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聞いてないよ年金改革。結局、年金は今後どうなるのか?プロが解説
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2016.12.02 まぐまぐニュース
先日、衆院本会議で与党などの賛成多数で可決した「年金改革法案」ですが、民進党などの野党は「年金カット法案の強行採決だ!」と激しく反発しています。これを受けて、無料メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんは、「野党の反対が仮に通ったとしても、また数年後にツケが回ってくるだけで、未来の人たちのためにならない」との厳しい見方を示しています。
■年金改革法案可決!これにより、今後の年金はどうなるのか?
年金改革法案が可決しましたね。平成33年からみたいですね。
さて、今回の法案ってたぶん何の事なのかわかりにくいですよね。なかなかこの辺は説明が難しい部分ではあります。結論から言うと、賃金が下がった場合は、年金も賃金の下げに合わせて下げるって事です。
年金は元々、物価や賃金が上下すると年金額もその分上がったり下がったりするものです。今の年金額改定のルールの中で、物価が下がって賃金が下がった時、そして、物価が上がったけど賃金がマイナスになった時の年金額の改定にちょっと問題がありました。
物価よりも賃金のマイナス幅が大きくても、物価の下落分に合わせていました。例えば、賃金が2%下がって、物価が1%下がったなら、下げ幅が小さい物価に合わせていた。また、物価が上がり、賃金がマイナスになると賃金の下げ幅と同じく年金を下げるのではなく、年金額を据え置くという事が起こっていました。
まあ今年の年金額なんかそうですよね。物価は0.8%上がったけど、賃金が0.2%マイナスになったが年金額は下げずに前年と据え置いた。だから平成27年度と平成28年度の年金額は同じになった。どういう事かというと、現役世代の賃金が下がっているけど、年金受給者の年金額の下げ幅は少ないという事になります。現役世代の賃金(年金受給者を支える力)が下がっても、年金受給者の年金給付水準は保たれる事になるわけです。
年金制度っていうのは世代間の合意に基づき、現役世代が老齢世代を社会的に扶養する仕組みであり、この仕組みを引き継いでいくには年金水準は現役世代の賃金とバランスのとれたものでないといけないんですね←ココ重要!!
保険料も現役世代が負担できる範囲のものでないといけない。そうじゃないと、両世代の合意が成り立たなくなって、収支の均衡、制度の安定が図られなくなるんです。
昭和48年に、年金額の水準は男子平均賃金の60%台に維持するという考え方に立ち、また、この時に物価スライド制…、つまり物価が上がれば年金額も上げるって事になりました。
昭和30年代から高度経済成長期に入り、賃金はどんどん上がっていきました。で、年金額も改正のたびにグングン上げていきました。昭和40年に今まで標準的な厚生年金額3,500円だったのを月額1万円に上げ、昭和44年に2万円、昭和48年に5万円(この年から男子平均賃金の60%台の水準となった)、昭和51年に9万円、昭和55年に13万円と…。でも保険料はなかなか引き上げが追いつかず、給付ばかり上がっていきました。
しかし、急激に少子高齢化が進む中、年金水準の維持が難しくなってきたんです。平成の時代になり、現役世代の賃金は上がらなくなり、高齢者はどんどん増えていく中(今の年金受給者は約4,000万人)、年金の給付水準を60%台に保つと、現役世代からますます保険料を取らないとその年金水準は維持できなくなっていきました。
昭和45年から高齢化が本格化し始め、また平均寿命も厚生年金の大改正があった昭和29年には男63歳、女67歳だったのが、昭和55年時点では男は73歳、女は78歳になりました。
将来の年金制度を安定させる為にまず支給開始年齢の引き上げが改正案として出されました。最初の引き上げ改正案が出されたのは昭和55年でしたが反対が強く見送り。その後昭和60年、平成元年と合計3度も年金支給開始年齢を60歳から65歳に引き上げる改正案が、反対で見送られて結局年金支給開始年齢引き上げはやっと平成6年に決まりました。でも実際の引き上げは平成13年から始まったんですね。そして男女とも完全に65歳になるのは2030年。他の国なんて今じゃ67歳とか68歳とかを決めてる中、とってものんびりなんですね日本って。
また平成16年改正の時、保険料のピークが訪れる平成37年には25.9%になり、国民年金保険料も2万9,500円まで上がる事が見込まれました。まあこれでも抑えられたほうだったんですけどね(^^;; こうなると、現役世代の負担はすごく重いものになりますよね。他に税金やらなんやらも支払わないといけないのに。
よって、60%台の年金水準を維持するためにその度に保険料を上げていくというやり方から、平成16年改正で保険料の上限を固定し(平成29年に厚生年金保険料18.3%で上限固定、国民年金保険料は1万6,900円×保険料改定率)、その保険料収入の中で年金水準を確保するという方向に180°転換したんです。
でも保険料上限を決めた以上、年金水準を今までと同じというわけにはもちろんいかない。所得代替率っていうのがあり、男子平均月収に対し、夫婦二人の年金(夫が40年厚生年金に加入して、40年間専業主婦の場合の年金額)の割合を示すものがありますが、今の所得代替率60%台から概ね50%を維持する事を目指すようになりました。
※ 所得代替率についてのマンガ説明(厚生労働省)
18.3%で年金を確保できるのは所得代替率50%ちょいだからです。50%以上を確保というのは年金を生活に機能させるには最低でも50%以上でなければならないとされたから。その為に平成16年にこの保険料上限固定と合わせて、所得代替率を徐々に60%台から50%に持っていくためにマクロ経済スライドというのが導入されました。
※ マクロ経済スライド(日本年金機構)
マクロ経済スライドは、物価や賃金が上がっても、現役世代の人口減少、そして、年金受給者の増加(平均余命の延び)という年金額の負担の増加を抑制するために導入されました。例えば、前々年に賃金が2.3%上がりましたがマクロ経済スライド0.9%分を下げて年金は1.4%の伸びに抑えた。
マクロ経済スライド調整は見た目は年金額は下がらないけど、物価や賃金以上に上がらないから価値が目減りしていく。
これにより、将来、所得代替率を50%ちょいまで持っていき、そこでマクロ経済スライドを終了させて(平成16年改正から順当に行けば2023年終了予定だった)、50%以上を維持する事になったんですが、このマクロ経済スライドは平成16年に導入されたものの去年まで10年間発動しませんでした。
平成16年の所得代替率59.3%は平成26年財政検証時に逆に62.7%に上がってしまった。なぜか? 物価も賃金も上がらないデフレ下ではマクロ経済スライドは発動しないんですね。物価と賃金が上がる事でマクロ経済スライドは発動する。そして厄介だったのは、平成11年から平成13年まで物価が下がった(3年間で1.7%)にもかかわらず、その当時の政府が選挙に不利になる事を恐れて年金額を下げずに年金額を据え置いたという時もありました。
しかし、1.7%の年金過払いが、平成24年には2.5%にまで拡大し、平成23年までの累計年金過払いが7兆円に膨れ上がり、その後毎年1兆円ずつ膨れ上がる見通しになり、この年金過払いの2.5%を平成25年10月から平成27年4月にかけて年金額を下げる事により差を解消して、やっと去年に初めてマクロ経済スライドを発動できました。この差を解消しない限りマクロ経済スライドは発動はできない事になっていたんです。平成27年4月に解消されるまでずーっと本来あるべき年金額よりも高い水準(特例水準という)で年金を過払いし続けていたんです。
このように世代間の公平性や、収支の均衡(保険料の範囲内で年金額を確保)を保つための所得代替率を下げていくためのマクロ経済スライドが10年くらい発動せず、機能しないと収支の均衡が保たれないので、現役世代の力の弱体化(賃金の下げ)に合わせて、年金も賃金の下げ幅にあわせる事が望ましいから、今回の年金改革法案が可決したわけです。
現役世代がギリギリで負担できる保険料の中で、年金額を将来に向かって確保していくためには、長期的に収支の均衡が保たれないといけません。年金というのは、長期的に収支の均衡が保たれないといけないものです。そして一旦支払い始めたらやめるわけにはいかないもの。
マクロ経済スライドがなかなか発動しない中、所得代替率が下がらないのであれば世代間の不公平はなかなか埋まらない。だからこそ、現役世代の賃金が下がった場合はそれに合わせる事が、年金制度を安定させて、給付水準を最低ラインである所得代替率50%以上を確保するには避けて通れないものなんですね。
いつまでもマクロ経済スライドが発動しないのであれば、今の高齢化率27%が2060年辺りに65歳以上人口が40%になるこの少子高齢化の中、年金制度を維持していくのは難しい。年金を維持するため上げるために、もっと将来世代の保険料を上げてぶん取ったほうが良いですか? 別に現役世代と年金受給者どちらの味方なんだ!という話ではなく、冒頭で言ったように世代間の合意に基づき、現役世代が老齢世代を社会的に扶養する仕組みを維持していくために、年金水準は現役世代の賃金とバランスを取ろうって話です。
可決した年金改革法案を、野党は年金カット法案と揶揄してるようですが、まあ表面的な見方をすればそのような例え方にできるかもしれませんが、適切な表現じゃないし、それにそんな例え方は単に世間に不安を与えるだけであります。なんだか野党がプラカード持ってワーワー騒ぐだけ騒いでてよくわかんないけど、カット反対! という文字だけ見てしまうとなんとなく野党が正義の味方のように見えてしまいますよね。議論という感じじゃなかった。
その時その時だけの人達の為に、今まで支給開始年齢の引き上げをすべきなのに何度も反対して見送ったり、物価が下がったのに年金下げなかったり、そんなその当時にやるべき法改正を後回しにしても、結局後で財政が悪化してツケが回ってくるだけなんですよ。むやみに反対して、今回の年金改革法案の反対が仮に通ってたとして「今」だけ都合が良くてもどうせ後にツケが回ってくるんだから…。何事もそうかもしれませんが、後回しにしたってロクな事はありません(^^;;
そのツケは誰が払うのか。そう。未来の人達です。保険料はもう上げちゃダメ! でも年金は上げるか今までと同じく維持してね! …っていう美味しい話が成り立つわけがないです。まるで、家庭に入ってくる収入を超えて借金してまでお金をいつまでも払い続けるようなもんです。これじゃあ家計も破綻しますよね。そんな未来を望むんでしょうか。
※追記
マクロ経済スライドも2018年から強化されます。その年に発動できなかったマクロ経済スライドは翌年以降に繰り越されます。例えば、0.5%賃金が上がり、マクロ経済スライドが0.7%であれば、マイナス0.2%分は来年に繰り越して使う。マクロ経済スライドで年金額はマイナスにはならないので(年金額を見た目では下げない)、使われなかった分は来年にプラスして使うような形。
・今までの年金額改定ルール(参考記事)
● 物価上がってんのになぜ平成28年度の年金上がらないのか。
・国民年金保険料改定率の出し方(参考記事)
● 国民年金保険料は毎年度上がっちゃう!! んだけれど…
image by: 首相官邸
『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』
年金は国民全員にとってとても身近なものであるにもかかわらず、なかなかわかりづらくてなんだか難しそうなイメージではありますが、老齢年金・遺族年金・障害年金、その他年金に関する知っておくべき周辺知識をご紹介します!
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