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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第195回 恐怖プロパガンダと認知的不協和
http://wjn.jp/article/detail/3769581/
週刊実話 2016年11月10日号
筆者は本連載の第1回から、日本のデフレを長期化させている主因である「いわゆる国の借金問題」のウソについて取り上げてきた。「国の借金」という言葉は、それ自体が問題だ。“言葉そのもの”が間違っているのである。
財務省やマスコミが連呼する「国の借金」とは、英語ではGovernment Debtと呼ばれる。翻訳すると「政府の負債」となる。実は、日本銀行の統計では、翻訳そのままに「政府の負債」となっている。
ところが、財務省やマスコミは「政府の負債」を「国の借金」あるいは「日本の借金」と呼び変え、
「日本には1000兆円を超える国の借金がある! 国民一人当たり800万円以上の借金をしている!」
と、国民を煽り「巨額借金」におびえさせる。「1000兆円の国の借金!」に恐怖を感じた国民に対し、財務省は増税や政府支出削減といった政策を迫る。「借金で破綻する」と信じ込んだ国民は、自分たちを貧しくする緊縮財政に反対できなくなってしまう。
この種の「恐怖」を利用したプロパガンダ手法こそが、英語で「Appeal to fear」、日本語で「恐怖に訴える論証」である。筆者はよりシンプルに“恐怖プロパガンダ”と呼んでいる。
恐怖プロパガンダは非常に厄介で、事実が明らかになった後であっても、ほぼ確実に認知的不協和を引き起こす。
日本政府の負債が100%日本円建てで、日銀が国債を買い取れば政府の負債が実質的に消滅。財政破綻の可能性は「ゼロ」であることを解説された恐怖プロパガンダの犠牲者たちは、懸命に「日本が財政破綻に至る理屈」を考え始める。彼らにとっては、日本に財政破綻してもらわなければ困るのだ。
2013年4月2日、国連は『東電福島第一原発事故に関するUNSCEAR報告について』という報告書において、
「《3.公衆の健康影響》心理的・精神的な影響が最も重要だと考えられる。甲状腺がん、白血病ならびに乳がん発生率が、自然発生率と識別可能なレベルで今後増加することは予想されない。また、がん以外の健康影響(妊娠中の被ばくによる流産、周産期死亡率、先天的な影響、または認知障害)についても、今後検出可能なレベルで増加することは予想されない」
と、報告した。
福島第一原発事故後、福島県民に健康被害は発生していない。国連の報告が正しければ(事実から鑑みるに、正しい)今後も発生しない。
ところが、福島原発の事故後、反原発派はここぞとばかりに原発による健康被害を煽りまくった。今、起きていなくても「将来は確実に起きる」と、専門家でも何でもないにもかかわらず、まるで予言者のごとく断定し、吹聴する連中が大勢いた。まさに21世紀のわが国における、最悪の恐怖プロパガンダが展開された。
非常に歪んだ話だが、福島第一原発事故の際に「将来の健康被害」を煽っていた連中にとっては、例えば福島県民のがんの発生率が「上がってほしい」わけである。散々に「恐怖」を与える言説を撒き散らした結果、実際には福島第一原発の事故で健康被害が発生していない現実が許せないという、狂った思考に陥っている。
当時、恐怖プロパガンダに染められた一般人も同じだ。彼らは、自分が感じた恐怖は「正しいはずだ」という強迫観念にかられ、福島で健康被害が「起きていなければならない」と思い込む。そして、懸命にネットを検索し、福島で健康被害が起きている(実際は起きていないが)証を探し求める。
彼らは、福島県民、すなわち同じ日本国民の「不幸」を願っていることになる。言葉を選ばずに書くと、ひたすら不気味でおぞましい。
人間は、矛盾する二つの認知をした場合、不協和と呼ばれるストレス状態が発生する。人間はストレス状態を解消し、自分を納得させるための行動や思考を始める。これが、認知的不協和である。
福島第一原発関連の恐怖プロパガンダを信じた人にとって、福島県で放射線を原因とした健康被害は「起きていなければならない」のだ。あるいは、財政破綻プロパガンダを信じている人にとって、日本の財政は「破綻しなければならない」のである。
豊洲市場の「地下ピット」問題も同じだ。そもそも、盛り土をするよりも、建物の下に地下空間を作り(東京都庁の職員の間では「モニタリング空間」と呼ばれていた)、染み出してきた汚染水を排水する方が安全であり、清潔だ。ところが、豊洲への市場移転問題を政局化しようと図った小池百合子都知事により、「もはや封鎖不可避 豊洲新市場の地下空間は“汚染水まみれ”(日刊ゲンダイ)」といった認識が広まり、ワイドショーもこぞって取り上げ、国民は「豊洲に市場を移すことは危険だ」と、恐怖心を抱いてしまった。
特に、食の安全に敏感な東京圏の主婦などにとって、わが家の食卓に並ぶ生鮮食品が売買される市場が「不衛生」「汚染水まみれ」という「イメージ」を刷り込まれると、背筋が寒くなるわけだ。恐怖プロパガンダとしては、なかなか「秀逸」な手法であった。
とはいえ、現実には豊洲新市場の建設では、衛生や安全に「過剰」に配慮したからこそ盛り土ではなく地下ピットが選択されたのである。ようやく、この種の「事実」が報道され、広まりつつあるわけだが、専門知識がないにもかかわらず新聞やテレビに煽られ、「豊洲は汚染水まみれで不衛生」と信じ込んでいた人々、すなわち騙されていた人々はどうするのだろうか。
自らの早とちりを反省するのではなく、懸命に「豊洲市場」や「東京都庁」の問題点、瑕疵を探し始める。自分は間違っていなかったことを「証明」し、認知的不協和を解消しようと図るのだ。
今回は三つほど例を取り上げたが、読者にもいろいろと心当たりがあるのではないだろうか。恐怖プロパガンダが古の人類社会から多用されるのは、
「恐怖は覚えるのは一瞬。正しい知識を得るには時間が必要」
と、タイムラグがあるため、非常に効果的であるのだ。今後の読者には、ぜひとも恐怖プロパガンダに注意し、情報リテラシー(読み取り能力)を高めていってほしい。
みつはし たかあき(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、分かりやすい経済評論が人気を集めている。
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