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マレーシア・クアラルンプール(「Thinkstock」より)
不動産投資のプロの私がまさかの失敗か…具体例で学ぶ、「絶対に半分は成功する」方法
http://biz-journal.jp/2017/01/post_17721.html
2017.01.15 文=午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役 Business Journal
私は2012年初頭に、マレーシア・ジョホールバル(以下、JB)にて不動産を購入しました。その理由は、現在進められているイスカンダル計画によって一大都市圏が開発され、人口が増加し、不動産価格が上昇してキャピタルゲインが得られる期待があったからです。
しかしあれから約5年、2017年を迎えた現在、当時の判断は半分間違っていたのではないかという疑念を抱いています。それは、不動産価格が上昇するどころか、JBは廃墟の街になりそうな懸念があるからです。
イスカンダル計画は、シンガポールの中心街から車で30〜40分にあるJBの大地を切り開き、06年〜25年にかけてシンガポールと共同で複合経済都市を開発するというのものです。そのメインとなるイスカンダル重点開発エリアには、コンドミニアムや戸建て村、オフィスビルはもちろん、大学やインターナショナルスクールなどの教育施設、ショッピングモール、娯楽施設や医療施設などが建設される予定です。
衣食住すべてにおいて満足できるインフラを整えることで、シンガポールからだけでなく、華僑やインド系、旧宗主国のイギリスや、イスラム国家としては最先進国としてイスラム圏からも人を呼び込み、香港−深センの関係のような、シンガポールと一体となる都市として発展させるビッグプロジェクトです。
当初はその壮大な計画に、現地の人だけでなくシンガポール人も「どうせ頓挫するだろう」と思っていたそうです。これは投資家も同じで、日本人投資家のなかにも、イスカンダルプロジェクトは日の目を見ないと主張する人は少なくありませんでした。
本連載前回記事では、その懸念が現実化している実態について紹介しましたが、今回は、いよいよこのイスカンダル計画が廃墟と化す可能性について、考えてみたいと思います。
■イスカンダルはそして廃墟に
中国の内陸都市では、マンションばかり建っているものの、誰も人がおらず、夜もどの部屋にも明かりがついてない廃墟地域が増えていると聞きます。有名なのが内モンゴル自治区のオルドス市でしょう。
もちろん、JBにはそれなりの人口があるため同じようにはならないとしても、街中ではたくさんの人がにぎわっている一方で、ガラガラの高級コンドミニアムが多数放置されている、という状況にならないとは限りません。
いや、少なくともイスカンダル・プテリ地区(旧ヌサジャヤ地区)においては、当面の間はゴーストタウンが続く可能性が高いなという印象です。今でも夜は真っ暗です。
企業が進出して雇用を創出し、海外駐在員やシンガポール人、学校関係者といった所得の高い居住者が増えれば、外国人が買った高額物件であっても、需要は活性化するでしょう。
一方で私自身が経営者視点に立てば、やはり賃金の安い労働力を使いたいと思うはずで、そうした期待はあまり持てないかもしれないな、と感じています。それに、仮に駐在員が増えたとしても、多数の人が来るとは思えません。そのくらい高価格帯の物件の数が多すぎるのです。
となると、イスカンダル・プテリを始め、旧JB市内以外のイスカンダル重点開発地域で本格的に人口増の恩恵を受けられるのは、高速鉄道が開通する2025年以降の可能性が濃厚です。クアラルンプール(以下、KL)やシンガポールのほうが平均所得は高いため、彼らが移り住んでくれればよいかもしれませんが、あと10年も先で、その計画も遅れる可能性もあります。ちなみに高速鉄道は当初、18年開通予定といわれていました。
また、シンガポールのMRT(大量輸送システム、いわゆる地下鉄)がJBに延伸する計画もあり、これもシンガポールに通勤する人をJBに誘導できる期待の大きいインフラ計画です。JBのコンドミニアムを現金で買った人や移住など実需目的の人はともかく、投資目的、つまりインカムゲインやキャピタルゲイン目的でローンを組んで買った人の多くは、あと10年も返済の垂れ流しに耐える必要があるわけです。いや、耐えられない人のほうが多いかもしれません。
■計画が頓挫するリスクはあるのか?
では、イスカンダル計画が途中で頓挫するリスクがあるのか、という点については、これはかなり低いと考えています。
というのも、すでにジョホール州政府庁舎はイスカンダル・プテリに移転していますし、政府やスルタン(王族)の資本が入ったデベロッパーが多数開発しているため、彼らの威信にかけてもひっくり返すということはないでしょう。また、総投資額10兆円という巨額な投資目標に対し、06年からの累計で16年時点ですでに5兆円以上の投資が決定しています(実行ベースでは約3兆円弱)。折り返し地点としては、まずまずのペースといえます。
いずれにせよこれからの10年、投資家は損切り撤退か、耐えて待つかのどちらかの判断を強いられることになるでしょう。なお、原油安とナジブ首相のスキャンダルでリンギットはリーマンショック並みに下落していますから、預金の補填や繰り上げ返済をするには悪くないタイミングといえそうです。
一方で、私がアメリカ・カリフォルニアに投資した物件は、ほとんど空室期間が長引くことなく順調に稼働しています。やはり先進国の中間所得層における住宅市場の分厚さを感じます。
そんな違いを見て最近感じているのは、不動産投資初心者は、まず日本国内か先進国など住宅市場が成熟している場所で始め、余裕ができたら新興国へ、という順序のほうが堅実そうだな、ということです。
現実にも上記と同じような供給過剰状態はマレーシアに限らず、タイ、カンボジア、フィリピン、ベトナムなど、東南アジア諸国で共通して起こっている事象です。たとえば、ちょっと前までは駐在員が住みたいような良質な居住物件が圧倒的に不足し、キャピタルゲインだけでなくインカムでも高利回りが期待できたカンボジア・プノンペンでさえ、今後供給ラッシュを迎え、未来は不透明になりつつあります。
どの国も、需要を吸収し切れないであろう数の新規大規模プロジェクトが目白押しで、買っている人の約半数は外国人。全供給戸数の何割かは現地人に売らなければならないという規制がある国もありますが、先に売れているのは外国人枠で、ローカル枠は売れ残っているというプロジェクトも散見されます。
現地人が殺到して買っているような物件を選ぶとか、たとえばハワイのようにそこにしかない希少性の高い特徴ある立地・物件を選ばなければ、出口に苦労するリスクが高くなるでしょう。
■二段構えの投資戦略
そうしたリスクを回避・低減するためのひとつのアイデアは、新興国不動産投資をするときには、複数の目的が達成できるようにしておく、というものです。
私の場合、子どもの教育を一定期間、マレーシアでしたいという考えもあり、JBで不動産を購入したという理由もあります。マレーシアはイスラム圏とはいえ、他民族・他宗教国家で、多種多様な価値観に触れることができます。
また、インターナショナルスクールでは、英語に加えてマレー語や中国語でも授業が行われるなど、マルチリンガル教育が基本です。スペイン語やフランス語を選択できる学校もあります。国際バカロレア(IB)認定校なら世界への進学の門戸が開かれていて、それが日本のインターナショナルスクールの学費の半分以下になるスクールもあります。
そして子どもがひとりならともかく3人の予定のわが家では、中高合わせて10年くらいは現地に家族で移住することになりますから、拠点としての住まいは無駄ではないだろうと考えています。もっとも、私たち夫婦は日本での仕事がメインのため、行ったり来たりという生活になるとは思います。
それに、もし人口増が予想を下回るペースが続けば、インターナショナルスクールの定員割れで学費が抑えられる可能性もゼロではありません。
つまり冒頭で、「12年初頭にJBで不動産を購入したという当時の判断は、“半分”間違っていたかもしれない」と書きましたが、「予想通り子どもの教育に適した都市になりつつある」という点では、正しい判断だったともいえます。
もちろん子どもの個性や適性にもより、それが良い結果となるか悪い結果となるかはわかりませんが、子どもには世界レベルで戦える基盤づくりとしての機会を与えてあげたいと考えています。
というふうに、仮に不動産投資で儲からなくても、もうひとつの目的である移住・教育が達成できれば御の字であるという二段構えの戦略です。
あるいは大好きな国・都市に、ホテルコンドミニアムのような運営形態(ホテル運営会社に管理を任せ、通常はホテル運用、年に何回かはオーナーが無料で泊まれる)の物件にする買い方も、余暇と実益を兼ねられる投資手法です。
投資目的は人それぞれですが、計画通りには必ずしもならない新興国不動産投資のリスク軽減策のひとつとして、複数の目的を設定し、どれかがダメでもどれかは達成できるようにしておくことは、一考の余地があると思います。
ちなみに私の場合、不動産投資だけでなくFXでも同様に、高金利通貨を下落時に買うという方法を取っています。仮に含み損が出て塩漬けになっても、その間はスワップポイントで稼ぎ、相場が回復すれば決済して為替差益を取るという二段構えです。
■体験を経験に、経験を教訓に、教訓を新たな判断軸に
以上が現時点でのJBに関する私の考察です。これを読んで、「いや、自分が感じているのとはちょっと違う」という意見もあるでしょう。その場合は、本人の感性を信じていただければよいと思います。あるいはJBへの投資を見送った投資家や評論家気取りのブロガーからは、「そら見たことか。ざまあみろ」などといった揶揄の言葉も聞こえてきそうです。
が、あとからならなんとでも言えるわけで、リスクを取らないで他人に石を投げつけるような人は、そもそも何も成し得ない人種ですから無視するに限ります。
それにこれは現時点でのピンポイントの考察のため、100%失敗だと決まったわけではありません。将来の変動要因は複数あるにもかかわらず、現況がそうだからとあれこれ他人を批判する人がいるとしたら、それは時間軸や環境変化に対する洞察が鈍いだけ。
例えば、かつて楽天がスタートした時に「すぐに潰れる」という批判や、ソフトバンクがボーダフォンを買収したときも「借金が多すぎて失敗だ」などと批判する人が多かったですが、果たしてそうした批判が正しかったといえるでしょうか。
それはともかく、もし私と同じ感想を持っている人は、ぜひこの経験を、より一段成熟した投資家になるための教訓として自分の中で昇華してみてはいかがでしょうか。ただ嘆くとか、目をつぶるとか、安易に逃げ出すのではなく、自分の判断の元となった根拠を振り返り、その合理性を検証するのです。その繰り返しが、次への新しい判断軸の形成につながるはずです。
そしてこれから新興国不動産投資を検討している人に、以上の私の経験と印象もひとつのリスク要因として、あるいは判断材料としてお役に立てれば幸いです。
(文=午堂登紀雄/米国公認会計士、エデュビジョン代表取締役)
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