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AI時代の弁護士の姿(WEDGE)
http://www.asyura2.com/16/hasan116/msg/475.html
投稿者 赤かぶ 日時 2016 年 12 月 07 日 21:25:25: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 

             


AI時代の弁護士の姿
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/8362
2016年12月7日 WEDGE Infinity


 少し前(2013年9月)のことになるが、オックスフォード大学の教授らによる論文『The Future of Employment (雇用の未来)』で、702に分類された米国の職業の約47%が、今後10〜20年で自動化される可能性が非常に高いという衝撃的な研究結果が公表された。

 これまでコンピュータによる自動化は、明確なルールに基づいて行われる定型的な仕事に限定されていた。しかし機械学習などのAI関連技術の飛躍的な進歩によって、非定形のコグニティブ(cognitive)な仕事の労働者も、コンピュータによって代替され始めるという。

 コグニティブは「認知」と訳されるが、仕事をする過程で発生する事象について自ら考え、学習し、答えを導き出すことが必要とされるものがコグニティブな仕事と呼ばれる。定型的な仕事は、その仕事で起こりうるすべての条件を、人間(プログラマー)があらかじめプログラムすることができるが、コグニティブな仕事を自動化するためには、コンピュータが人間と同じように自ら考え、学習し、答えを導き出すことが必要になる。

 ビッグデータから学習するコンピュータのアルゴリズムが、これまで人間の脳でしかできなかった「パターン認識」の領域に入りつつあり、その機械学習を応用したモバイルロボットは鋭い感覚と手先の器用さを手に入れ、精密な作業をこなせるようになった。論文は、広範囲の産業と職業に渡る仕事の本質が、AIによって変わりつつあると結論づけている。

■弁護士の仕事が自動化される

 アメリカ法曹協会(ABA)によれば、米国の弁護士の数は年々増え続けており、2016年には130万人を超えた。しかしロースクール(法科の大学院)への入学者は、2012年から減少に転じている。大学を卒業してからの3年間でおよそ1500万円という高額の学費を払っても、卒業後にそれに見合う職に就くことが難しくなっているという。日本に比較すると米国の弁護士の数は桁違いに多いが、米国には司法書士、行政書士、弁理士などの資格はなく、これらの仕事は弁護士が扱うことが多い。

 パラリーガル(弁護士の資格を持たない専門の助手)の仕事や、訴訟業務を扱う弁護士以外の、契約書作成や特許専門の弁護士の仕事の多くがコンピュータ化されつつある。『雇用の未来』では、弁護士の仕事がコンピュータによって代替えされる確率は3.5%(702の職業中で588位)だが、パラリーガルや弁護士のアシスタントの仕事については94%(同94位)という高い確率になっている。

 訴訟業務においても、裁判の準備のために弁論趣意書や判例を精査することができるコンピューターが活用されており、例えばシマンテックのClearwellというシステムは、言語分析によって文書の基本的な趣旨を特定して、それをビジュアルに表現することができる。それは2日間で、57万件以上の文書を分析して分類することが可能だという。これは論文が発表された2013年時点での話だ。

■仕事でもチャットがメールに代わる

 10月21日に、国内外の弁護士や企業の法務部門・知財部門等の担当者を対象にした「第4回リーガルテック展」が開催された。主催したAOSリーガルテックの佐々木隆仁社長の講演のなかで、開発中の「AIリーガルボット」というチャットボットの紹介があった。

 国内のスマートフォンの普及率は50%を超えたが、その多くのユーザーがLINEやFacebook Messengerのようなチャットアプリでのおしゃべり(チャット)に夢中になっている。これは世界的に見ても同様の傾向だ。ゲーム以外のスマートフォンのアプリのアクティブユーザー数を見ると、ほとんどの地域で、何らかのチャットアプリが1位か2位になっている。チャットボットとは、そのようなチャットアプリで、おしゃべりの相手をするソフトウェア(ロボット)だ。

 1995年にソフトウェア会社として設立されたAOSテクノロジーズ(AOSリーガルテックの親会社)は、パソコンなどの消えてしまったデータを復元できるデータ復元ソフトで日本の市場をリードしてきた。2001年には、警察機関の犯罪捜査のためのデータ復旧サービスの提供を開始した。大相撲の八百長事件で、消されてしまった携帯電話の復旧調査が、メディアの注目を集めたことを覚えている方もいるかもしれない。

 ビジネスの現場においてもチャットアプリがメールにとって変わりつつあるが、一般消費者向けのチャットアプリを仕事で使用することには大きな危険が伴う。AOSテクノロジーズは、データ復旧のサービスをする過程でその問題に気づき、暗号化された安全なチャットが可能で、リモートで履歴や、つながりを消すなどの管理機能を備えたビジネス用途向けのチャットアプリInCircleを開発した(佐々木社長)。

 佐々木社長と、InCircleのユーザーの高橋喜一弁護士、そしてAOSテクノロジーズ傘下のAOSモバイルで、InCircleの開発責任者を務める米川孝宏博士に、AIリーガルボットの開発状況や、日本のリーガルテック(法律分野におけるコンピュータ技術活用)についての話を聞いた。

 高橋弁護士(所長)のコスモポリタン法律事務所では、2014年にInCircleが発売されてすぐに使い始めた。

高橋氏 それまでもチャットアプリを使っていたが、端末にメッセージが暗号化されないまま保存されており、従業員が退職してもチャットの履歴(情報)が残り、つながりを使って他の従業員の引き抜きをするなどの懸念もあった。従業員が個人保有の携帯用機器を職場に持ち込んで業務に使用するBYOD(Bring Your Own Device)も一般化しており、退職時などに、そのデータをすべて消してもらうことは難しい。セキュリティのないツールを使うことは、取引先の信頼や契約を失う原因になる。

 InCircleは企業ごとのセキュリティのポリシーに準拠して、取引先やアルバイトなどを含めたユーザー管理をすることができる。

米川氏 InCircleという社内コミュニケーションのための新しいツールを活用することによって、経験の豊富な人の知見を共有することができるなど業務の効率化が可能になる。それはいろいろな業種で仕事革命を起こすはずで、まずは法律の業務分野に取り組んでいる。InCircleはまだコミュニケーションツールだが、これから業務支援ツールに成長させていきたい。

■チャットで弁護士をアシストするAI

 現代の企業では、日常的な活動情報の大半が電子処理されている。企業による犯罪や不祥事、あるいは企業間の紛争などによって企業内情報の調査が必要になると、膨大な量のデジタルデータを法的に正しいプロセスで収集して解析する必要が生じる。そのような、コンピュータやネットワークシステムのログや記録、状態を詳細に調査し、過去に起こったことを立証する証拠を集めるための科学捜査はコンピュータフォレンジック(forensic)と呼ばれている。

 コンピュータフォレンジックのデータを検索するには、トレーニングを受けてツールを使いこなす必要がある。AIリーガルボットはInCircle上で動くチャットボットで、コンピュータフォレンジックによって収集した膨大なデジタルデータから、証拠として必要なものを対話形式で探してくれる。

        
          左から、米川氏、佐々木氏、高橋氏

高橋氏 どこにいてもスマートフォン(InCircle)を使って、対話形式で絞り込みながら必要な証拠を検索できるのはありがたい。

 InCircleのチャットボットは、完全な自然言語でではなく定型のフォームベースで対話をする。

米川氏 「コンピュータフォレンジックのデータの検索」という目的に特化すれば、自然言語ではなくプログラムされたフォームベースの対話の方が使いやすく効率がよい。

佐々木氏 ディープラーニング技術によって、テキストだけでなく画像解析された写真の検索も可能になった。AIリーガルボットとの対話で検索した証拠データに基づいて、AIリーガルボットに調査レポートを作成を指示することもできるようになる。高橋先生に実際に使ってもらいながら製品開発を進めている。

 高橋弁護士は大学(経済学部)を卒業後、いくつかの企業で働き、IBMでデータベース関連の仕事などを経験したのちに弁護士の資格を取得したという異色の経歴を持つ。オラクルのデータベース管理者の最上位の資格を持ち、シスコのネットワーク技術者の認定も受けている。AIのような革新的な技術で市場に変革を起こすためには、その市場に詳しいドメインエキスパートの参加が欠かせない。

 5月16日付けの米ワシントンポストは、米国の大手弁護士事務所で、破産関連の業務をアシストするロボット(AI)弁護士が採用されたと報じた。IBMのWatsonという技術を利用してROSSインテリジェンスが開発したROSSというAIは、(もちろん弁護士資格を持つ訳ではないが)経験の浅い弁護士が担当していた仕事を担当することになるという。

 これまで弁護士は、いくつかのソフトウェアを駆使して、法律を閲覧する仕事に多くの時間を費やしていた。弁護士はROSSが抽出した案件に関連する情報をもとに、ROSSと対話しながら検討を進めていくことができる。その過程を学習することによって、ROSSはその能力を向上させていくという。ROSSが破産関連の業務以外に仕事の幅を拡大することは時間の問題だろう。

■弁護士は二極化していく

 野村総研は2015年12月に『雇用の未来』と同様の分析アルゴリズムを用いて、国内の職業について人工知能やロボット等で代替される確率を試算した結果、10〜20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能との推計結果が得られたと発表した。

 2012年に労働政策研究・研修機構が発表した『職務構造に関する研究』に列挙されている601の職業が対象で、もちろん司法書士、行政書士、弁理士なども含まれているが、野村総研が公表したプレスリリースでは、それらは人工知能やロボット等による代替可能性が高い100種の職業には含まれていない。しかしAIは確実にそれらの仕事を自動化しつつある。

 どうやら、日本の弁護士の仕事がコンピュータに奪われることは(しばらくの間は)なさそうだ。しかし、AIを育てて使いこなすことができる弁護士と、そのようなAIの指示を受けて働く弁護士に二極化していくだろう。前者になるには、高橋弁護士ほどのAIやITについての深い知識と理解は必要ではないにしても、AIを積極的に活用して自らの仕事を高度化して行かなければならない。これは司法書士、行政書士、弁理士などが、AI時代の活路を見出すためにも必要なことだ。

■法令・判例データベースの整備が課題

 弁護士の訴訟業務においては、案件に関連する法令や条例、そして過去の判例を抽出することは基本的な仕事だ。

高橋氏 法令は総務省でデータベース化されているが、条例は一部の地方自治体がホームページに掲載しているだけで、それらの仕組みがバラバラで横断的に調べることが難しい。検索可能なものもキーワードによる検索だけが可能で曖昧検索ができない。また判例については、最高裁が選んだ代表例だけが公開されているが網羅性が乏しく、民間が有料で提供しているものも検索性が良いとはいえない。

 京都大学大学院のホームページによると、米国の判例は、その数が膨大であるがゆえに検索システムが極めて機能的に構成されているという。連邦最高裁、連邦控訴裁、連邦地裁 、州裁判所ごとに判例を検索できるサイトがあり、LexisNexisやWestlawなど収録データの網羅性や検索機能の優秀性、速報性などに優れたサービスが存在する。

 政府はIoTサービスの創出支援やAIネットワーク化の推進などに積極的だが、リーガルテックの分野で米国に遅れを取らないように、法令や判例などのデータベース整備にも取り組むべきだろう。



 

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