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「まさかの時代」への備えを促す企業トップたち
上野泰也のエコノミック・ソナー
「年頭所感」ウォッチから見えてきたこと
2017年1月10日(火)
上野 泰也
トップの「年頭所感」を収集して時代を読み解いてみる
企業トップが社員に対し、仕事始めにあたってメッセージを伝える「年頭所感」。主な内容がマスコミにより報道されるので、それを収集しチェックして考察を加えるのが、年初に筆者が必ず行う仕事の1つになっている。1年前にも考察を加えたが(当コラム2016年1月12日配信「戦後初の新春株価5連敗が示す『油断ならない年』」)、今年はどういう内容になっただろうか。
2017年1月4日、東証大発会の様子。新年最初の取引が行われ、4日終値は昨年末比479円高の1万9594円と好スタートを切ったが…(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)
まず、1999年から今年まで19年間の「年頭所感」のキーワード・中心テーマは、次の通りである<図1>。
■図1:企業トップ「年頭所感」におけるキーワードや中心テーマ
1999年 (生き残りのためのリストラ)
2000年 (「IT革命」への対応)
2001年 「変革」「挑戦」
2002年 「改革」「挑戦」「スピード」
2003年 「挑戦」
2004年 (「攻め」の姿勢)
2005年 (「3つのテーマ」に集約 〜 不断のリストラ、成長事業強化、海外事業拡大)
2006年 「価値」
2007年 (好業績に安住しない緊張感)
2008年 (景気の先行きを警戒)
2009年 「原点」「改革」「チャンス」
2010年 「リスクをとらないことがリスク」「新しい発想」
2011年 「グローバル」「10年先」「ゼロベース」
2012年 「グローバル」
2013年 「変化」「変革」
2014年 「飛躍」(ただし、経済の見方ではアベノミクス期待と先行き警戒が混在)
2015年 「グローバル」を強調しつつ、慢心を戒め
2016年 さまざまな「変化」への対応
2017年 「まさかの時代」への対応
(出所)時事通信などの報道から筆者作成
今年の年頭所感では、想定外のことが起きる「まさかの時代」への対応や前向きな挑戦を、社員に促すものが目立った。具体例を引用したい(個別企業名は伏せて、業種のみをカッコ内に記してある)。
【2017年の各社トップの「年頭所感」】
◆「昨年は英国のEU(欧州連合)離脱決定や米大統領選挙など政治、経済ともに予定不調和な『まさかの時代』が来た。何が起こってもおかしくないと想像力を働かせ、大事に備える必要がある」(食品)
◆「今年も大きな政治イベントが目白押しだ。結果によっては先行きに不透明感が増し、市場に大きな影響を与えることになる。商社にとって変化は大きなチャンスだが、一歩間違えると取り返しのつかないことになるリスクをはらむ」(商社)
◆「想定外の展開をなるべく想定内にできるよう、モノやサービスの未来のシナリオを考え続けてほしい」「周囲からクレイジーに思われるような挑戦が求められる」(繊維)
◆「2017年も想定外の事象が起こるかもしれない。将来を容易には想定できない不確実な状況にわれわれはいる。そうした中にあっても、当社は政治や経済、テクノロジーの大きな流れの変化を見据えながら、着実に前に進んでいきたいと思う」(鉄鋼)
◆「2017年、市場は不確実性をさらに増し、急速な変化が続くと思う。この時代に世の中から存続を望まれる企業であり続けるためには、世界の変化のスピードよりも速く、自らを変革しチャレンジし続けることが欠かせない」(機械)
◆「不確実性が高い年になると予想される。時代の趨勢を見極め、改革を加速していかなければならない」(機械)
◆「世の中が『チェンジ』してきたところに、必ず『チャンス』が生まれるが、これに『チャレンジ』しなければ何も生まれない」(運輸)
◆「昨年の世界動向を顧みると、グローバリゼーションや自由貿易、多様性の尊重といった、これまでわれわれが規範としてきた価値観が揺らぎ、将来に対する不透明さが増している。しかし、こうした状況だからこそ、本質的に重要なことを見極め、腰を据えて取り組んでほしい」(化学)
◆「昨年は英国の国民投票によるEU離脱派の勝利や米大統領選挙の結果など『まさか』が何度も繰り返された年だった。いつの時代でも『まさか』は起こるが、しばらくするとそのことを忘れてしまう」「いつかは起こると認識したうえで、リスクを想定し、準備を怠らないこと。そして『まさか』のときには受け入れる覚悟が大切だ」(機械)
「新しい時代の幕開けだったんだな、と後で思い返すような年」
麻生太郎財務相は1月4日、証券業界7団体の新年祝賀会に出席し挨拶した中で、「いろんな意味で大きく世の中が変わっていく時代であることは間違いない。ああいう(新しい)時代の幕開けだったんだな、ということを後で思い返すような年になる」と述べた。おそらくそういう年なのだろうと、筆者も直感している。
「不確実性の時代」「グローバル化の大きな流れの転換点」「草の根の反乱による分水嶺」…。さまざまな言い方がなされているが、要するに従来のやり方の単純な延長線では企業経営がうまくいかない時代に足を踏み入れたということだろう。
何人ものトップがそうした重大な変化を察知した上で、事が起こる前の準備や覚悟、実際に起こった場合の的確な対応、そしてその後の戦略的な業務展開を、従業員各人に求めている。むろん、筆者のような職種の人間にとっても、決して他人事ではない。うかうかしているとAI(人工知能)に取って代わられてしまう恐れもある。
この間、政府・日銀からは、新しい年の日本経済全体の行方に関し、やや楽観的すぎないかと思われるメッセージが出てきている。
「ワクワクしていく日本をつくっていくことが今年のテーマ」
安倍晋三首相は1月1日放送のニッポン放送の番組で、「デフレだとワクワクしない。今年よりも来年が良くなっていく中で、ワクワクしていく日本をつくっていくことが今年の新たなテーマだ」と述べた。デフレからの脱却による世の中のムードの高揚を、首相は今年、あらためて狙うようである。
だが、金融緩和に手詰まり感があり、厳しい財政事情ゆえに財政出動による景気てこ入れ策は小粒にならざるを得ない状況下、デフレ脱却を目指す上で頼りになる具体的な手段は見当たらない。結局、日銀がイールドカーブ・コントロールを継続して国内長期金利の上昇を抑えることで、円安ドル高(さらには株高)の地合いをサポートするという手段に訴えるほかないだろう(2016年11月29日配信「『アベノミクス』唯一の景気刺激カードとは?」)。
「神風」に持続性は伴うのだろうか
首相はその後、1月5日の自民党本部仕事始めのあいさつでは、「酉年は割と大きな変化がある。24年前に自民党が野党に転落した。12年前は郵政選挙があった。だからといって今年選挙があるとは限らないが、常在戦場の気持ちで身を引き締めていきたい」と述べた。だが、これは年内の解散総選挙をにらみ、国内政治情勢が大きく変わる可能性に言及したもので、経済情勢を念頭に置いた発言ではあるまい。
一方、黒田東彦日銀総裁は1月4日、全国銀行協会(全銀協)の新年会合で挨拶した中で、「客観的なデータに率直に耳を傾ければ、これまで以上に強い確信を持って今年はデフレ脱却に向けて大きく歩みを進める年になると考えている」と述べ、今後の金融政策運営に珍しく強い自信を示した。これより前、昨年12月26日に日本経団連審議員会で講演した際には、「この一年は、企業経営者の方々にとっても、日本銀行にとっても厳しい一年でしたが、風向きは『逆風』から『追い風』に変わりつつあります」「企業経営という観点でみれば、『チャンス到来』と言える状況が生じつつあります」と、総裁は発言していた。円高・原油安で苦しんできた日銀にとってみれば「神風」のような市場環境の大幅な好転が、米大統領選でのトランプ候補逆転勝利後に生じている。
だが、この「神風」に持続性は伴うのだろうか。筆者は強く否定的である。
米国の政策運営をリードするのは誰か
率直に言うと、トランプ次期大統領は政権公約であまりにも大風呂敷を広げており、実際にどこまで実現可能なのかがきわめて不透明である。人事を見ても、一貫したストラテジーがあって組み立てているようには、筆者には見えない。大統領首席補佐官にプリーバス共和党全国委員長が指名される一方、これと対等とされる首席戦略官・上級顧問には排外主義的主張の持ち主であるバノン氏が指名されており、これら「東西両横綱」のどちらが政策運営をリードするのかが不明確である。
そして、最終決定権者であるトランプ氏が、ビジネスライクで現実主義的な対応を優先するのか、それとも2年後の中間選挙まで有権者を引きつけておく必要性から過激な選挙公約に沿った政策をあえてとろうとするのかも、今のところさっぱり分からない。
都合のよい部分だけをつまみ食いしている「トランプラリー」
サマーズ元米財務長官は1月3日のブルームバーグテレビのインタビューで、「世界で中心的な役割を米国が担っていることを考えると、こうした類いの転換は前例をみない重大な不確実性をもたらす問題であるはずだが、市場はこの点を完全には認識していないようだ」とコメント。都合のよい部分だけをつまみ食いしている「トランプラリー」(株高・債券安・ドル高)に、強い警告を発した。筆者も全く同意見である。
2017年のマーケットでは、@米大統領選後に急進行した「トランプラリー」の反動(米国の次期政権の政策見きわめ)、A欧州の各種政治イベント(仏大統領選、独連邦議会選、英国のEU離脱交渉など)の行方が2大テーマになると、筆者は考えている。「中国リスク」再浮上の可能性、北朝鮮・金正恩政権の動向を含む地政学リスクにもむろん注意が必要で、市場が「リスクオフ」の株安・円高に傾く場面が何度か出てきてもおかしくない。
「トランプラリー」の反動が速やかに展開される可能性も
ドル高のデメリット(米国の景気・企業収益・物価を下押しする)、リスクマネジメントの観点(利下げ余地が非常に小さい一方で利上げ余地は無限大であることを勘案した安全運転の必要性)から考えて、FRB(連邦準備制度理事会)が安易に追加利上げに動くことはないだろう。2017年中の利上げなしが筆者の基本シナリオで、仮にあっても利上げは1回までとみている。
また、トランプ次期政権の財政出動(大型減税やインフラ整備)には、国債増発を嫌う「小さな政府」志向の議会共和党がカベになる。人工知能を用いたアルゴリズム取引も関与する中で、「トランプラリー」の反動(株安・債券高・ドル安方向の動き)が予想外にスピーディーに展開される可能性もある。その場合、日銀に漂う楽観ムードは雲散霧消し、「まさかの時代」への備えをしっかり行っていた企業のパフォーマンスが相対的に良くなるだろう。
このコラムについて
上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/010500076
ホンダは“鎖国”をやめて「帰国子女から学ぶ」
記者の眼
2017年も自動車業界の激動は進む
2017年1月10日(火)
島津 翔
2017年も、自動車業界にとって激動の年になりそうだ。
振り返れば2016年は、年初から混乱を予想させる出来事があった。トヨタ自動車がダイハツ工業を完全子会社化すると発表。小型車の開発を実質的にダイハツに任せる体制を敷いた。都内ホテルで記者会見が終わり、帰り道で副編集長と先輩記者と一緒に、「今年は業界が動きそうだ」と話したことを覚えている。
提携に向けて動き出したトヨタとスズキ(写真:竹井 俊晴)
結果、その話は現実化した。4月に三菱自動車による燃費不正問題が発覚。国土交通省によるメーカーへの自主調査の要請によって、スズキでも不正が見つかった。その後、6月に日産自動車による三菱への出資が発表された。10月にはトヨタとスズキが提携に向けたスタートラインに立った。
こうした同業による合従連衡の一方で、異業種を巻き込んだ提携も目まぐるしく進んだ。トヨタは6月、ライドシェア大手の米ウーバー・テクノロジーズと資本・業務提携。ホンダは7月にソフトバンクとAI(人工知能)の共同研究を開始した。
年の瀬には、グーグルを傘下に持つ米アルファベットとホンダが自動運転で提携に向けた協議を開始するというニュースも飛び込んできた。これまで“鎖国”を続けてきたホンダの動きは、危機感の裏返しに写った。
「自分なりの勉強方法でせっせと勉強を続けてきたけれど、頭の良い“帰国子女”の方法も参考にしようということだ」。ホンダ関係者は記者にこう語った。
サムスンがハーマンを買収したワケ
日系メーカーだけでなく、米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲンなどの大手も同様に、異業種というこれまでとは別次元の提携へと歩みを進めた。
周知の通り、こうした提携合戦の背景にはテクノロジーの急激な進化がある。「全方位で技術開発を続けるためには規模が必要になる。開発費が限られる小規模メーカーは提携なしには生き残れない」。こうした文言を2016年の1年間で何度書いただろうか。
今年も、「自動運転」と「電動化」を2大キーワードが迫る自動車メーカー各社の動きは止まりそうにない。加えて記者が注目しているのは、日系部品メーカーの動きだ。
自動車メーカーや外資系部品メーカーに比べ、日系部品メーカーの“進化”は進んでいないように見える。
例えば韓国サムスン電子は2016年11月、自動車部品大手の米ハーマンインターナショナルを80億ドル(約8600億円)で買収すると発表。サムスン史上最大の買収劇となった。
サムスンがハーマンを買収したのは、「つながるクルマ」や自動運転などの新技術によって、自動車部品市場の成長が期待されているからだ。
2016年10月には、スマートフォン向けチップで世界トップシェアを誇る米半導体大手クアルコムが、車載チップ事業を狙って同業のNXPセミコンダクターズを買収することで合意した。クアルコムは今年1月3日、同社のチップセットが独フォルクスワーゲンの次世代車に搭載されると発表したばかり。クルマへの注力は明らかだ。
異業種各社は自動車メーカーとの提携だけでなく、「スマホの次」の成長市場として車載部品に触手を伸ばしている。
部品再編の機は熟した
外資系部品メーカーは異業種の“取り込み”に必死だ。仏ヴァレオは2016年11月、AI(人工知能)ベンチャーである米クラウドメイドの株式の50%を取得したと発表。同社の持つビッグデータ解析技術やAIを使って、それぞれの運転者に適した運転支援機能を提供する。
世界最大手のボッシュや、買収巧者と言われる独コンチネンタルも、積極的なM&Aを続けている。
一方で、日系部品各社の動きは鈍い。
欧米に比べて、自動車メーカーと部品メーカーがケイレツ関係にある日系では、そもそも提携の動きが進みにくいのは事実だ。とは言え、機は熟したと言っていいだろう。
トヨタグループは2014年ごろから始めた事業再編に一定のめどが付いた。シートやブレーキ事業を統合。デンソーが富士通テンを子会社化し、自動運転などの先進技術開発を進める。
デンソーは2016年10月に東芝とAIの共同開発に着手したほか、12月にはNECともAIで提携すると発表した。脱トヨタが一層進めば、今年はさらなる動きがあってもおかしくない。
日産自動車は子会社のカルソニックカンセイの株式売却を決定。日産自動車は日経ビジネスの取材に対し「子会社でなくなることが、カルソニックカンセイの拡大の余地を生む」と話した。独立したカルソニックカンセイが独自の戦略で他社との提携を進めることは十分に考えられる。
技術開発の側面だけでなく、三菱自動車が日産の傘下に入ったことによる部品メーカー同士の競争も激しくなる。
自動車業界の産業構造そのものに変革を迫る技術革新の波。2017年は、部品メーカーを巻き込んだ再編に発展するかどうかが一つの焦点となる。
このコラムについて
記者の眼
日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/221102/010500383/
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