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対日経済協力の窓口、ロシア閣僚解任の深い謎 北方領土問題進展を阻止する勢力による陰謀説 Jパワー海外で有名タイ電力の1割
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 12 月 09 日 01:17:45: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 


解析ロシア

対日経済協力の窓口、ロシア閣僚解任の深い謎
北方領土問題進展を阻止する勢力による陰謀説の真偽

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/120700019/graph1.png

2016年12月9日(金)
池田 元博
 ロシアで先月、対日経済協力の窓口も務めていたウリュカエフ経済発展相(当時)が収賄容疑で突然拘束され、解任された。日ロの北方領土問題進展を阻止する勢力が仕組んだとの見方も一部にあるが、真相はどうなのか。

ロシア連邦捜査委員会は11月15日、ウリュカエフ経済発展相を収賄容疑で拘束したと発表した。(写真:ロイター/アフロ)
 ロシア連邦捜査委員会がウリュカエフ経済発展相(当時)を収賄容疑で拘束したと発表したのは、先月15日未明のことだ。中堅石油会社「バシネフチ」の民営化(政府保有株の売却)に当たり、国営石油最大手「ロスネフチ」が一括購入できるよう便宜を図り、見返りに賄賂として200万ドルを受け取ったというものだった。

 ウリュカエフ氏は刑事訴追され、裁判所は自身の健康状態や高齢の両親を抱えているといった家庭環境を考慮し、来年1月中旬まで2カ月間の自宅軟禁を命じた。

 プーチン大統領は「信頼を失った」として、ウリュカエフ氏を直ちに経済発展相のポストから解任した。大統領は先月末には、同相の後任としてマクロ経済政策に精通した若手の財務省次官を抜てきした。

あまりに不可解…くすぶる陰謀説

 こうした事実関係だけを拾えば、ロシアでありがちな閣僚や官僚の収賄スキャンダルにしか見えない。ただ、当時のウリュカエフ氏の政権内の立場や身柄拘束の経緯などを踏まえると、実際は不可解な点も少なくない。何者かによる陰謀説がくすぶるゆえんでもある。

 まずは身柄拘束に至った当日の経緯だ。ロシアメディアによれば、ウリュカエフ氏は先月14日夕刻、省内で開かれていた会合を中座し、公用車でロスネフチのオフィスに向かった。ロスネフチのオフィス内で、同氏は100万ドルの入ったカバンを渡され、残る100万ドルは車に運ぶと言われた。

 その現場に治安機関の連邦保安庁(FSB)職員らが押し入り拘束された。ウリュカエフ氏は現金には触れていないと反論したものの、カバンの把手に触れた痕跡が決め手になったとされる。同氏は裁判所でも容疑を否認した。一方のFSBは「おとり捜査」だったと認めるとともに、1年以上前から監視を続け、数カ月前からは電話の盗聴もしていたと明かしたという。

売却の白紙撤回への動きが見られない不思議

 次に連邦捜査委のロスネフチへの対応だ。ロスネフチによるバシネフチの買収そのものは合法で、全く捜査の対象にはならないとしているからだ。

 現地の報道によれば、実はウリュカエフ氏へのおとり捜査を陰で主導したのはロスネフチ自身だったという。FSBの元幹部で、現在はロスネフチの保安担当副社長がFSBと組んで仕掛けたというのだ。副社長はイーゴリ・セチン同社社長と親しく、ウリュカエフ氏の追い落としは社長の指示だったのではないかとの臆測も一部に浮上している。

 さらにバシネフチの民営化でそもそも、ウリュカエフ氏がどこまで決定権を握っていたかという疑問だ。

 政府内では、この民営化をめぐって激しい論争があった。国営企業のロスネフチによる買収は、果たして「民営化」といえるのかが焦点だった(関連記事「ロシア、奥の手「大民営化政策」に漂うきな臭さ」)。確かにウリュカエフ氏は民営化の当事者で、当初はロスネフチへの売却に否定的だったものの、9月以降に容認する立場に変わっている。

 しかも翌10月、メドベージェフ首相が最終的にロスネフチへの売却決定を発表した際、政府指令書は「経済発展省の提案を受け入れた」と明記していた。プーチン大統領も自らの本意ではないことをほのめかしつつも、この決定は財政赤字の穴埋めを優先する「政府内の財政・経済派の立場だ」と弁明していた。

 こうした経緯からみると、大統領も首相もウリュカエフ氏の提案に従った格好だが、ロスネフチへの売却の流れが一気に進んだのは9月初め、プーチン大統領が「英BPも出資するロスネフチは厳密にいえば国営企業ではない」と発言したのがきっかけだったとされている。

 また、仮にウリュカエフ氏がこの民営化プロセスの全権を握り、かつ裏で要求した多額の賄賂によって民営化が決着したとすれば、大統領はロスネフチへの売却自体の白紙撤回を命じるのが筋だろう。しかし、そういう動きは全く見られない。

謎を深めた大統領と新経済発展相の面談内容

 ウリュカエフ氏は60歳。ソ連崩壊直後にロシアの急進経済改革を進めたガイダル・チームの一員で、2013年から経済発展相を務めていた。改革派の閣僚のひとりだが、政府内でもどちらかというと地味なタイプとされていた。

 対するロスネフチのセチン社長は豪腕タイプ。プーチン大統領のかつての「最側近」であり、政界への影響力も依然大きいとされる。そのセチン社長率いるロスネフチを相手に賄賂を要求すること自体、考えにくいとみる政治専門家も少なくない。バシネフチ民営化の検討段階ならともかく、決着から1カ月以上もたって賄賂を授受するのは極めて不自然と指摘する声もある。

 様々な臆測が飛び交うなか、多くの専門家が事件の背景を探る手掛かりとして注目したのが後任人事だった。ところが、プーチン大統領が経済発展相に任命したのはマクシム・オレシキン財務省次官。34歳という若さを除けば極めて穏当な人事だった。

 しかも11月末、任命時の大統領とオレシキン氏の面談がさらに謎を深めた。

プーチン大統領「あなたは財務省次官になってどれくらいか」
オレシキン氏「ほぼ2年です」
大統領「2年か。それまでは?」
オレシキン氏「財務省の部長です。それ以前は銀行で、対外貿易銀行と国際的な銀行に勤めていました」
大統領「大学の専攻だと、あなたはエコノミストだね」
オレシキン氏「はい」
大統領「それほど長く勤務したわけではないが、もう短いとはいえないし、仕事はうまくやっている。あなたを経済発展相に任命したい」……。

 会話内容から、大統領自らが抜てきした人物ではないことがうかがえる。改革派の経済・財政担当閣僚らがこぞって歓迎していることから、こうした勢力の推薦によるものとみられる。ロスネフチやFSBの関与は感じられない。

 一方でプーチン大統領は、今月初めの年次教書演説で汚職問題にも触れている。抽象的な表現に終始してはいるが、「汚職との戦いはショーではない。専門性と真面目さ、そして責任が要求される」と強調し、大げさに騒ぎ立てる治安機関の行動にクギをさした場面があった。

 これらを総合してウリュカエフ事件を振り返ると、大統領はFSBが主導した同氏の追い落としを黙認したが、FSBの横暴ぶりには閉口し、後任人事で巻き返して政権のバランスをとった、というシナリオが考えられなくもない。

日ロ領土問題との関連性は?

 ではFSBがなぜウリュカエフ氏を標的にしたのか。石油利権との関連を指摘する専門家は少なくない。経済の長期低迷で全体に利権のパイが小さくなるなか、エネルギー分野は数少ない有望分野だからだ。

 例えばフォーブス誌ロシア版が集計した2015年のロシア企業経営者の年間報酬ランキング。トップは国営天然ガス最大手「ガスプロム」のアレクセイ・ミレル社長、2位はロスネフチのセチン社長だった。


 とくにロスネフチは、かつて脱税や横領の罪で投獄された元石油王ミハイル・ホドルコフスキー氏が率いた「ユーコス」の解体資産を吸収して急拡大した、いわく付きの企業でもある。FSBが利権の宝庫とみてもおかしくない。

 財政赤字の穴埋めに躍起となる政府は、ロスネフチの資金力や資産を最大限利用しようとしている。これに反発するFSBが政権内の財政・経済派に圧力をかけるため、ウリュカエフ氏をスケープゴートにした可能性も否定できない。

 ロシアでは2018年春に予定される次期大統領選を控え、各勢力による水面下の権力闘争やかけ引きが早くも始まっている。大統領自身、大統領府幹部に若手や有能な実務家を抜てきするなど、「次」を見据えた人事刷新に動き始めている。ウリュカエフ事件もそうした文脈の中で捉えるべきなのかもしれない。

 さて、事件と日本との関係だ。ウリュカエフ氏は11月初めにモスクワで世耕弘成経済産業相と会談し、プーチン大統領の来日時に調印する日ロ経済協力案件を詰めた。ペルーでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議時に開いた日ロ首脳会談にも同席を予定していたが、その直前に拘束された。

 このため日ロ関係との関連が一部で指摘されたが、ロシアでは日ロの領土問題と結びつけるような分析は見当たらない。ウリュカエフ氏は日本との経済協力の窓口を務めたが、業務のごく一部に過ぎない。やはり内政問題とみるのが自然だろう。

 ただし、日ロが平和条約締結交渉を続けていくうえで、ロシアの政局が大きく流動化しつつある現状は頭の片隅に入れておく必要がある。


このコラムについて

解析ロシア
世界で今、もっとも影響力のある政治家は誰か。米フォーブス誌の評価もさることながら、真っ先に浮かぶのはやはりプーチン大統領だろう。2000年に大統領に就任して以降、「プーチンのロシア」は大きな存在感を内外に示している。だが、その権威主義的な体制ゆえに、ロシアの実態は逆に見えにくくなったとの指摘もある。日本経済新聞の編集委員がロシアにまつわる様々な出来事を大胆に深読みし、解析していく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/120700019/


 

「Jパワー(電源開発)」が海外では有名な理由
すでにタイの消費電力の約1割を担う
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278209/120800087
企業研究
2016年12月9日(金)
飯山 辰之介
1960年代から続く技術協力をてこに、タイや米国などで大規模発電所を展開する。石炭火力の技術を長く磨いてきた。その強みを国内外で生かせるともくろむ。最大の課題は世界的に進む環境対策。石炭火力は脱炭素化に対応できるか。

発電所の運営について話し合うJパワーの久米宏典マネジャー(右)とタイのガス火力発電所KP2のプラントマネジャー、ウィチャイ・バンパー氏(写真=飯山 辰之介)
 首都バンコクから幹線道路を北に向かうこと約2時間。その土地の名産である背の低いトウモロコシ畑の間を車で走ると、無骨なプラントが見えてくる。ウタイ火力発電所。日本の電力大手、電源開発(Jパワー)が合弁会社を通じて運営するタイ最大級の発電所だ。
 燃料はバンコク近郊のタイランド湾で採掘された天然ガス。発電した電気は国営のタイ電力公社(EGAT)に販売している。「EGATからの信頼は厚い。我々なら彼らの発電要請に細かく応じることができるからだ」。プラントマネジャーのスラチット・サングニカエ氏は誇らしげに語る。
 発電所の制御室では最新式タービンの状況を現地スタッフが24時間体制で監視している。その中に日本人はいないが、「トラブルが起きればバンコクからJパワーのエンジニアが駆けつけてくれる」(サングニカエ氏)。
 Jパワーがタイで保有する発電所はウタイだけではない。バンコク近郊を中心に16カ所、出力の持ち分合計で約330万キロワットの発電所を稼働させており、タイ全土で消費する電力の約1割を担う。「この国の電力業界でJパワーの名を知らない人はいない」。タイでJパワーが運営するもう一つの発電所、カエンコイ火力発電所のプラントマネジャー、ピタック・サングチョット氏は言う。
国内外で異なる知名度
 Jパワーは日本国内では6番目の規模の電力会社だが、知名度は高くない。今年4月まで、東京電力ホールディングスなど地域の電力会社に電力を卸すことが義務付けられており、業界では黒子的な立場にあったからだ。ただ、海外に目を向ければ立場は一変する。他社に先行して海外展開を進めており、既に世界6カ国・地域で発電事業を展開している。
 例えば冒頭で紹介したタイ。著しい経済成長で不足する電力を補うため、1990年代から発電市場を一部開放してきた。ただインフラの根幹を担う電力事業を、外資が大規模に手掛けるのは容易ではない。実際、欧米系の電力会社が一時殺到したものの、後にそのほとんどが撤退していったという。発電所の用地選定や取得、住人の説得など、多数の利害関係者との複雑な交渉を外資が単独でやり切るのは難しい。
 「カギは信頼できる現地のパートナーと組めるかどうかだ」とJパワーの重堂慶介氏は指摘する。タイに赴任して10年になる重堂氏は現地法人の社長を務める。発電事業は投資回収に何十年もかかる息の長い事業だけに「腰を据え、その国に貢献する覚悟がなければ成功しない」(重堂氏)。
 Jパワーが現地で提携するパートナー企業は、国営企業EGATとの関係が深い。EGATが出資する半官半民の発電会社EGCOと2000年初めに提携し、さらに同社が出資する企業と合弁会社を作り、16カ所の発電所を保有、運営するに至った。EGCOやその出資会社にはEGAT出身者も多く集まる。人と資本、双方のつながりを生かして入札などの情報を効率的に集め、さらに立地場所の選定や住民交渉で協力を仰ぐことで事業を拡大していった。
 「Jパワーは長い間我々に協力してくれた。今も我が国の電力安定供給に貢献している」。EGATのラタナチャイ・ナームウォン副総裁はこう評する。Jパワーがタイ電力業界に深く入り込むことができた背景には、50年にわたって続けてきたコンサルティング事業があった。
63カ国・地域でコンサル事業、6カ国・地域で発電事業を展開
●Jパワーの海外展開

注:各国の発電出力は持ち分の合計
海外事業を拡大
●国内外の発電能力比率

 国策会社として1952年に発足したJパワーの使命は、民間の電力会社では賄いきれない国内電力需要を担い、戦後復興と高度経済成長を支えることだった。基本的にこれ以外の事業を手掛けることは許されなかったが、例外がコンサル事業という名の海外技術協力だった。60年以来、50年間でエンジニアを派遣した国は計63カ国に上り、プロジェクトは350件を超える。
 海外で活躍したメンバーの一人が、現在国際事業本部長を務める尾ノ井芳樹・取締役常務執行役員だ。60年代、アンデス山脈に囲まれた南米ペルーの湖で、ダム建設をサポートした経験を持つ。「空気が薄くて難儀はしたが、標高3800mのベースキャンプで見た朝日は今も忘れられない」。その後もコスタリカやラオスなど新興国の僻地を渡り歩き、各国で発電所建設を支えてきた。
民営化でもうけ頭に変身
 長らくの間、海外事業の売り上げは小さく、業績への貢献度は大きくなかった。状況が変わったのは2004年から。民営化により国の軛(くびき)が外れ、事業の制限が緩和された。国内の電力需要が伸び悩む中、民間企業として成長分野をどこに定めればいいのか。浮かび上がったのが海外発電事業だった。
 「世界中に情報網と人脈を張り巡らしていたから、どこの国で、どんな種類の発電所が求められているのかを、容易に把握できた」(尾ノ井本部長)。これを生かし、タイ、米国、中国、フィリピン、台湾で発電事業を展開。ボランティアに近かった海外事業は収益事業に変わった。タイで大型発電所が相次ぎ稼働したことも貢献し、2017年3月期は海外事業が経常利益の約半分を占めるまで伸びる見通しだ。
海外事業が利益貢献
●Jパワーの連結業績

注:2014年3月期の海外事業利益は5200万円。2017年3月期の海外事業利益は本誌予想
石炭と水力が大部分を占める
●Jパワーの電源構成(万キロワット)

 これまで海外では天然ガスを使った発電事業が中心だったが、2020年にはインドネシアで石炭を使った大規模火力発電所が稼働する。タイでも天然ガス資源に限りがあることから、石炭火力の採用が検討されるようになってきた。実は石炭を使った発電はJパワーが最も得意とするところ。「チャンスは広がっている。国内の実績を見てもらいたい」と尾ノ井本部長は意気込む。
 実績の一つが神奈川県横浜市にある。出力120万キロワットの磯子火力発電所だ。高温で石炭を燃やすUSC(超々臨界圧)という最新方式を採用。発電熱効率(少ない燃料で効率的に発電できるかを示す指標)は約45%と、100万キロワットを超える大規模石炭火力で世界最高水準の効率を誇る。

大都市圏に立つ磯子火力発電所(横浜市)。汚染物質の排出を抑え、世界最高水準の効率で運営する
 屋上に出て煙突を間近に仰いでも、煙を確認することはできない。硫黄酸化物(SOx)や窒素酸化物(NOx)といった大気汚染物質の排出量も磯子火力は世界最低水準。「発電熱効率の高さと環境対策を目当てに、ここには海外からの視察が引きも切らない」と小谷十創(じゅうぞう)所長は話す。
コスト競争力強みに自由化を乗り切る
●国内の大手電力会社との火力発電コスト比較(2016年3月期)

出所:みずほ証券
 日本はもともと、石炭火力の効率や汚染物質対策で世界最高レベルにある。中でもトップクラスなのがJパワーだ。一部には2世代前の効率の悪い石炭火力も残っていたが、昨年にはこれらを全て最新方式のものに建て替えると発表。新設する2つの発電所を加えると、2020年代には同社が持つ石炭火力の約7割(出力ベース)が最新方式のUSCになる。
 「石炭火力の高効率化に取り組むことは、当社の存在意義そのものだ」と技術開発を統括する村山均副社長は言う。日本の戦後復興から高度経済成長にかけて、Jパワーは大規模ダムと国内炭を使った火力発電で民間の電力会社を支えた。オイルショックが起きた1970年代以降は燃料価格の安い海外炭を使い、原油高で操業が難しくなった石油火力を補った。今も、石炭火力は同社の主力であり続けている。
 最新のUSC方式をもってしても、石炭火力は発電効率でガス火力に劣る。一方、発電コストや燃料の安定調達といった面では石炭火力がガス火力に勝る。天然ガスは中東などに資源が偏っているが、石炭は世界に普遍的に存在するため安定調達が可能だ。資源価格もLNG(液化天然ガス)を常に下回って推移しており、価格変動幅も小さい。足元ではLNG価格が下落しているが、それでも「石炭の燃料としてのコストメリットは失われていない」(みずほ証券の新家法昌シニアアナリスト)。
電力自由化でチャンス到来
 石炭火力のコスト競争力は、完全自由化した電力業界を生き抜く武器になる。今年4月の完全自由化で電力会社の経営環境は激変した。これまでJパワーは地域の電力会社への卸が義務付けられていたが、販売先は自由になった。販売価格に対する規制も撤廃され、自由な値付けもできる。新電力や日本卸電力取引所を含め、様々なプレーヤーに対してコスト競争力の高い電力を交渉して売れるようになったのだ。
 Jパワーにとって既存の電力会社は依然として大きな取引先であり、長期契約も残っている。ただ、「契約内容の見直しに取り組んでいる」と菅野等・執行役員経営企画部長は明かす。
 Jパワーは昨年、2025年度までの中期経営計画を発表した。海外事業の利益を反映するため、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)に持ち分法投資利益を加味した同社独自の指標「J-POWER EBITDA」を策定。その指標で2014年度に1818億円だった利益を、2025年度には1.5倍の2727億円程度まで拡大する目標を掲げた。
 大間原子力発電所の建設や既存火力の建て替え、新設などで投資はかさむが、国内事業の利幅拡大や海外事業の収益を取り込んだキャッシュベースでは利益が伸びるとの読みが野心的な目標の根拠となっている。
 国内外で石炭火力を広げようともくろむJパワーにとって、最大の課題は環境対策だ。「石炭火力が脱炭素化の流れに逆らって生き残るのは難しいだろう」。地球環境戦略研究機関(IGES)の浜中裕徳理事長はこう指摘する。
 どんなに発電熱効率を高めても、石炭を燃やせば必ず二酸化炭素(CO2)が発生する。電気事業連合会によれば、一般的な石炭火力のCO2排出量は、ガス火力より6割近く多い。Jパワーの排出量は平均より少ないが、それでも3割程度多いのが実情だ。
 昨年パリで開かれた第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)で、日本は2030年度までに温暖化ガス排出量を2013年度比で26%減らすと宣言した。これを既存石炭火力を稼働させたまま達成するのは難しい。
 Jパワーも手をこまぬいているわけではない。今年度末には中国電力と共同し、石炭ガス化複合発電(IGCC)と呼ばれる新方式の実証実験を広島県で始める。石炭を蒸し焼きにして作ったガスでガスタービンを回し、さらに排熱を利用して蒸気タービンを回す「1粒で2度おいしい」発電方式だ。ガス火力では主流になりつつあるが、石炭は固形物をガス化する手間がかかりハードルが高い。これが実現すれば、従来の方式よりもCO2を最大で15%程度、削減できる可能性がある。
 IGCCは東京電力などが既に福島県のプラントで実証しており、足元では商用発電所の建設計画も進んでいる。Jパワーは東電とは異なる方式の開発に取り組んだ。既存のIGCCが石炭をガス化する際に空気を吹き込んでいるのに対し、Jパワーは酸素を吹き込む方式の実用化を目指す。「どちらの方式も一長一短がある」(三菱日立パワーシステムズ)が、酸素吹きのメリットはCO2を分離回収しやすい点にある。
脱炭素の動きに抗う
●国の温暖ガスの削減目標とJパワーの対応策

新方式の石炭火力発電を試験する大崎クールジェン(広島県)。CO2を分離回収する実験も計画する
高効率石炭火力の新設、リプレースに大規模投資
▶鹿島パワー(運転開始予定2020年)、山口宇部パワー(同2020年代前半)を新設
▶竹原火力(同2020年)、高砂火力1号機(同2021年)、2号機(同2027年)を建て替え
新しい石炭火力の発電方式を開発
▶中国電力と共同で高効率が望める石炭ガス化複合発電(IGCC)の実証実験を開始
CO2を分離して地中に埋める技術(CCS)の実用化
▶IGCCで実験(2019年を予定)


脱炭素、乗り越えられるか
 CO2の分離回収は脱炭素化の最終手段だ。政府は2050年にCO2を現状より8割削減するという、より高い目標も打ち出した。これに対応しようとすれば、石炭であれ、天然ガスであれCO2を出す火力発電は成り立たなくなる。
 そこでJパワーが準備しているのがCO2を地中に埋めるCCS(CO2の回収・貯留)技術だ。北海道の苫小牧市で実証実験している日本CCS調査にJパワーも一部出資。広島県の実証プラントでは2019年にもCO2の分離回収実験を始める。最終的には酸素吹きIGCCで回収した高純度のCO2を、苫小牧まで運んで埋める計画だ。
 CCSの実現可能性や採算性については厳しい見方もある。それでも脱炭素化に対応できなければ、石炭火力への風当たりはますます厳しくなる。
 Jパワーがこうした難題に直面するのは初めてではない。磯子火力発電所の建設計画が持ち上がった1960年代のこと。当時は公害問題が深刻化しており、大都市近隣での火力発電所の建設には懸念の声が多かった。同社は大気汚染物質の排出量を大幅に抑える技術を導入し、日本で初めて公害防止協定を横浜市と締結。以前よりも高い環境規制を順守することを約束した。後に、この協定は全国で石炭火力発電所を建設する際の標準になったという。
 脱炭素化も持ち前の技術力で突破することができれば、石炭火力に頼らざるを得ない多くの国から、Jパワーへのラブコールは増えるはずだ。石炭を磨き続けてきた同社の底力が、改めて試されている。
(日経ビジネス2016年10月10日号より転載)


このコラムについて
企業研究
『日経ビジネス』に掲載された、企業にフォーカスした記事の中から読者の反響が高かったものを厳選し、『日経ビジネスオンライン』で公開します。

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