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あの国はすでに綱渡り状態…よみがえる「アジア通貨危機」の悪夢 浮かれているのは日本だけ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50504
2016.12.20 町田 徹 経済ジャーナリスト 現代ビジネス
■このままでは経済危機に…
OECD(経済協力開発機構)が11月下旬の改定で来年の見通しを0.1%高の3.3%(実質成長率)に上方修正するなど、世界経済は穏やかな回復を続けているとされる。
その牽引役と目される米国は、米国第一主義を掲げる新大統領の来月就任を控えて“トランプ・ラリー”(米国株高)に沸き、日本の株式市場も連動を強めている。好材料にしか目が向かず、悪材料を無視する状況に陥っているのだ。
しかし、「死角はない」と言い切れるだろうか。
実はトランプ・ラリーこそ新たな経済危機を招きかねない元凶だ。リスクの第一は、米国のドル高容認策が拍車をかける膨大なマネーの米国回帰だ。途上国の外貨準備を枯渇させて、国際的な通貨危機を招く原因になりかねない。
IMFによると、現在、抵抗力の弱さが際立っているのはマレーシアである。次いでトルコ、メキシコといったG20諸国も脆弱だ。
また、世界第2位の経済大国・中国の問題は以前にも本コラム(2016年3月8日付『
リーマンショック以上の危機!? 中国の外貨準備高3兆ドル割れ目前』)で予測した通り、一段と深刻さを増している。
同時に、ドル高容認政策が米国の純輸出減少を原因とする経済の減速を招き、新大統領が重視する雇用創出の障害となる産業空洞化を煽りかねないことにも警戒が必要だ。
米連邦準備理事会(FRB)が米連邦公開市場委員会(FOMC)を開いて1年ぶりに実施した利上げを受けた先週水曜日(12月15日)、日本の株式相場はこれ以上ないほど非合理的な動きを見せた。
FOMCメンバー17人が今後の利上げシナリオを公表、その中心値が来年(2017年)3回、再来年(2018年)3回と、金融引き締めの加速を宣言。
今後急騰が予想される金利と、すでに大きく上げた株式のどちらが有利な投資先か見極めたいというムードと、長期金利を上回る短期金利の上昇でトランプ・ラリーの主役だった金融株に対する収益悪化懸念が浮上したことが響いて、14日のニューヨーク市場ではダウ平均が前日比118ドル68セント安と、およそ2ヵ月ぶりの下落幅を記録した。
トランプ・ラリーのご本家が警戒感を示したにもかかわらず、翌15日の東京市場は、それさえ目に入らず、日経平均株価が8日続伸し、連日で年初来高値を更新するというお祭り騒ぎに沸いたのである。
同日の東京外為市場では、円が一時1ドル=117円台後半と約10ヵ月ぶりの円安水準を付けたが、株式市場が着目したのは、自動車などの輸出が伸びるのではないかといった円安のプラス面ばかり。輸入物価が押し上げられて食品価格が高騰し、個人消費に冷や水を浴びせかねないといったマイナス面はまったく顧みられなかった。
トランプ・ラリーに浮かれて、自国通貨安が輸出拡大に役立つと歓迎しているのは、日本ぐらいである。
■アジア通貨危機を忘れるなかれ
対照的に、アジア株は軒並み下落した。
15日の香港株式相場は3営業日ぶりの大幅反落で、ハンセン指数が前日比397.22ポイント安の2万2059.40と、4ヵ月ぶりの安値に沈んだ。同指数の採用銘柄(50銘柄)はすべて下げた。
上海株式相場は続落で、総合指数が前日比22.8538ポイント安の3117.6770と、11月2日以来の安値を付けた。
シンガポール株式相場も続落、ST指数が前日比23.29ポイント安の2930.77に下げた。これは約3週間ぶりの安値である。
そして、この3つの市場に共通の売り材料が、マネーの米国への流出懸念だった。
実際のところ、世界各地から米国へのマネー還流リスクは軽視できない。
筆者が忘れられないのは、経済紙の特派員としてワシントンに駐在していた1996年12月5日、折からの米国株相場の急騰ぶりに、当時のFRB議長アラン・グリーンスパンが発した「根拠なき熱狂」という警鐘だ。
この日のニューヨーク・ダウ(終値)は6437ドル。ITバブルと呼ばれた大相場に繋がり、ダウ平均は1999年に1万ドルを突破。グリーンスパン議長はIT革命の到来という「根拠」の存在を認めて、宗旨替えすることになるのだが、あの警鐘から7ヵ月後の1997年7月、世界は別の危機に揺れた。
タイバーツの暴落を皮切りに各地に燃え広がったアジア通貨危機の勃発だ。
この時もマネーが株高の米国に猛烈な勢いで還流、外貨準備不足に陥った国家が次々と投機筋の空売り攻勢に屈し、瞬く間にタイ、インドネシア、韓国の3ヵ国がIMF管理に入ったことは衝撃的だった。
■綱渡り状態
アジア危機の反省から、タイのように経済を健全化して潤沢な外貨準備を持つようになった国がある一方で、今なお準備不足で、国際的な経済・通貨危機の引き金になりかねない国家が存在することを、われわれは肝に銘じておく必要がある。
ブルームバーグによると、IMF(国際通貨基金)が米大統領選以前にまとめた試算で外貨準備が最も払底しているのは、マレーシアだ。今年末の外貨準備高が1000億ドルと予想されるのに対し、短期の対外債務が1282億ドルもあり、赤字転落リスクに直面しているという。
実際、マレーシア中央銀行は、同国通貨リンギット(リンギ)安に歯止めをかけようと躍起だ。今月5日には、同国企業が輸出で獲得した外貨の75%以上のリンギへの両替を義務付ける規制と、居住者がリンギを借りて外貨建て資産を購入する際の上限を5000万リンギ(約12億8000万円)とする規制を導入した。
これらは、リンギが米大統領選でのトランプ氏勝利後、対ドルでアジア通貨中最大の水準(5%超)の下落を記録したことへの対応策だ。リンギ安防止のためのドル売り介入の原資の確保と、リンギの流出予防を謀ったのである。
同じ12月5日、トルコのエルドアン大統領は、ロシア、中国、イランから輸入する場合はこれらの国の通貨で支払い、輸出する場合はトルコの通貨リラで代金を受け取る方針を表明した。リラは、7月のクーデター未遂後下げ止まらず、11月だけで相場が10%以上も下落した。対米ドルでは過去最安値を更新し続けている。
「国境に壁を作る」とトランプ氏からさんざんやり玉にあげられてきたメキシコの通貨ペソも下落が目立つ。トランプ氏の勝利が災いして、対ドルで10%以上も急落、メキシコの中央銀行は急きょ11月17日、政策金利を0.50%引き上げてペソ安を抑え込もうとしたが、失敗。今なおペソは1ドル=20ペソ台の最安値圏で推移している。
各地で、いつ、アジア危機のような経済・通貨危機が起きてもおかしくない綱渡り状態が始まっていると指摘せざるを得ない。
■もっと危険なのは中国
極め付きが中国だ。
中国の中央銀行である「中国人民銀行」(人民銀)によると、中国の11月末の外貨準備高は前月末より691億ドル減って3兆516億ドル(約348兆円)に縮小した。
これは2011年3月以来5年8ヵ月ぶりの低水準だ。ピーク時には約4兆ドル(2014年6月末に3兆9900億ドル)を誇ったが、それからわずか2年半弱で、節目とされる3兆ドル割れがいよいよ秒読みとなってきた。
中国は外貨準備高の発表に合わせて、国家外貨管理局が12月7日、異例の外貨準備高の減少要因の分析を発表、トランプ氏が米大統領選に当選後、元が他の新興国通貨と同様に対ドルで下落する中で、人民銀がドル売り・元買いの為替介入を実施したことで外貨準備が減少したと釈明した。
米長期金利の大幅な上昇に伴い、外貨準備で保有している米国債の価格が下落したことも響いたという。
中国当局は、中国から流出する資金の抑制に躍起で、為替介入だけでなく、500万ドルを超える海外への送金や両替を事前審査制にする措置を講じた。この措置には、中国に拠点を持つ邦銀からも悲鳴が上がっている。
こうした中で、米財務省は12月15日、国際資本統計を発表。その中で、日本が10月末時点の米国債保有額(国別)で中国を抜き、1年8ヵ月ぶりに首位を奪回したことを明らかにした。
双方の保有額は、日本が前月比45億ドル減の1兆1319億ドルに対して、中国が同413億ドル減の1兆1157億ドル。この差は、11月にさらに拡大したとみられている。
中国にとって2位転落が深刻なのは、米国債保有額はその国の為替介入の余力を最も的確に映すものとされており、減り続ける中国を標的にした投機筋の元売り圧力が一段と高まりかねないことだ。
依然として、政治経験のないトランプ氏の大統領選での公約の実現性は未知数だ。FRBのイエレン議長も14日のFOMC後の記者会見で、「経済政策にかなりの不透明性がある」と述べて、次期政権の政策に強い懸念を表明した。
特に、トランプ氏がゴールドマン・サックス出身のムニューチン氏を次期財務長官に据えて金融機関への規制緩和を標榜していることを、真正面から「金融規制改革法を堅持することが重要だ」と批判したほか、トランプ氏の経済運営の柱の一つとされる財政支出拡大にも「完全雇用を取り戻すための刺激策として財政刺激策が明らかに必要とはいえない」と自重を促したという。
加えて、もう一つ、筆者が自制を促したいのが、NAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉やTPP(環太平洋経済連携協定)からの離脱といった保護貿易主義に迎合する政策だ。
ある種のリフレ政策の中で、ドル高を容認しつつ、こうした政策を進めると、米国の純輸出が急減して米経済が急減速しかねない。そうなれば、期待されていた世界経済の牽引役を果たすどころか、トランプ氏の最大の公約である雇用の拡大もままならないだろう。
ここはFRBと協調し、一連の政策をしっかりと練り直して、急激なマネーの米国回帰を防ぐとともに、米国自身の成長の足取りを確固たるものにすることが肝要なはずである。
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