http://www.asyura2.com/16/hasan115/msg/190.html
Tweet |
コラム:日本の2%インフレが遠のく本当の理由=永井靖敏氏
http://jp.reuters.com/article/column-forexforum-yasutoshi-nagai-idJPKBN12W2ZE?il=0
2016年 11月 1日 15:32 JST
永井靖敏大和証券 チーフエコノミスト
11月1日、大和証券チーフエコノミストの永井靖敏氏は、低成長の背景には、将来の増税や社会保障に対する不安に起因する消費行動の慎重化、富裕層の高齢化などがあり、日銀は今後も物価目標達成時期の先送りを繰り返すことになるだろうと指摘。提供写真(2016年 ロイター)
[東京 1日] - 日銀は10月31日―11月1日の金融政策決定会合で、現状維持を決定。「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、物価見通しを下方修正した上で「物価安定の目標」の達成時期を、これまでの「2017年度中」から「2018年度頃」に先送りした。
筆者も含めほとんどの市場参加者が現状維持と物価見通しの下方修正を確信していたことから、決定会合が相場に与える影響は限定的だった。
<物価目標達成時期の見通し公表は必要なのか>
日銀の政策運営に対して、達成時期を先送りするのなら追加緩和を実施すべきと批判するエコノミストもいる。日銀は、この批判を事前に想定し、先送りと追加緩和の切り離しに注力してきたようだ。
7月の会合で、海外経済の不透明感の高まり、国際金融市場の不安定な動きを理由に金融緩和を強化し、9月の会合では、新しい枠組み「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入したことで、「すでに対応済み」と主張する準備を整えていた。
日銀にとって、先送りと追加緩和の切り離しは重要な問題だ。セットにすると、これまでの政策運営の失敗を認めることになる。失敗を認めると、金融政策の限界が意識され、「フォワード・ルッキングな期待形成」の役割が消滅し、日銀が「物価安定の目標」に対して強いコミットメントを打ち出した意味がなくなるためだ。
予想物価上昇率は、「適合的な期待形成」、すなわちこれまでの物価の動きと、「フォワード・ルッキングな期待形成」の2つに分けることができる。「総括的な検証」の実証分析「予想物価上昇率の形成メカニズムに関する各国比較」では、日本は米国などに比べて、「適合的な期待形成」のウエイトが大きいことが分かったという実証分析を掲載し、間接的に諸外国よりも物価の押し上げが難しいと説明している。
「適合的な期待形成」のウエイトが大きい分、日銀としては、「フォワード・ルッキングな期待形成」に強く働きかける必要がある。「総括的な検証」は2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する観点で実施した。「適合的な期待形成」のウエイトが大きいため、早期達成は不可能という結論は、最初から排除されていた。
なお、今回「物価安定の目標」の達成時期を先送りしたが、表現自体を修正すべきだったと筆者は考えている。具体的には、物価の年度見通し数値だけにとどめる方法に修正すべきだった。
これまで、日銀が達成時期の先送りを繰り返してきたことが、批判の対象の1つになっていた。達成時期は、金融政策の継続期間に直結するため、市場の関心を集めやすく、物価見通しの下方修正よりも大きな「失敗」の印象を日銀に与える。
今回の展望リポートは、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」導入後に公表された、初のリポートだ。達成時期については、展望リポートの物価の年度見通し数値から市場関係者が推測する形式にした方が曖昧になる。今回、達成時期の表現修正を見送ったことで、修正の好機を逃したようだ。
<消費低迷の背景に質素な富裕高齢者の存在>
筆者は、「物価安定の目標」の早期達成は困難と考えている。日本の財政赤字が拡大するなか、将来の増税や社会保障に対する不安から、消費行動が慎重化する傾向が続いており、企業も強気な価格設定をできない状況にある。
人手不足の影響で、非正規雇用の賃金は着実に上昇しているが、正規雇用の賃金は伸び悩んでいる。非正規雇用の賃金上昇が正規雇用に波及することで、賃金・物価が上昇するというシナリオ自体は同意できるが、現在の正規・非正規の賃金・待遇格差を考慮すると、波及するまでには、かなりの時間がかかりそうだ。世界的に物価が伸び悩むなか、日本の物価が先行して上昇することは、極端な円安にならない限り見込み難い。
日本は、富裕層の高齢化が消費低迷につながっていると見ている。相続などで、消費性向の高い若年層に資金がシフトすれば消費が活発化しようが、高齢化により「老老相続」が増加している。こうしたなか、質素な富裕高齢者が多い点も経済活動の抑制要因になっていると感じている。
筆者はかつて勉強会で、平均的な生涯年収の数十倍の資産を保有する高齢者から、投資に関して熱心に質問されたことがある。「貯蓄から資産形成へ」という金融庁の呼びかけは重要だが、同時に「資産形成から消費へ」を促すことも必要だろう。ちなみに、筆者が、この方に個人向け国債を勧めたところ、昔デフォルトしたため信用できないので社債を購入したいと話していた。
日銀は立場上、「物価安定の目標」の早期達成は可能と主張しているが、時間がかかるリスクを十分認識しているようだ。「総括的な検証」でも、「適合的な期待による引き上げには不確実性があり、時間がかかる可能性に留意する必要がある」としている。これは「目標達成まで想定以上に長期化するかもしれないが、日銀は頑張り続けなければならない」と言っているのに等しい。
日銀は、「フォワード・ルッキングな期待形成」を重視し、「物価安定の目標」の早期達成に注力する姿勢を維持するが、時間とともに達成時期を先送りするというパターンを繰り返しそうだ。
*永井靖敏氏は、大和証券金融市場調査部のチーフエコノミスト。山一証券経済研究所、日本経済研究センター、大和総研、財務省で経済、市場動向を分析。1986年東京大学教養学部卒。2012年10月より現職。
*本稿は、ロイター日本語ニュースサイトの外国為替フォーラムに掲載されたものです。
(編集:麻生祐司)
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民115掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。