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ゼロからわかる「金利上昇」というリスク 〜いったい何が問題なの? 日銀と財務省が恐れていること
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/50296
2016.11.28 加谷 珪一 プロフィール 現代ビジネス
トランプ大統領の誕生で米国の長期金利が急上昇し、日本の金利にも上昇圧力が強まっている。米国はすでに量的緩和策を終了しており、金利が上がるのはそれほど不自然なことではない。
だが、日本はイールドカーブ・コントロールという新しい量的緩和策の導入を決めたばかり。方針を転換したのもつかの間、日銀はやっかいな問題を抱え込んでしまった。
この先、十分に景気が回復しないまま金利だけが上昇した場合、財政など低金利で覆い隠されていた問題が一気に表面化してしまう。
日本では財政問題というと、国債が紙切れになるとか、これとは逆に政府の借金はまったく問題ないといった極端な意見ばかりが目に付く。日本の国債が紙切れになると本気で思っている市場関係者はほとんどいないが、金利上昇を心配する人は多い。
この先、本当に警戒すべきなのは意図せざる金利の上昇リスクである。
■一息付いたのもつかの間
「ようやく一息付けると思ったのに」
これが今回の長期金利上昇を受けての黒田総裁以下、日銀幹部の偽らざるホンネだろう。日銀は9月に開催した金融政策決定会合において新しい金融政策の枠組みを決定し、イールドカーブ・コントロールという新しい手法を導入した。
これは量的緩和策の目標を量から金利にシフトし、事実上、追加緩和から手を引くための措置なのだが、日銀の意図が多くの国民に共有されているとは言い難い(それが日銀の意図なのかもしれないが…)。
今回の金利上昇が関係者の肝を冷やしたのは、日銀の意図とは逆に金利の上昇が止められなくなるという、日銀や財務省にとって最悪のシナリオが頭をよぎったからである。
なぜ金利が上昇すると日銀や財務省にとって不都合な状況となるのだろうか。その理由を知るためには、量的緩和策のメカニズムについて、もう一度整理しておく必要があるだろう。
量的緩和策とは、市場にインフレ期待を生じさせ、実質金利を低下させて設備投資などを促すための施策である。日本では20年にわたって低金利が続き、名目上の金利はこれ以上、下げることができない。
名目金利が下がらないなら、市場にインフレ期待を生じさせて実質金利を下げてやればよい(実質金利=名目金利−物価上昇率)。これが量的緩和策の基本的なメカニズムである。
日銀が市場に資金を供給してインフレ期待を生じさせると、通常は金利が急騰して、設備投資などに融資が回らなくなってしまう。そこで日銀が集中して国債を買い入れることで長期金利を低く抑え込む。
インフレ期待と低金利という、通常はなかなか両立しない状況を意図的に作りだすことで、市中のお金が回り出すことを狙ったわけである。
■イールドカーブ・コントロールしかない
量的開始直後は、目論見通りインフレ期待が醸成され、株高と円安が進んだ。ところが物価の上昇は2014年をピークに鈍化。今年に入ってからはむしろマイナスとなる月が多くなり、どちらかというデフレに逆戻りしてしまった。
日銀としては追加緩和を行ってインフレ期待を高めたいところだが、国債買い入れはそろそろ物理的な限界点が近づきつつあるというのが現実だ。
政府が発行する国債の残高は約840兆円。一方、2016年9月30日時点での日銀の国債保有残高は約340兆円なので、数字上ではまだまだ国債を買い進める余裕がある。しかし、銀行は担保として設定している国債を自由に売ることはできないし、生保も将来、支払う保険料の原資として一定数の国債は保有しておく必要がある。
数字の上では国債は市場に残っているものの、実際に売りに出てくる保証はなく、日銀はそろそろ「弾切れ」を気にしなければならないタイミングに入っている。
日銀としては残り少なくなった弾はあまり撃ちたくない。一方で、立場上、量的緩和策を断念したと言うこともできない。そこで急浮上したのが、イールドカーブ・コントロールという新しい手法である。
これは、買い入れ額をコミットするという従来のやり方をあらため、購入額ではなく金利水準に軸足を置くという考え方に立脚している。これまでは、金利の水準に関係なく、年間80兆円分は必ず国債を買うことを市場に約束していた。
だがイールドカーブ・コントロールにおいては、金利が一定範囲を超えて上昇しない場合、日銀が国債を買わない可能性もある。
これは見方によっては、量的緩和策の事実上の撤退戦ということにもなるわけだが、この政策が成立するためには、ひとつの条件をクリアしている必要がある。それは、当分の間、長期金利が上昇しないことである。
金利が低いままであれば、無理に追加緩和をする必要はなく、その中でイールドカーブの傾きさえコントロールできれば銀行の収益も維持できる。
緩和的スタンスを維持しながら、事実上、追加緩和を回避することができるので、時間稼ぎをしたい日銀にとってはベストな選択肢と言っていい。実際、イールドカーブ・コントロールの導入後も、金利は安定して推移してきた。
■実弾としては使えない「指し値オペ」
だが、ここでトランプ大統領の誕生という「想定外」の事態が発生した。
トランプ氏は総額で5000億ドル(約55兆円)を超えるインフラ投資を公約として掲げており、これが実現した場合、米国の景気は拡大する可能性が高い。
しかもトランプ氏は減税という公約も掲げており、インフラ投資の財源は国債に頼らざるを得ない。景気拡大と国債増発が重なるので金利は上昇する可能性が高く、市場はすぐにこれに反応した。10年国債の利回りは選挙前の1.8%台から2.3%になっている。
米国の金利が上昇すると、日本の長期金利もそれにつられて上昇する可能性が高い。実際、米国ほどではないものの、日本の金利も上昇を開始し、とうとう15日には10年物の国債の金利がプラスに浮上した。
こうした事態を受け、日銀は市場価格よりも低い値段で国債の入札を行う「指し値オペ」を実施。応札した投資家はいなかったものの、日銀の意図は伝わり、一旦、金利の上昇は鈍化している。
指し値オペは、あくまで心理効果を狙う作戦であり、市場価格より安く指している限り実弾としての効果はない。市場価格より高く指してしまえば、日銀は無制限の買い入れをコミットすることになるので、こちらも現実的ではない。
今のところ金利が際限なく上がっていく状況ではないものの、今後、金利の上昇が加速するような事態となれば、結局、日銀は追加緩和に追い込まれる可能性もある。
では日銀や市場関係者はなぜこれほどまでに金利の上昇を懸念しているのだろうか。その理由は日本政府の財政問題と日銀のバランスシートにある。
■予算が組めなくなる!?
金利の上昇が、デフレ脱却と景気回復による健全なものであれば何の問題もない。だが景気が回復しない中で長期金利だけが上昇すると、いろいろと面倒なことになる。
これまでは、住宅ローンが順調な伸びを示し、REIT(不動産投資信託)の値動きも堅調だった。一部の個人投資家は巨額のローンを組んでマンションやアパートの一棟買いを行う、いわゆるサラリーマン大家さん業に邁進している。
だが、これらの動きはすべて低金利が続くことが大前提であり、金利の上昇が止められなくなると、一連の歯車が一気に逆転する可能性が出てくる。
さらに大きな問題になりそうなのが財政である。今のところ低金利が続いているので、国債の利払い費用は年間10兆円程度で収まっている。
だが、金利が急騰して仮に5%まで上昇したとすると、理屈上の年間利払い費用は40兆円を突破する。数字の上では、税収のほとんどが利払いに消えてしまい、事実上、政府は予算を組めなくなってしまうのだ(仮に金利が上昇しても、すべての国債が高い金利のものに入れ替われるまでには数年の時間的猶予がある)。
現実にこのような水準まで金利が上昇する可能性は限りなく低いが、まったくあり得ないという話ではない。こうした事情が背景にあることから、日銀や市場関係者は金利の上昇に対して神経質にならざるを得ない。
日銀のバランスシート劣化を懸念する声もある。日銀は2004年度から長期国債の評価方法を低価法から償却原価法に変更しており、国債の価格下落分を損失として計上する必要がなくなっている。
つまり満期まで保有していれば国債価格を気にする必要はなく、取得したコストが額面を上回っている場合のみ、その差分について、毎年均等償却すればよい。
だが金利が急騰し、日銀が保有する国債に事実上、大きな損失が出ているということになると、市場の日銀に対する信頼度が大きく低下するのは避けられない。金利の上昇は避けたいというのが彼等の偽らざる気持ちだろう。
とりあえず日銀の指し値オペは効果を発揮したかに見える。だがこれは言ってみれば「伝家の宝刀」であり、実際に刀を抜くことはできない。
こうした日銀の状況を市場が見透かし、金利の上昇を試すような展開となった場合、日銀はいよいよ実弾を投入せざるを得なくなるだろう。
そうなってしまうと、追加緩和の有無を議論していた半年前に完全に逆戻りしてしまうことになる。政府、日銀とも薄氷を踏む日々が続きそうだ。
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