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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第204回 グローバリズムと外国移民
http://wjn.jp/article/detail/8797094/
週刊実話 2017年1月19日号
現在の世界の政治、あるいは歴史を動かしているのは、右対左、保守対リベラルといった旧来の対立構造ではない。「グローバリズム」対「グローバル化に疲れた国民」こそが世界の政治を動かし、イギリスではブレグジット、アメリカではトランプ当選につながった。
モノ、ヒト、カネの国境を越えた移動の自由化、すなわちグローバリズムは、時に「国民」が思いもよらなかった結果をもたらす。中でも問題になるのが「ヒトの移動の自由化」である。理由は、モノやカネとは異なり、ヒトはコントロールが難しいためだ。
ヒト、すなわち人間が何を考えているのか、いかなる行動をするのか、管理は不可能である。モノやカネに比べ、最も汎用性が高い「人間」の国境を越えた移動の自由化は、時に歴史を大きく動かしてしまう。特に、テロリズムの蔓延によって。
“前回のグローバリズム”の末期、1914年6月28日。オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子であったフランツ・フェルディナント大公が、共同統治国ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボで、ボスニア系セルビア人の民族主義者ガヴリロ・プリンツィプに暗殺されるというテロが発生。この事件が発端となり第1次世界大戦が勃発した。テロリズムが、歴史を動かしてしまったのだ。
テロリズムとは、「暴力や恐怖によって政治上の主張を押し通そうとする」主義になる。
昨年暮れの12月19日午後8時ごろ、ドイツの首都ベルリンのクリスマス・マーケットに大型トラックが突っ込み、12人が死亡、数十人が負傷するというテロ事件が発生した。テロリスト集団『ISIL』は、犯行声明において、
「ベルリンでトラックを使った攻撃を実行したのは『イスラム国』の戦闘員だ。十字軍を狙う呼び掛けに応じたものだ」
と、主張している。
昨年、100万人もの難民・移民を受け入れたメルケル政権にとっては、痛恨事以外の何物でもないだろう。メルケル首相は、「現状からするとテロと見なさなければならない」と、治安対策に乗り出す意向を示したが、今後は、「メルケルが移民・難民を入れたから、テロ事件が頻発するようになったのだ!」という国民からの声に痛めつけられていくことになる。
さらに厄介なのは、すでに流入した100万人単位の難民・移民を国外に「追放」「排斥」することは、現実問題として不可能という点だ。しかも昨年6月の時点で、ドイツにおいて給与を得られる職に就いている移民・難民は、前年同月比で2万5000人増えただけであった。6月までの1年間で、ドイツに流入した移民・難民数は73万6000人。移民・難民の就職率は、何と3.4%にすぎないことになる。
結局、移民・難民はドイツ財界が望む「安い賃金で働く優秀な労働者」にはならなかったのだ。彼ら、彼女らの生活は、ドイツ国民の負担によって支えられることになる。
国内でテロが頻発し、しかも膨大な移民・難民を自分たちの所得で養わされる。ドイツ国民の不満は高まっていかざるを得ないが、ドイツの移民問題はもはや「手遅れ」だ。今後のドイツは「手遅れ」の状況の中でどうにか改善をするべくあがき続けるしかない。
ドイツをはじめとする欧州諸国が「移民問題」に苦しめられている状況において、わが国は安倍政権が猛烈な勢いで移民政策を推進している。日本政府は、外国人の研究者・技術者や企業経営者など、いわゆる「高度人材」について、永住権取得に必要な在留期間を現行の「5年」から、最短で「1年」に縮める方向で検討に入った。
安倍政権は、現在、三つのルートで外国移民を増やそうとしている。
一つ目は技能実習生制度の職種範囲の拡大だ。すでに安倍政権は、よりにもよって介護分野について技能実習生の受け入れを可能としてしまった。われわれの老後は、中国人に介護されることになるわけだ。心温まる未来である。
二つ目は国家戦略特区に「外国人労働者」を受け入れるというルートになる。安倍政権は、これまたよりにもよって「農業分野」から外国人労働者を受け入れようとしている。日本の食料安全保障が外国人依存になっていくわけである。
そして三つ目が高度人材の受け入れ拡大だ。高度人材に短期で永住権を与えるという政策は、外国人技能実習生や外国人短期労働プログラムとは異なり、
「安い労働力を導入し、人手不足を解消する」
という、日本国民の実質賃金を引き下げ、生産性向上を妨げる政策ではない。
とはいえ、安倍政権の高度人材に短期で永住権を与えるという移民政策は、次の大きな二つの問題を抱えている。
その一つ目。法務省の出入国管理統計によると、'15年の「高度人材」としての移民数は2308人。内、中国人が1126人と、ほぼ半分を占める(参考までに、技能実習生の7割も中国人だ)。
安倍政権の「日本版高度外国人材グリーンカード」政策は、事実上、中国人に日本の永住権を「短期」で与えるという政策になってしまっているのだ。
中国共産党という独裁国家からの「人材」に、短期で永住権を与える。仮想敵国である中国の「高度人材」の受け入れを拡大する。正気の沙汰ではない。
二つ目。そもそも、外国の「高度人材」とやらに頼る前に、日本国民の「高度人材」を活用する方が先なのではないか。“ポスドク問題(高学歴ワーキングプア)”が発生している国で、なぜに外国の高度人材とやらに供給能力を依存しなければならないのか。
それほどまでに、日本国民は優秀「ではない」のだろうか。あるいは、わが国は幕末から明治初期にかけた日本国のように、一時的に発展途上国(技術力が低く、生産性が低い国)に落ちぶれてしまったのか。
そんなはずがない。
日本国は、日本国民である「高度人材」の力により、十分に経済成長が可能な国だ。それだけの「蓄積」がなされている。
それにもかかわらず、日本政府は大学の予算を削り、教授ら研究者に「短期の成果」を求め、反対側で外国人(しかもメインが中国人)を入れようとする。
これで「亡国」に至らなければ、そちらの方がむしろ不思議である。
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。
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