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1987年のブラックマンデー時。筆者は一貫して今の日米の株価が割高だと指摘する(写真:AP/アフロ)
日米株価暴落の「Xデー」が現実になるとき 市場は憂慮すべき事態を織り込んでいない
http://toyokeizai.net/articles/-/143406
2016年11月03日 江守 哲 :エモリキャピタルマネジメント代表取締役 東洋経済
米国の大統領選挙が予想外の展開になりつつある。民主党候補であるクリントン氏の勝利が確定的かと思われたが、米連邦捜査局(FBI)がクリントン前国務長官の私用メール問題の捜査を再開したと報じられたことで、事態は急変している。
■トランプ氏勝利なら「リスクオフ」で混乱は不可避
米紙ワシントン・ポストとABCテレビが11月1日に発表した世論調査では、共和党候補トランプ氏に1ポイントのリードを許したため、金融市場では警戒感が高まり、ダウは下げ幅が一時200ドルを超えた。2日はついに終値で1万8000ドルを割れた(1万7959ドル)。1万8000ドル割れは今年7月7日以来、約4カ月ぶりだ。
クリントン氏が大統領選で勝利した場合、オバマ政権の政策が継承されるため、先行き不透明感は払拭され、株価にはプラスとの見方が多い。しかし、今回のメール問題再燃をきっかけに、クリントン氏への投票を決めていた向きの一部がトランプ氏に鞍替えすれば、トランプ氏の逆転勝利の可能性は十分にあると言える。
そうなれば、市場が全く予想してこなかったシナリオが現実のものになる。トランプ氏が勝利した場合、経済政策に不確実性が高まり、金融市場はいったんリスクオフの状態になり、混乱は不可避となろう。
その場合には、英国のEU離脱(ブレグジット)以上の下げもあり得るため、相応の準備と覚悟が必要であろう。現時点での市場の反応はなお限定的だが、大統領選の直前で候補者に関することでFBIが捜査を行っていること自体、異例であり、異常事態である。
そもそも、このような状況で米国が大統領を選出せざるを得ないことこそ、すでに大きな問題である。たとえクリントン氏が大統領に選出された場合でも、FBIの捜査が続く可能性もある。
そうなれば、クリントン氏の大統領としての資質の問題が必ず取り上げられる。そのような事態に陥る可能性がある中で行われる選挙に、果たして正当性はあるのだろうか。極めて疑問である。
今回の米大統領選挙はどんな結果になっても、事態は沈静化しない可能性がある。つまり、きわめて憂慮すべき事態にあることを、市場は現時点でまだ全く織り込んでいないといえる。そのように考えると、選挙結果が出たあとの市場の反応が、どのようなものになるかは想像に難くない。
改めて今回の大統領選が実施されるまでのプロセスを振り返ると、米国そのものへの疑念が生じる事態にあるといえないだろうか。
■米国株の割高感はもはや肯定できない
今回の選挙結果の影響が政治にとどまらず、金融にまで拡大する可能性があることは想像に難くない。筆者は年初から今年の米国株の調整リスクを指摘してきた。結果的に史上最高値を更新し、下落するどころか上昇基調が続いてきた。この見方は残念ながら全く誤りであったと言わざるを得ないのだが、本欄でも繰り返し指摘してきたように、主要企業による自社株買いと高配当による株価引き上げ策が背景であった。
その結果、米国株は歴史的な割高水準にまで上昇してしまい、高値を正当化できない水準にまで押し上げられてしまっている。しかし、もはや現在の株価の割高感を肯定できる状況ではなくなりつつある。
現状の株価を肯定するには、相当の企業業績の改善が必要だったが、7―9月期の業績ではそれは達成できなかった。「だからといって、株価が下落するということにはならない」との指摘もあろう。しかし、どのようなきっかけで株価の調整が起きるのかを注視していたが、そのトリガー(引き金)になり得る材料として、米大統領選の混乱が急浮上したことになる。そうであれば、米国株の本格的な株価調整はこれから起きることになり、本当のXデーは11月9日になるといえる。
今年の米国株は、例年であれば株価が調整する10月前半にほとんど下げなかった。つまり、株価は例年と違う動きになっていたことになる。9月以降、ダウ平均株価は1万8000ドルから1万8350ドルのきわめて狭いレンジでの推移が続き、いわゆるトレンドレスの状態に陥った。
しかし、レンジ相場が2カ月も続けば、さすがに方向感が出てくることになる。11月は本来、株価が上昇に転じるときであり、安値を仕込む絶好のタイミングである。
今年はそのような押し目がない。むしろ、高値圏での推移が続いている。そして、直近ではその上昇トレンドにも陰りが見られ始めている。このように、今年は例年と違う動きにあるため、いまから調整にはいってもなんらおかしくはない。
一方、これまでのドル高基調の中で、金価格が底堅さを見せていることに注意を払いたい。米長期金利の上昇で一時急落し、水準を大きく切り下げた後は、むしろ堅調な動きが続いている。これは、中国やインドなどの実需の回復に加え、投資家がリスク回避姿勢を強めていることの証左である。
■「株価暴落」に備えるときが到来か
S&P500が7営業日続落したように、この数日間で市場の様相が一変したかのようである。
しかし、筆者は「実際にはそうなることが決まっていた」のだと思われる。クリントン氏のメール問題が完全に片付いていない中で選挙戦が進められてきたことが、投票日1週間前の混乱の原因である。問題がクリアにならないのであれば、このような事態になる可能性は考慮に入れておくべきだった。
それでも民主党はクリントン氏を候補者に選択し、国民の多くが同氏を大統領にふさわしいとして支持している。しかし、このような「米国民の感覚」に対しても、筆者には強い違和感がある。
つまり、「大統領にふさわしい人物」を選出できていないこと自体、米国の弱体化のリスクを感じざるを得ないのだ。クリントン氏・トランプ氏のいずれが大統領になろうとも、米国内の混乱は当面収まらないことだけは確かであろう。
今週から来週にかけて、いろいろなことが起きそうだ。それらの事象に対して驚く必要も慌てる必要もない。市場の向かうべき方向は決まっている。いまはリスクを回避し、株価暴落と言う「最悪の事態」に備えるべきである。日米ともに割高な株価は、いずれ調整される。大統領選はそのきっかけになるだけであり、バリュエーション面(複数の指標から見て割高か割安から株価を判断)での株価調整は必然であることを再確認しておくべきだ。
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