うことができず、ミトコンドリア機能障害でエネルギー不足となります。
そして月経というイベントにより定期的に失血する女性にとっては、赤血球とともに鉄を喪失してしまいます。
赤血球のヘモグロビンに結合する鉄は全体の3分の2もの量を占めており、この事からも男性以上に女性で鉄不足が大きな問題となりうるという事は非常によく理解できました。
第5章で現在の医療の誤りについて指摘する下りでは、医学論文がいかに非効率で時代錯誤なシステムかという事が明確に書かれていて胸のすく思いがしました。
筆頭執筆だけでも100本以上の論文を書かれた藤川先生ならではの見解で、同じことを私が言うのとでは説得力が違います。
ただ、全体を通じてフェリチンの絶対量、及び鉄分の摂取不足だけに焦点を当てすぎている面は気になりました。
例えば、「15〜50歳の女性の99%は鉄不足」だとする下りです。
その根拠として藤川先生は「欧米ではフェリチン値100mg/ml以下は鉄不足であるとみなされる」と述べ、
厚生労働省「平成20年国民健康・栄養調査」報告書からの引用で、フェリチン100ng/mL以上の人が20〜49歳の全年代を通じて約1%程度しかいない(20〜29歳にいたっては0%)ことを挙げておられます。
しかしAmerican Familiy Physicianという医学雑誌のIron Deficiency Anemia(鉄欠乏性貧血)に関するレビュー(2007)で、
診断的検査のところを読んでみますと、確かに診断におけるフェリチンの重要性が書かれているのですが、次のように続いています。
Serum ferritin values greater than 100 ng per mL (100 mcg per L) indicate adequate iron stores and a low likelihood of IDA.(100ng/mL以上の血清フェリチン値は貯蔵鉄が適切で鉄欠乏性貧血の可能性が低いことを示す)。
また次のようにも書かれています。
Patients with a serum ferritin concentration less than 25 ng per mL (25 mcg per L) have a probability of being iron deficient.(フェリチン濃度が25ng/mL未満の患者は鉄欠乏がある可能性がある)。
つまり、欧米では25ng/mL以下くらいを治療適応のある鉄欠乏だと認識しているような記載であり、100ng/mLが直ちに鉄不足だと言っているわけではないということです。
感覚的にも20代女性が全員鉄不足だと言われたら、流石にそれは違うように感じます。皆が皆パニックになっているわけでもないし、潜在的なものを考慮したとしても元気に過ごしている20代女性は私が知るだけでもたくさんいます。
それにフェリチンの絶対値だけで語れないという理由はもう一つあります。
藤川先生基準だとフェリチン30以下は重篤な鉄不足ということなのですが、
紹介されている症例の中で、例えば次のようなケースがあります。
(以下、p83-84より引用)
大学に行けなくなり、ひきこもるようになった20代女性の症例です。
(中略)
平成27年の初診時は、朝起きるのが辛い、頭痛に悩まされているというのが主な症状でした。
食事は偏食なく何でも食べているとのことでしたが、フェリチンを測定したところ、値は10でした。
かなり低い数字で、辛そうでもあったことから、1回のみ鉄剤を注射しました(フェジン静注)。
そして、鉄剤フェルムを処方し、「高タンパク・低糖質食」を指導しました。
すると、翌月に来院されたときは、かなり元気になり、週末も朝から友人と遊びに行けるようになったと報告してくれました。
夜はお米のご飯を食べるのをやめ、卵、肉、魚を頑張って食べているということでした。
6月には、きびきびと歩く事ができるようになった、頭痛も軽くなったといい、以前よりも仕事を頑張れるようになったということでした。
このとき、フェリチン値は25に上がっていました。
(後略、引用ここまで)
この症例では、まだフェリチン25ng/mLという藤川先生がおっしゃるところの
重度鉄不足の状態にあるにも関わらず、かなり元気になっている様子がわかります。
これは、「フェリチンが低くても鉄代謝が正常化していれば症状が消失しうる」ことを示していると思います。
以前当帰芍薬散という漢方薬でフェリチンが1桁のままでも臨床症状が改善する事を示す研究報告を紹介しましたが、ここでも同様の事が当てはまります。
つまりフェリチンの絶対値だけに注目してしまうと見えないものがあるということです。
それを自覚する事がなぜ大事かと言えば、不要な鉄剤投与を避けることができるということ、そして真の原因に目を向けることができるからです。
言い換えれば、もう鉄代謝は改善しているのにフェリチンが少ないことを理由に鉄剤を投与し続ける事態を避けることができるからです。
確かに鉄不足の症状に対して鉄剤の投与は有効です。事実私にも同様の臨床経験が数多くあります。
しかし鉄不足に対する鉄剤投与はあくまでも対症療法であり、根治療法は別のところにあるという事を認識しておく必要があります。
なぜ鉄不足への鉄剤投与が根治療法ではないのか、それを理解するには「なぜ鉄分が不足するのか」について摂取不足以上に考察を深める必要があります。ただ単に鉄の摂取量が少ないというだけの問題ではないのです。
次回の記事ではその事について私見を語ってみたいと思います。
たがしゅう
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