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GDP等の経済統計に重大な欠陥…実態と乖離、情報不足や公表の遅さが経済活動の障害に
http://biz-journal.jp/2016/11/post_17091.html
2016.11.05 文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト Business Journal
多くの民間エコノミストは、GDP速報の問題点として1次速報から2次速報への改訂幅の大きさを挙げている。実際、その大きさを確認すると、実質GDP成長率のかい離幅は平均0.8ポイントとなる。特に2014年7−9月期は1次速報と2次速報で成長率の符号が逆転した。この時は14年4−6月期がマイナス成長であったため、2期連続マイナス成長を景気後退の定義とするテクニカルリセッションとなるか否かのタイミングであった。その時点で成長率の符号が逆転したことが、市場関係者の不満をより高めている。現行の推計方法に基づくGDP速報は、景気判断を行う指標として重大な欠陥を抱えているといわざるを得ない。
こうしたかい離の主因は、2次速報で法人企業統計季報の情報が加わることで、設備投資と民間在庫の推計値が大幅に修正されることにある。そもそも法人企業統計は、資本金1億円未満の抽出率が低く回答率にもばらつきがあるため、中堅・中小企業に関するデータが不安定であり、サンプル替えの際に調査結果に連続性が損なわれることや、公表時期が遅いという問題がある。この背景には、資本金1000万円以上の営利法人の財務諸表を広範に調査していることがある。
法人企業統計の改善の方向性としては、現時点では売上高、経常利益、設備投資のみである季節調整系列の拡張や、サンプル替えの影響を調整した数値の公表、資本金1億円未満の企業の抽出率を引き上げることが考えられる。
また、法人企業統計季報はGDP2次速報の民間企業設備等の推計に用いられるが、公表は当該四半期の2カ月以上後と遅いことも問題点としてよく指摘される。しかし、たとえば売上高や経常利益、設備投資、在庫等の重要項目については早期に別途集計して速報を発表することも可能である。また、集計方法次第では地域別のデータや、連結ベースの集計、さらには原材料費の内訳や売上高の輸出向け・国内向け等の集計が可能と考えられる。
ただ、エコノミストの多くが問題と指摘するGDP1次速報から2次速報への改訂幅の大きさに対して最もシンプルで根本的な対応は、振れの原因となっている法人企業統計季報を基礎統計として採用することを取りやめることである。家計調査や法人企業統計に代表されるような需要側統計の採用を取りやめ、生産関連など供給側統計を中心とした推計に切り替えることは、もともと供給側統計を中心に推計されている確報との整合性を高めることにもつながる。
さらに、実質GDP成長率の四半期ごとの変動のブレを小さくすることにもつながる。法人企業統計と並んで需要側統計の代表格である家計調査が成長率のブレの一因になっているとの意見が、民間エコノミストのなかに強くある。このように、供給側統計中心の推計に一本化することは早急な対応が求められる。さらに、需要側推計値と供給側推計値の早期公表も望まれる。
■経済主体の意思決定の質を低下させる
このほか、1次統計で圧倒的に不十分な分野に、海外関連の統計がある。グローバル化による国際的な工程間分業であるオフショアリングやサービス部門の国際的なアウトソーシングの動向を把握するための情報は極めて乏しい。海外に進出した企業の活動や、対外取引に関する決済通貨の実態、M&Aの動きなどの統計整備が求められる。
さらには、速報性の向上がある。我が国の統計は他の先進国、特に米国等と比べて全般的に調査結果の公表が遅く、公表までに時間がかかるとの批判が多くある。こうしたことは、企業の経営判断や政府の迅速な経済情勢の把握を妨げ、適切な政策運営の障害となる。特に、景気関連統計には速報性が求められるものが多いことからすれば、集計の迅速化や作成方法の改善等によってできる限り公表を前倒しする必要がある。
結局、経済社会の急速な構造変化が進むなか、既存の統計手法が変化に適切に対応しきれず、統計と経済実態とのズレが顕著となっているが、こうした変化への対応の遅れは経済主体の意思決定の質を低下させる恐れがある。従って、統計が経済社会の変化を的確に反映した情報を提供するよう不断の見直しが求められる。
■統計行政の機能不全
また、各種統計が多数の省庁により実施されているため、統計の整合性や利便性の面で問題が生じるケースも多く、経済統計の一元化管理を進める必要がある。併せて、政府の有する統計情報の公開をいっそう推進し、透明性を高めていくことも重要だろう。
なお、経済統計の改善を図っていく上では、個別の問題点の対応だけでなく、統計作成にあたる組織や予算面を含めた統計行政の抜本的見直しが必要となるだろう。主要な経済統計については、企画・立案面でも可能な限り集中化することが合理的と考えられる。そして、経済統計の企画・立案が集中化されれば、多くの省庁にまたがる所轄業種の垣根にとらわれない横断的・整合的な統計整備が可能となり、統計調査の重複排除にもつながる。
さらに、経済社会のグローバル化・IT化や、企業組織形成の多様化などが進むに伴って、経済実態を把握する上での経済統計の役割はますます重要となっており、経済運営に当たっても、信頼できる経済統計による現状把握が不可欠である。従って、現在の厳しい財政事情の下においても、統計予算全体の拡充も検討されるべきだろう。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト)
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