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2016年前期決算で、2期連続の巨額赤字について謝罪するシャープ・高橋興三前社長(ロイター/アフロ)
シャープの晩節を汚した無能すぎる社長…何もできずリストラ繰り返すのみ、台湾系の傘下に
http://biz-journal.jp/2016/12/post_17468.html
2016.12.15 文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント Business Journal
2016年も年の瀬が近づこうとしている。本年もいろいろな経済・ビジネス事案が報道され、なかには「事件」と呼んでいいほど社会の注目、あるいは指弾を受けたものもあった。
一方で業績を大きく伸ばした経営者や、斬新で新しいビジネスモデルを策定して市場に颯爽と登場したアントレプレナー(起業家)も多くいた。1年を振り返って、それらの優秀な経営者を顕彰する企画や記事は従来から存在する。
本連載では、ノーベル賞に対するイグノーベル賞的な性格の賞を勝手連的に創設して、ネガティブな見地から今年話題となった経営事案を総括的に振り返ることとしたい。「2016年経営者残念大賞」を謹んで発表する。
■経営者たちの「残念度」からグランプリを決定
選考基準はいくつかある。「残念」の内容としては、以下のようなものである。
・業績を大きく落とした
・成長機会を逃した
・企業価値を大きく毀損した
・危機的状況に際して拱手傍観してしまい、窮地に陥る状況としてしまった
・経営者としての倫理にもとった
・社会に大きな損害あるいはリスクや不安を与え、強く指弾された
「残念」のマグニチュードとしては、ひとつの指標として報道量がそれに当たるだろう。結果、対象となったのは、ほとんどが有名企業であり、それらの経営者となる。
また、「選考の対象期間」としては、16年に当該企業の経営ポジションにあった個人、つまり経営者とする。産み落としたものは企業という組織が行ったことではあるが、「最終責任者は誰だ?」という観点から、その会社の経営者、多くは社長を対象に審議させてもらった。
今年の「経営者残念大賞」は、初年ということもありグランプリと第2位、第3位までを私の独断と偏見により認定、発表したい。最後に他の数人を「着外残念賞」として紹介する。本編を入れて4回にわたる連載記事となる。
■存亡の時に擁立された無定見政権
記念すべき最初の受賞者、2016年の第3位は、シャープの高橋興三前社長である。
シャープは今年、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に買収されてしまったのだが、鴻海の軍門に下った直接の経営責任がすべて高橋氏に帰しているわけではない。歴代の社長は次のような系譜である。
4代目社長(1998−2007)町田勝彦氏
5代目社長(07−12)片山幹雄氏
6代目社長(12−13)奥田隆司氏
7代目社長(13−16)高橋興三氏
8代目社長(16−)戴正吳氏
シャープの屋台骨を揺るがせたのは、いうまでもなく液晶事業への過剰投資で、それへ乗り出した町田氏が途を誤ったという点では、もっとも責められるべきだろう。しかし、その途を追随して傷を深めてしまったという点では、片山氏、奥田氏にも経営上の重大な失策があった。
13年に片山会長(当時)が引責辞任することになったとき、奥田社長(同)に「あなたもやめるべきだ」として引導を渡し、自らバトンを受け取ったのが高橋氏だった。高橋氏は新卒でシャープに入社したプロパー社員。4代目社長だった町田氏も経営陣から排除したことから、経営の全権を掌握した格好となり、社内外の期待が大きかった。
■残念な点(1):何もしなかった
高橋氏は社長就任後、期待に応えるようなことは何もしなかった、というのが私の評価である。
1年目は業績が回復して高橋経営に対する幻想が高まったが、それは太陽光事業と中国シャオミ(小米)に対する液晶パネル供給が当たったおかげだった。これらの好調は結局、短期一過性ですぐに不調に陥ってしまった。着任初年度のビギナーズラックに目がくらんだ高橋氏は、結局これらの事業に対しての早い段階での見直し、リストラなどに踏み込めなかった。
高橋社長が力を入れたのが「シャープのけったいな文化を変える」という、けったいな動きだった。不調な会社を再生するには、確かに企業文化を底から改革しなければならない。日本航空(JAL)で稲盛和夫氏が実践したように。しかし、それはとても難しいことなので、それをめざす再生経営者はこれも稲盛氏のように身を投げ出す覚悟でかかり、その姿勢を見せなければ成就しない。
繰り返しになるが、高橋氏は学卒でシャープに入社したプロパー社員である。「けったいな文化を変える」と思いついて口に出してみたものの、その実現に対しての覚悟が果たしてどこまであったのか。16年の株主総会で自らの退任に触れ、「ご心配なく、『サラリーマン役員』はここから去ることになります」と、自虐的に語っている。
シャープという名門企業が構造的に不調に陥った状態で、高橋氏は経営権を引き継いだわけだ。しかし、その「不調構造」を正すべく前向きの戦略的な手を何も考え出さなかったし、打ってこなかった。ただただ、目先の資金繰りの施策と、不調が深まるにつれての底なしのリストラを繰り返すばかりだった。とても有能な経営者と称えられることはない。
社員からの評価も地に墜ちた。高橋社長と働いていた現役経営幹部が次のように語ったとされる。
「なにより許せないのは、高橋社長は嘘をつくということです。これまで社員に説明してきた重要なことは、ほとんど嘘だった。そして、ものづくりのことはまったくわかっていないくせに、ただ債権回収さえできればいいと考えている銀行とグルになって社員をだましてきた」(15年8月6日付「現代ビジネス」記事『シャープ現役幹部が決意の勧告』<井上久男>より)
■残念な点(2):意思決定ができない経営者
高橋氏が社長に着任したときに、すでに業績の負担となっていたのがメキシコのテレビ工場だった。高橋政権下で売却が何度も検討されたが、高橋氏は決断しなかった。
着任翌年の14年7月には、「現在利益を出しているので売却したら株主代表訴訟を起こされる」として売却断念の意向を報道陣に漏らした。ところがさらに15年に入り、この工場は中国の会社に売却してしまうことになる。赤か白か優柔不断、赤にした後、白になる。わずか2年の間にひとつの案件だけでこの始末だった。
15年5月には、中期経営計画を策定し直して発表した。しかし、シャープの最大の構造的な問題だった液晶事業については手付かずで、高橋氏は「液晶がなければ、再建計画は成り立たない」と言い切った。 ところが同年8月になると液晶事業の分社化検討を発表したのである。方針も、戦略も経営者としての矜持も見られない変節である。15年6月の株主総会では、株主からの「辞職しろ」「責任を取れ」などのコメントが飛び交い、社長以下役員は頭を下げることを重ねるばかりだった。
■残念な点(3):会社明け渡しで右往左往
シャープの年次最終損益(3月期決算)は、次のように推移してきた。
・11年:+194億円
・12年:−3760億円
・13年:−5453億円
・14年:+115億円
・15年:−2223億円
・16年:−2559億円
高橋経営で特に信が置けなかったのが15年で、当初の見込みはなんと300億円の赤字だった。それが終わってみれば巨額赤字である。
この情勢を受けてシャープ売却やむなし、ということになり、15年中に優勢だったのが産業革新機構の主導による救済案だった。例によって主体的に動こう、何か自ら打開策を打ち出そうということがなかった高橋経営陣は、産業革新機構案に従う成り行きだった。
そこに15年末になり、鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)会長が待ったをかけたわけである。
最大で3500億円の産業革新機構の支援に対し、鴻海案が7000億円の支援を示したことが、ホンハイ側の経済合理性上の強みだった。ホンハイはそれに加えて液晶事業の存続、雇用の維持を提示した。前者はホンハイがシャープを手中にするための戦略的な目標なので当然だったわけだが、後者はその後、ホンハイの態度が転変しているので予断を許さない。
ホンハイ案にはもうひとつ、高橋経営陣の存続があった。高橋前社長が同案にすり寄ったのには、この要素がどれだけ大きかったのかについての分析報道はあまり見かけなかった。しかし、経営者上がりの私としては、意思決定における経営者の人間的要素は看過できないということを知っている。
高橋氏が2月の業績発表会で、支援先の決定について「今、分析などでリソースをより多くかけているのは鴻海のほうである」とした時の顔つきが「ドヤ顔である」、つまり不必要に自信を示していると評された。その後6月に結局、退任に追い込まれた。今となっては、この人の先見性とか見識を分析するに格好な、発表会見だったのではないか。
高橋氏は13年に着任早々、「社長がこんなにしんどいとは思わなかった」と報道陣に漏らしたのも脇が甘い。前任の三社長による「三頭政治」が一掃され、棚ボタ式に着任したサラリーマン社長だった。CEO(最高経営責任者)という重い責任に対するしっかりした覚悟がなかったことをみせてしまったコメントではないか。
危機存亡に際した企業にとって、覚悟と責任感のないサラリーマン経営者は無用の長物だ。高橋氏が社長でなかったほうが、日本の名門企業としてのシャープの晩年はもっと美しかったことだろう。
次回は「2016経営者残念大賞」で輝く第2位の経営者を発表する。
(文=山田修/ビジネス評論家、経営コンサルタント)
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