http://www.asyura2.com/16/hasan116/msg/892.html
Tweet |
止まらない家族介護殺人、介護保険制度の落とし穴
http://diamond.jp/articles/-/112138
2016年12月21日 浅川澄一 [福祉ジャーナリスト(前・日本経済新聞社編集委員)] ダイヤモンド・オンライン
■「殺人者」になった家族の苦悩
高齢者介護を巡る家族間の殺人や心中などの事件が多発している。息子や娘が手をかけてしまうことに加え、高齢の夫婦が「老老介護」の末に無理心中の悲劇に至る例も増えてきた。
介護保険制度が始まって17年近い。「介護の社会化」が浸透してきたはずなのに、介護専門職や介護事業所の目が十分に届いていない。
事件の全貌が明らかになる裁判の場で、「殺人者」になった家族の苦悩が吐露され裁判官まで涙を誘われる。ほとんどの判決は執行猶予が付く。だが、介護に追い詰められた家族を救うような介護サービスは依然として足踏み状態である。
介護者の相談先や一時的なレスパイト(小休止)になるような要介護者の一時的宿泊サービスはほとんど手付かずのままだ。都心部を中心に今後「老老介護」は急速に広がるなか、英国など先進国の事例を早急に導入すべきだろう。
最近の家族による介護殺人を振り返ってみると――。
●2015年11月:埼玉県深谷市の利根川で、両親の面倒を見ていた47歳の三女が両親と一家心中を図った。三女は認知症とパーキンソン病を患う81歳の母親の介護を10年以上続けていた。74歳の父親が病気になって心中をもちかけ、三女も同意したという。
裁判で三女は、「本当は3人で死にたかった」「父を証言台に立たせることにならずよかった」と嗚咽をもらした。
●2015年7月:大阪府枚方市で71歳の長男が92歳の認知症の母親を小刀で刺し殺す。長男は遺体と向き合いながら一夜を明かしていた。二人暮らしで7年間介護していた。
大阪地裁の裁判員裁判で、アルバイト生活を続けてきた長男の苦闘が吐露され「老老介護」の実態が明らかになった。
●2015年12月:栃木県那須町で72歳の夫が寝たきり状態の69歳の妻の首を絞めて殺害した。「遺体を車に乗せてきた」と警察署に自首し、「妻の介護に疲れて殺害した」と供述。要介護5の妻を11年間介護してきた。翌年5月の裁判員裁判で裁判長は、介護疲れによる事件であるとし「一定の同情の余地はあるが、1人で抱え込み短絡的に殺害した」と懲役3年6月(求刑懲役5年)を言い渡し、弁護側による執行猶予付き判決の求めを退けた。
●2016年2月:埼玉県小川町で83歳の夫が認知症の77歳の妻を刃物で刺して殺害。「妻を殺した」と警察に通報し、逮捕時に「認知症の妻の介護に疲れた」と話した。夫は留置場で食事を拒み17日後に死亡。
●2016年4月:兵庫県加東市で82歳の夫が、認知症の79歳の妻の首を電気コードで絞めた。同年10月の裁判で、「妻を献身的に世話し続けてきた結果の犯行であり、その経緯は同情に値する」と裁判長は話し、懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役5年)を言い渡した。
●2016年5月:東京都町田市の都営住宅で87歳の妻が、寝たきりで認知症の92歳の夫の首を絞めて殺した。妻はベランダで首を吊っていた。夫は全盲で足が不自由でもあった。「堪忍。早く楽になろうね」「じいじ、助けてあげられなくてごめんなさい。ばあばと一緒にあの世に行きましょう」と書置きがあり、無理心中とみられる。
●2016年10月:東京都立川市で87歳の夫が介護していた84歳の妻を殺害し、自らも腹を刃物で刺して自殺した。団地を訪れた長男が発見し「両親が倒れている」と消防局に通報した。「生きる辛さは大変」とのメモが残されていた。
●2016年10月:滋賀県大津市で75歳の夫が心中しようと74歳の病気の妻を近くの川で溺死させたとして逮捕された。妻は9月末に退院したが、夫は「次の受け入れ先の病院がなく、悲観した妻と話し合って心中しようとしたが、自分は死にきれなかった」と容疑を認めている。
こうした介護殺人の中でも、もっとも衝撃的だったのは2006年2月に京都市で起きた認知症の母を殺害した心中未遂事件だろう。
京都市伏見区の桂川の遊歩道で、54歳の長男が、86歳の認知症の母親の首をタオルで絞めて殺害、自身も死のうとしたが未遂に終わった。
父親の病死後に母親の認知症が進行し、長男は退職して介護にあたっていた。社会福祉事務所で生活保護を申請したが、「失業給付金が出ているのでダメ。頑張って働いて」と言われた。
介護サービスの利用料や生活費も切り詰めたが、家賃などが払えなくなり母親との心中を考えだす。その日、コンビニで買ったパンとジュースで母親との最後の食事を摂る。思い出のある場所を見せようと車椅子を押しながら河原町界隈を歩き、そして河川敷へと向かった。
直前に「もうお金もない。もう生きられへんのやで」「すまん、ごめんなさい」と泣きながら母親に声をかけたと言う。
京都地裁は執行猶予付きの「温情判決」を下したが、長男は8年後に琵琶湖に投身自殺した。
■目を引く男性加害者の多さ
マスコミの関心も高まり、殺人を犯した当事者への取材が始まった。毎日新聞は大阪本社版で2015年12月から翌年6月まで連載企画「介護家族」を掲載、11月にはその取材経過を含めて単行本「介護殺人――追い詰められた家族の告白」としてまとめた。
読売新聞は12月5日から「孤絶・家族内事件」の連載を始め、加害者10人の証言を報じた。同紙の調べでは、2013年1月から今年の8月までに要介護高齢者への殺人(未遂を含む)や心中、傷害致死などは179事件あり、死亡者189人を特定したという。
なかでも、NHKテレビが7月に放映した「私は家族を殺した――『介護殺人』当事者たちの告白」は大きな反響を呼んだ。心境を吐露した4人の当事者の姿に「他人ごととは思えない」との声がネット上で飛び交った。
この6年間に未遂を含め138件の事件が起き、「2週間に1人の割合で殺人」とのナレーションが流れた。
こうした家族介護者による殺人行為の約7割は男性が加害者である。日本福祉大学の湯原悦子准教授が過去18年間に起きた事件を調べた結果だという。全国で716件の事件が起き、男性加害者がそのうち512件、72%に達した。厚労省の調査では家族介護者の約7割が女性であることから、加害者比率で男性の多さが目を引く。
人生の大半を仕事人間として生きてきた男性には生活感が乏しく、突然の介護を引き受けると対処法に戸惑う。介護は思い通りに行かない孤独な作業でもある。仕事とは勝手が違う。
隣近所や地域との付き合いがある女性には身近な話し相手がいるが、男性はそれがないため一人で抱え込んでしまいがち。自活している子どもたちにも「余計な心配をかけたくない」という思いから。打ち明けないケースが多い。
4月に妻を殺害した兵庫県加東市の男性は「娘たちに迷惑をかけたくなく、相談できなかった」と裁判で陳述している。
とりわけ認知症への対応に苦しむ。その基本的なケア知識がないまま、大小便や奇声など「異常事態」に直面する。NHKの番組では、母親を殺めた40代の男性が認知症によるあまりの変容ぶりに「母の皮を被った化け物だと思った」と刑務所の中で振り返っていた。
相談先がなかったのだろうか。介護保険制度では、要介護者であればケアマネジャーが付き、市町村が設置した地域包括支援センターが介護相談を受け付ける。ヘルパーやデイサービスの職員にも声はかけられたはずだ。被害者の大半はこうした在宅サービスを受けていたのだから。
だが、男性介護者は仕事同様に自分だけで解決する意欲が強い。介護事業者だけでなく地域の組織や人との付き合いが薄く、一人で抱え込んでしまう。
■ケアする家族たちを守る
こうした家族介護者に、要介護者と同様の権利を確立させているのが英国である。2014年に成立したケアラー法で、ケアラーへの支援や給付を自治体に義務付けた。それまでにもケアラーへの支援権限はあったが、自治体間で温度差が出てきたため、義務付けでその解消を図った。
ケアラーとは、病人や障害者などの要支援者を介護している家族、親族、友人、隣人などを指す。報酬を得ている介護専門職ではない。
英国では1986年の障害者法の施行以来、度重なる法改正でケアラーの「生活の質(QOL)」を要介護者本人と同等に位置付ける試みが積み重ねられてきた。その考えが2014年のケアラー法で結実した。ケアラーを単に介護の提供者としてみるだけでなく、その普段の日常生活まで配慮することになった。
介護者に休暇を取得できるようしたり、介護者手当として現金を支給している。要介護者への介護は社会的に認められた労働とする認識からである。
欧州諸国や豪州で広く理解されているのが「レスパイト(休息、中休み)」という考え方だ。家族介護者が介護を続けていくためには、介護から離れる小休止の時間が必要であり、そのために自治体などが手を差し伸べる。
これを法律で制度化しているのが英国。支援者が自宅を訪問したり、施設で本人を受け入れたりして十分なレスパイトを保障する。
英国での法整備を取り入れようと、日本でも2010年7月に日本ケアラー連盟が結成された。「介護者支援の推進に関する法律」(略称・ケアラー支援法)の案文を作成し、成立を呼びかけている。
国や自治体に施策の策定や事業主に介護者支援を責務とすべきとし、地域拠点の整備を促している。介護者への「ケアラー手帳」の交付はユニークな提案だ。
では、現実に介護者たちの相談先はどのようになっているのか。英国では民間の支援団体が「ケアラーズ・センター」を全国に展開しており、情報提供や助言を電話や訪問などで活発に行っている。
一昨年に筆者が訪問したロンドン南部サットン区の「サットン・ケアラーズ・センター」では、「18歳以下の若年ケアラーが増えており、その手助けに追われています」と話していた。
■日本の「介護者支援」事情
日本で介護者支援に真っ先に取り組んだのはNPO法人「介護者サポートネットワーク・アラジン」。東京・阿佐ヶ谷で常設のケアラーズカフェを開設するなど東京都内で介護者支援の仕組み作りに奔走している。
日本ケアラー連盟の共同代表理事でもある理事長の牧野史子さんは「何時でもどのような介護者でも気軽に立ち寄れる常設のケアラーズカフェがまだほとんどない。もっと広げて行かねば」と訴える。
注目されるのは埼玉県さいたま市の助成事業。週2回以上開く「介護者カフェ」の運営者に昨年から月80万円もの高額な助成費を出して開設の後押しを始めた。「みぬまハウス」や「生活サポートひなまち」など現在4ヵ所が稼働している。「アラジンの活動に刺激されて」と担当者は話す。
介護者支援のカフェとしては「認知症カフェ」が各地で登場してきた。2014年1月に国の認知症施策の「新オレンジプラン」で普及が促され、地域の支援団体が続々名乗りを上げている。
自治体では東京都が最も熱心だ。市区町村を通じて運営費を年間に上限1000万円出している。港、目黒、板橋などの各区や八王子、清瀬の各市でNPO法人を中心に開設が進んでいる。
だが、認知症に特化しており、開催頻度も月1回が多数派で「いつでも気軽に」というわけにはいかない。
東京・世田谷で認知症カフェとケアラーズカフェを主宰している岩瀬はるみさんは、「介護者には普段の介護生活を聞いてもらえる人がいることがとても大切なことだと思う。話をするだけでスッキリする。心身の負担が大きい自分の介護について話ができる場がぜひ必要」と、多くの利用者を見てきた体験から話す。
■「介護家族の休み」を支援する仕組みは
では、レスパイトに対応できる仕組みはどうなのか。
介護保険では在宅サービスにショートステイがある。特養などで短期間宿泊するものだが、ケアマネジャーを通じて予約を2〜3ヵ月前に取らねばならない。事業者が少ないこともあり、希望する日や長期の宿泊はなかなか思うように確保できないのが実態だ。
そこで、重宝されているのが「お泊りデイサービス」。デイサービスの利用者が、デイサービスの終了後の夕方からその場で宿泊できるサービスである。介護保険の制度外ではあるが、先行事業者への需要が多いことから、厚労省が制度として認めた。
同居する介護家族が急病や事故などで介護が出来なくなった時に、その日でも対応してもらうことができることから全国に広がっている。デイサービスは特養の他に、戸建ての民家を活用したり集合住宅内でも開設でき事業者は数多い。
運営基準などは自治体が独自に決めている。なかには、「介護保険サービスを使うのが基本」「デイサービスの利用者を確保するための儲け主義で手掛けるところも」と判断して、厳しい規制を設定する自治体もある。
京都市は、宿泊日数を7日以内とする異常に制約した条例を12月に制定、2017年度から施行する。厚労省の基準では連続30日間を宿泊の限度としており、それを大幅に短くした。
介護保険制度は家族介護を前提として仕組みがつくられている。その弊害からなかなか脱却できない。まして、家族のレスパイトという発想が乏しいのは残念なことだ。
(福祉ジャーナリスト 浅川澄一)
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民116掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。