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「ベーシックインカム」は福祉の切り札になるか
1分で読める経営理論
2017年から、フィンランドやオランダで実験段階へ
2016年11月7日(月)
エンリケ・ダンス
欧州の一部の国でベーシックインカム制度実施へ
ベーシックインカム(基礎所得保障)制度の実現に拍車がかかってきた。ベーシックインカムとは失業手当や身体障害者への経済的援助、生活保護などといった、一定基準を満たした者が受け取れる現行の「条件つき給付金」の進化した形として提唱されているシステムだ。所得や能力、資産に関わらず無条件で、最低限の生活を送るために必要なカネを、すべての人に定期支給する。
2016年5月、スイス・ジュネーブ市内のプランパレ広場で、ベーシック・インカム(基礎所得保障)制度の導入を目指す活動家らが巨大なポスターを作り宣伝活動を行った。しかし翌6月、スイスでベーシック・インカム導入を巡り国民投票が実施されたものの否決された。(写真:ロイター/アフロ)
ベーシックインカムは、社会福祉の切り札とも、カネのバラマキとも言われ賛否が分かれてきたが、欧州では実際に2017年からベーシックインカムの社会実験が相次いて始まる。今、最も注目を浴びているプロジェクトは、フィンランド政府によるベーシックインカム制の施行である。来年から、無作為に選ばれた2000人から3000人のフィンランド国民(成人)が月額560ユーロ(約6万4000円)を支給されることになる。支給における条件は皆無だが、この手当は失業手当等の現行の公的手当に取って代わるものとなる。
560ユーロとは国民年金の最低支給月額と同一だ。この試験的実施は2017年と2018年に行われるが、実際に実施することにより「ベーシックインカム制度が、はたして貧困層の減少につながるのか」「煩雑な事務手続きをなくすことができるのか」「社会的に疎外された人々を救済できるのか」「それと同時に雇用が増えるのか」──を検証する。
社会福祉手当の支給システムを単純化する狙い
フィンランド政府の意図はまず、社会福祉等の手当の支給システムを単純化することにある。「援助金受給資格があるかどうか」「申請に不正がないか」といったことについて、絶えず監視している現行のシステムから、無条件に一定額を毎月支給し、貧困レベルからの救済を保証するシステムに変更するのが目的。
フィンランドの施策よりも小規模ではあるが、オランダでもユトレヒト市で同様の試みが2017年1月から実施されるし、カナダのオンタリオ市やケニヤでも準備段階に入っている。また米国カリフォルニア州のオークランドでは、起業家の養成機関として有名な企業、Yコンビネーターの主導によりベーシックインカムの導入が検討されている。
無条件にベーシックインカムを支給して雇用を増やせるのか? まず誰もが思い浮かべる疑問は、無条件にお金をもらってしまったら仕事への意欲が失せるのではないかということだ。怠け者にカネを払うことにならないか? しかしこの固定観念が実は誤りであることを証明する例は多い。
失業手当の受給者が“闇”で働くことを抑止する
現行では種々の公的手当を受け取るためには、一定額の収入を越えてはならない。もし、収入が増えれば手当はストップする。失業手当に関して言えば、仕事を見つけて失業状態から脱すれば失業手当の支給がなくなるため、それを避けて、隠れて“闇”で働くことになりがちだ。そうなると、その人の労働から国家に入るはずの税収がなくなってしまう可能性が高い。
シンプルな例を一つ挙げることとする。スペイン・マドリードで、年間4500ユーロ(約51万5000円)の生活保護を受けているある市民が年収7200ユーロ(約82万3000円)の仕事を手に入れたと仮定しよう。失業手当と比較すると月額2700ユーロ(30万8000円)の増収となる。だが、もちろん就業するので実業手当受給はストップとなる。その上、税金を引いた後の実収入は額面の62.5%となってしまう。
いつ貧困層に落ち込むかもしれぬ労働者に、こんな所得税率を適用する意味があるのだろうか。こんな状況では、失業手当を受け取っている間は税金から逃れられる“ブラック”な仕事をするか、確定申告をしないという選択をするというのも理解できる。
失業手当を受け取りながらも闇で働くことをとどまらせるための何かいい方法は、あるだろうか?
無条件に定期的に手当を支給してこの人が貧困層に陥らない、という生活のベースをまず作り、その上で労働で得た額面からきちんと税金を収めてもらうという生活に移行してもらう方が、受給者にとっても社会にとっても意味があるのではないだろうか。
人工知能や機械化が、仕事を奪っていく近未来
今後、さらなる機械化や人工知能などのソフトウエアによって生産性が向上し、仕事自体が減って行くと考えられている。それがために職を失った人の多くは、貧困層に落ちる可能性がある。そしてその時、社会福祉手当の支給の条件は収入が全く無いことが証明できること──。そんな状況が普通になる可能性をふまえて、我々はこれから持続可能な未来をどうデザインしていけばよいのだろう。
これまで見てきたように、失業手当は「支給条件」を設けることで新しい仕事を探す意欲を削いでしまっている可能性がある。失業手当を受給している人が働き始めると手当の支給が止められたり削られたりするため、働く意欲をそいでしまう。これにより、むしろ貧困からの脱却が難しくなる「貧困の罠」の問題を内包していると言われる。
似たようなケースを挙げれば、スペインの場合、年金を受け取っているライター(作家)にある一定額以上の著作権収入が入った場合、年金支給はストップする可能性がある。しかし、保険料を長年支払ってきた年金の支給を国家が停止してよいのだろうか? このカネは厳密に言って国民のものだ。
社会保障の受給に「条件」を設けると経済活動が停滞する
このように生活保障受給に「条件」を設けると経済活動が停滞する。前に述べたライターの例では、まだ書けるのに書かなくなってしまうという事態が起こるかもしれない。受給者の経済活動に関係なく無条件で年金を支給すべきではないのだろうか。
ベーシック・インカムの提唱者は、思想的に「左」でも「右」でもない。ただ未来を見ているだけだ。人工知能などといった新しいテクノロジーが雇用を奪っていく近い将来を見据えて、ブルーカラーや単純労働だけではなく、全ての労働者にとってこの新しいシステムは解決策となり得るかもしれないと、私は考えている。
このコラムについて
1分で読める経営理論
スペインのIEビジネススクールで教える教授陣が、経営や社会、テクノロジーなどをめぐる最新の話題について分析・紹介するショートエッセイです。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/283738/102600032
【社説】トランプ大統領というギャンブル
政策は期待できるが、人格に問題があることは明らか
ノースカロライナ州セルマでの集会で演説するトランプ氏 ENLARGE
ノースカロライナ州セルマでの集会で演説するトランプ氏 PHOTO: GETTY IMAGES
2016 年 11 月 7 日 10:04 JST
ドナルド・トランプ氏を支持するべき理由は政治の混乱にある。破たんした米国の政治を改革し、公共の利益を改めてその中心に据える必要がある。となれば、いずれの政党にも借りがないアウトサイダー以上にこの仕事をうまくやれる人間がいるだろうか。ただこれが、確たる信念を持たず、国際情勢についてほとんど何の知識も持たない、人格に問題がある人間でなければよかったのだが。
***
「トランプ政権」を実現するための頼みの綱は、トランプ氏なら米国経済を解き放ち、再び成長を加速させられるかもしれないと本人がその気になっていることだ。トランプ氏が大統領になれば、新しい数多くの規制を停止し、より自由な医療保険市場を復活させ、米国のエネルギー生産を解放し、税法を改革するだろう。成長は最優先課題となるだろう。この10年、進歩主義者たちが所得の再配分にこだわり、過去70年で最も鈍い経済回復を経験した米国にとって、何よりも必要なのは成長である。
共和党が議会を握ったとして、下院共和党は既にこうした改革案の多くを法案にまとめている。トランプ氏はこれらの法案を自身の改革政策として採用し、さっそく大統領としての仕事に取り掛かることもあり得る。共和党が上院で多数派となれば、死去したアントニン・スカリア連邦最高裁判所判事の後任に公表済みの候補者リストの人物を充てることもできる。多くの有権者にとっては、最高裁の未来だけでもトランプ氏を支持する十分な理由になる。
トランプ政権下で1980年のような経済再生を期待できるかもしれない。ただ、トランプ氏はロナルド・レーガン氏ではない。レーガン氏は首尾一貫した、確固たる世界観を携えて大統領の座に就いた。その世界観は何十年にもわたる読書の蓄積と州知事としての経験によって培われたものである。トランプ氏が読書に勤しんでいるようには見えない。トランプ氏は会話やテレビから得た知識を自分のものにする。そして一貫した哲学を持っていない。
それゆえ、どの大統領も直面する衝撃的な出来事や予想外の出来事にトランプ氏がどう反応するかは予想しづらい。政策に関してトランプ氏は、貿易とはゼロサムゲームであり、米国は国際貿易によって損失を被っていると強く確信しているようだ。しかし貿易協定からの脱退や輸入関税の導入、海外に投資する米国企業の処罰といった公約を実行すれば、景気後退を招く恐れがある。トランプ政権の経済運営では、成長を後押しする国内改革と成長を阻害する通商政策がせめぎ合うことになるだろう。
***
トランプ氏を大統領にすべきではない最大の理由は、民主党ヒラリー・クリントン候補が指摘しているように、その気性と政治的な人格に関係している。トランプ流の政治とはイデオロギーに基づくものではなく、ほぼ完全に個人的なものである。トランプ氏は批判に過剰反応し、個人的確執を大いに楽しむ人間だ。
オバマ大統領の最大の失敗は、意図的に対立が起きるような型での政権運営だ。そしてトランプ氏も同じようなやり方で選挙運動を行ってきた。共和党が勝てるはずの選挙でトランプ氏が敗北するとすれば、その理由の1つは乱暴な発言で女性や少数派、若年層に不快感を抱かせたことだろう。トランプ氏は不都合な真実に遭遇すると無視したり、ねじ曲げたりする。トランプ氏は良い点を指摘することがあっても、それを誇張するせいで、国民を説得することは難しくなる。しかし大統領には人を説得する能力が欠かせない。
「ネバー・トランプ」(反トランプ運動)の主張で最も説得力に欠けるのは、トランプ氏が独裁主義者として政府内部で大暴れするというものだ。この主張は、特に共和党出身の大統領にとっては足かせとなる米国政治のチェック・アンド・バランスを無視している。トランプ氏が勝利すれば、メディアはオバマ時代のまどろみから目覚めて、猛烈な勢いでトランプ政権に付きまとうだろう。官僚機構はトランプ氏が送り込む政治任用者に抵抗し、メディアと手を組んで国民の反発をしかけるだろう。
特に保守派が現実的な問題として懸念しているのは、トランプ氏が候補者であったときと同じように大統領就任後も行き当たりばったりで、公約通りに政治を変えられないことである。トランプ氏は国民の半分以上に嫌われた状態で政権をスタートさせることになる。しかもトランプ氏のアドバイザーのほとんどは政府で働いた経験がない。失態が続いたり、就任早々に景気後退が訪れたりすれば、2018年の議会選挙で共和党は一掃される恐れがある。2020年に進歩派一色の政府が復帰する手助けをすることにもなりかねない。
もう1つのリスクは、トランプ氏の底意地の悪い発言によって目覚めた政治的右派の負の衝動によるものだ。ポピュリズムにはそれなりの使い道があり、メディアが描くトランプ支持者の単純化したイメージからは、彼らが多様で、概して善良な存在であることは伝わってこない。しかし民族や階級にあまりにも深く根差したポピュリズムは危険だ。
トランプ氏を取り巻く(保守系ニュースサイト)「ブレイトバート」の仲間たちは議会共和党に対して怨念を抱いている。彼らを突き動かしているのは長年の恨みつらみで、それが白人のアイデンティティに基づく政治活動に転化している。もしトランプ氏が大統領としてこうした感情を容認すれば、国内で対立が進み、一世代にわたって非白人を敵に回すことになるだろう。
そしてトランプ氏が大統領になった場合、最も読めないのが外交政策と安全保障政策である。幸い、トランプ氏はオバマ時代に削られた米国の防衛を立て直したいと考えている。トランプ氏はイスラム過激派のテロの脅威に対し、オバマ氏よりも率直に発言し、強気な姿勢を取るだろう。
しかし、皮肉なことに、トランプ氏はオバマ氏と同じく、米国を世界的リーダーの立場から降ろそうとしている。「ISIS(イスラム国)を徹底的に爆撃する」ことと「原油を奪う」こと以外に、トランプ氏が中東政策について考えがあるかどうかは分からない。国際情勢について新人のトランプ氏は珍しくアドバイザーに頼ることになりそうだ。トランプ氏が彼らの話に耳を傾ければ、の話だが。
トランプ氏はロシアのウラジーミル・プーチン大統領と親しいようだが、ロシアが中東や欧州、そしてサイバー空間で侵攻していることを考えると、特に困った問題だ。ブッシュ前大統領とオバマ大統領もプーチン氏の報復主義を甘く見ていたが、ロシアの行為にトランプ氏はあまりにも無頓着すぎる。トランプ氏は米国という要塞に引きこもりたがっているが、そのような姿勢では、ロシアや中国、イランの攻撃的姿勢を助長することになりかねない。
***
ウォール・ストリート・ジャーナルは1928年以来、大統領候補への支持表明は行ってない。ロナルド・レーガン氏への支持を表明しなかったのだから、クリントン氏やトランプ氏のために支持表明を復活させるつもりはない。そうはいっても、2人のうちどちらかは次の大統領になる。選択肢は、ヒラリー・クリントン氏が指揮する純然たる進歩派政府の下でまた4年間、予測可能ではあるものの膨大なコストを受け入れるか、ドナルド・トランプ氏という政治の世界では無名の人物に賭けるか、の2つである。
米大統領選特集
【社説】クリントン大統領の代償は
米大統領選当日、速報は何に注目すべきか
クリントン氏メール問題、早わかりQ&A
米大統領選、株価は「トランプ氏勝利」を示唆
http://jp.wsj.com/articles/SB11842517604067003472604582421161510771718?mod=wsj_nview_latest
トランプなら1930年代のブロック経済再来も
もしトランプが大統領になったら…
早稲田大学の浦田秀次郎教授に「もしトラ」を聞く
2016年11月7日(月)
白壁 達久
いよいよ火曜日に米大統領選が実施される。民主党のヒラリー・クリントン候補の優勢が伝えられるが、共和党のドナルド・トランプ候補も支持率を盛り返している。トランプ候補は環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を明言。「もし、トランプ氏が米大統領になったら」、米国はどうなるのか。また、日本にはどんな影響が想定されるのか。TPPや自由貿易について詳しい早稲田大学大学院の浦田秀次郎教授に「もしトラ」について聞いた。(聞き手は白壁 達久)
日経ビジネスオンラインは「もしトランプが大統領になったら…」を特集しています。
本記事以外の特集記事もぜひお読みください。
トランプ氏はTPP離脱、NAFTA脱退を示唆
浦田 秀次郎(うらた・しゅうじろう)氏
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授 1950年埼玉県生まれ。73年慶應義塾大学経済学部卒業。78年、米スタンフォード大学大学院博士号取得。同年にシンクタンクの米ブルッキングス研究所研究員に。81年に世界銀行エコノミスト、88年に早稲田大学社会科学部助教授を経て、2005年より早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。専門は国際経済学、開発経済学(写真は北山 宏一)
米共和党のドナルド・トランプ候補は、環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱を公約に掲げています。自由貿易について詳しい浦田さんから見て、「もしトラ」が実現したら、世界はどうなるとどう見ますか。
浦田秀次郎氏(以後、浦田):トランプ候補はずっとTPP反対の立場ですね。それだけではなく、北米自由貿易協定(NAFTA)についても反対を主張している。米国はNAFTAによって非常に大きな被害を受けていると強調しています。NAFTAにTPP、自由貿易に対して一貫して反対する立場ですね。
もしトラが実現すると、米国はNAFTAから脱退し、TPPからも離脱するでしょう。日本は時間をかけて国内での議論を繰り返し、国内での道筋をようやく作った(編集注:取材は、TPP法案が衆院を通過する前に行った)。だが、米国が離脱すると、TPP自体が崩壊する可能性がある。
トランプ氏は「強い米国」を復活させると公言している。その核となるのは強い経済だろう。だが、自由貿易を否定しては、その実現は困難なものになると考えます。米国がNAFTAから脱退する、あるいはTPPに参加しないということになれば、同国の経済成長率は現状と比べて低くならざるを得ないでしょう。
米国経済が伸び悩めば、世界経済に負の影響を及ぼす。負のスパイラルが動き出す可能性がある。
「負のスパイラル」とはどのようなものでしょう。
浦田:自由貿易に否定的な国が増え、自国の産業を守ろうとする保護主義が台頭します。そうなると、為替の引き下げ競争や、関税の引き上げ競争が生じます。
貿易が減れば、世界の生産も減ることになる。結果的に、世界経済の縮小につながります。
第三次世界大戦勃発のリスクも
近年はグローバル化が急速に進み、世界経済が飛躍的に拡大してきました。過去の歴史に学ぶことはできないでしょうか。
浦田:同じような現象は過去にもありました。現在の構図は、1930年代の世界経済と似ています。各国が保護主義に走り、貿易が縮小。自分の国で作った商品や製品を海外に売るのが困難になる「ブロック経済」が広がった。
国内市場だけでは生産したものがさばけない。そこで大国がどう動いたか。「植民地」拡大という形で新たな市場獲得に動き出したのです。それが「世界大戦」へとつながっていったことはみなさんご承知の通りでしょう。
負の経験、これは絶対に忘れたらいけないと思います。
「もしトラ」が第三次世界大戦を引き起こすかもしれない。
浦田:それは分かりませんが、そのきっかけを作り得るかもしれなません。グローバル化が進んで、経済の相互依存が深まり緊密の度を高めてきました。一国の状況あるいは政策がほかの国に伝播するスピードも速くなったし、規模も大きくなった。ひょっとしたら1930年代よりももっと急速に負の影響が世界中に波及するかもしれません。
世界は第二次世界大戦後、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)やWTO(世界貿易機関)の下で自由貿易の道を開いてきました。自由貿易は世界経済の規模を拡大し、豊かにしてきた。ですが、トランプ氏はその恩恵を否定する。
米国が離脱すればTPPは事実上崩壊するでしょう。TPPは自由貿易協定の中でも、非常にレベルの高い枠組みとなっています。
TPPがなくなって動き出すのは中国です。国有企業改革が進まない中国が、自国に都合のいいようルールを作ってアジアに広めたら、日本企業や日本経済全体が大きなダメージを受けます。対岸の火事では済まされません。
米国に限らず、内向きな政策を取るリーダーを選ぶ国が増えているように感じます。
浦田:たしかに、内向きなリーダーが増えていますね。ただ、その背景はそれぞれ異なると感じています。
米国のように、所得格差の問題が貿易政策に影響を与えている国もあれば、中国のように、権威主義的な国が一般国民が抱く政府への不満の意識をそらすために、保護主義的な貿易政策を採る国もあるでしょう。いずれにせよ、世界の多くの国が以前に比べて保護主義の政策を採る傾向が強いのは事実だと思います。
ただ、トランプ氏のように保護主義を掲げて経済を強化するのはやはり限界がある。分かりやすいのが、米国の自動車産業です。
ビッグスリーに代表される米国の自動車産業は、ずっと保護されてきました。以前よりは経営革新も進み、一時の最悪の状況よりはマシになったかもしれませんが、日本や欧州の自動車会社と競争できるレベルになっているとは言い難いです。その理由の一つは保護政策が続けられてきたからだと私は思います。
日本の農業も同じですね。
浦田:そうです。保護政策は海外からの競争圧力を軽減させる。プレッシャーが制限されるため、新製品の開発や新技術を創出しよう、あるいはより良いサービスを生み出そう、生産効率を上げようという発想がどうしても乏しくなる。それほど頑張らなくてもいいわけですから。その間、海外のライバルたちはどんどん自分を磨いていく。
競争力のある産業を創り上げるには、今、自由化されていない産業ならば「これから自由化していくんだ」というメッセージをその産業に伝えなければなりません。ですが、トランプ氏が唱える政策はその流れに逆行します。
トランプ氏の方針では、「強い米国経済」はいつまでたっても実現できません。保護というのは、一度できてしまうと既得権を持つ人たちが生まれる。それを取り上げるのは非常に困難です。
問題は「所得の再分配」にある
トランプ氏を熱烈に支持する人が少なからずいる背景には、米国内において自由貿易への不満があるからではないでしょうか。
浦田:自由貿易によるデメリットがないとは言いません。確かに、一部の地域や産業において、マイナスの影響が出るのは確かです。ただ、それを上回る恩恵を受けられるのが自由貿易です。
反自由貿易が支持される背景には、格差の拡大があるのでしょう。ただ、問題の根幹は、自由貿易が生み出した利益を一部の階層が多く受け取っているところにある。つまり、自由貿易=悪ではなくて、再分配の仕方に問題があるのです。ここを改めるべきでしょう。
具体的にどのような再分配をすればよいのでしょう。
浦田:例えば、教育として還元する。
自由貿易によって仕事を失う人が出てくる。ならば、自由貿易で得られた利益の一部を、彼ら彼女らへの教育に再投資する。ほかの仕事ができるようスキルを身に着けさせるのです。
民主党のヒラリー・クリントン候補もTPPに慎重です。米国の中で、自由貿易に対する議論がもっと膨らんでもいいのかなと思います。
浦田:自由貿易で得られるメリットが一般の人々にきちんと伝わり切っていないのも問題です。モノが安く買えるようになる、あるいは購入できる品物の選択肢が増えるといったメリットは、日ごろ当たり前に享受しています。ただ、当たり前すぎて、そこに目が届きにくい。
一方で、自由貿易によって被害を受ける人たちの声はハッキリと目に見える。失業や生産縮小、倒産――。非常に深刻な被害が目に見えます。当事者にしてみれば絶対に回避したいと思うでしょう。分かりやすいデメリットと分かりにくいメリット。この非対称性が背景にあるのではないでしょうか。
まずは格差の解消。もしトラになった場合、自由貿易を否定するのではなく、自由貿易がもたらすメリットを理解し、デメリットを解消する方向に動いてほしいものです。
このコラムについて
もしトランプが大統領になったら…
米大統領選の投票日、11月8日まで、レースは秒読みの段階に入った。
共和党の候補、ドナルド・トランプ氏には女性蔑視発言という新たな“逆風”が加わった。
共和党の重鎮たちの間で、同氏を見切る発言が相次いでいる。
だが、トランプ氏はこれまで、いくつもの“試練”を乗り切ってきた。
米兵遺族を中傷する発言をした時にも、「タブーを破った」として評価を下げたが、いつの間にか、民主党のヒラリー・クリントン候補の背中が見える位置に戻ってきた。
クリントン氏が再び体調を崩すことがあれば、支持率が逆転する可能性も否定できない。
「もしトランプが大統領になったら…」。
この仮定は開票が済む、その瞬間まで生き続けそうだ。
日経ビジネスの編集部では、「もしトランプが大統領になったら…」いったい何が起こるのか。
企業の経営者や専門家の方に意見を聞いた。
楽観論あり。悲観論あり。
「トランプ氏の就任が米国の『今』を変える」との意見も。
百家争鳴の議論をお楽しみください。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/101200023/110400018/
仮想現実で老後の蓄えを増やせるか
老いた自分のVR写真を見ると貯蓄が増えるとの研究結果
VRの鏡で将来の自分の姿を見た被験者が退職後のために投資した金額は、鏡で現在の自分を見た被験者が投資した金額の2倍以上に達した ENLARGE
VRの鏡で将来の自分の姿を見た被験者が退職後のために投資した金額は、鏡で現在の自分を見た被験者が投資した金額の2倍以上に達した PHOTO: THE VIRTUAL HUMAN INTERACTION LAB AT STANFORD UNIVERSITY
By MADDY DYCHTWALD
2016 年 11 月 7 日 12:17 JST
――筆者のマディ・ダイトワルド氏は作家。シンクタンク兼コンサルティング会社「エージ・ウエーブ(Age Wave)」の共同創設者でもある。
***
未来にタイムスリップして、自分の人生が20年後、30年後、40年後にどうなっているかを見ることができるとしたら、どうだろう。いわばバーチャルなタイムトラベルだ。それは退職後に向けてより効率的に貯蓄するための、より早期に貯蓄を始めるきっかけとして最適なツールになり得ることが分かった。
米国民が老後の蓄えに関する危機に直面していることは皆知っている。人々はかつてないほど長生きするようになっているし、米国の貯蓄率は先進国の中でどの国よりも低い。加えて、大半の雇用主は年金制度を確定給付型から確定拠出型に移行している。われわれの大多数は、老後の蓄えの準備において個人的に責任を負っていることが明確になりつつある。
われわれはこうしたことを知っているものの、うまく対応できているとは言えない。多くの専門家は、問題の大半を占める要素が心理的なものである可能性があるとみている。つまり、20代や30代の頃は自分が65歳や95歳になったときの生活を想像さえできない。想像ができないと、対策をとらない公算が大きくなるということだ。
では、とりわけミレニアル世代の人々に退職後向けの貯蓄について考えてもらうには、どうしたらよいのだろう。カリフォルニア大学ロサンゼルス校アンダーソン経営大学院のハル・ハーシュフィールド教授は、人々を将来の自分と接触させることが将来のために貯蓄する意欲に影響を及ぼすかどうかを調べた。研究は、マイクロソフトが設立した研究機関「マイクロソフト・リサーチ」のダニエル・ゴールドスタイン氏、スタンフォード大学バーチャル・ヒューマン・インタラクション・ラボのジェレミー・ベイレンソン所長らと共同で行った。
研究チームは大学生の被験者の写真を撮り、半数をデジタル加工して65歳時点のアバター(分身)を作成。頬を垂れさせ、目の下をたるませ、髪を白髪交じりにする加工を施した。被験者はゴーグルとセンサーを与えられ、バーチャルリアリティー(仮想現実、VR)の世界にいざなわれた。鏡には現在の自分か将来の自分が映る。実験の一環で、被験者はそれぞれ1000ドル(約10万4000円)を与えられ、それを使うよう指示された。そのお金で、特別な誰かにプレゼントを買ってもいいし、退職後のために投資しても、楽しいイベントを企画してもいい、あるいは当座預金に入金してもいいとされた。
VRの鏡で将来の自分の姿を見た被験者が退職後のために投資した金額は、現在の自分を見た被験者が投資した金額の2倍以上に達した。この結果を検証するため、一部の被験者には、他の被験者の将来の姿を見せ、それが彼らの選択に影響するかを調べたが、選択には影響がなかった。将来に投資する確率が上がったのは、退職年齢の自分の姿を見た被験者だけだった。
ここから学べることは、将来を変えたいのなら、将来の自分の立場になって考える必要があるかもしれないということだ。研究チームのベイレンソン氏は「バーチャルな体験は極めて強烈であり、現実世界の行動を長期にわたり大きく変化させる可能性がある」と述べている。
現在、わが国の老後の蓄え不足に対する試験的な解決法として、仮想現実ツールが開発されつつある。これらのツールで得られるのは数字や予測にとどまらない。直感的な体験を通じて、いくつかの違ったシナリオに浸ることも可能になる。ユーザーは例えば65歳、75歳、80歳になって限られた資金しかないとどうなるかを体験できる。仮想現実は、将来の自分の姿を数分間で強烈に体験させてくれる可能性を秘めている。それは明るい未来を確実にするための対策をいま講じるよう、われわれに促すのだ。
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