http://www.asyura2.com/16/hasan115/msg/680.html
Tweet |
心や体が悲鳴をあげるまで働く必要なんかない。仕事は人生の一部でしかないのだから(撮影/写真部・東川哲也)
日本中に蔓延する「過労死寸前」の声 追い込まれた!逃げ出した!もうやめて!〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161114-00000193-sasahi-life
AERA 2016年11月21日号
東京大学を卒業し、社会人として一歩を踏み出したばかりの24歳の女性が、過労のためにうつ病になって、命を落とした。「働くのつらすぎでは」「眠りたい以外の感情を失った」という言葉を残して。彼女だけではない。仕事に人生を乗っ取られてしまうかのような過酷な働き方に苦しむ人が、日本中にいる。日本の職場は変わらなければならない。
* * *
「自分がやらなければ審査が止まり、被災された方に迷惑をかけてしまう。休みたいと考える余裕すらありませんでした」
一井唯史(いちいただふみ)さん(35)は、傷病休職期間切れで、11月5日に勤務先の東京電力を解雇された。
2003年に東電に入社。11年9月には原発事故賠償業務の法人部門に、13年2月には法人部門の賠償を統括するチームに異動になった。統括チームは、当初は6人。専門知識、緻密な分析力、論理的な思考力が求められ、ミスが許されないプレッシャーもあった。1人は心神喪失が激しくなり、4人が別の業務を兼務したことで、一井さんの負荷は急激に増えた。
13年3月の残業時間は89時間。休日の持ち帰り仕事とサービス残業を合わせると169時間。睡眠時間は、1日4時間を切った。6月になると吐き気と視野狭窄(きょうさく)に襲われ、布団から起き上がれなくなった。
7月に賠償業務を離れたが、めまいや記憶障害が続き、9月に「うつ状態」と診断されて休職。一井さんによれば会社は「私傷病」扱いとした。今年10月下旬、労働基準監督署に労災申請し、労働環境の悪化に歯止めをかけたいと実名での告発に踏み切った。東電は「個別の事案」だとして、取材に詳細を明かさなかった。一井さんは言う。
「心身がボロボロになるまで働きました。それでも仕事のせいではないと言うのでしょうか」
●8割超が身近に過労死
今年10月7日、母親の幸美さん(53)の記者会見で、電通の新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が昨年、過労の末に自殺していたことが明らかになった。1カ月後の11月7日には厚生労働省が労働基準法違反の疑いで電通を強制捜査。ネットには、「電通だけじゃない」の声があふれた。
アエラが10月から11月にかけて行った過重労働に関する緊急インターネット調査には111人が回答。「仕事が理由で心身に不調を感じたことはあるか」の問いに83%が「ある」と答え、「電通社員の自殺についてどう思ったか」の問いに「自分には関係のない話だと思った」と答えた人は17.8%しかいなかった。82.2%の人たちには、「過労死」が身近にあった。
日本中で仕事が人々を破壊している。仕事のために心身の健康も家族や恋人も失い、命さえも落としてしまう人たちがいる。
例えば工事費の積算や査定を行う会社に勤めていた男性(26)は、「下請け」として取引先に振り回され続けた。急な仕事で土日はつぶれ、デートもキャンセル。それなのに、手にした残業代は「技術手当」2万円のみで手取りの16万円では生活できず、知り合いの飲食店でアルバイトまでした。
昨夏、とある金曜日の夕方に、取引先から連絡があった。
「計画の変更があったので、週明けまでに図面をチェックして積算をお願いします」
送られてきたのは500ページもの資料。土日に徹夜で作業して間に合わせたが、さらに、
「変更があるので、明朝までに直してください」
期限延長を上司に頼んだが聞き入れられず、男性は「もう知りません」と投げ出して帰宅。泥のように眠った。
翌朝、出勤途中でうずくまり、駅のトイレで吐いた。昼近くに会社に着いたが、職場のドアが開けられない。近くのコンビニのトイレで泣いた。受診した精神科で、うつ病と診断された。
「楽観的な自分が、まさかうつ病になるとは思わなかった」
有給休暇を使って休んだが回復せず、1カ月半後に退職。あと半年で退職後に受給していた傷病手当が切れる。仕事を探しているが、建築業界が怖い。他の業界で一から働くのも怖い。
「友人たちは結婚したり家を買ったりしているのに」
そう思うと、心はどこまでも落ちていく。
●私は能力がないのだ
マスコミで働く女性(30)は職場でひとり、思いつめた。4年前のクリスマスの夜のことだ。
「私、この仕事には向いてない。転職しようかな。死んだら楽になれるのかな」
あこがれて入った会社だ。大きな企画が通って全国を飛び回り、直近の2カ月は休みなし。月の残業は150〜160時間に及んだ。それでも残業は、1日8時間、週40時間を超えて労働者を働かせる場合に労働基準法36条に基づいて労使が締結する「36(サブロク)協定」で定めた上限時間以内で申告するのが職場の慣習。おかしいと思っても、希望の部署に行けなくなる不安から声をあげる人はいなかったという。
能力がないのだと自分を責めるようになり、女性は思わず電話口の向こうの友人に叫んだ。
「会社なんか辞めてやる」
友人は言ってくれた。
「今は正常な判断ができていないから、休んでから考えよう」
約1カ月後、仕事の山を越えたところで5日間の休みを取ってやっと人心地ついた。
「長時間労働を続けていると、正しい判断ができなくなる。電通の高橋さんは、1年で会社を辞めたら『社会人失格』だと思われて今後いい仕事には就けない、と逃げ場がなかったんじゃないでしょうか」
●張りつめたものが決壊
先の建設業界の男性の場合は取引先の無茶なオーダー。このマスコミの女性のケースでは職場の理不尽な慣習。過重労働でギリギリまで注がれたコップの水のように張りつめた人々の心身は、何かをきっかけに決壊し、あふれ出す。地方放送局勤務の男性(47)は、過去の自分を思い出すたびに、そう思う。
当時29歳。記者として活躍していた。夜討ち朝駆けは当たり前。複数の事件を掛け持ち、月の残業が250時間という毎日が1年続いていた。
「ポケベルも携帯電話もポリ袋に入れて風呂に持ち込んでいました。新聞や雑誌を出し抜けると、うれしかった」
明るくおしゃべりな性格で恋人もいた。家族との仲もよかった。だが、彼女と別れ、事業に失敗した父に数百万円を用立てたことをきっかけに家族と気まずくなると、話し相手がいなくなり、孤独に陥った。そして、ネタが取れず苦労するのは日常茶飯事だったのに、
「死んでしまえば、このプレッシャーから逃げられる」
「死ねば言い訳しなくて済む」
という考えにはまり込んでしまった。土曜日に部屋を片付け、日曜日には実家で両親と夕食を取って、月曜日、出勤はせずにロープと精神安定剤を買って、玄関のドアノブで首をつった。連絡が取れないと案じた会社が実家に連絡。夜、父親に発見された。奇跡的に助かり後遺症も残らなかった。男性は訴える。
「高橋まつりさんのことはずっと引っかかっていた。過労によるうつや自殺を心が弱いせいだと思ってほしくない。無理に無理を重ねていると、小さな躓きで大きくバランスが崩れる。誰にでも起こることなんです」
自治医科大学名誉教授の加藤敏医師も、こう指摘する。
「過重労働による不調やうつは個人の性格よりも職場の環境要因が大きい。私はこれを『職場結合性うつ』と呼んでいます。現代社会の仕事の過密さや拘束力は、30年前と比べものになりませんから」
メールや携帯電話ですぐに連絡が取れる。会社の利益が優先される。効率化と経費削減で人員はギリギリ。失敗に対しても不寛容。日本の社会と職場は、労働者の心身の不調を誘う特性を備えてしまったのだ、と。
そしてそのしわ寄せは、経験の浅い若者たちに向かう。
●目標設定が高すぎる
都内に住む30代の男性は、2年前まで広告会社でウェブ広告を担当。「目標」に苦しめられた。
会社はこの分野に力を入れていた。前年同期比140%という目標が設定され、達成できないと朝礼で徹底的にダメ出し。明け方まで働き、また午前7時には出社する毎日。休日出勤も多く、企画書の出来が悪いと責められるので、常に仕事のことが頭から離れなくなった。
「何をしても楽しくない。生きている意味がわからなくなった」
140%を達成すると、目標は150%に。次は180%に。絶望し、転職を決意した。
前出の調査では、パワハラを訴えた人も多かった。
日本精神科産業医協会共同代表理事の渡辺洋一郎医師は、仕事による負荷は仕事の量だけでは測れないと話す。
「仕事量と裁量の有無に加え、同僚や上司のサポートの有無も、人が受けるストレスに大きく影響しています」
行き過ぎた指導や人格攻撃が自尊心を蝕(むしば)み人を壊す、と。
●もう行かなくていい
医療事務として働いていた女性(37)は20歳当時、パワハラにあった。先輩女性に一人では無理な業務量を言い渡され、生産性のない説教が毎日3時間続いた。先輩と仲のいい上長は彼女の報告をうのみにし、面談でこう言い放った。
「人とコミュニケーションできないのは、親にちゃんと愛されてこなかったからでしょう」
確かに両親は厳しかったし、忙しかった。私は愛されてこなかったの? 次第に自信を失い、いじめ抜かれた末に異動になったが、立ち直れずにめまいを発症。ある夜、実家に電話をかけて泣きじゃくった。
「今すぐ、帰ってきなさい。もう職場には行かなくていい」
翌日、荷物をまとめて実家へ。父は職場からの電話も取り次がず、対応してくれた。
「あのとき逃げなかったら、私もどうなっていたか。父が助けてくれたんです。つらい時もただ黙って抱きしめてくれた」
現在は人間関係にも恵まれ、情報サービス関連会社で働く。
過重労働の原因は、職場の機能不全や上司のスキル不足にあるという声も多く寄せられた。 園長が代わった途端に職場がブラック化したというのは、元幼稚園教諭の女性(47)だ。
「思いつきで指示を出す。お遊戯会の前日に、衣装や大道具を作り直せと言うんです」
あっという間に労働時間が長くなった。何より耐えられなかったのは、準備もなく障害児を受け入れたことだ。補助金欲しさとしか思えなかった。
「子どものことをちゃんと考えれば受け入れ態勢を整えるべきです。経験者もいないのに研修も設けず、きれいごとばかり」
大好きだった子どもを見るのもつらくなり、退職を決意した。その年、彼女のほかに2人がその園を辞めた。
「小さな職場は、経営者や一人の上司の資質に左右されてしまう。苦しんでいる人は多いのではないかと思います」
11月は過労死等防止啓発月間だ。高橋まつりさんの件などで強制捜査を受けた電通は「22時消灯」を続けている。だが、仕事量や働き方を見直さなければ意味がない。
●今度こそ変わらなきゃ
長時間労働が常態化していた前職を辞め、香港の会社に転職したSEの男性(37)は言う。
「現職と前職では仕事量がまるで違う。いまの上司から渡されるのは、週40時間の労働に見合う量。残業はしないのが普通で、残業する人は仕事ができないという風潮にもなります」
ドイツでコンサルティングの仕事をする女性(33)は日本で働いていた当時、上司に社則の暗唱や夜の会食を強要された経験がある。日独では、管理職の意識と役割が違うと感じる。
「ドイツでは管理職に部下の仕事をコントロールする責任があって、終わらなかった仕事も抱え込む必要はありません」
日本は、国際労働機関(ILO)の常任理事国だが、1日もしくは1週間の最大労働時間を定めた条約を批准していない、長時間労働大国だ。過労死や労災問題に詳しい玉木一成弁護士は、多くの日本企業に労務管理の意識が欠落していることを問題視する。
「労務管理は経営者と管理職の最も重要な職務であり責任。業務量が多いなら、人を増やすか業務を取捨選択する。本来、長時間労働にはコストがかかるが、サービス残業、裁量労働制やみなし残業制を乱用し、『残業させても対価を支払わなくていい』という発想が染みついている」
今度こそ、変わらなければ。
(編集部:熊澤志保、深澤友紀、野村昌二)
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民115掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。