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人生100年時代の働き方、日本人にこそ必要な5つの対策
http://diamond.jp/articles/-/108102
2016年11月16日 山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員] ダイヤモンド・オンライン
■『ライフ・シフト』が提示する
個人と社会の新しい「モデル」
『ライフ・シフト』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著、池村千秋訳。東洋経済新報社)という本が話題になっている。著者達はロンドン・ビジネススクールの教授だが、長寿化が進行する前提の下で、個人及び社会がこれにどう対処したらいいのかを論じている。
ごく大雑把に言うと、先進国の平均寿命は10年当たり2、3年のペースで伸びており、これまでの、個人の人生が教育時代・仕事時代・引退後と3分割された「スリー・ステージ・モデル」が現実に合わなくなっていることと、これに対する個人の人生モデルのあり方、さらに、社会や企業がこの変化に対してどう対応したらいいのかが論じられている書籍だ。
著者達は、現在の長寿化のペースが続くことを前提とすると、現在の子ども世代は自分の寿命が100歳を超える可能性を十分視野に入れて人生の計画を立てる必要があるという。幸い、今の80歳は、昔の80歳よりも随分元気だが、例えば、65歳で引退して老後の人生を暮らすには、端的に言ってお金が足りないという。
この本の著者は、資産運用でプラスの実質リターンが上がり、老後の必要生活費を最終所得の0.5倍と見積もるなど、計算の細部が異なるが、筆者が本連載(2016年10月19日付)で書いた「人生設計の基本公式」(「お金の不安を解消する『人生設計の基本公式』はこう使う!」)で計算しても結果とその意味は似たようなものだ。
なお、筆者が連載に書いた計算式は『ライフ・シフト』の計算よりもシンプルだが、実質プラスの運用利回りを想定して計画を立てるのではない分、より保守的で実用的には無難だ(それでも「インフレ並み」の賃上げと運用は想定されているが)。なぜなら、そもそも「期待リターン」とは予想される平均のリターンであり、起こると想定される事態の半分はそれよりも悪い訳であって、個人の場合は、自分で自分の運用の失敗(ないし不運)をカバーしなければならないのだから(企業や国に頼れる年金基金よりも条件は厳しい)、人生計画は保守的な前提で作成するべきなのだ。
例えば65歳で引退するとして、現在の中高年(40代以上)は計算上「念のため95歳までの30年間」くらいで良さそうだが、その子供である現在の小学生以下の世代ではやや余裕を見て「105歳までの40年」くらいを老後として想定しておく必要があるだろう。現役期間を同じとすると、現役時代に3割以上余計に貯蓄しなければ辻褄が合わないし、日本の場合ほぼ確実に、他の先進国でもおそらくは、公的年金の支給額は将来減少するので、「将来への備え」の負担はさらに重い。
試しに筆者の方式で計算してみると、22歳から65歳になるまで42年働いて、65歳から105歳になるまでの40年間を「老後期間」として、老後期間に現役時代の平均の0.7倍の生活費で暮らしたいとしよう。公的年金が将来の現役世代の25%程度をカバーすると見積もると(現在の約半分の実質価値だ)、必要貯蓄率は可処分所得の約25.7%と計算される。
これは、いささか重かろう。同じ条件で、75歳まで働くことにして現役を10年延ばして、老後を10年短縮させると、必要貯蓄率は約18.5%になる。これでも楽ではないが、少し現実的になる。80歳まで働くとすると、約15.1%だ。長寿化の現実がお分かりいただけようか。
■現役期間を延ばして
より高齢まで働くこと
「人生設計の基本公式」を見てもらうと分かるが、現役時代の過重な必要貯蓄負担を軽減するには、(1)現役期間を延ばす(同時に老後期間が縮む)、(2)老後の生活レベルを落とす、(3)共稼ぎや副業などで収入を追加する、(4)子どもの教育費など現役時代の生活コストを削減する、(5)資産の運用で稼ぐ、といった方策がある。
これらのうち、(2)の老後の生活費を小さく見積もって「大丈夫だ」と思い込むことや、(5)の資産運用に大きく期待することは、『ライフ・シフト』でも、良くないとされている(筆者も同感だ)。
対策の本命は、必然的に、現役期間を延ばして、これまでよりも高齢まで働くことになる。幸い、同じ年齢で比較すると、かつての高齢者よりも今の高齢者の方が、また、おそらくは将来の高齢者の方が今の高齢者よりも、元気である。
ただし、現在よりも長い現役期間を現在のビジネスパーソンのように働くことを想定すると、(1)ハードに長期間連続して働き続けると疲弊する、(2)現役期間が長期化するとスキルが陳腐化しやすい、(3)自分が選んだ企業や業種が現役期間をカバーするだけ延命できるか不確実だ、(4)現役時代にまとまった余暇や追加教育の時間がなくていいのか、といった問題が生じる。
教育期間を終えた後は、概ね一つの仕事で頑張り続けて現役期間を終えて、その後に長い老後期間を過ごす「スリー・ステージ・モデル(3・0シナリオ)」とは異なる人生モデルが必要なのではないかといのが『ライフ・シフト』の問題意識だ。
詳しくは、本に当たってみて欲しいが、『ライフ・シフト』では、職業人生のスタイルとして、前段階の「エクスプローラー」(放浪などで視野を広げつつ自分の適性・適職を見つけようとする人)、「インディペンデント・プロデューサー」(小さくても自分のビジネスを立ち上げる人)、「ポートフォリオ・ワーカー」(複数の仕事や社会的立場を持つ人)といった独特の職業スタイルが出て来る。また、「3・0シナリオ」だけではなく、職業人生の最後を細くても手堅く延ばそうとする「3・5シナリオ」、職業人生の中盤に働き方を大きく変えようとする「4・0シナリオ」、さらに、職業人生が長期の及ぶことを見越して、見聞を広めるエクスプローラーの時期、小さな起業を試すインディペンデントプロデューサーの時期などを交える「5・0シナリオ」などが提案されている。
「4・0」や「5・0」では、個々のステージ間に「休息と充電」のような期間の必要性が想定されていて、老後ばかりでなく、この間の収入の落ち込みないしは無収入に対する経済的備えも必要になる。もちろん、そうした移行期間は、自分のスキルを磨いたり、健康や活力の回復をもたらしたりする形で、次のステージの生産性を向上させることに寄与すると想定されている。
■日本人はどうしたらいいか?
5つの基本的対策
世界に誇っていいことだが、日本人の寿命は長い。日本人にこそ、真っ先に「長寿化対策」が必要であることは論を待たない。
『ライフ・シフト』に書かれた戦略を日本にあてはめることを考えると、働く年代での教育の過大評価(著者たちが先生だからだろうか)や、職業ステージ間の職業的空白期間の不用意さ(一般に、退職してしまってから転職先を探すのはハイリスクな愚策であり、普通はやってはいけない)などが気になるが、現役期間を延ばすべきこと、複数の働き方を持って時期に応じて組み合わせるべきこと、自分のスキルや健康に対する「投資」が必要なこと、などには概ね賛成だ。
日本にあって個人としてどうしたらいいのかは、子ども世代以前に、筆者自身にとっても切実な問題であるが、基本的な対策は、以下の5点だろう。
(1) 長く働く(75〜80歳くらいまで)覚悟を決める、
(2) 早めに複数の仕事を持ち、特に高齢になってから働ける道を確保する、
(3) 自分のスキルと健康に、折々に時間とお金と努力とを投資する、
(4) 計算の下に将来に備えて現役時代に貯蓄する(運用は投資でもいい)、
(5) 配偶者などとの家計のダブルインカム化、
である。
まず、長く働くためには、働く「場」の確保(雇ってくれる会社ないし自営の場合は顧客の確保)と、その時にも有効なスキルやビジネスの種の養成、心身の健康、などの準備が必要だ。それぞれに対策は異なるが、いずれも長期にわたる準備が必要だ。将来の可能性を狭めないためには、40歳くらいから先を考えて、45歳くらいから具体的に動きはじめるくらいの心構えが必要だろう。
次に、本業以外に仕事を持つ「副業」、本業並みの自営ビジネスや雇われ先を持つ「複業」を、キャリアの早い時期から心掛けておくことが好ましい。
また、スキルへの投資は、継続的に、あるいは折に触れて必要だが、できれば、本業を離れずに辻褄を合わせたい。職を離れることは、経済生活のリスク管理上危険ないし明白な損になることが少なくない。これは、将来も変わるまい。
そして、公的年金は細るし、寿命は延びるのだから、自分で行う貯蓄の重要性は、従来の比ではない。
加えて、複数の家族ないし共同生活者が働いて家計を営むと、稼ぎ自体を豊かにしやすいことに加えて、誰かが不調に陥った時の保険の効果もある。
既に若くない人も含めて、多くの人が、こうした対策の幾つかを着実に実行していくことが必要だろう。
■日本の社会は「ライフ・シフト」に
何を用意すればいいか
長寿化する社会にあって、個人は、戦略を持って、「柔軟な働き方」を実現しなければならないということだ。
世界の長寿化の先端を行く日本の社会は、こうした個人のために何を用意すればいいだろうか。
筆者は、以下の5点を提案したい。
(1)「定年」廃止、
(2)週休3日の普及、
(3)副業解禁の明確化、
(4)確定拠出年金の年齢延長(まず70歳、次に75歳まで拠出可能に)、
(5)共稼ぎを容易にする社会的支援、
である。
まず、能力や貢献に個人差のある高齢者を一律に年齢で差別する「定年」という制度は、倫理的にも問題があるし、高齢者の労働参加を増やしたい目下の国策にも反している。企業に対する定年の禁止は、社会的影響は大きいが、財政支出が不要な景気対策でもあり、社会の方がこれに合わせることが望ましい根本方針だろう。ただし、金銭補償のルール化が必要だが、正社員の解雇規制の緩和が、補完的な制度として必要だ。正社員の解雇規制緩和自体が、雇用市場の流動性を増して、柔軟な働き方をサポートする効果もある。
「週休3日」は、副業を持つ上でも、スキルに投資する上でも、余暇を充実する上でもいい制度だと思う。『ライフ・シフト」には、将来生産力が増し豊かになると労働時間が大幅に短縮されるだろうという、かつてのJ・M・ケインズの予想がなぜ実現しなかったのかに関する興味深い議論があったが、まず、一社に於ける労働時間を短縮するところから始めるのは悪くないように思う。知的な生産性が重要な職種においては、週休2日を週休3日に変更することで失われる生産力は限定的ではないかと推測する。
副業解禁及び政府によるその後押しは、それ自体が正しいことであり、世間を面白くする上でも、個人にとってのリスク低減のためにも、いいことだ。なお、副業の解禁は、就業規則に於ける副業規制を原則として禁止するところまで踏み込むべきだ。「判例では、副業はいいことになっている」というレベルでは役に立たない。
確定拠出年金が、原則として60歳までしか拠出できないことは、現時点で既に深刻な制度的不備であり、高齢者の労働参加促進、投資促進、いずれの国策にも反している。70歳までの延長を早急に実現すべきだろう。
もちろん、女性が働きやすい環境作りが、社会のためにも、個々の家計のためにもプラスに働くことは疑いない。筆者は、例えば東京オリンピックにかける費用を、全国の保育施設や教育費に掛けた方が、よほど国民のためになるのではないか、と常々思うが、日本の「ライフ・シフト」を考えると、その思いがますます深まる。
もちろん、個人は、政策をあてにせずに、できる範囲で長寿化に対処する必要がある。健康で長く生きられること自体はありがたいことなのだから。
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