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貴重なポンドの教訓 成長指向と市場流動性を失う国家への警鐘 保護主義の加速が促した海運3社の事業統合 統合でもシェア7%
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投稿者 軽毛 日時 2016 年 11 月 01 日 00:21:11: pa/Xvdnb8K3Zc jHmW0Q
 

貴重なポンドの教訓

倉都康行の世界金融時評

成長指向と市場流動性を失う国家への警鐘
2016年11月1日(火)
倉都 康行

10月7日の日本時間8時過ぎに起きた「ポンドの大暴落」は、ブレクジットへの恐怖感を想起させた(AP/アフロ)
 6月に世界を震撼させた英国のEU離脱(いわゆる「ブレクジット」)の決定は、市場が大混乱に陥るとの陰鬱な予想を覆し、実体経済への影響も軽微に留まっているように見える。EU離脱を支持した人々からは「残留希望組による過大な警告だった」との批判が巻き起こり、金融市場にも「ブレクジット・リスクはもはや過去の話」として切り捨てようとする動きさえあった。

 だが、10月7日の日本時間8時過ぎに起きた「ポンドの大暴落」は、ブレクジットへの恐怖感がいまだに消えていないことを想起させるに十分であった。たった2分ほどの間にポンドは対ドルで1.26台から1.18台まで6%超(市場には10%超との観測もある)の暴落を記録、2015年8月に米国株市場で起きた「フラッシュ・クラッシュ(瞬間的な暴落)」の再来とも言われる惨状を呈したのである。

 ポンドのボラティリティの高さは今に始まった話ではない。歴史を振り返ればポンドは何度も危機に見舞われ、1992年には有名なジョージ・ソロス氏との「通貨戦争」の舞台ともなった。今年6月のブレクジット決定の際にも、対ドルで11%の暴落を記録している。

 ただ、選挙前には「離脱決定となれば15%程度下落する」と予想されており、当時の1.45ドルから1.23ドル近辺への低下はほぼ「予見済み」であった、とも言えよう。その後は英国経済に大きな動揺が見られないことから、急落した後ポンドはしばらく1.3台を挟んだ範囲での平穏な動きに終始していた。そこに突然、ポンド売りの嵐が起きたのである。

「失望売り」の上を行く「絶望売り」が起きた?

 その背景には、前日に英国保守党大会でメイ首相がかなり思い切った「ハード・ブレクジット(強硬な離脱)路線」を打ち出したことが挙げられる。これにフランスのオランド大統領が「英国に対し断固とした姿勢を取る」と過激な反応を示したことでポンド売りが誘発され、アルゴリズム取引が流動性の乏しい市場の中で発動されて市場がパニックに陥った、と見られている。

 もっとも、アルゴリズム取引にすべての非を擦り付けてはなるまい。市場には「ブレクジットは間違い」「再度国民投票をすべき」「欧州諸国は妥協すべき」といった未練がましい気持ちが残っており、その可能性がメイ首相の発言によって一蹴されたことで「失望売り」の上を行く「絶望売り」が起きた、という解釈も成り立つだろう。米国株の「フラッシュ・クラッシュ」とは違い、今回の騒動はポンドが落ちるべくして落ち、然るべきレベルに達しただけの話だろう。

 暴落の真相はいまだ藪の中ではあるが、ポンドドルやポンド円などのレートを提示する金融機関が一時的に市場から消えたことは事実だ。昨年1月のスイスフラン・ショックに次ぐこの騒動は「外国為替市場は最も流動性が高い」という伝統的な安心感に、強烈な疑義を突き付けることになった。そして今回のポンド暴落は、為替相場だけに限定されない潜在的なリスクを暗示しているようにも思われる。日本にとっても他人事ではないかもしれない。

「英国は腹を決めた」とEUは強硬に

 いま英国では、EU統一市場へのアクセス維持を求める「ソフト・ブレクジット(柔軟な離脱)」派の立場はさほど強くない。それは、EU残留の必要性を主張した人々の経済・市場の予想が大きく外れているからだ。そのせいか、同国の産業界・金融界の利害を代表するハモンド財務相の存在感は、前政権下のオズボーン氏と比べて段違いに薄い。そしてEU残留を支持したカーニー英中銀総裁も、離脱派の政治家らの強烈な圧力によって辞任寸前にまで追い込まれている。

 英国内の政治力学はいまや、産業界の味方とは言えないフォックス国際貿易相、デービスEU離脱担当相、ジョンソン外相の三閣僚によって操られている。企業経営者らは必ずしも強硬な離脱派ではないジョンソン外相の柔軟(あるいは狡猾?)な戦術に期待したいところだが、同氏の言動には一貫性がなく信頼性に乏しい。

 そうした政治的運営の下、前述の通りメイ首相は保守党大会において「リスボン条約に基づくEU離脱通告を来年3月末までに行う」と明言し、移民流入の制限と司法権威の奪回を重要な二本柱に置いた。EU統一市場へのアクセス維持は二次的な位置付けとされた印象が強く、経済的影響を懸念して妥協や残留への道を探ってきた人々の夢は打ち砕かれた。ポンド売りが殺到したのも当然だ。

 同首相は、EU統一市場や関税同盟から脱退するとは明言せず「ハード・ブレクジット」という言葉は適切でないと語りながらも、国民投票のやり直し要請や議会決議なしに離脱通告を行うことへの訴訟準備などの動きを「英国民を侮辱する行為だ」と斬り捨てるなど、「ブレクジットはブレクジットだ」というその強硬な姿勢を明確にしつつある。

 同首相の基本姿勢は「完全に独立したソブリン」という言葉に明確に示されているように思われる。そのためには、多少の経済的損失はやむを得ない、といった姿勢さえ窺われる。これをもってEU側が「英国が腹を決めた」と見做し、強硬な準備態勢を敷くのは明らかだ。

 それは、EU内に「英国の身勝手を許せば域内の分裂を加速する」との警戒感が強まっているからだ。ドイツのAfD(ドイツのための選択肢)やフランスのFN(国民戦線)など極右勢力に代表される「反EU勢力」の台頭は、時間を追うごとにその正統性への自信を喪失し始めた超国家組織としてのEUの弱点を蝕んでいくだろう。

 欧州には、分裂気味で効率性を失い人気低下中のEUよりも、自己主張を始めた国民国家で構成される欧州の方が、移民や難民、安全保障などの問題にうまく対応出来る、といった見方すら浮上しつつある。年末に行われる憲法改正を巡るイタリアの国民投票やオーストリアのやり直し大統領選挙、そして来年3月のオランダの総選挙などは、その重要なリトマス試験紙になる。ブラッセルも気が気ではない。

EU離脱の「慰謝料」は200億ユーロ

 もっとも、英国でブレクジットを主張した人々にも過信や誤診があったことは否めない。6月の国民投票前に、離脱派の一部は国民に対し「EUから離脱すればその拠出金が節約されて医療サービスに向けられる」と主張していた。だがEU離脱はそれほど簡単な手続きではない。例えば、英国は既に支出をコミットした金額に対して支払い義務を負う、というのがEUの主張である。

 これまで英国のEU離脱に伴う「慰謝料」はあまり注目を集めてこなかったが、英フィナンシャル・タイムズ紙は離脱によって発生し得るその支払い金額を約200億ユーロと見積もり、EU側や学界などからの裏付けも取った上で、メイ首相がその支払いを拒むことは難しいだろう、との結論を下している。

 問題になるのは、長期プロジェクトのコミットメントや議員年金などの未払い分だが、そのうち最大の課題は「RAL(Reste a Liquider)」と呼ばれる未払い金である。英政府は離脱すれば払う必要がないとの姿勢を採っているようだが、法的には支払い義務が生じているとの見方が強い、という。

 こうした支払い義務が一般国民の間で話題になり、議会承認のないEU離脱通告の有効性について法的な疑義が生じれば、世論が「二度目の国民投票」へ傾くことも有り得よう。英エコノミスト誌の最新調査に拠れば、先の投票を後悔している人は離脱組で6%、残留組で1%となっており、6月の結果が52%対48%の僅差であったことを考えれば再投票では結論が覆る、と期待する声もあるようだ。

経済理論を無視する強硬的離脱派

 また、フォックス国際貿易相らは「EU統一市場へのアクセス制限は他国との交易機会拡大で十分カバー出来る」と述べ、アジアや中東、中南米などとの交易拡大を目指すべき、NAFTAに参加すべき、といった声すら上がっているが、それらは明らかに世界経済の実態を無視した発言だろう。

 同誌は、離脱派はティンバーゲンの「貿易重力モデル」を無視している、と指摘している。1969年に第1回ノーベル経済学賞を受賞したその貿易理論は、貿易量はその二国の経済規模に比例し、その距離に反比例するというシンプルなモデルであるが、英国とEUとの貿易関係を端的に表す強力な裏付けにもなっている。日本経済にとって、中国やインドを含めたアジア地域が如何に重要かを示唆する理論的フレームワークでもあり、この議論は我々自身にも重要な意味を持つ。

 その批判に対して強硬的離脱派は、貿易拡大はGDP拡大の結果であって原因ではないと反論、新興国経済の台頭はこのモデルの有効性を大きく後退させていると主張し、さらに今日のようにサービス産業が主流になった時代に距離という変数は無関係だ、と反論している。

 だが第一の点については既に実証研究でその有効性は立証されており、第二の点においては貿易を支える購買力は一人当たりGDPを尺度に置くべきだ、と同誌は述べ、また第三点のサービスに関しても、同時間帯や言語の共通性そして財との関連性などを勘案すれば重力モデルはまだ有効だと指摘し「ブレクジット派の主張には全く正当性がない」と断じている。

 また、EUが2009年から協議を続けているカナダとの包括的通商交渉が、ベルギー南部のワロン地域だけの反対であわや決裂しそうになったことや、英国がWTOに加盟し直す手続きの煩雑さなどは、離脱派の描く経済成長への青写真が全く非現実的であることを示しているようにも見える。

輸入コスト急上昇で「労働者の生活水準」に逆風も

 もっとも、離脱派への牽制球の威力としてはこうした経済的な議論よりも相場の大変動の方がはるかに力強い。31年ぶりの水準にまで下落したポンドは、いまや投機筋の絶好の売り対象となっており、先安観に怯える実需筋からの売りも加わって、一段安は不可避の情勢にある。その衝撃を受けて、過去最低水準を更新していた英国債の利回りも一気に上昇へと転じている。

 市場には、ポンド安で輸出増・輸入減となれば、高水準に達している経常赤字の縮小にも資する、と見る向きもある。ポンド安は同国の主要株価指数であるFTSE100を過去最高水準にまで押し上げており、日本市場と同様に英国市場が通貨安歓迎ムードにあることは否めない。8月に英中銀の金融政策委員に就任したマイケル・ソーンダース氏は、ポンド相場が新たな均衡点を探る動きの過程にある限り何の問題もない、との見方を示している。

 だがポンド下落は既に輸入コストの急上昇をもたらしており、9月の消費者物価指数は前年同月比1.0%上昇と2014年11月以来の高い伸び率となっている。この傾向が強まれば、メイ首相が気遣う「労働者の生活水準」に対する厳しい逆風になる可能性は小さくないだろう。カーニー英中銀総裁は先月「もはやポンド下落を無視し続ける訳にはいかない」と述べて、追加緩和姿勢を修正する姿勢を見せている。

 また、英国債利回りの上昇も経常赤字国の英国には厳しいシグナルだ。英中銀の追加金融緩和方針を受けて過去最低水準にまで低下していた10年債利回りは、ポンド暴落を契機に先月0.5%台から一気に1.2%台までの急上昇を示した。その背景にあった海外投資家による英国債の投げ売りは、構造的な経常赤字の下で対外資本に大きく依存する同国に対する追加的リスク・プレミアムの要求だと見て良い。

 今後、不透明感が増すに従って景気が下向くと懸念される中での金利上昇は、国内経済にも大きな脅威である。財政政策出動に前向きなメイ首相にとって、ファイナンス・コストの上昇は有難い話ではない。

 こうしたポンド下落と英国債利回り上昇が示しているのは、ブレクジット決定を契機に機関投資家の英国社会に対する見方が変わった、という点だ。これまで自由で開放的な市場経済を「売り物」にしてきた英国が、移民規制や司法独立といった閉鎖性に政治的な優先度を置いたのは、従来の英国の路線が大きく修正されようとしていることを意味している。「自由」の象徴であったポンドが売り対象になったのは当然のことかもしれない。

 英国市場からは、財政収支と経常収支の双子の赤字を抱えながら政治的に彷徨する国の資産を欲しがる投資家など何処にも居ない、といった恨み節も聞こえる。同国の経常赤字は3年連続で過去最大を更新中であり、昨年第4四半期にはGDP比7%超という赤字を記録、財政収支はキャメロン前政権の緊縮財政でやや改善基調にあったが、メイ首相はその方針転換の姿勢を見せている。ポンドに一段のリスク・プレミアムを要求する市場の声は、決して不合理ではない。

「死に体の市場」だからこその怖さ

 そして、為替市場と国債市場がもはや流動性の高い市場ではなくなったことも、重要なインプリケーションを持つ。特に後者に関しては、英中銀は日銀同様に積極的な国債買い入れを実施しており、2018年までに市中残高の3分の1を保有する計算となっている。それは明らかに市場流動性の低下をもたらしており、今回の利回り急騰の土壌を形成したとも考えられる。

 日本では、日銀が「イールドカーブ・コントロール」を通じて長期金利水準を公的に制御する「金利操作」を開始し、10年債をゼロ近辺に固定することで金利急騰のリスクは低下している、との見方が大勢だ。市中発行の90%を日銀が購入しており、流動性が低下して長期金利は事実上固定相場となっているからだ。先月には10年債の業者間の出会いがゼロになる、といった事態にまで悪化している。

 だが、そうした「死に体の市場」であるからこそ、国債に何が起きるかわからないという怖さを英国債市場は示している。日本市場で10年債の利回りが逆に猛スピードで低下したり、20年債や30年債の利回りが急騰したりして、為替市場や株式市場における思わぬ大変動を生むようなシナリオは、もはやテール・リスクの段階ではない。

 今回のポンドと英国債を巡る大変動は、英国が来年3月までに「ハード・ブレクジット」路線を見直す可能性を示唆するとともに、流動性を奪い去られた市場に囲まれる中で長期的な成長戦略を見失うと何が起きるかという警告を、日本に事前に与えてくれたのではないか、と思わずにはいられない。


このコラムについて

倉都康行の世界金融時評
日本、そして世界の金融を読み解くコラム。筆者はいわゆる金融商品の先駆けであるデリバティブズの日本導入と、世界での市場作りにいどんだ最初の世代の日本人。2008年7月に出版した『投資銀行バブルの終焉 サブプライム問題のメカニズム』で、サブプライムローン問題を予言した。理屈だけでない、現場を見た筆者ならではの金融時評。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/230160/102600018


 
保護主義の加速が促した海運3社コンテナ事業統合

ニュースを斬る

市況低迷の中、統合でもシェア7%の現実
2016年11月1日(火)
大西 孝弘

海運3社はコンテナ事業の統合に関する記者会見を開いた。左から会社のあいうえお順で、川崎汽船の村上英三社長、商船三井の池田潤一郎社長、日本郵船の内藤忠顕社長と並んだ(写真:共同通信)
 「歴史的な転換点になる」

 10月31日、商船三井の池田潤一郎社長は記者会見で胸を張った。 

 日本郵船と商船三井、川崎汽船の海運3社は同日、コンテナ事業を統合すると発表した。3社で約3000億円を出資して新会社を設立し、売上高は単純な合算でおよそ2兆円となる。

 船隊規模は合計およそ140TEU(20フィートコンテナ換算)になり、スケールメリットを働かせることで、年間1100億円の統合効果を見込む。

 海運のコンテナ事業は歴史的に再編を繰り返してきた。戦後はゼロからスタートして10社以上が立ち上がり、その後の不況で1964年に中核6社に絞られた。1999年に3社体制になり、今回の統合で2017年7月から1社に減る。

 これまで海運業界を担当する国内証券アナリストは、「資本効率としてはコンテナ事業を統合した方がいい」と指摘していたが、一方で、「系列の財閥や企業文化が違うから現実的には難しい」とみていた。また、食品や日用品、製品の部材などを運ぶコンテナ事業は、海運各社の主力事業であり、手放しにくい側面があった。

 それでも統合に踏み切ったのは、各社が単独でコンテナ事業を立て直すシナリオがもはや描けなくなったからだ。

リーマンショック後の半値に落ち込んだ船賃

 この数年、コンテナ船の市況は歴史的な水準まで低迷していた。足元の船賃はリーマンショック後の高値に比べて半値の水準になっている。

 市況が改善した際に、海運各社が船を増やしたために、需要に比べて供給過多になった。市況低迷の長期化は、海運業界を大きく揺さぶっている。

 8月には韓国の海運最大手、韓進海運がコンテナ事業の収益悪化などから経営破たんに追い込まれた。

 10月31日に発表した3社の決算でも、市況低迷の影響は顕著に表れた。いずれも2017年3月期の業績見通しを下方修正。コンテナ事業が大幅赤字が、収益悪化の最大の要因になった。

 ただ、統合してもコンテナ市況が回復する訳ではない。コンテナ市場の中で、日本の海運3社の世界シェアの順位は11位、14位、16位だ。

 統合しても世界6位のシェアは約7%で、マーケットに影響を与えるほどのインパクトはない。また、コスト競争力を高めたとしても、市況低迷の影響は避けられず、苦しい状況が続くと予想される。


商船三井のコンテナ船。市況が急速に悪化している
今後も貿易の伸び悩みは続く見込み

 市況の低迷は、海運各社の過剰投資だけでは説明がつかない部分がある。GDPが成長しているにもかかわらず、世界の貿易が伸び悩んでいるのだ。

http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/110879/103100475/g1.jpg


2012年以降、GDPと貿易の相関関係に異変が出ている
 これまでは、GDPが世界的規模で成長すれば、それを上回る比率で世界貿易が伸びるという相関関係があった。

 それは数字にはっきりと表れている。日本貿易振興機構(ジェトロ)の調査では、世界の実質GDP成長率を分母、実質貿易の伸び率を分子とした場合、長い間その倍率は1〜3の範囲で推移していた。例えば、GDP成長率が3%だった場合、貿易伸び率は3〜9%だった。

 だが、2012年からこの相関関係に異変が生じている。2012年〜2015年まで倍率は0.1〜0.8にとどまっている。つまり、貿易の伸び率がGDP成長率を下回っているのだ

 貿易の専門家たちはこの現象を「スロートレード」と呼ぶ。10月20日には、日本銀行が「スロー・トレード:世界貿易量の伸び率鈍化」というリポートを公表した。

 海運各社は従来のように貿易需要が伸びることを見越して船を増やしたが、想定より需要が伸びず、供給過剰に陥った。世界貿易の異変が、海運再編を促したと言っても過言ではない。

 スロートレードについては、様々な要因が挙げられている。1つは製造業の地産地消が進んでいることだ。

 例えば、中国では産業のすそ野が広がり、自動車など組み立て産業における部品の現地調達率が高まっている。ジェトロの調査によると、中国進出の日系企業による原材料・部品の現地調達率は、2005年の53.5%から2015年には64.7%に高まっている。

 特にスロートレードは世界経済の成長ドライバーである新興国で顕著だ。2005年〜2015年におけるGDPと貿易の相関関係の倍率は、先進国が1.5倍なのに対して、新興国は0.6倍である。

 2つ目の要因は、保護主義の傾向が強まっている点だ。自由貿易協定の締結が進む一方で、貿易制限措置の発動が増えている。

 世界貿易機関(WTO)の調査によると2015年10月から2016年5月までの期間で、合計145件の貿易制限措置が発動されたという。これはリーマンショック後で最も多い水準に達しているとWTOは警鐘を鳴らしている。

 さらに、今後は先進国でも保護主義が台頭する可能性がある。米大統領選を戦う民主党のクリントン候補、共和党のトランプ候補が共に環太平洋経済連携協定(TPP)に反対している。

 WTOのロベルト・アゼベド事務局長は経済成長と貿易との相関関係について、今後数年は元の水準に戻らないとの見通しを示している。日本の海運3社のコンテナ事業の統合は、世界のモノの流れが大きく変わっていることを象徴している。


このコラムについて

ニュースを斬る
日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
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