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配達人に危機? 実用化間近の「出前ロボット」
シリコンバレーNext
2016年12月17日(土)
瀧口 範子
シリコンバレーでは最近、レストランからの出前がぐっと簡単になった。一般人が「ギグエコノミー」の仕組みで配達を担うサービスが多数登場したためだ。しかしこうした配達人がロボットに置き換わる日も遠くなさそうだ。そう、出前配達ロボットの実現だ(写真1)。
写真1●英Starship Technologiesの出前配達ロボット
出典:英Starship Technologies
ロボット業界は今、「ラストマイルデリバリー」に熱い視線を注いでいる。「ラストマイル」は通信分野でまず話題になった言葉だが、サービスを巨大なインフラから個人宅にまで届ける最後の「ラストマイル」は、高品質と低コストを両立するのがなかなか難しい。
デリバリーも同様で、今のように大きな配達トラックが一軒一軒を回る方法は効率が悪いと分かっているのだが、それに代わる方法が無かった。
そこで、ラストマイルの配達を小さなロボットにやらせれば問題が解決するはずだ、と考えるロボット開発会社がいくつか出てきた。そのうちの1社で、ロンドンに拠点を置く英Starship Technologiesは、既にシリコンバレーで配達ロボットのテスト走行を実施し、先頃はロンドンで初めての食事の出前を行った(写真2)。
写真2●ロンドンを走るStarship Technologiesのロボット
出典:英Starship Technologies
Starship Technologiesのロボットは、小型スーツケースを横倒しにしたくらいのサイズで、下部に6つの車輪が付いている。上部は蓋付き容器になっていて、出前の食事や小型荷物などを入れられる(写真3)。カメラやセンサーを搭載しており、自律走行して目的地に向かうのだが、用途は物流や出前のラストマイルと特定しているのが特徴だ。
写真3●Starship Technologiesのロボットが商品を届けたところ
出典:英Starship Technologies
ハンバーガーやピザ、中華料理などはもちろんのこと、オンラインショッピングで注文したスニーカーとか文房具、服なども、もうすぐこのロボットが配達してくれるかもしれない。
Starship Technologiesを創業したのは、Skype創業者のAhti Heinla氏とJanus Friis氏の2人だ。本拠はロンドンだが、開発チームはエストニアのタリンにいる。創業は2014年で、既にこれまで何台ものプロトタイプを開発し、65台のロボットを16カ国58都市で走らせている。走行総距離は1万3930マイル(2万2400キロ)だ。シリコンバレーでは、パロアルトでテスト走行を行い、レッドウッド・シティーではパイロットプログラムが進行中のようだ。
既に自動運転車が路上を走っているのだから、こんな小さなロボットが町中を自走することなど簡単なはずである。とは言うものの、小型ロボットにはそれなりの挑戦がある。難しいのは、人が歩くような道には交差点や横断歩道などがあり、その一方で自動運転車並みのテクノロジーを搭載しようとすると、かなり高価になってしまうことだ。
難しいところは人間が担当
そこでStarship Technologiesは、道を渡るといった難しいところは人間が遠隔から操作し、それ以外のところはロボットの自走に任せるという分担をしている。ロボットと人間がそれぞれに得意部分を担うわけだ。考えようによっては、出前の仕事は取り上げてしまうが、別の仕事を生み出すロボットということになるだろうか。
また、ナビゲーションにはGPSを利用するのではなく、あらかじめロボットに特定地域の地図を覚えさせ、ロボットのカメラが捉える周辺の様子と照合して位置を特定する。この方がGPSよりも安定性も信頼度も高いという。
同じようなラストマイルデリバリーをするロボットを開発する会社は、サンフランシスコにもある。こちらの会社米Dispatchには、著名なベンチャーキャピタルである米Andreessen Horowitzも投資している。ドローンによる空路配達も期待されているが、恐らくこの地上走行ロボットの方が早く実用化されて広まりそうだ。
このコラムについて
シリコンバレーNext
「シリコンバレーがやってくる(Silicon Valley is coming.)」――。シリコンバレー企業の活動領域が、ITやメディア、eコマースといった従来の領域から、金融業、製造業、サービス業などへと急速に広がり始めている。冒頭の「シリコンバレーがやってくる」という言葉は、米国の大手金融機関、JPモルガン・チェースのジェームズ・ダイモンCEO(最高経営責任者)が述べたもの。ウォール街もシリコンバレー企業の“領域侵犯”に警戒感を隠さない。全ての産業をテクノロジーによって変革しようと企むシリコンバレーの今を、その中心地であるパロアルトからレポートする。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/061700004/120900170/
火星探査車でいつかは「80日間火星1周」!
研究室に行ってみた
NASAジェット推進研究所(JPL)火星探査 Mars2020 小野雅裕(5)
2016年12月17日(土)
川端 裕人
唯一、太陽系のすべての惑星に探査機を送り込んだNASAのJPLことジェット推進研究所。あのNASAの無人宇宙探査ミッションの核とも言えるこの研究所で大活躍する小野雅裕さんに、「マーズ2020」火星探査計画をはじめ、JPLでの研究開発について聞いてみた!
(文=川端裕人、写真=的野弘路)
NASAのジェット推進研究所、JPLで、小野さんは最初の大きなミッションとしてマーズ2020の火星探査に挑んでいる。火星ローバーの自動運転アルゴリズムの改良が主たるタスクだ。着陸地点の選定の仕事にも加わっている。
しかし、それは、費やす時間の75パーセントで、ほかの25パーセントは別のこと、それも、もっと先を見据えたことに費やしていると最初に伺った。「マーズ2020」の話がとてもおもしろすぎて、多くの字数を費やしてしまったけれど、「その先」にも、ワクワクする話が待っているはずだ。どんどん伺っていこう。
ローバーを自由に
ぼくが、まず気になったのは、「ローバー」だ。惑星や衛星の地表におりて自走するローバーは、今後も多くの探査計画で使われるはずで、小野さんの宇宙キャリアのひとつの道筋として、ローバーの専門家になっていく方向性があるのではないか、と。
「たしかに、マーズ2020の次のローバーの人工知能の研究とかをやってます。まさに最近はやってるあれです。ディープラーニングです。ローバーが撮った写真から、ここは危ない砂地だ、ここは危ない岩地だ、ここは行ける地形だっていうのを判断する。今までのローバーっていうのは、幾何学的な情報からしかローバーの走行の安全性を判断しなかったんですよ。でも、同じ平らな場所でも、深い砂か、固い地面かは全然違うじゃないですか。その部分を、人間が見て、パターン認識して判断していたんですが、それをローバー自身にやらせるんです。あと、リスク・アウェアー・プランニング(Risk aware planning)──リスクを気にしたプランニング、と言えばいいですかね。不確定性を考慮して、大きなリスクを取りすぎずに行動するようなアルゴリズムです。それは、僕が博士学生の頃からやってる研究で、今も研究資金をとって続けてるんですけども」
マーズ2020のマストのトップに取り付けられる高解像度カメラの想像図。(Image: NASA/JPL-Caltech)
いずれも、これまで人間が遠く離れた地球上で判断していたことをローバー自身にやってもらうということで、つまり、自動走行できる局面が増える。10年以上火星にいるオポチュニティが、その間に走った距離がせいぜい40キロから50キロだと教えてもらったけれど、その「遅さ」の主要因は、ほとんど「マニュアル」(人間が判断して指示する)で動いているからだ。小野さんのこの方面の研究が進展すると、ローバーはもっと自由になる。
「僕がよく半分冗談、でも本気で言ってるのは、80日間火星1周したいってことですね」
人類の火星への旅は、もはや夢物語ではない――。ナショジオがお届けする火星の最新情報を、こちらでどうぞ!
マーズ 火星移住計画 特設サイトへ
小野さんの口調は、まったく冗談ではなく、正真正銘の本気だった。なお、80日間、というのは、もちろん、ジュール・ヴェルヌの古典的名作『80日間世界一周』から取っている。
「──今のローバーが走るのって、10年もかけてせいぜい数十キロじゃないですか。でもね、火星の全表面積って、地球の全陸地面積と同じだけあるんですよ。火星ローバーは、マーズ2020が成功して、5つ目です。それで、5カ所、数十キロ走っただけで何がわかると。やっぱりね、もっと広い地域をカバーする必要がありますよね。だから、80日とは言わないけども、何年かかけて火星をくるーっと回って、そこらじゅう行けるようなローバーが欲しいですよね」
「──前に言いましたけど、火星には着陸できない場所がいっぱいあるんです。標高が高いところは大気が薄くて、パラシュートでは減速しきれなかったり。今、ローバーが走る距離があんまりないから、着陸できる低い平地から抜けられないんですよ。でも、たくさん走れるローバーができれば、例えば、オリンポス山の頂上とか行きたいですよね」
中央やや下の高まりがオリンポス山。(Image:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)
新しい景色を
オリンポス山は、標高2万メートルを超える「太陽系の最高峰」だ。その頂上に立った時、どんな景色が見えるのか。もちろん絶景であることは間違いないはずで、と同時に、そこまでできる技術は、ローバーの可能性を広げ、もっともっと新しい「景色」を見せてくれることだろう。
ほかにも、「太陽系最大の渓谷」であるマリネリス渓谷(深さ最大11キロメートル)に降りてみたいとか、火星地図を前にしてああだこうだ語り合った。楽しいひと時だった。なお、マリネリス渓谷については、低い土地なので、パラシュートも問題なく使え、今の技術でも行ける場所ではある。しかし、深い渓谷の様子を楽しんだ後、渓谷沿いに進み、何百キロも旅をして、最後はクリュセ平原にまで抜けて、1976年のバイキング1号や、1997年のマーズ・パスファインダーのローバー、ソジャーナと再会したらどうだろう、とか考えるとますます楽しいのである。
中央を横に走る巨大な溝がマリネリス渓谷。長さは3000キロを超える太陽系最大の谷だ。
さて、小野さんの研究にはさらに先がある。
ここからは火星を離れて、もっと遠くへと行く。萌芽的な研究で、とにかくぶっ飛んだアイデアに研究資金がつくというNASAの制度を利用して、実にSFチックなアイデアを追究しているのである。
小野雅裕さんは仕事の4分の1をより先を見据えた研究開発に費やしている。
「NASAって、組織の中に4つディビジョンがあるんです。そのうちのひとつが『テクノロジー』で、さらにその下に9つファンディング、つまり研究費を出すプログラムがあります。それぞれが、どの程度の技術成熟度かっていうのに応じて、分かれてるんですね。あるものは、もうすぐ飛びそうなものに技術実証の機会を与える目的だったりとか、中ぐらいの技術成熟度のものをフライトにもっていくためのものとか。その中で、一番ハイリスク・ハイリターンな、今のところ何の役に立つかわかんないような、でも面白い研究に研究費を出すのが、NIAC、NASA Innovative Advanced Conceptsっていうプログラムです。予算は非常にちっちゃいです。今すぐ実現できるとは思えないけども、もしかしたら、10年後、100年後に宇宙開発を根底から変えるかもしんないアイデアにお金出すっていうものなんですね」
彗星ヒッチハイカー
"NASA Innovative Advanced Concepts"、NIAC(NASA革新的先進的構想、みたいな意味)、というのは覚えておいてよい仕組みだ。このワードで検索してみると、本当にぶっとんだアイデアがたくさん出てくる。
たとえば、小惑星をまるごと1個のロケットにしようとか、2枚の膜の間に燃料を封じ込めてそれ自体が宇宙船になる「平面宇宙船」とか、火星有人探査のための人工冬眠システムとか、3日で火星に行けるレーザー推進システムとか、もちろん、宇宙エレベーター構想もある。
「彗星ヒッチハイカー」の詳細は次回に!
ここで得られる研究費は10万ドルで、宇宙探査の世界では少額だが、新規性の高いアイデアの実現可能性をきちんと検証し、将来のために種をまくには充分に役に立つだろう。そして、意欲ある若手に、PI(研究主宰者)として、プロジェクトを切り盛りする機会を与えることもできる。
小野さんがこういったチャンスを逃すはずもなく、JPLに入った翌年、2014年にはじめて挑戦し、見事に二段階のセレクションを通過、毎年10名ほどしか選ばれないNIACフェローになった。
そのテーマは、「彗星ヒッチハイカー」、である。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/227278/111500068/02.jpg
つづく
小野雅裕(おの まさひろ)
1982年、大阪生まれ。2005年、東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程終了。慶應義塾大学理工学部助教を経て、現在NASAジェット推進研究所に研究者(research technologist)として勤務。著書に『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』がある。2016年11月現在、『小山宙哉公式サイト』で「一千億分の八」を連載中。
川端裕人(かわばた ひろと)
1964年、兵庫県明石市生まれ。千葉県千葉市育ち。文筆家。小説作品に、少年たちの川をめぐる物語『川の名前』(ハヤカワ文庫JA)、天気を「よむ」不思議な能力をもつ一族をめぐる壮大な“気象科学エンタメ”小説『雲の王』(集英社文庫)『天空の約束』、NHKでアニメ化された「銀河へキックオフ」の原作『銀河のワールドカップ』『風のダンデライオン 銀河のワールドカップ ガールズ』(ともに集英社文庫)など。近著は、知っているようで知らない声優たちの世界に光をあてたリアルな青春お仕事小説『声のお仕事』(文藝春秋)と、ロケット発射場のある島で一年を過ごす小学校6年生の少年が、島の豊かな自然を体験しつつ、夏休みのロケット競技会に参加する模様を描いた成長物語『青い海の宇宙港 春夏篇』『青い海の宇宙港 秋冬篇』(早川書房)。
本連載からは、「睡眠学」の回に書き下ろしと修正を加えてまとめたノンフィクション『8時間睡眠のウソ。 ――日本人の眠り、8つの新常識』(日経BP)、「昆虫学」「ロボット」「宇宙開発」などの研究室訪問を加筆修正した『「研究室」に行ってみた。』(ちくまプリマー新書)、宇宙論研究の最前線で活躍する天文学者小松英一郎氏との共著『宇宙の始まり、そして終わり』(日経プレミアシリーズ)がスピンアウトしている。
ブログ「カワバタヒロトのブログ」。ツイッターアカウント@Rsider。有料メルマガ「秘密基地からハッシン!」を配信中。
このコラムについて
研究室に行ってみた
世界の環境、文化、動植物を見守り、「地球のいま」を伝えるナショナル ジオグラフィック。そのウェブ版である「Webナショジオ」の名物連載をビジネスパーソンにもお届けします。ナショナル ジオグラフィック日本版公式サイトはこちらです。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/227278/111500068/
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