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ステーキでダイエット…広がる糖質制限至上主義
糖質制限パニック
糖質制限に商機を見出す企業続々
2016年11月9日(水)
水野 孝彦、西 雄大
日経ビジネス11月7日号では、特集「糖質制限パニック」を掲載している。特集内では、日本各地に広がる糖質制限のブームに伴い、自治体や企業などが大わらわとなる状況をレポートしている。糖質制限の本格的な拡大は、見方を変えると、実は1万年ぶりに起こった「食」の大転換とも言える。本誌特集では、こうした地殻変動に企業がどう備えるべきかを詳報した。今回は、いち早く糖質を気にする消費者の心を掴んで成功している企業の事例を紹介する。
「糖質制限を意識する消費者はごく一部、ウチとは関係ない」――。こうした固定観念に捉われる企業が多い中で、いち早く糖質を気にする消費者を取り込むことで成果をあげている企業がある。その1つがペッパーフードサービスだ。同社が展開するステーキ店「いきなり!ステーキ」は最初の店がオープンしてから3年も経たない2016年10月末時点で100店以上を展開。急成長を遂げていることで知られている。
「いきなり!ステーキ」では昨年11月からランチタイムに提供するステーキとライスのセット(CABワイルドステーキのセットで1350円)で、ライス無しを注文すると100円値引きをするサービスを実施。また直営店舗では、付け合わせのトウモロコシをブロッコリーやインゲンに変更できるようにもした。糖質制限を実践する来店客への配慮からだ。その結果、ダイエットに関心の高い人たちを中心にSNS(交流サイト)上でその取り組みを絶賛された。
「当店でも使う赤身肉には健康に良いというイメージが元々ある。それに加えてダイエットでも使われていることが知られ、ヘルシーな店というブランドが高まった。その結果、シニア層の利用も増えている」(ペッパーフードサービス)。
ステーキを食べて糖質制限
きっかけは糖質制限を実践していると思われるお客からの要望だった。「いきなり!ステーキ」ではランチタイム以外はステーキとライスが別売りになっているが、ランチタイムにセットメニューを頼んだ時にライスを残しても価格は変わらないため、損をした気持ちになるという声が寄せられていたことだった。「糖質制限を実践するために利用していただくというのは、これまで考えられなかった店の用途で時代の変化を感じている」とペッパーフードサービスの広報担当者は話す。
肉の量り売りがコンセプトの「いきなり!ステーキ」では、350グラム前後のステーキを注文するお客が多く、ダイエットのために同店でステーキだけを食べるお客は珍しくない。今でこそ、店側も把握しているが当初は想定外の利用動機だったという。
実際、糖質制限を実践する常連客達は上得意だ。「いきなり!ステーキ」にはこれまでに食べたステーキの重量に応じてランク別に特典が得られる「肉マイレージカード」という仕組みがある。その最上位層の30数人は同カードの最高ランク「ダイヤモンドカード」の持ち主。トータルで100キロ以上の牛肉を同店で食べたことになり、月間で数万円以上を「いきなり!ステーキ」で使っている計算になる。「肉マイレージカード」の最上位層30数人の大半が糖質制限などダイエット目的で店を利用しているそうだ。
100キロ以上の肉を食べたお客のみに与えられる「肉マイレージカード」の最高ランク「ダイヤモンドカード」の所有者たちとペッパーフードサービスの一瀬邦夫社長(最前列右側)
「糖質」は心に刺さるキーワード
すかいらーくが展開するファミリーレストラン「ガスト」では今年の6月半ばに「1日分の野菜のベジ塩タンメン」などコンニャクを主成分とし、小麦粉を使わない糖質ゼロの麺が選べるメニュー2品を投入。「予想の3倍の注文が入った」(すかいらーく)ことから、9月末からの秋・冬メニューへの改訂では糖質ゼロの麺を使ったメニューを3品に増やした。
一般的に新メニューは注文数を徐々に減らしていくものだが、「糖質制限への関心は一過性のものでなはく、注文数が落ちない」(すかいらーく)。使っている糖質ゼロの麺は製造が追いつかないほど好評だ。
すかいらーくが「ガスト」業態で「糖質」に配慮したメニューに力を入れる背景には、1993年に展開を始めた頃はメーンの客増は10代、20代の若者だったが今は幅広い年齢層の女性客が多く、シニア客も増えているためだ。健康志向の商品開発は必然だが、同社の分析では「『カロリー』より『糖質』の方がお客様の心に刺さる言葉になっている」(すかいらーく)という。そのためメニューブックの中でも「糖質が気になる方へ オススメ!」というアイコンを付けたお薦めメニューはあるが、カロリーオフを強調するアイコンは見当たらない。
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ガストのメニュー表。「糖質が気になる方へ オススメ!」というアイコンで健康志向をPRしている。
ラーメンにまで広がる糖質制限
糖質制限への対応はラーメン店にまで及んでいる。ラーメン店「一風堂」を展開する力の源ホールディングス(福岡市、清宮俊之社長)では、糖質を既存の麺の半分に抑えた「糖質ニブンノイチ麺」を開発。大麦やらい麦など11種類の穀物をブレンドすることで、麺に使われる小麦粉の量を半分に抑えた。「糖質ニブンノイチ麺」は今年4月にオープンした新宿駅直結の駅ビル内にある店舗「一風堂 ルミネエスト新宿店」ともう1店舗で提供している。
「一風堂 ルミネエスト新宿店」の店舗コンセプトは「2ぶんの1風堂」。「糖質ニブンノイチ麺」に加えて、麺の代わりに豆腐を入れることで、通常のラーメンよりも糖質を抑えた「白丸とんこつ百年豆腐」や麺の量を通常メニューの半分に抑えたラーメンも取り揃えている。同店の業績はオープン以来、想定より客数・月商共に「10〜20%上振れしている」(力の源ホールディングス)状態で順調に推移している。現在、「糖質ニブンノイチ麺」を注文するお客は来店客全体の5%前後。味の良さを伝えて商品の認知度をさらに高めていくことが当面の目標だ。
「一風堂 ルミネエスト新宿店」の外観。来店客の7割が女性で20代、30代が中心
ライザップと組んで新たなピザを開発
原材料にたくさんの糖質が含まれている料理の1つがピザだ。
ピザの美味しさを決めるのは生地で、油分と糖質で決まるとされている。モチモチ感を生み出すためには不可欠だが、糖質制限という観点からみると天敵だ。そこでモチモチ感を維持しつつ糖質を制限したピザを開発したのが、ピザハットだ。
ダイエット指導のライザップと組み、デンプンが糖に変わりづらい生地を開発した。「熟成ベーコンとグリル野菜」「テリチキエッグ」「旨みギュッとプルコギ」の3種類を発売した。「配合は企業秘密」(日本ピザハット)だという。完成までに30回以上試作会議を重ねた。糖質を抑えたとはいえピザハットのブランドにふさわしい生地となるまでには時間がかかった。さらにライザップからは糖分の多い野菜の使用は拒否されたので、彩りへの工夫が必要で具材選びにも苦労した。
ピザハットにとって糖質半減は新しい市場を開拓するチャンスだった。宅配ピザ市場は横ばいが続いている。家族やグループで食べるため大きなサイズのピザに需要はある。だが一人暮らし世帯や少人数家族では食べきれない。しかもこうした世帯は糖質を気にすることが多くピザを敬遠しがちだった。
そこで今回の糖質制限シリーズはSサイズに限定し、店舗もライザップのジムの近くだったり、ウェブ注文が多い店などに限定した。日本ピザハットの執行役員で経営企画部長の原田健氏は 「広告をほとんどしていないのに指名買いが多く、全体ランキングでも10位以内に入る人気」だという。
このコラムについて
糖質制限パニック
ご飯やパンなど糖質の摂取を抑え、肥満や糖尿病など生活習慣病のもとを断つ──。
そんな「糖質制限」が日本中を席巻している。
世間にあまたあるダイエット法の一つと思うのは間違いだ。
実践者は若年層から企業のエグゼクティブ層まで及び、関連市場は3000億円を突破。
飲食・食品業界の垣根を越えて、様々な産業のビジネスモデルまで揺るがし始めた。
降って湧いた食の一大トレンド変化にいかに対峙するか。
それは、「本物の変化対応力」を持つ企業を見極めるためのリトマス試験紙にもなる。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/110400080/110800005/
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