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人手不足の時代に本気で考える アルバイト人材育成
【第19回】 2016年11月29日 中原淳 [東京大学 大学総合教育研究センター 准教授]
「すぐ辞めるバイト」は何を考えているのか?
データで見るアルバイトの「早期離職」
(スタッフ)「あれ?店長、なんか暗いですけどどうかしましたか?」
(店長)「じつは、先月入った学生バイト君から『辞めたい』って電話があってね…」
(スタッフ)「え?『彼は見どころがある。一人前に育ててみせる!』って意気込んでたのに…」
(店長)「僕って人を見る目がないのかなあ」
アルバイト採用後、わずか1ヵ月も経たないうちに辞めてしまう早期離職。これこそがまず店長として「出口対策」を考えるべきポイントだ。早期離職率が高い職場には、どのような特徴が見られるのだろうか?また、辞める人たちにはどんな心理が働いているのだろうか?最新刊『アルバイト・パート[採用・育成]入門』から一部を紹介する。
早期離職によるロスは甚大
中原淳(なかはら・じゅん)
東京大学 大学総合教育研究センター 准教授/東京大学大学院 学際情報学府(兼任)/大阪大学博士(人間科学)
1975年北海道旭川生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、米国マサチューセッツ工科大学客員研究員などを経て、2006年より現職。
「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発、リーダーシップ開発について研究している。専門は経営学習論・人的資源開発論。
著書・編著に『アルバイト・パート[採用・育成]入門』『企業内人材育成入門』『研修開発入門』(以上ダイヤモンド社)など多数。
パーソルグループ
日本最大級の総合人材サービスグループ。本書においては、同社のシンクタンク・コンサルティング機能を担う株式会社パーソル総合研究所が、中原淳氏とともに大企業7社8ブランド・約2万5000人に対する大規模調査と各種分析・示唆の抽出を実施している
アルバイトの内定辞退も困りますが、新人研修をしたり、現場での仕事をOJTで教えたりしたあとに、辞められてしまうケースのほうが店長としてはガックリくるのではないでしょうか。
以下では、採用後1ヵ月未満でアルバイトを辞めることを早期離職と定義しています。人手不足に悩まずに済むようになるためには、まずこの早期離職を減らす必要があります。
採用したばかりの新人は、仕事のパフォーマンスの点でも周りのスタッフに及びませんし、仕事を覚えるまでは店長や教育係が教える必要がありますから、職場全体の作業効率を一時的に低下させます。つまり、新人アルバイトは開始1ヵ月未満の期間だけを切り取ってみれば、1人分の働きをすることはまず期待できないのです。
それでも新人を雇うのは、その人が次第に成長することで、職場を助けてくれる心強い仲間になってくれるからです。新人のときにみんなの足を引っ張った分、将来それを取り返してくれることを期待しているわけです。
そう考えてみると、アルバイトの早期離職はきわめて非効率だと言えます。せっかく周囲のスタッフが新人教育の時間を割いても、その「投資」はまったくリターンを生みません。採用にかかった金銭的コスト、教育にかかった時間的コスト、そして再び起こる人手不足によるスタッフのモチベーション低下、新たな求人を出すためのコストなど、そのマイナスには計り知れないものがあります。
離職者の22%は「1ヵ月未満」で辞めている!?
しかし、人手不足に悩んでいる店長ほど、早期離職の食い止めに意識が向かっていません。まずはこの“出血”を止めることから、すべての出口対策ははじまります。
まずは、この早期離職の実像をつかんでおくことにしましょう。「かつてアルバイトをしていたけれど辞めてしまった」という人に、「どれくらいの期間で離職したのか?」を尋ねてみました。その結果が下の図です。
■1ヵ月未満で離職した人の割合(性別・属性別)
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じつに離職者全体の約22%が1ヵ月未満で辞めています。属性別に見ると、早期離職率がいちばん高かったのは高校生(29.3%)、いちばん低かったのは主婦(17.5%)でした。つまり、高校生バイトの3割は1ヵ月未満で仕事を辞めてしまうということです。
しかし、これだけで「学生はすぐ辞める」などと言い切ることはできません。というのも、もともと高校生は春休みや夏休みの期間限定でアルバイトをするケースが多いからです。大学生ほか(短大・大学・専門学校生など)についても同様の理由で、数字が高く出ている可能性を考慮するべきでしょう。
そもそも、最初から「すぐ辞めることになっても仕方ない」と考えているアルバイトは多くありません。つまり、早期離職は職場にとってだけでなく、スタッフ当人にとってもハッピーとは言えない出来事なのです。
実際、多くの人がアルバイト仕事を探すうえでは「安定して長く働き続けられそうかどうか」を重視していることがわかっています。下のデータを見てください。これは「仕事についての考え方」を調査した結果です。
■「長く続ける」重視か、「いろいろ経験」重視か
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このとおり、全体としては6割以上が「1つの仕事を長く続けたい」と考えています。10代に限って言えば、経験が少ない分、「いろいろな仕事をしてみたい」という気持ちのほうが強く出ていますが、やはり最初からすぐ辞めるつもりでアルバイトをはじめる人は決して多くないのです。店長としても、この気持ちに「育成」で応えていかなければなりません。
ある外食チェーンの店長のYさんは、求人の方針について「横綱以外は誰でも採用します!」という言葉を語っていました。これは「応募してくれた人は全員採用する」という意味ですが、なぜここまで大胆なことを言い切れるのでしょうか?これに対し、Yさんはこう答えていました。
「ウチに入ったアルバイトは、全員、必ず一人前に育てる覚悟と自信があるからです」
実際、Yさんのお店のアルバイトの定着率の高さは群を抜いていました。どんな人が応募してくるかは、店長にとってコントロールしづらい事柄ですが、入社に至ったアルバイトが長続きするかどうかは、店長の工夫次第でかなり下支えできるということでしょう。
「ほかの選択肢」があると、躊躇なく辞める
早期離職の引き金となる要素はほかにもありそうです。辞める理由をあれこれと尋ねてみたら「じつは、近くの○○でバイトをすることになりまして…」などと言われたことはないでしょうか?
実際、アルバイトの早期離職率は「次の職を見つけやすいかどうか」によっても左右されます。調査によると、周辺の競合するアルバイト先の数が多ければ多いほど、1ヵ月未満で「辞めたい」と考える人の割合も多くなっていました(下図)。
■競合職場数と早期離職への意識
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ここからわかるとおり、求人時点だけでなく、採用後にも、ほかの職場との競合関係は続いています。せっかく競争に打ち勝って、優秀なアルバイト人材を獲得できたとしても、新人受け入れに失敗すれば、その新人はほかの職場に流れてしまう可能性があるのです。
データを見てわかるとおり、周囲に競合店が5軒以上ある場合は、競合店がまったくない場合(0軒)に比べて、早期に「辞めたい」と考えた人の割合が2倍以上になっています。アルバイト先が密集していたり、交通の便がよかったりする都心部のほうが、注意が必要だと言えるでしょう。
「すぐ辞めない=不満がない」とは限らない!!
このように、アルバイトが1ヵ月未満で早々に辞めてしまうときには、単に仕事への不満といった理由だけでなく、「次の職場を簡単に探せそうか」というような外部要因も大きく関係しています。裏を返せば、早期離職しなかったからといって、そのスタッフが不満を持っていないかというと、そんなこともないのです。この点をもう少し深掘りしてみましょう。
先ほどの図で見たように、1ヵ月未満での離職率が最も低い属性は「主婦」でした。一方、「入社1ヵ月未満で辞めたいと思いましたか?」という質問をすると、下図のような結果が出ました。
■早期離職を検討した人の割合(性別・属性別)
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なんと、主婦は1ヵ月未満で辞めたいと感じている割合がいちばん高かったのです(32.3%)。ここから言えるのは、主婦はかなり早い段階で職場に不満を持ちながらも、辞めずに“我慢”する傾向があるということでしょう。
なぜ主婦は「辞めたい」と感じながらも、実際の早期離職に至らないケースが多いのでしょうか?そのヒントになりそうなのが、下図のデータです。
■アルバイト選びにかけたい期間
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主婦は学生やフリーターよりも比較的長い時間をかけて仕事選びをしています。すでに見たとおり、家族を最優先する主婦は、自分の生活時間に合わせて働けることを重視しますから、通勤のしやすさや勤務時間帯など、いろいろな条件をじっくりと吟味して職探しをしています。そこでしっかりと時間をかけて選び抜いた分、多少の不満があっても、衝動的にアルバイトを辞めたりはしないのではないかと考えられます。
では、「次のアルバイト先の探しやすさ」といったこと以外に、どんな要因が早期離職を誘発しているのでしょうか?
先ほども見たとおり、アルバイトをしている人の30.5%は、入社1ヵ月未満で「辞めたい」と感じています。では、実際に辞めてしまう人と辞めずに続ける人の差というのはどこにあるのか?次回はこのあたりを次に探っていきましょう。
まとめ
□1ヵ月未満の早期離職者は離職者全体の約22%
□全体としては「1つの仕事を長く続けたい」という傾向が強い
□周辺の競合数が多いほど、早期離職を考える人の割合も多くなる
http://diamond.jp/articles/print/106558
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