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日本マイクロソフトはなぜ「女性離職率40%減」を実現できたか ワークスタイル変革の極意
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50341
2016.12.04 越川 慎司 日本マイクロソフト業務執行役員 現代ビジネス
2011年2月の本社移転を機に「ワークスタイル変革」を実行し、在宅勤務や新たな雇用制度を導入。結果、事業生産性は26%アップ、女性の離職率を40%も減らすなどのめざましい成果が上がった――日本マイクロソフト社の取り組みがいま、内外の注目を集めている。
同社の業務執行役員で、「ワークスタイル変革」を主導した越川慎司氏がその成功プロセスをまとめた『新しい働き方 幸せと成果を両立する「モダンワークスタイル」のすすめ』から、その一部を特別公開!
■女性の離職率が40%ダウン!
私が入社した日本マイクロソフトは、新聞や雑誌などで報道されているように、2011年2月の品川への本社オフィスの集約移転を機に、「ワークスタイル変革」を実行し、テレワークを導入するなどして、いち早く“新しい働き方”を実現しました。
テレワークとは、英語の「tele(離れたところで)」「work(働く)」を組み合わせた造語で、ICT(情報通信技術)を活用し、在宅勤務やサテライトオフィスワークなど時間や場所を問わずに働くことを可能にした、新しい働き方のスタイルの総称です。
その結果、日本マイクロソフトでは、ワークライフバランス満足度は40%向上し、事業生産性26%アップ、女性の離職率は40%減り、紙の書類が49%削減されるなどの成果をあげました。そうしたことから、いま非常に注目を集めています。
それにしても、日本マイクロソフトでは、いったいどうして、このような働き方やオフィスをつくることになったのでしょうか。
外資系といっても、働く人の多くが日本人です。慣れ親しんだ「日本式」とはまったく違う方向に行ったのはなぜでしょう。
実は、日本マイクロソフトは、かつてはある意味で「コテコテの日本企業」といえる雰囲気で、「ワークスタイル変革」に着手するまでは、本当にさまざまな課題を抱えていました。
アメリカ本社からも、ワークスタイルの見直しについて何度も指摘されていたものの、「日本はアメリカとは違う」と言い続けて、マインドチェンジができないままでいたのです。実際に、テレワークに反対する役員もいました。
その当時の日本マイクロソフトは、問題だらけでした。「日本マイクロソフトが直面した課題」という図にまとめたとおり、労働生産性は上がらない、コスト効率は低い、女性離職率が高いなど、企業として非常に危うい状況に追い込まれていたのです。
そうした状況に危機感を覚えた経営陣は、本気で「ワークスタイル変革」に取り組もうとしました。
2011年2月に、分散していたオフィスを品川の新オフィスに統合。それを機に、本格的な「ワークスタイル変革」に着手しました。これが、企業文化を大きく変えるきっかけになったのです。
■ITだけでは働き方は変わらない
ただし、単にICTを導入して終わりではありません。「なぜワークスタイル変革をするのか?」という企業としてのビジョンを社員が理解しなければ変革は進まない、と考えました。
「ワークスタイル変革」を実行するにあたって、従業員のマインド、労働環境、人事制度など、変革を阻害するさまざまな要因が次々立ちはだかりました。
「ワークスタイル変革を阻害する要因」という図を見てください。
これは、2015年の「テレワーク週間」において、賛同法人企業各社にご協力いただいて行った意識調査の結果です。2011年に「ワークスタイル変革」に着手した当初の日本マイクロソフトでも、やはり同じような問題が次々噴出しました。日本人が多く勤める企業では、多かれ少なかれ、こうした問題に直面するものです。
日本マイクロソフトでは、これら「ワークスタイル変革」の阻害要因を、愚直に、ひとつずつ潰していったのです。
「ここで立ち止まるわけにはいかない」
経営陣は本気でした。
まずはマネジメント層の意識改革に着手しました。そして、マネジメント層がみずから旗を振り、部門を横断して、若手社員を中心にタスクフォースをつくって、全社をあげて変革に取り組みました。
そうしたプロセスを経て、経営陣だけでなく、すべての従業員がマインドチェンジをしていきました。徐々に、しかし着実に。このアナログの改革プロセスが重要なのです。
その後、ITツールを拡充し、働きやすい環境を整えたことで、企業としての機動力は確実に上がりました。確実にビジネスの成長をもたらしているといえます。
日本マイクロソフトが推進した「ワークスタイル変革」は、その後どうなったか。結果を、「ワークスタイル変革推進の成果」の図にまとめました。変化は一朝一夕に起こりませんが、継続することにより、確実に変革は起きました。
■リスクを解消するための評価制度
「ワークスタイル変革」を進めるにあたって、「テレワーク勤務制度」を取り入れることになりました。その際、いちばん気になったのは、社員が上司の見ていないところで怠けたり、サボったりしないだろうかということでした。
現在、「働き方改革」を進めようとしている日本企業だけでなく、かつては日本マイクロソフトも同じ悩みを抱えたのです。
ところが、実際に「ワークスタイル変革」が実現されたいま、遅刻をしたり、無断欠勤をしたりといった、部下の勤怠を気にするようなことはまったくありません。
私がかつて日本企業に勤務していたときには、毎日朝礼があって、ラジオ体操第二までやっていました。始業時に席にいなければ、すぐ上司の目にとまって怒られたものです。もちろんそういう規律も、チームで仕事をするうえでは必要になる場面もあるとは思います。
しかし、自宅や外出先で働いていても問題なく成果を残すことができ、かつ、チームもしっかり機能するのであれば、時間や場所にとらわれる必要はなくなるでしょう。そこには遅刻もなければ、無断欠勤もありません。行うべき業務を遂行したかしないか、成果をあげたかあげていないか、ただそれだけです。
日本マイクロソフトでは、「テレワーク勤務制度」を採用してからというもの、日本企業によくあるような、始業時間にオフィスにいないからといって懲罰の対象になることはもうありません。コアタイムもないので、エンジニアなどの特定業務に就いている従業員以外は、業務遂行に適切な場所で、自由な時間に働くことができています。
もちろん、従業員には自分の仕事に対する責任がついて回ります。「どう成果を残すか」と考えたとき、モラルの問題は避けて通れません。そこに登場するのが「評価制度」です。
日本マイクロソフトの場合、年度初めに、チームのメンバーは上司に「今年度は、このような定量的、または定性的な結果を残します」と宣言し、四半期ごとに振り返りの場を設けています。
それ以外にも、オンライン/オフライン問わず、2週間に1度、一対一のミーティングを実施しています。上司は、その都度、部下の業務の進捗状況や健康状態を確認しています。
確かに、オフィス以外で仕事をする社員の中には、モラル不足で、勤務時間内であるにもかかわらず、テレビの前で寝転んでいる輩がいるかもしれません。しかし、性悪説に立ってしまうと、自由と責任を与えることができなくなってしまいます。
リスクがあっても性善説をとり、評価制度で確実に管理していくことのほうがフェアであり、企業の生産性という観点から見ても健康的ではないか──それが私たちの考えです。
■勤務表以上に大切なもの
現在、日本マイクロソフトでは、一部の従業員を除き、年俸制の裁量労働制になっています。もはや、かつてのような年功序列制度は存在しないので、年齢や勤務年数が考慮されることもありません。基本給に連動するジョブレベル、それに準じた評価給と成果給がすべてです。
そのために、レベルによる評価基準を「見える化」し、共通認識のもとに評価が行われます。また、評価される従業員に関わった他部門の長などのフィードバックや評価も参考にしながら、直属の上司と人事部が公平に査定しています。
日本マイクロソフトにも、勤務時間制度(フレックスタイム制度)はあります。ただ、2016年5月にコアタイムを完全になくしましたから、何時から何時までは働いていなくてはいけない、という制限はなくなりました。
また、日本の法律に準拠し、勤務表はきちんと提出しなくてはなりません。そのため、1ヵ月に1回、社内サイトにアクセスして、何時から何時まで働いたという勤務表を提出することになっています。
労働時間の申告は性善説に基づいていますが、超過労働が一定量を超えると、上司に警告メールが届きます。警告メールが来ると、人事部を交えて労務衛生上の改善策を話し合うことになります。
ただ、勤務表による警告メールで、人事部を交えて改善策を話し合うことはあまり多くありません。定例の上司・部下の一対一の面談の場で、働き過ぎであるとか、働くうえでの悩みを聞き、面談を通してケアしていくことのほうが多いといえます。
やはり、面と向かったコミュニケーションは強力です。相手の悩みを引き出し(もしくは察知し)、腹を割って真剣な話し合いをすることができます。上司・部下のアライアンス(絆)を強めるだけでなく、「よりアチーブモアな働き方をしよう」というモチベーションの向上にもつながります。
こういったときには属人的な部分での対応が必要であり、企業文化を醸成し、「ビジネスを成長させる」というマインドを持たせたうえで、適切なインタラクション(相互作用)を定期的に行う必要があります。
■その「改革」はなんのため?
実際に、「ワークスタイル変革」は、労働量の確保だけを目指すのではなく、労働の質、つまり全社員が活躍できるように働き方の質を高めることを目標としているのです。
この本来の目標を常に意識していないと、成功には至りません。流行りの「働き方改革」として、制度を整えることばかり考えている企業は、失敗しています。
この2つは似て非なるものだと、私は声を大にして言いたいと思います。
何かうまくいかない要因があったりして、それにいつまでも不平不満を言っているだけでは問題は解決されないですし、その不満を解消するために「働き方改革」をしていては、企業としての業績をあげるのは困難です。これからますます、難しいものとなっていくでしょう。
「福利厚生」的な発想による「働き方改革」では、企業にも個人にもプラスの効果をもたらさない、ということです。
これからは、「正(プラス)」を生み出す人がよりポジティブな状況で働けるように企業文化を変えていき、「負」といわれる人たちも含めたすべての社員を「正のハイパフォーマー」に変えていかなくてはなりません。
「前に進みたい」「成長したい」「成果を出したい」「成功したい」というポジティブなエネルギー、そのプラスのエネルギーを思いっきり発揮できる企業文化、企業制度をつくっていかなければならないのです。
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