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「女性活用はもういい」始まったオジサンの逆襲
河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
「オバちゃん活用」妨げる「組織の論理」ってナンだ???
2016年11月1日(火)
河合 薫
今回は、「組織の壁」がテーマです。
「ついに」というべきか、「やはり」というべきなのか……。日本の男女格差が111位に後退し、G7でビリとなった。
はい、そうです。あの“ダボス会議”で知られる世界経済フォーラム(WEF)が発表した「ザ・グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書2016」(各国の男女格差を比較した報告書)の世界ランキングである。
原典をご覧いただければわかるように「 Global rankings, 2016」と小見出しがついたページを、スクロールでガ〜ッと下げて、下げて、下げて、「まだない!」、ガ〜ッ…、ガ〜ッ……、「ひえ〜〜、ここ?!」と衝撃を受けるほど下に、やっと“Japan”という文字を見つけることができる。
144カ国中111位。昨年より10位後退。
111。ゾロ目。いや、違う。犬だ。「ワン、ワン、ワン」。11月1日の今日は、犬の日。なんという奇遇! まぁ、そんなどーでもいい話を交えたくなるほど、この数字にため息が出た。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/102800077/g1.png
WEFによる男女格差ランキングの順位(順位が低いほど男女格差が大きい)
なんせこの10年のランキングの推移も、ご覧のとおりどんぐりの背比べ。目くそ鼻くそ。日本の順位はほとんど変わっていない。まるで私の現代国語の成績である(高校在学中常に365人中364位!……泣)。
このランキングは「経済活動への参加と機会」「教育達成度」「健康と生存率」「政治参加」の4分野で分析したもので、日本の男女格差は教育や健康の分野では比較的小さい(教育76位、健康40位)。
ところが、経済と政治の両分野は全くダメ。「経済活動への参加と機会」は118位、「政治参加」は103位と、いかに日本社会が“男性”で動いているかがわかる(以下、項目別)。
・「国会議員における女性比率」で122位
・「官民の高位職における女性の比率」で113位
・「女性の専門的・技術的労働者の比率」で101位
どんだけオジさんだらけなんだ? おまけに「所得格差」は前年の75位から100位に急落し、過去50年で女性の首相が出ていないことも、低評価の一因となった。
なぜ、「政治・経済」はとりわけダメなのか?
菅義偉官房長官はこの結果を受けて、「推定勤労所得の推計方法が変更されたので、順位の変動要因はそのことが一つに考えられる」と弁明したけど、比較方法の修正で、より実態に近づいたとされている。
「世界と比べる意味ってあるのか?」という意見もちらほらあるが、
・「日本の人事部」⇒女性管理職比率は平均4.9%
・「帝国データバンク」⇒女性管理職割合は平均 6.4%、ゼロの企業 50.9%
・「内閣府」⇒上場企業の女性役員比率は3.4%
と、どの数字も異常。日本の人口1億2709万人(2015年10月1日時点)のうち、男性が6184万2000人、女性が6525万3000人と、女性の方が341万1000人も多いことを鑑みても、やはり少なすぎだ。
なのに、メディアは「111位」という結果をサラリと伝えただけ。「女性活用」だの、グローバル化だの、世界との競争力を高めろだの、GDPでは勝ったの負けたのガタガタ言うのに、なぜ、もっと騒がない?
「小池百合子都知事や蓮舫代表も出てきたし、これからでは?」
「そうだよ、これから女の総理大臣がでてくるんじゃないか?」
との意見もある。
だが、土井たか子さんのときのマドンナ旋風の方が、今よりもよほど熱さがあった。そして。そして、あっという間に冷めてしまったのだ。
1989年のマドンナ旋風時、参議院議員の女性比率は17.5%まで上がったものの、2000年代に入ると年々低下。
今年7月の参議院選で、やっと過去最高の23%になったが、2016年の列国議会同盟(IPU)の世界・国会の女性議員割合ランキングで、日本は185カ国中155位と堂々の下位グループ。
要するに、日本はただただ堂々巡りしているだけ。急ピッチで進められている世界各国の男女格差是正策に、全くついていけてない。
「ジジイたちの壁は厚い」
ちょうどこの結果が報道される前日。小池都知事が石原慎太郎元都知事に送った質問書への回答や、オリンピック会場移転にことごとく「ノー」を突きつける関係各所のお偉いさんたちの報道をみて、
「ジジイたちの壁は厚い」(失礼な言い方で申し訳ないのですが、こう心から感じているのです)
と嘆息をもらしていたので、余計に気が重くなった。
「いままでの経過があるんだよ」
「みんなで話し合ってきたんだよ」
男性たちはやたらと、変えることをいやがる。
難しいとか、前例がないとか、あれこれ理由をつけ、申し合わせたように結託する。
とにかくジジイたちの壁は厚い。ベルリンの壁よりも厚い。あと200年くらい、男女格差問題をネタにコラムが書けそうなほど厚い。
ルイスは今の日本を見て、なんと言うだろうか。
誰? カール・ルイスではありません。16世紀に日本に滞在していたポルトガルの宣教師ルイス・フロイスです。
氏は、『日欧文化比較』(中公新書)に次のように記し、日本の男女平等性と、女性たちの自由さを賞賛している。
「日本の女性はヨーロッパの女性たちと異なり、自ら財産を所有し、自ら離婚を申し出、夫に知らせずして、好きなところに行く自由を持っている。また、日本の女性たちは文字を書き、彼女たちはそれを知らなければ価値が下がると考えている。これは文字を書けないヨーロッパの女性とは大きな違いだ」と。
また、歴史研究者の網野善彦先生も「南北朝時代までは女性たちは、荘園や公領などあらゆる社会的活動の表舞台に登場し、国衙や東寺の支配制度の中で、公式の職に任命され、活発に表舞台で活躍していた」と、“数”の平等性が、女性の発言権と社会的地位獲得につながっていたと断言する。
つまり、よほどの強行策で「数」を増やさない限り、日本の男女格差はなくならない。ましてや、ここ最近はある種の“副作用”が広がっていて、みちのりの険しさを痛感することも増えた。
つまり、「女性活用は、もういいよ」と。
あまりに「女性活躍」「女性活用」「女性が輝く社会を!」というスローガンが飛び交い、現場が食傷気味なのだ。
「女性活用は、もういいです」
「ホンネは、もう、女性活用はいいです。うちの会社では7年前から、女性の管理職登用を進めてきました。最初の頃はよかったんですよ。女だからこれ以上先はないと諦めていた女性社員が、役職を全うしようとものすごくがんばった。
周りの男性陣も『良かったな』と好意的に女性たちの活躍を受け止めていたので、男女格差は時間が解決すると信じていました。
ところが女性課長が増えたことで、ややこしい問題がおこるようになってしまったんです。
『管理職にはなりたくない』と文句を言ったり、『今までやってきた部署でやるのが会社にとってもプラスなる』と自分で配属先を上司に進言したり。
つい先日も、これまでは地方の支店を2年ほど経験させてから昇進させるというのが慣例だったのに、地方勤務を拒否してきた女性を昇進させることになった。当然、男子社員たちは面白くない。『女性はわがまますぎる』と嫌がる人も出てきました。
結果、女性の管理職は3年前をピークに全く増えていません。ゼロという部署も出てきました。
男性の場合は、最初はおろおろしてても役職に就くと成長する。ところが女性は組織より個人的な意見を優先します。
女性ってやっぱり男とは違う。組織の論理を全く理解しようとしないのでものごとが進まないんです。
だから、もういい。女性たちにもっと変わって欲しいです。組織の論理を学んで欲しい。もちろん能力ある人は男女に関係なく評価します。あとは女性たちのやる気次第だと思っています」
こう話すのは大手企業の部長さん(男性)だ。女性管理職が増えるどころか、減ってるだなんて。なんて、もったいない話なんだ。
確かに、女性は盾突くことを恐れないので、イヤな気分になるかもしれない。ポジションを守ろうとか、しがみつこうとか、そういう気持ちはさらさらないから、彼女たちの発言は、上司たちにとっては“わがまま”にしか聞こえないことだろう。
が、そのわがままは、本当にわがままなのか? と。女性だけが思っていることなのか? と。
わがままと烙印を押さずに、「慣例」がなぜ慣例になっているのかを議論すると、新たな可能性が見えるかもしれないのに、もったいないとしか私には思えないのである。
女性が多い企業はザワついている
そもそも「組織の論理」とよく言うけど、これっていったいナニ?
余計なことは言わない、上司には意見しない、ってことなのか?
これまでいろんな企業に講演に呼んでいただいたが、会場に女性が多い企業には共通していることがある。
ザワついている。悪い意味ではなく良い意味で、ザワザワしているのだ。
自由にものを言う空気があり、笑いが多い。男性だけの会場では一目で誰が上司かわかるが、それがわからない。上司と部下の距離感が近く、無駄な緊張感が存在しないのだ。
今から一年くらい前だろうか。テレビで放映されていたある地方議会に、そのザワつきをみた。
画面には活発、かつ前向きな議論をする議員たちと、それを楽しそうに傍聴する人たちが映っていた。議会が行われていたのは、大阪府島本町。かつて、町長が教育委員に女性を起用した町でもある。
島本町の議会は定員14人のうち、7人が女性。つまり、半数が女性を占める。
その女性議員たちがとことんこだわったのが、慣例の見直しだ。
「この工事費に、どれくらいの負担をしたのか?」
「精算の結果こうなったのか?」
女性議員がどんどん質問するから、男性も質問するようになり、見えなかったことが見える化され、根回し政治から本音を言い合う議会になった。ここでは女も男も関係ない。「人口の半分が女性なんだから、普通でしょ?」と男性議員たちも口を揃える。
すべての女性(もちろん私も)に潜む“オバちゃん”魂が、慣例だの、慣習だのをぶった切り、男性たちも暗黙のルールを破り真摯に向き合った。
その結果、議員に支給されていた弁当は廃止され、食糧費の9割が削減。政務活動費も、議員報酬で賄えるとして導入を見送っている。
そうなのだ。女性活用なんていうから、ややこしくなくなる。オバちゃん活用。それでいい。メンツもない、ヘンな羞恥心もない、“オバちゃん”たちのしがらみのない発言こそが、組織を活性化する。
人間は誰しも自分の意見を聞いて欲しいものだ。
どんなに周りからおとなしく見える人でも、自分なりのオピニオンを持っている。少なくとも600人以上の人たちをインタビューしてきて、私は一度たりとも意見を持たない人に出会ったことがない。
自分が意見を言い、それが議論の俎上に載せられたら、仕事が少しだけ楽しい。
意思決定に参加していると認識している人は、「俺には関係ないから」などと自己を封じ込めることはない。自分たちの前に設定された課題を快く受け入れ、自分たちでその課題を解決することに責任を持つ。意思決定への参加は、その人の力を引き出すとても重要な経験なのだ。
考えて欲しい。上司に意見を言い、新しいことを提案する若手が、「ジジイ」たちにどんな仕打ちを受けているかを。
「あいつは頭はキレるが、組織というものがわかっていない」
「根回しというものが、わかってない」
「今までもやってきたことなんだから、文句言わずにやればいいんだよ」
と、罵倒する。
そういったデキる人は辞める。“ジジイ”たちが後から刺され、うんざりして辞める。
その結果、物言わぬ人が重用され、密室でモノごとが決まるようになり、組織のためより自分のためを優先する人が組織の権力を握っていき、組織が腐敗していくのだ。
とまぁ、かなり先の先まで話をぶっ飛ばしたけど、女性、いやオバちゃんたちを活用すれば、能力ある男性たちが堂々と活躍できる組織が出来上がっていく。
そのためには、1人や2人増やすんじゃダメ。
最低でも3割以上、できれば島本町のように半数を、ナニがなんでも増やしたほうがいい。
ちなみに、件の報告書には、男女格差を少なくした先進国は出生率が回復し、経済成長を維持しているとされている。オバちゃん効果は、世界共通なのだ。
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このコラムについて
河合薫の新・リーダー術 上司と部下の力学
上司と部下が、職場でいい人間関係を築けるかどうか。それは、日常のコミュニケーションにかかっている。このコラムでは、上司の立場、部下の立場をふまえて、真のリーダーとは何かについて考えてみたい。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/200475/102800077
女性の活躍を考える〜多様性と研究職の視点から
中鉢良治の「人在りて、想い有り」
2016年11月1日(火)
中鉢 良治
リオデジャネイロ五輪の閉会式で五輪旗を引き継いだ小池百合子都知事(写真:中西祐介/アフロスポーツ)
8月、東京で初めての女性都知事、小池百合子知事が誕生した。また、最大野党である民進党代表には蓮舫氏が就任した。
海の向こうでは、英国でメイ氏がサッチャー氏以来の女性首相となり、米国でもヒラリー・クリントン氏が民主党大統領候補として、11月の選挙に挑んでいる。彼女が米国大統領となれば、世界をリードする米、英、独、3カ国のリーダーが全員女性となる、まさに政治における女性の活躍を象徴する出来事だ。
経済活動の中で女性の活躍は、日本においても社会を支える必須の要素となっている。6月に、総務省から2015年に行われた国勢調査抽出速報集計が公表された。それによると、15歳以上65歳未満の人口に占める労働力率は、男性が70.8%であったのに対し、女性は49.8%であった。1968年のこの数字は、男性が82.1%で女性が50.7%だった。この50年近くの間に、男性の労働力率は12ポイントも下がる一方で、女性のそれはほぼ同じ水準を保ちながら労働力減少のマイナスインパクトを補ってきた。しかし、その比率はいまだに50%に留まっている。逆にいえばこれは、女性の労働力率の増加余地が男性に比べ大きく、少子高齢化社会の時代に、働く女性の役割がますます拡大することを意味する。
女性ばかりの会場で見当違いのスピーチ
10年以上も前の話だが、前職のころ、女性の活躍を社内で推進しているグループの会合でスピーチをしたことがある。壇上に登って驚いたのは、聴衆のほぼ全員が女性だったことである。普段とは様子が違うので大いに困惑し、何を思ったのか自分でも定かでないが、予め用意した話をやめて、別の話を選ぶことにした。この突然の変更は、明らかに私の調子を狂わせた。
ちょうどこの年、私の娘が就職したので、より実感のある話題をと思い、新入社員の娘を持つ父親の心境を語ってみることにした。当時の民間企業は、改善されてきたとはいえ、まだまだ男性社会であり、そのことは経営者の立場にいた私自身もよく承知していた。そのような中で娘を社会に送り出すというのは不安がないわけではなかったのだが、娘が楽しそうに、毎朝、家を出ていくのを見て、よい会社に就職できたのかなと安心をした。
ところで、自分の会社はどうだろう。本当に女性にとって働きやすく、働きがいのある会社になっているだろうか。至らぬところがあったならば改めなければならぬ、とそんな話をしたつもりだった。内容は悪くはなかったなと思いながら降壇した。
席に戻ると幹事役の女性Tさんから「いつもの調子ではありませんでしたね」とコメントされた。そんなことあるものか、私は女性だけの世界には慣れている。長い間、女性4人、男性は私1人という家族構成でもまれてきたのだ。このぐらいの数の女性に囲まれても何するものぞ、と冷静を保ったつもりだった。しかし、家族という最小単位で培った経験では、企業という大きな集団には通用しなかったようだ。話の内容にしても、参加者の期待は、娘を見守る父親の目線を超えたところにあった。Tさんからは「私たちは毎日、圧倒的な男性社会で仕事をしているのですよ」ととどめを刺されてしまった。
女性が活躍するためには、企業の中で女性が依然としてマイノリティであるという問題と、労働条件の不平等や非合理性の問題を解決する必要がある。前述のように少子高齢化社会が進展し、男性の労働力率が長期低落傾向にある以上、女性の活躍は欠くことができない。日本経済の成長性には様々な議論があるにしても、私たちの孫子の世代に持続性ある安定した社会を引き継ぐためにも、女性が活躍できる環境整備は待ったなしなのである。
多様性が健全な発展を生み出す
さらに、女性の活躍は「多様性の確保」の観点からも重要である。同質の人間が単一思考で物事を進めるよりも、多様な人間が多様な思考を取り込みながら判断する方が、社会はより健全に発展する。一部には、この多様性に不寛容な集団もいるが、「多様性の確保」は世界的な共通認識と言えるだろう。欧米の先進国では、もはや女性の活躍などは、テーマにも上がらず、今の関心はLGBTなど性的マイノリティに関心が移っている。その意味でも、「多様性の確保」の課題として、いまだに女性の活躍が前面に出ざるを得ない日本の状況は遅れている。
前職で開発業務に従事していたころの話である。私自身チームを率いながら数年間取り組んできた仕事が、一向に進展せず、もう諦めようかと何度も思ったことがある。実際、実験するテーマさえも思いつかなくなっていた。そんな中、同僚のNさんが一人試作プラントに向かい、やり残していた試作に黙々と取り組むことが多かった。結果的にこの試作続行が成功につながった。
Nさんのみならずチームのメンバーはそれぞれ個性豊かで様々な意見を出し合った。もう手がないと思った場面でも思わぬ人が、いいアイデアを出すことがある。もちろんその中には女性のメンバーもいた。彼女たちは、自分たちの仕事をしながら、「大丈夫!きっとうまくいきます」と常に仲間を励ましてくれた。
「楽観は多様性から生まれる」ということを私はこの時に学んだ。宮大工の小川三夫さんは、新入りを採用する時、様々な個性の人を採るように心がけているのだそうだ。彼は「似たような人間ばかりの集団は、あと一歩という時、誰も足を踏み出そうとしないんだよ」と語っている。同感である。
女性の労働力率が、結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するという,いわゆる「M字カーブ」を描くことはよく知られている。まだまだ、結婚を機に退職する女性もいるし、子供ができると退社する女性も多い。このこと自体は問題ではない。数字には表れないが、本人が望んでいるにもかかわらず、勤務と両立できず、結婚をあきらめたり、結婚しても子供を持てなかったりということがあったら、それが問題なのである。子供の成長後再就職する女性もいるが、なかなか好条件の職場を得ることは難しい。
これも前職での話なのだが、東京勤務をしている女性管理職が東北の事業所への転勤を打診された。夫君も職場は違っていたが、同じ会社に勤めており、幼稚園に通う子どもが一人いた。夫妻にとって、毎日の通勤や子どもの送り迎えは大きな負担であった。こうした中、妻に転勤の話が舞い込んだ。この夫妻は大いに迷ったが熟慮の結果、夫君は会社を辞め、家族で妻の転勤先に引っ越すことにした。幸い夫君は同じ会社の事業所に地元採用され、夫妻は再び共働きとなった。後日、この女性に会って「その後どうしてる?」と声を掛けたら、「家族共々大いに地方での生活を満喫しています」と、とても嬉しそうだった。
このケースでは、幸いにも、家族全員にとって良い結果となったのだが、一方で単身赴任となり家族バラバラになるというおそれもあった。むしろそちらの方のケースが多いのかもしれない。女性の活躍を考えるには、雇用側は家族の状況も考えなければならないという一例だ。
企業では毎年、株主総会が行われる。ダイバーシティに関する関心も高く、質問も多い。私も株主総会で何回か「女性役員が少ない、ダイバーシティは進んでいるのか?」という質問を受けた。かつて、私がスピーチをした時の幹事役Tさんが、株主総会の執行側に出席する立場となっていた。総会で女性の経営者が順調に育っていることを示したく、私はTさんにあるお願いをした。男性ばかりの執行側席でできるだけ目立つようにと、当日は赤い洋服で出席してもらうことにしたのだ。予想通りその日、ダイバーシティの取り組みについての質問が出た。赤い洋服のTさんは、実に堂々と、自らがリーダーとして進めてきた活動について述べてくれた。
あれからさらに数年が経った。企業の株主総会で、当たり前のように女性役員が答弁し、女性の登用などということはもはや議題にもならない、そのような時を早く実現してほしいものである。政府が始めようとしている「働き方改革」が、こうした取り組みの大きな後押しとなることを期待している。
女性研究者を育てるために
産業技術総合研究所に来てから、女性の雇用状況についての話を聞く機会があった。驚くことに担当者から、「うちには30年以上前からM字カーブはないんですよ」との説明を受けた。民間企業で「M字カーブ」問題に頭を悩ませてきた私は、正直、この話をそのまま受け入れることはできなかった。しかし、これにはいくつかの理由があるようだった。その1つは、研究者という業務や研究所の役割は、社会に直接インパクトを与えるものだという強いモチベーションである。これは他の民間企業などの業務とは違うところかもしれない。
研究所という組織は、元来多様な個性と能力の集団として成り立っている。このような組織が円滑に業務を進めるためには、個人の裁量で働くことを尊重するとともに、チーム内の協力や支援も欠かせない。幸いこの研究所では、研究者同士が互いに理解し、助け合うよき風土が培われてきている。
また、業務に対する家族や周囲の理解も必要である。産総研があるつくば市は、研究都市として開発され発展してきた。多くの研究所や大学が存在する「研究者の街」であり、一般の市や町ではきわめて少ない研究者でも、つくば市ではマジョリティである。職住が接近し、育児・教育施設も充実するなど、研究者にとって恵まれた環境となっている。
それでも女性の研究者が十分に活躍しているかというと、まだまだ課題は多い。その現れとして、研究者に占める女性の比率は依然として低い。
現在産総研では、研究者の女性比率を増やそうと様々な施策に取り組んでいる。その一例として、女性の活躍を推進する取り組みを所内外で加速するため、地元大学と外資系日本企業と協力して共同プロジェクトを発足させた。
研究職を将来の仕事として考えている理工系女子大学生の皆さんに、産総研の研究現場を体感してもらうプログラムを検討している。産総研に勤務する女性研究者がメンターとなって、学生の皆さんのキャリアパスを支援していくものである。
研究所というと、世間からは隔離された世界のように見られていることもある。特に女性にとっては、周囲に研究者である先輩も少なく、自分の生涯の仕事としてイメージしにくい職種なのかもしれない。「技術を社会へ」を標榜する産総研が、女性から見て遠い存在であるとしたら、それは社会と十分なつながりを築けていないということを意味する。
目標とするところは、もっともっと多くの理工系女子学生が喜んで働くことを希望するような研究所である。女性が活躍しやすい職場風土の醸成は、女性だけでなく、そのまま男性にとっても働きやすい環境をつくることにつながる。一時的な支援策ではなく、ワーク・ライフ・バランスを実現できるタイムマネジメントや職場環境の向上など研究所全体としての恒常的な取り組みが不可欠である。研究所という限られた社会のことではあるが、私たちは女性が活躍できる職場としてのロールモデルになりたいと考えている。
このコラムについて
中鉢良治の「人在りて、想い有り」
ソニーに技術者として入社し、その後、経営者として同社を率いた中鉢良治氏。大学院では博士号も取得し、研究者を志した時もあった。現在は、産業技術総合研究所理事長として、研究者と日々を共にし、国立研究機関の指揮を執る。その中鉢氏が、多様な経験を通して培ってきた日本の産業や社会に対する見方、一人の職業人としての人生への想いなどを様々な切り口で描き、日経ビジネスオンラインの読者にお届けする。
ness.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/041300009/102600014/
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