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陥没事故前日(11月7日)の地下鉄七隈線工事現場。トンネルを掘り広げている様子がうかがえる(写真提供=調崇史・福岡市議)
スクープ! 博多陥没の内部資料入手 福岡市は事故リスクを黙殺していた!〈週刊朝日〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161227-00000138-sasahi-soci
週刊朝日 2017年1月6−13日号
JR博多駅近くのオフィス街で突如、道路が崩れ、30メートル四方、深さ15メートルにわたって陥没した事故は、数日で埋め戻されたが、大きな衝撃を与えた。国の第三者委員会が事故原因を調査中だが、本誌は事故の2カ月前、専門家がその危険性を指摘している内部資料を入手。なぜ、事故は起こったのか? ジャーナリストの今西憲之が取材した。
「私が知る限り、地下鉄工事では世界最大のトンネル崩落事故です」とトンネル工学専門家の谷本親伯(ちかおさ)大阪大名誉教授が振り返る。
11月8日朝、福岡市の博多駅近くで起こった陥没事故は、地下鉄七隈線の延伸工事現場で、当時トンネルを掘削中だった。
しかし、崩落事故は2カ月前、予測されていた。
にもかかわらず、福岡市が無視して工事を続けていたことを示す内部資料を入手した。
「福岡市地下鉄七隈線建設技術専門委員会 議事録」というタイトルの20枚の資料だ。七隈線延伸工事で、トンネルの掘削などの工事に関して、大学教授ら専門家と福岡市が協議した会議録が記されていた。
会議は2012年から16年にわたり6回、開催。九州大学の教授ら専門家、福岡市交通局の担当者が出席したが、今回の陥没事故があった区間について重点的に議論されたのは、事故の約2カ月前に開催された第6回会議(16年8月30日)。
6人の委員と、福岡市交通局の理事、課長が出席した会議では、今回の陥没事故を予測する話が出ていたのである。
この日の会議で論議されたのは、崩落事故の要因の一つとされている「ナトム工法」という手法についてだった。ナトム工法は福岡市が工事発注時、採用したが、既存の重機でトンネルを掘り、周囲をセメント、鉄骨などで固めて補強し、さらに先を掘っていくというものだ。固い地盤には適しているが、地下水には弱いというリスクがあった。
会議ではトンネルの地表に近い地盤が軟弱なので、トンネル天井部の高さを1メートル程度下げて掘り進めたいと福岡市交通局が提案していた。
それに対して、専門委員から、トンネル天井部の地層は<ボロボロの岩であった><外圧を加えるとどんな亀裂が入るか><見た限り、かなりボロボロの(地)層なので水位が下がり沈下が起こっている可能性は否定できない><(掘削は)注意深く行わないといけない。かなり危ないのではないか>などと、次々と危険視するような意見が出た。
すると委員長が<だから下げたのではないか>とトンネル天井部の位置を下げることで回避できるという助け舟のような発言を述べた。
しかし、別の委員から<下げたとしても心配><地表面沈下につながる>と今回の陥没事故を予見するような発言まで出ていたのだ。
このようなトンネル工事では、地表が一定の割合で沈下することが予想されるため、どの程度の沈下であれば許容できるのか、その値を数値化して、目安にして工事が進められる。
今回の工事による地盤沈下を想定する、地表面沈下の管理値は、30ミリと設定されていた。
だが、陥没事故現場から数十メートル離れた場所では、沈下量が30ミリでは収まらないので、50ミリにしたいという提案がされていた。すると、専門委員から、<管理値がなんのためにあるのか分からなくなる><高規格道路では10ミリ沈下するとアウト><恣意的な管理値の動かし方になる>と厳しい指摘が次々と出ていた。また、地下鉄工事というインフラ建設だけに、<公共のものなどがあった場合は慎重に考えたほうがよい>と意見する委員もいた。
だが、福岡市交通局は、<長期的な沈下はないように見える><現場も沈下による影響は見受けられない><安全確認をして施工していきたい>と委員の危惧する意見を押し切った。最後に委員長も<この場で承認したい>と述べて、認めていた。
このようにトンネル工事の危険性を指摘する声はこの日以外の会議でもあった。例えば、15年9月1日の第5回の会議でも、地下鉄の通る本坑に通じる工事用の連絡坑について、当初より深さを3メートル下げたことで小さな崩落があった、と専門委員の視察で報告されていた。
<地質も変化があり不安定な状態が時々出てくる><地盤沈下は遅れて発生する場合もある。計測は継続的に行った方がよい>などと不安視する声が委員から続々とあがっている。
そして、専門家の危惧どおり、現実に事故は起こってしまった。七隈線は、福岡市の繁華街、天神南駅から西方に延びている。05年に開業し、当初1日15万人の利用を見込んでいたが、初年度は4万4千人。その後も乗客数は伸び悩み、赤字続き。今回の延伸工事、陥没事故があった区間だけ、ナトム工法が採用されていた。
前出の谷本氏はこう疑問を呈した。
「あのような地盤、地質でナトム工法を採用したのが間違い。おそらく経済性、コスト削減を優先させたので、ナトム工法となったのでしょう。全国の地下鉄などで採用されているシールド工法(円筒形の掘削機を押し込んで壁面をコンクリートで固めながら掘り進める)の半分程度のコストで済みます」
陥没事故問題を追及している、中山郁美福岡市議もこう言う。
「七隈線は開業当初は想定の4割くらいの乗客数でした。最近は少し伸びてはいるが厳しい経営。安全よりコスト削減したいので安いナトム工法ありきで工事を進めたようにも思えます」
福岡市交通局は13年7月2日の会議の議事録では、<安全率は緩めており、経済的な設計>とあり、かなり建設費用に敏感であった様子がうかがえる。
谷本氏はこれまで数々の委員会で委員を務めた経験からこう指摘する。
「自分がもしこの委員会にいれば、同様の指摘をしたと思う。例えば、トンネル天井部の高さ1メートルを下げるなんて一度、路線位置やルートを決めれば、変更はほとんど不可能。だが、福岡市交通局はそこに耳を貸さなかったのでしょう。委員の意見を真摯に聞いて対策をしていれば、陥没事故は防げました」
会議録を読み進めると、薬液注入して地盤を固めて掘り進めるような計画もあったが、実現していない。そしてどの会議でも基本的に福岡市交通局側の意見が通っている。
会議録の中には、福岡市交通局のこんな発言が繰り返し述べられている。<路面交通やライフラインに支障をきたさないことが大前提>。だが「世界最大」の陥没事故は起こり、多大な支障をきたしてしまった。
事故原因は究明中だが、陥没事故復旧、開通の遅れなどで多額の税金が投入されることにもなりかねない。
「結果次第では、埋め戻し費用など福岡市が税金負担を求められることは十分あり得る」(中山市議)
本誌の取材に対して、福岡市交通局はこう回答した。
「委員会の意見は反映してやっている。だから、1メートル下げて掘ると提案しているわけで、ナトム工法も間違っていなかったという認識です。管理値の50ミリは、陥没事故の現場から数十メートル離れている場所でもあり、決して悪いものではない。コストより大前提として安全性が優先です。原因は第三者委員会でご議論を頂いている最中なので、今の時点ではなんともいえない。ただ、市民生活には支障をきたしてしまい、申し訳ない」
調査結果が待たれる。
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