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株価上昇に浮かれるな! 危うい「トランプ相場」
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8458
2016年12月16日 中西 享 (経済ジャーナリスト) WEDGE Infinity
トランプ氏が米国次期大統領に決まって以来、日米の株価が大幅に上昇、ニューヨークのダウ平均株価は年内にも2万j達成、日経平均は年明けにも2万円台乗せをはやす楽観論が市場に漂い始めている。しかし、これはトランプ政権が打ち出す予定の法人税減税、インフラ整備を中心とした公共事業などの景気対策への期待感から値上がりしているだけで、実体経済はまだ様子見の段階だ。経済的な裏付けのない「トランプ相場」に浮かれていると、期待が失望に変わり思わぬしっぺ返しを食うことになりかねない。
■長期金利が急上昇
トランプ氏の大統領選挙での勝利決定により株高、長期金利高、ドル高の「トリプル高」となり、トランプ次期政権への期待が高まり、その経済政策は早くも「トランポノミックス」と呼ばれて、ウォール街では好感を持たれている。選挙期間中はトランプ氏がウォール街に対して批判的言動をしたため、金融・証券界から警戒感があったが、その後、主要な閣僚人事にウォール街の実力者を起用するなどしたため安心感が広がり、ニューヨーク株価は選挙後の2週間で4%以上値上がりして1万9000ドル台を記録、史上最高値を更新している。
日本の株価もニューヨーク株価につられて値上がりしているが、けん引しているのは12月15日には約10カ月ぶりで一時1ドル=117円台まで円安に振れた為替相場だ。しかし、ここで見逃してはならないのは、米国金利に連動する形で日本の長期金利が上がっていることだ。日本の長期金利(10年)は日銀のマイナス金利政策により、9月末にはマイナス0.09%付近だったが、大統領選挙でトランプ氏の勝利が決まってから上昇に転じ、直近の13日には一時0.080%にまで急騰している。
この流れを受けて、みずほ銀行は12月初めに10年〜35年の固定金利を12月から0.08〜0・09%幅引き上げた。三井住友銀行は同じ期間のを0.12%幅、三菱東京UFJ銀行は15年以上のを0.05〜0.12%幅それぞれ引き上げた。住宅ローン金利が上昇すれば住宅購入需要を冷やす可能性もあり景気にはマイナスに働く。
■原油高が追い打ちに
さらに急ピッチな円安ドル高は、食料や燃料などの輸入物価を押し上げる。中でも原油は石油輸出国機構(OPEC)が11月30日にウィーンで開催した総会で減産に合意したことから大幅に上昇し、1バレル=50j台に乗せてきている。OPECが減産で合意したのは08年以来だが、今回はロシアなど非OPEC諸国も足並みをそろえているので、需給を締める効果がある。これはガソリンに加えて、冬場の需要シーズンを迎えた灯油の国内販売価格の値上げにつながる。
円高、原油安でこの数年間は燃料を安く調達できていた電力各社は、円安、原油高が今後加速すれば、燃料コストの上昇でいまの電気料金を維持できなくなる恐れもある。電気料金が上がれば、企業、家庭にとって痛手になる。特に企業が生産用に使う電気料金は高い水準にある。これ以上、電気料金が上がると電気を多く使う製品を生産している企業は国際的競争力を失う恐れがあり、海外に生産拠点を移設する動きを加速させることになりかねない。
■財政赤字が増大
一方、2%程度の物価上昇目標をなかなか達成できなかった日銀にとっては、「トランプ相場」は金利を押し上げることになり、結果的には好都合かもしれない。異次元の金融緩和策を堅持してきた黒田東彦総裁に対して、物価目標を任期中に達成できないのではないかといった批判が今年半ば以降高まっていただけに、日銀にとっては潮目が変わったことで安堵しているのではないだろうか。また、FRB(米連邦準備制度理事会)が14日に利上げを決めたことで、さらに金利が上昇する可能性がある。その際に、日銀が手をこまねいて超低金利政策を続けていると、日米の金利差が拡大して、結果的に一層のドル高円安を招くことになり、マーケットが混乱する恐れがある。日銀はトランプ政権の誕生により、長年続けてきた金融政策の方向転換を迫られるかもしれない。金利に変化の兆しが出てくる中で、年明け以降に黒田総裁が金融政策をどのように変更するのかどうかが注目される。
一方、日本政府にとって長期金利の上昇は国債費の急増に直結する。超低金利で国債の利払い費は少なくて済んでいたが、長期金利が急騰すれば利払い費は雪だるま式に膨れ上がり、財政赤字の増加になる。2020年度までにプライマリーバランス(基礎的財政収支)の黒字化の達成を目指すとしている政府の財政健全化目標は、またしても遠のく。また、国債を大量に保有している金融機関にとって、長期金利の急上昇は国債価格の急落になり、大きな国債評価損を出すことになり、金融機関の収益にも打撃を与える。
■不確定要素が多い「トランポノミックス」
現時点では、トランプ次期政権の具体的な経済政策は明らかになっていない。分かっているのは法人税減税、公共インフラの整備、TPP(環太平洋経済協定)からの離脱、海外への工場進出を抑制し国内に回帰させるーくらいだ。減税の財源は明示されておらず、赤字国債で賄うのではないかとみられている。となると米国の財政赤字は増大し、長期金利がさらに上昇してインフレの兆しが出てくるかもしれない。これを帳消しにするだけの経済活動の活発化による雇用の拡大、消費の増加による米国経済の好循環が生まれればトランプ政権の経済政策「トランポノミックス」は評価されるだろうが、今の時点では不確定要素が多い。
トランプ氏がツイッターでつぶやいてアドバルーンを上げておいて、その反応を見ながら政策を決めようとするなど、政策に一貫性がなく読み切れない部分が多々ある。記者会見を開いて政策をきちんと説明するのかと思っていると、その記者会見も急きょ延期になるなど政策決定に不安定さが付きまとう。
一方、日本の経済の現状を見ると、GDP(国内総生産)の6割を占める個人消費の伸びが鈍く、節約志向から勢いが感じられない。そうした中で、投機的なマネーによってもたらされている株価上昇が長続きするのは難しいという見方もある。株価の変動に一喜一憂する必要はないが、株価上昇によって来年の日本経済がバラ色にみえるのは時期尚早だろう。
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