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介護施設を侵食する「薬物汚染」の魔の手 きっかけは、一人の職員から
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50426
2016.12.17 中村 淳彦 ルポライター 現代ビジネス
本格的な「超・超高齢社会」に突入する日本。全国民のおよそ4分の1が高齢者となる未曽有の事態に、財政の圧迫を懸念する国は急激な勢いで介護保険制度の縮小に着手している。
前回の記事(http:// gendai.ismedia.jp/articles/-/50297)では【要支援1、2】【要介護1、2】の軽度高齢者への利用負担増と、地域包括ケア・総合事業と呼ばれる市区町村への権限移管によって、巧みに介護保険制度から切り離そうとする施策が着々を進んでいることをお伝えした。
軽度高齢者のなかには、体は元気だが認知症を患っている者も多い。近年は高齢者による交通事故が多く見られるが、軽度高齢者を切り捨てることにより、さらなる死亡事故や万引き、徘徊などの事件が多発する可能性が高く、その反動は社会問題となって私たちのもとに絶望的な副作用をもたらすだろう。
一方、いまやブラック労働の筆頭とも言える崩壊寸前の介護現場はどうか?
こちらも介護人材の異常な劣化をはじめとする複数に絡み合った問題が山積しており、そのほとんどが“官製の副作用”によるものだ。
国の施策により悪化の一途をたどる介護を取り巻く環境。壊滅的な打撃を受け続ける「介護の今」から、今回は法務省が推進する刑務所出所者を介護職に誘導する施策について、数年前に私が運営していた通所介護施設内で起こった様々なトラブルと混乱をもとに考えてみたいと思う。
■あまりにも想定外の事態
混乱のはじまりは、ある女性介護職員の欠勤がきっかけだった。
豊富な知識と経験があり、施設を利用していた高齢者とその家族、さらに職員からも絶大に信頼されていた30代の女性介護福祉士Aがある日を境に突然、休みがちになる。風邪、ひどい生理痛と、毎朝体調の悪そうな声で理由を話していたが、連続欠勤の3日目を超えたあたりでそれが嘘だと分かった。
介護現場でもっとも困るのは職員の急な欠勤でシフトが崩れることだ。優秀な彼女はいわば4番エース的な存在で、いなくなればその影響は甚大であり、施設にとって大打撃となる。このまま辞められれては困ると寛大な姿勢で慎重に対応した。
そんな最中に今度は厳つい中年男性がAを訪ねて施設にやってきた。
「おい、ここの職員のAは来ているか。俺は金を貸している者だ」
「ずっと休んでいますよ。それより、あなたどちらの方ですか」
「あー、俺は○○組の者だよ。Aとはずっと付き合いがあったけど、この数日間連絡が取れなくなって探しているところだ」
なんと、その中年男性は暴力団の組員だと名乗るのだ。驚いて詳しい事情を訊くと、Aは1年半ほど前から、その組員から直接覚醒剤を頻繁に購入、その代金の一部を支払っていない。金の回収に来たという。暴力団組員が本音も建前もなく、私にそう語ったのは「警察に通報することはない」と判断したからだろう。
Aはずば抜けて優秀でかつカリスマ性も持ち合わせた介護職員だったが、気分が浮き沈みする不安定さがあり嘘も多いため、現場を混乱させる元凶でもあった。覚醒剤と聞き、明るくエネルギッシュに介護する普段の姿と、たまに気分が落ち込んだときのギャップに納得した。
能力の高い介護福祉士が暴力団と繋がり覚醒剤を常用している想定を超える事態。この状況に混乱した私は、Aと仲のよかった女性介護職員を自宅に向かわせた。
「チャイムを鳴らすとすぐに出てきた」というAの顔には、デキモノができ体調は悪そうで、目は虚ろだったという。部屋に入るとテーブルの上にポンプと呼ばれる注射器が何本もあり隠す様子すらみせない。出向いた職員が昼間施設に男性が来たことを告げると、Aは家具や布団、冷蔵の食料などを残したままその日中に夜逃げした。
数日後、私はAから謝罪の言葉が連なるメールをもらい、またしばらくして名前だけが書かれた封書で退職届が送られた。
■消えたAの行方は…
Aが消えてから10日間ほどは、失踪の後処理に追われる日々が続いた。施設には暴力団組員だけでなく、地元の不動産屋や高齢者家族までもがおしかけ、家族からは「Aさんはどうしたの!」とひたすら訊ねられ、不動産屋からは家賃未払いを責められた。
「Aが覚醒剤を使用していた」とはとてもじゃないが言えない。高齢者の家族には適当な嘘をつき、地元不動産屋にしつこく請求され踏み倒した家賃は仕方なく私が建て替えた。Aを信頼する家族は、彼女が暴力団とつながり、覚醒剤を常用していたとは夢にも思わないだろう。思うはずがない。
逮捕されたほうがAのためだが、警察には行かなかった。すでに顔見知りになってしまった暴力団に逆恨みされる危険に加え、それでなくとも人員が不足する現場では、エースの突然の退職による穴埋めにやっとまわしている状態で、取り調べで同僚職員が警察に呼びだされたらそれこそ施設運営は成り立たなくなる。
さらにもう一つ心配だったのは、ほかの職員への薬物汚染だ。私は全職員と面談してAが覚醒剤を常用していた事実を話し、様子と反応を伺った。ほとんどが驚いていたが、1人だけ、ヘルパー2級を所持するAと仲のよかった非常勤の男性職員が面談の数日後に突然辞めた。男性介護職員が覚醒剤をやっていたかどうかはわからないが、このタイミングでの自主退職は極めて疑わしい。
そのほかは薬物に手をだしていることはなさそうだったが、複数の同僚が5000円〜10万円という単位でAにお金を貸していた。実家の親の医療費、光熱費が支払えなくてなど、適当な理由で頼み込んでいたようだ。
風の噂でAは現在、東北地方の有料老人ホームに勤めていると聞いている。介護職は全国的に人手不足で、即戦力で能力の高いAはどこに行ってもまず落とされることはないだろう。覚醒剤は依存性が高く、一度手を染めてしまうとやめられなくなる。要するに彼女は覚醒剤を打ち続けながらどこかで介護をしている可能性が高い。
■ひそかに進む薬物汚染
2016年11月、法務省・コレワーク(矯正就労支援情報センター室)の業務が開始された。
コレワークとは、刑務出所者への就労支援や受刑者の雇用を検討している事業主の相談を受け付ける、法務省が所管している組織で、現在はさいたま市と大阪市にその窓口が設置されている。「雇用から始まる社会貢献」と銘打ち、服役中に職業訓練を受けた受刑者たちが出所後に再び犯罪を犯さないように、また社会的孤立などを防ぐために受刑者と事業主を結び、出所後にすぐに働けるようにして再犯を防ぐという趣旨だ。
現在、日本の刑務所内では理容や建築などさまざまな職業訓練を実施しているが、近年は、特に人手不足が深刻な介護に雇用ニーズが高まるとして重点分野に位置付ける向きがある。実際に山口刑務所では、2015年に全国初の介護職員初任者研修を実施、さらに2016年2月には男性受刑者が同県のケアセンターから内定をもらっている。
犯罪を犯した人間が出所後に仕事を持つことは、治安維持の観点からも重要だ。コレワークの資料によれば出所後の仕事の有無で再犯率を比較した場合、有職者よりも無職者のほうがその率は高く約3倍の開きがある。しかし、再犯防止や社会的孤立を防ぐ目的のためだけに、就職先の選択肢に介護を入れるとするならば、疑問が残る。
介護職は優しさやコミュニケーション能力、介護技術、医療知識などが求められる非常に難しい仕事だ。高齢者に合わせた日常が延々と続くため、仕事の向き不向きの個人差がはっきり現れる。
厚生労働省「介護人材養成の在り方に関する検討会」資料によれば、介護職に就く人材は圧倒的に女性の方が多い。さらに女子刑務所の再犯率は薬物事犯と窃盗犯が高いことも特徴だ。また一度薬物に手を染めてしまった薬物事犯の女性たちは、刺激や快感を求めて薬物やセックスに溺れてしまう傾向にある。
高齢者の生活の場である介護施設では、ゆっくりと時間が過ぎていくいわば刺激とは真逆の職場環境だ。
居宅系施設や在宅デイサービスなどは、高齢者の生活を支える、自立支援という一つの目標に向かってチームを組むため、必然的に介護職同士の密接な人間関係が形成される。就労支援によって刑務所を出所した薬物事犯の元受刑者たちが介護現場に誘導されれば、介護現場でいったいなのが起こるか。
薬物の再犯率は20代で39%、50代で79%と極めて高い。チームプレイで成り立つ介護現場では職員間の報告や連絡は業務の一環であり、仕事の合間の雑談や休憩時間に一緒に食事をするなど、密によく喋り行動をともにすることも多い。介護職は真面目で優しい人たちが多い反面、毎日が同じことの繰り返しなので誰もが大なり小なりの退屈を抱えている。
そんな介護現場に、自分たちが味わったことのない日常を知る人物が入ってくれば、その刺激的な世界に一定の層は取り込まれていくだろう。
Aが実際に薬物に手を出していた事実と薬物事犯の再犯率、私が経験したトラブルなどを組み合わせて考えれば、刑務出所者の介護職への安易な誘導は、職員への「薬物汚染」を広め現場を混乱させる危険をはらんでいると言える。
先日、千葉大で起きた集団強姦事件では、学生に誘われた研修医が逮捕されたが、犯罪は環境によって加害者になるというケースが多い。同じように今まで真面目に生きてきた介護職たちが、職場の環境が変化することで犯罪加害者になることも十分ありうる。
薬物に手を染めた経験のあるすべての元受刑者が、もう一度薬物に手を出してしまうわけではない。だが、その可能性については考慮されおくべきではないだろうか。
薬物に侵されれば精神は不安定になり、安定が求められる介護職は勤まらない。それどころか犯罪者となり、薬物から抜けれずに一生を棒にふる可能性すらあるのだ。
深刻な人手不足が続く中で、真面目で優しく経験豊富な介護職員は大切な社会資源だ。その大切な人材が一部の人間の影響によりどんどんと失われていく危険性は現段階で否めない。
全国的に深刻な人手不足に陥る介護事業所は、国が介入して人材を誘導するような政策を発動しなくても、介護初任者研修の資格証を持って面接に行けば採用される場合が多い。それでなくとも荒れた現場に悲観した優秀な職員が次々と辞めていく状況のなかで、これ以上大切な社会資源である介護職員を危険にさらすワケにはいかない。
崩壊寸前の介護現場において、これからの日本を担う介護職という社会資源を守るためにどうすべきか、われわれは真剣に考える必要がある。
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