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小野薬品工業本社(「Wikipedia」より/Tokumeigakarinoaoshima)
1人年間3500万円…画期的がん治療薬、利用急拡大で国家破綻が危ぶまれる事態に
http://biz-journal.jp/2016/11/post_17099.html
2016.11.05 文=編集部 Business Journal
がん免疫治療薬「オプジーボ」の薬価引き下げ議論が活発化している。厚生労働省は2017年度にオプジーボの薬価を臨時に引き下げるが、値下げ幅を当初の「最大25%」から拡大する方針だ。また、政府の経済財政諮問会議からは50%以上の値下げを要求する声も上がっている。
オプジーボの薬価をめぐっては、全国の医療関係者でつくられる全国保険医団体連合会(保団連)政策部前事務局小委員の小薮幹夫氏が、9月の記者会見で米英にくらべて2.5〜5倍の高額になっていることを指摘。「途方もなく高い薬価を、一刻も早く正常化する必要がある」と訴えていた。
オプジーボは免疫力を高めることにより悪性腫瘍を攻撃する新しいタイプの抗がん剤で、京都大学名誉教授の本庶佑(ほんじょ・たすく)氏の研究がきっかけで開発され、日本の小野薬品工業が製品化している。
いわゆる「免疫療法」は自由診療で効果が不確かなものも多いが、オプジーボは薬事承認された確かな薬品であり、これまでの治療で効果がなかった患者を救えるようになることが期待されている。
一方で、その高額さが議論を巻き起こしている。たとえば、肺がんの成人男性(体重60キロ)が1年間使うと、薬剤費は約3500万円に達すると見込まれているのだ。
日本赤十字社医療センター化学療法科部長の國頭英夫氏の推計では、5万人の潜在患者がオプジーボを1年間使用すると薬剤費は1兆7500億円にも達する。國頭氏は、厚労省の審議会などで「たった1剤が出たことで、国家が滅ぶことにならないか」と危惧している。
厚労省が9月に発表した15年度の医療費(概算)は41兆5000億円で、そのうち7.9兆円が調剤医療費(薬剤費)と推計されている。たった1剤で、その薬剤費が約20%増えることになり、社会保険料と税金でまかなわれている公的保険が破綻しかねない。
■不透明すぎる薬価決定のプロセス
国民皆保険制度がある日本では、どんなに医療費がかかっても自己負担は1〜3割で、高額になった場合も高額療養費制度によって一定の負担で済む。また、生活保護受給者は医療費が無料。病気になっても誰もが安心して医療を受けられるという点では、世界に誇る制度だ。それゆえ、医師や薬剤師の技術料、薬剤料は国の審議会によって定められている。
オプジーボも、適切なプロセスで薬価が決められていたのであれば、ここまで大きな問題にはならなかったかもしれない。オプジーボは当初、患者数の少ない皮膚がんの一種(想定患者数470人)で保険適用が決まったため、多額の開発費を回収できるように高い薬価がつけられた。しかし、その後すぐに同1万5000〜5万人の肺がん、同4500人の腎臓がんにも適用が拡大されたという経緯がある。
保団連の調査では、当初設定されたオプジーボの薬価(100ミリグラム)は約73万円だが、米国は約29.8万円、英国は約15万円にとどまる。英国では、効果に対して高すぎるとして、さらなる値下げも検討されている。日本での薬価を決める議論は、企業の機密情報を含むとして公開されていない。
小藪氏は「厚労省の担当者の裁量が大きい上、算定の根拠・基準が明らかにされていない。事後的な検証が不可能になっている」と問題視する。
■小野薬品はオプジーボでボロ儲け?
オプジーボを販売する小野薬品は、17年度決算での同薬の売り上げを前年比6倍の1260億円と見込んでいる。薬品の研究開発には多額の資金が必要だが、それを差し引いても同社は“ボロ儲け”といえるだろう。患者数が少ない疾患から保険適用されたのは、日本の医療制度の不備を突いた同社の戦略ともいわれている。
薬価の改定は2年に一度のため、本来であれば次回は18年だ。しかし、オプジーボの高額な薬価があまりに問題視されたことから、前述のように厚労省は17年度から「緊急的対応」として大幅な引き下げをする方針を固めた。さらに、18年度改定で本格的な薬価制度の見直しをする方針だ。
もちろん、製薬会社側は猛反対だ。厚労省の意見聴取の場で、日本製薬団体連合会の多田正世会長(大日本住友製薬代表取締役社長)は、「薬価こそが企業経営の要であり、持続的経営の源。ルール変更が頻繁に行われることは、健全な企業経営の根幹を揺るがす事態で、強い危機感を覚える。産業政策の推進のバランスを考えてほしい」と強く反発した。厚労省の担当者も、一方的な引き下げは企業側から訴えられる可能性があると警戒する。
そこで、当編集部から小野薬品に「高額な薬価設定についての見解」や「大幅な値下げが実現した際の訴訟の可能性」などについて取材を申し込んだ。期日までに回答を得ることができなかったため、再度問い合わせると「薬価についてはノーコメント」(同社広報部)「仮定の話については申し上げられない」との反応にとどまった。
新しい薬は、治らない病気を抱える患者にとっては一筋の光明だ。しかし、かつては処方権を持つ医師や、役人、政治家への製薬会社の接待漬けが問題視され、今も製薬会社による研究不正は頻繁に起きている。国民の生命、そして国家財政にダイレクトに影響するからこそ、薬価をめぐる透明性の確保が不可欠だ。
(文=編集部)
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