http://www.asyura2.com/16/hasan115/msg/163.html
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日本の製造業は米国よりも景気がいい?
上野泰也のエコノミック・ソナー
設備稼働率の比較に「落とし穴」
2016年11月1日(火)
上野 泰也
人口が減っていく日本では消費市場の規模が長期的に縮小していくため、国内での製造業の生産能力は低下傾向にある。国内での製造業への設備投資の伸びにはおのずと限界があるだろう。
日本の場合「実際の設備稼働率」は公表されていない
経済産業省が10月17日に発表した8月の鉱工業生産確報で、製造工業稼働率指数(季節調整値:2010年=100)は98.7(前月比+2.6%)になり、3か月連続で上昇した。業種別に見ると、8月に堅調だったのは、スマートフォンやパソコンなどIT関連の業種。具体的には電子部品・デバイス工業が前月比+6.6%、情報通信機械工業が同+17.0%である。
日本の場合、「98%でほぼフル稼働状態だ」というような何%という実際の設備稼働率(実稼働率)は公表されておらず、指数のみを公表する扱いになっている。
経済産業省はホームページのQ&Aに、以下のように記している。
「実稼働率を公表することについての要望は強いのですが、現在は公表していません。その理由としては、生産活動の形態は各業種様々であり、業種間の比較が困難なことに加え、現行の稼働率指数は月々の稼働率の推移を観察する指標としてほぼ十分ですが、実稼働率の総合的な水準を見るためには、精度が不十分であるためです」
「ただし、製造工業、機械工業、機械工業を除く製造工業について、基準時における実稼働率水準を公表しており、この実稼働率水準に稼働率指数を乗じることによって、その時点における実稼働率のおおよその目安が得られます」
「平成22年基準における実稼働率水準は、製造工業76.7%、機械工業77.6%、機械工業を除く製造工業75.3%となっています」
(経済産業省 鉱工業指数 Q&A)
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/iip/qa.html
指数×実稼働率水準が、実稼働率のおおよその目安
日本の8月の製造工業の実稼働率としては、指数98.7に76.7%を掛け合わせて出てくる75.7%という数字が、おおよその目安となる。
米FRB(連邦準備制度理事会)が同じ17日に発表した米9月の鉱工業生産で、製造業(市場がウォッチしており報道でも通常取り上げられるSICベースというカテゴリー)の設備稼働率は74.9%に上昇した(前月比+0.1%ポイント)。8月の改定値は74.8%で、日本の製造工業について計算して出てきた上記の75.7%よりも低かった<■図1>。
■図1:日本と米国の製造業設備稼働率(日本は製造工業、米国は製造業<SICベース>)
注:日本の製造工業の設備稼働率は2010年の実稼働率76.7%を用いた試算値
(出所)経済産業省、米FRB資料より筆者作成
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/102700066/ZU01.jpg
日本の稼働率が米国を上回るのは、1月以来7か月ぶり
日本の稼働率が米国を上回るのは、1月(日本 76.6%・米国 75.5%)以来7か月ぶりのこと。10月31日に発表された9月の鉱工業生産速報は前月比横ばいにとどまり、市場予想よりも弱かったが、それでも次の9月も日本の方が稼働率は高くなりそうである。
だが、ここで気をつける必要があるのは、設備投資を企業が行った結果、生産能力が高まれば、製造業の生産水準がそれまでと同じであっても、設備稼働率は低下するということである。逆に、既存設備の廃棄などによって生産能力が下がる場合には、生産水準が同じであっても、設備稼働率は上昇する。
生産能力が増加基調の米国、低下基調の日本
そこで日本の製造工業と米国の製造業について生産能力の推移を見ると、動き方に大きな違いがあることがわかる。ここで日本の生産能力指数は製造工業の原指数(2010年=100)、米国は製造業(SICベース)の“Capacity”の季節調整値(2012年の生産水準に対する%)である<■図2>。
■図2:日本と米国の製造業生産能力指数(日本は製造工業、米国は製造業<SICベース>)
注:日本は原指数、米国は季節調整済
(出所)経済産業省、米FRB
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/102700066/ZU02.jpg
米国の生産能力は、住宅バブル崩壊後の低下局面を終えた後、2012年以降は(2013年後半〜2014年前半の踊り場を経つつも)上向きトレンドとなっている。FRBが金融正常化路線を走る中でドル相場が強い地合いとなっていても、下向きにはならずに済んでいる。
米国の製造業については、NAFTA(北米自由貿易協定)を背景とする生産拠点のカナダやメキシコなど国外への移転や、市場原理にさらされる中での企業の淘汰整理によって、国内拠点のスリム化がすでに一巡したとみられる。その上、日本の自動車メーカーが米国で生産拠点を増やすといった対内直接投資による押し上げの力を受け続けているため、足元の為替のドル高地合いに対する生産能力指数の感応度が低いのだろう。
人口動態が上向きの米国、下向きの日本
そして何よりも、米国では人口動態が上向きである。出生率が日本よりもかなり高い上に、移民受け入れによる人口増加の力がある(その上、不法移民とその子どもが多数おり、扱いが政治問題化している)。米国の人口は、増加率こそ徐々にペースダウンしているが、15〜64歳の生産年齢人口を含めて数は増え続けており、自国の将来の消費市場の総規模は右肩上がりで名目GDP(国内総生産)はプラスの伸びを維持するはずだという基本認識が、官民で共有され、定着している。
ひるがえって日本の場合はどうか。2012年以降について日本の生産能力指数の動きを細かく見ると(2012年1・2・3月の水準は98.9だった)、円高是正が進んだことを背景とする製造業生産拠点の「国内回帰」によるとみられる小規模なリバウンドが何度かあった。為替の円高が是正されて円安になっていったことを背景に、採算を考慮して白物家電やプリンターなどの生産拠点を国内に戻す動きがいくつかあったことを、読者の方々もまだご記憶だろう。
けれども、2015年1・2・3月に95.6となったところまでで、生産能力指数の上向きの動きは力尽きた。同年6月につけた125.86円で為替の円安ドル高が終息して流れが反転してからは、同指数は再び低下基調になっており、2016年7・8月の水準は94.4である。
人口減が消費市場の規模をさらに縮小させる
筆者は以前より人口動態を重視する立場をとっているわけだが、企業・金融機関の方々とお話ししていると、人口減・少子高齢化が日本の消費市場の総規模を今後間違いなくさらに縮小させていくことへの危機感にはきわめて強いものがあると痛感する。
為替相場が円安ドル高方向に一時125円台まで数年間シフトしたと言っても、それは人口動態や自社の将来を考える10年以上の時間軸からすれば、ごく一時的な現象にすぎない。為替相場というのは、予想外の材料が出てくれば短期間のうちに状況が急変し得る性質のものだが、人口動態というのは、よほど過激な移民政策を採用しない限り、将来の見通しが急変することはない。前者は「スピードボート」のように小回りがきくが、後者は「巨大なタンカー」のようなものであり、コースを大きく変えるにはかなりの労力と時間を要する。
企業の投資行動を決める要因は、為替相場よりも人口
企業の経営判断は、短期間で収益を挙げて売却することを考えている投資ファンドのようなケースは別にして、通常は中期計画や長期ビジョンに沿って行われていくものだろう。要するに、企業の投資行動を決定する要因として、為替相場よりも人口動態の方がはるかに重要だということが、日本の生産能力指数の近年の動きから、あらためて確認されたということである。
最後に、日米の製造業の設備稼働率格差(米国−日本)とドル/円相場の関係について、直近の状況を確認しておきたい。
2009年や2012〜2013年には「格差がプラス(=米国優位)なら円安ドル高」というパターンが観察された(2011年3月東日本大震災発生後の局面は例外)。しかしその後は、為替市場が日米中央銀行の金融政策の動向にきわめて高い関心を抱いており、製造業の稼働率格差とドル/円相場の連関は見られなくなっている<■図3>。
■図3:米国と日本の製造業設備稼働率格差とドル/円相場
注:米国の設備稼働率は製造業(SICベース)、日本の設備稼働率は製造工業についての試算値
(出所)経済産業省、日銀、米FRB資料より筆者作成
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/102700066/ZU03.jpg
こうしたマクロ経済統計がドル/円を再び動かすようになるのは、米国の政策金利が長期にわたり据え置かれるなど、日米で金融政策がほとんど変更されなくなり、材料としてもはや使いにくくなって市場の関心度合いが低下してからのことだろう。
このコラムについて
上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/248790/102700066/?
ミシュラン副社長「タイヤ無駄遣いする日本人」
フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える
第356回 ミシュラン副社長ベルナール・デルマス氏インタビュー(その3)
2016年11月1日(火)
フェルディナント・ヤマグチ
みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今回は読者諸兄にお詫びをしなければなりません。
前号のコメント欄で、読者の方から大変厳しいお叱りを受けました。
「何度も申し上げておりますが、ご自身の顔にモザイクを掛けてまで掲載するのは気持ちが悪いのでやめなさい。それは取材相手に対しても読者に対しても大変失礼であり不愉快です。モザイクを掛けるくらいなら自分の写っていない写真を使いなさい」
不愉快な思いをさせてしまい、本当に申し訳ございませんでした。心よりお詫び申し上げます。
ご指摘を真摯に受け止め、今後はモザイクを使わないことをお約束いたします。確かにあのギザギザしたタッチは気持ちが悪いですものね。
いえね、実は私も以前から気にはなっていたのです。。今号からモザイクではなくボカシを入れた写真を掲載することに致します。これならギザギザも気にならないでしょう。
ご指摘ありがとうございました。
ということで今週もヨタから参りましょう。
12月6日に竢o版社から創刊される雑誌buonoのグラビア撮影に行って来ました。「料理紳士のためのフードエンターテイメントマガジン」を標榜する同誌ですが、私が連載する欄は“食”の縛りナシで、好き勝手に書いて良いとの有り難いオファーを頂いております。これはやり易い。新連載のタイトルはフェルディナント・ヤマグチのお宝情報見聞録「World Treasure」になる予定。あら?締切は明日か……。まだ1行も書いとらんぞ……。
竢o版社の1階には立派なスタジオが有るんですな。ここの角社長は所謂“パパ友”なのですが、まさか仕事でご一緒することになるとは思いませんでした。ムダな内股がキモいです。
トヨタの広報諸侯と中目黒のNa Camo guro(なかもぐろ)で飲みました。本来は日本一の売れっ子自動車評論家、渡辺敏史氏と飲む予定だったそうですが、私が後から便乗した形です。
なんか代わり映えのないメンツですが…。しかしNa Camo guroの進化には眼を見張るものがありますね。1年前と比べ、味もサービスも段違いに向上しています。いやぁモザイク無しって本当に良いですね(笑)
コンパクトマンションの開発・販売を行う9Gatesの持田智之氏のご案内で、週末の宮崎トリップに出かけました。宮崎楽しいです。肉も魚も野菜も安くて美味しい!こりゃどっぷりハマりそうです。
持田邸にお招きいただき美味しいワインなんぞを頂いたのですが……
ふたり揃って敢え無く撃沈。面目有りません。
東京に戻って、久し振りにプールバーで球撞きなんぞを楽しみました。1985、6年頃でしょうか。日本全国がビリヤードブームに沸いたものです。トム・クルーズが主演のハスラー2なんて映画も有りました。
昔ヘタだった人間は当然今でもヘタなわけでして、1ゲーム終えるのに、まあ時間のかかることかかること。やはり一番の遊び人だった笹川さんが一番上手なのでございました。
なかなか上手く撞けませんが、まあ雰囲気だけでも楽しめれば。
さあさあ。ご要望通りモザイク無しのヨタを飛ばした所で、そろそろ本編へと参りましょう。
ミシュラン副社長、ベルナール・デルマス氏のインタビュー最終回です。
「日本では、スリップサインが出る前に車を買い替えてしまう」
「日本は路面が良い、気候もそれほど厳しくない。だから3年以上乗ってもタイヤは大丈夫です」
(前回から読む)
デルマス氏(以下、デルマス):天然ゴムの問題、合成ゴムの問題。タイヤの原料の問題も有りますが、我々がもっと深く考えなければいけないのは使い方の問題です。タイヤの使い方の問題。
今まであまり注目されず、また議論もされて来なかったのですが、これからはもっと深く考えなければいけません。みなさん御存知の通り、タイヤには1.6ミリのトレッドウェア、摩耗のインジケーターがありますね。
F:スリップサインのことですね。これが出たら擦り減りすぎて危ないから交換しましょうというサイン。
デルマス:そうそう。でも日本でこれが出るまで使う人は滅多にいない。みんなその前にクルマを買い替えてしまうから(笑)。クルマを買い替えないにしても、日本のユーザーはそれほど長距離を乗らないでしょう、1年で1万キロ以下の人がたくさんいる。
F:スリップサインが出るよりも前に、タイヤの寿命が来てしまう。ゴムの劣化が進んで。
デルマス:そこです。そこをユーザーの皆さんにも知って頂かねばなりません。
F:たとえ擦り減っていなくても、3年経ったら交換しましょう、と聞いています。見た目は良くとも、やはりゴムが劣化しているので危ないと。
デルマス:日本は路面が良い、気候もそれほど厳しくない。だからもっと長く乗っても大丈夫です。もちろんお金持ちの人は経済的に自由だから、クルマを買い替えたり、タイヤを交換したり出来るのだけど、これからの社会、それをみんながやったらどうなりますか。未来のことを考えると、それは良くないことではありませんか。
F:うーん。まだ使えるけれども、経済的に余裕があるから、どんどん新しいのに換えちゃえ、ということでは無いですよね。
タイヤの金型。この型を転写してタイヤのパターンが形成されるのだ。
デルマス:ええ、違います。この前我々はシミュレーションをしてみました。世界中のマーケットのタイヤ交換頻度を比較してみたんです。
そうしたら面白い結果が出てきました。日本はもちろん1.6ミリまで使わない。溝がまだ3.5から4ミリも残っているところで交換してしまう。世界のアベレージがだいたい3ミリくらい。日本は特別に早いけれども、ワールドワイドで見ても、やはり1.6ミリのところまで使っていない。みんなその前に新しいのに交換してしまう。みんなが1.6ミリまで使ってくれたらどうなります。
F:ゴムの使用量は半分になり、当然廃棄物も半分になる。でもそれじゃミシュランが困っちゃいますよね。売り上げが激減してしまう(笑)
デルマス:ミシュランの来季の利益だけを考えたらそうかもしれない。しかし、50年後のミシュランのことを考えたら、それはやったほうがいい。やるべきです。会社のためにもやったほうが良いし、未来の社会のためにもやったほうが良い。
F:うーん……。
「あれから60年、ミシュランは潰れていない」
デルマス:思い出して下さい。これはミシュランが1950年代にラジアルタイヤを発売したときと同じ議論です。ラジアルタイヤの寿命は、バイアスの倍以上です。うんと長持ちする。全てがラジアルになってしまったら、我々の売り上げは激減して、ミシュランは潰れてしまう。ラジアルタイヤが世の中に出た時に、本当にそんな議論が有ったんです。
あれから60年たった今はどうでしょう。ミシュランは潰れていない。ご覧の通り、潰れていないでしょう?(笑)
これは貴重品。ビヴァンダムが乗っかったエアポンプ。その昔、販売店向けのノベルティとして作られたものだ。
F:確かに。潰れていませんね(笑)。それどころか、立派な研究所までリニューアルオープンした。
デルマス:1キロメートル物を運ぶのに、燃料をどれくらい消費するか。これは世界中で議論され、研究されています。ではタイヤはどうか。ゴムはどうなのか。燃料と同じように、ゴムも議論されなければいけません。
だから我々メーカーは、タイヤの性能をもっと上げて、長持ちするプロダクトを作らなければいけないし、ユーザーのみなさんも、溝の残りが1.6ミリになるまでキチンと使い切るようになってほしい。そして使い終わったタイヤは、リトレッドして、新たなタイヤとして再利用されるようにしなければいけない。1キロメートルのモビリティーに、できるだけゴムを使わないという努力が必要です。これからはそこが一番大事だと私は思います。
F:なるほど。ドライバーの意識向上も必要な訳ですね。
デルマス:そう。それはとても重要。とても大きなファクターです。そしてクルマの乗り方も重要です。急加速、急ブレーキ、急ハンドル。これらは全てタイヤの寿命に影響します。スムーズな運転はタイヤを長持ちさせます。
F:クルマの燃費と同じですね。せっかくプリウスを買ったって、ガンガン踏んだら燃費は悪くなる。
グリーンタイヤを展開し始めたころの広告原画。「グリーンタイヤで燃費を良くしましょう」ということなのだが、それにしても石油屋さんがブチ切れそうなイラストだ。
デルマス:そうです。ですがそれをお客さんに言うメーカーは良くないメーカー。やっぱりメーカーは努力をしなければいけない。お客さんの運転に頼るのではなく、技術力で解決しなければいけません。メーカーの技術があった上で、お客さんの運転です。
F:なるほど。
デルマス:私は研究開発畑の人間で、長く開発に係わって来ました。ミシュランの研究開発部門では、入社するとまず初めに「Usage」という言葉を叩き込まれます。Usage。どう使うか。この道具は、どんな客さんが、どのようにして使うのか。開発する人間の間で、それが理解され、共有されなければいけません。Usageが分からないと、開発する意味がありません。ミシュランの全ての開発は、そこから始まります。
F:その道具をどう使うか。どんなお客さんが使うのか。
デルマス:そう。それがミシュランのベースメント。見て、聞いて、話して。分からなければ、何で?どうして?教えて!と質問をします。
さっき私はフェルディナントさんに聞いたでしょう。「どうしてそのような質問をするのですか?」と聞きました。あれは癖です。ミシュランのエンジニアの癖(笑)。そしてフェルディナントさんは、その理由を明確に答えてくれた。この遣り取りはとても重要です。
「どうしてそのような質問をするのですか?」 デルマスさんからこう切り返された時、「下らない事を聞くんじゃ無ぇよバーカ」と、気分を害されたかと肝を冷やしたものだが、そうではなかった。「なぜ?なぜ?なぜ?」はミシュランのエンジニアの習い性だったのだ。
日本のマーケットが重要である理由
デルマス:私は38年間ミシュランで働いています。フランソワ・ミシュラン、エドゥアール・ミシュランと言った創業者一族とも一緒に仕事をして来ました。彼らから言われて、一番強く心に残っているのは、「あなたの給料どこから出ているのか?」という言葉です。
F:給料は会社から出ますよね。会社員なんだから。
デルマス:うん。最初は当然みんなそのように答える。でも彼らは「それは違うよ」と。会社からじゃなくて、「お客さんからだ」と。ははは。ナーンダと思っているでしょう。フェルディナントさん、すぐに表情に出るから分かり易いね(笑)
F:いえそんな……。
デルマス:「給料はお客さんから出ている」これはとてもすごい言葉。この言葉の根本的な意味が分かれば、今とは違う仕事のやりかたをしなければいけません。我々は何を開発しているのか。誰に向かって。どう使ってもらうために開発しているのか。エンジニアは、常にこれを念頭に置いておかなくてはいけません。
でも普通はすぐに忘れてしまいますよね。何が大事なことかを、みんなすぐに忘れてしまう。だから質問です。なぜ?どうして?「事実の尊重」は、ここから出てくるんですね。
F:最後にひとつ教えて下さい。失礼ながら日本に於けるミシュランのシェアはそれほど高いものではありません。国別の売り上げランキングで、日本は何位くらいになりますか?
デルマス:国別ですか。我々は、ふだんはあまりそういう見方をしないものですから。スケールを合わせるのが少し難しい。我々は製品別で見ているものですから。アメリカが一番であることは間違いありませんが、製品をまとめて見ると、日本は7、8番目くらいかな。確かな数字ではありませんが、感覚的にはそれくらいです。
F:売り上げの比率から見ても、日本はミシュランにとって最優先のマーケットではありません。一方でミシュランは、日本のマーケットをとても大切にしていると伺いました。これはどうしてですか。
デルマス:我々にとって日本は、マーケットラボラトリーです。日本人は新しい技術のことをよく理解して、そしてよく勉強します。だから重要な開発拠点を日本に持っています。
そして日本のOEMは、日本の市場だけではなく、世界中の市場を日本からコントロールしています。日本で物事を決めて、それが世界中に広がっていくでしょう。だから日本はとても大切。絶対に外せない。
F:ああ、日本で開発したクルマが世界中に……なるほど。
日本が大切と仰いますが……。ミシュラン博物館にある世界地図を見ると、本州と北海道が地続きになり、四国・九州が沈没して消えていますぜ副社長。
デルマス:ノン!クルマだけではありません!ヤマハも、コマツも、クボタもそう。クボタは今度フランスに工場を作りました。トラクターの工場。ヨーロッパのトラクターは大きいのは得意だけど、小型のはあまり得意ではない。クボタは小型のトラクターがとても優秀ですね。そこにミシュランのタイヤを履いてもらう。クボタとの関係は日本で作りました。
フランスでも履いてもらいます。日本を良く知らない人は、日本はコピー文化なんて言うけれども、とんでもない!日本人はとてもクリエイティブ。建設機械のコマツ。素晴らしい。世界一の会社ですよ。とてもクリエイティブ。すごい会社。いま私が一番注目しているのは中小型のトラック。
F:トントントントン日野の2トン(笑)。アレですか?
「ボルボとかベンツとか、大きいのはすごいけど……」
デルマス:あれはすごいですよ。ボルボとかベンツとか、大きいのはすごいけど、小型は不得手でしょう。日野といすゞ。すごいですよ。いま一番注目しています。
おっと、もうこんな時間。お店の人もそろそろ帰らせてあげないと可哀想(笑)。明日も早いし。今日はこのへんで切り上げましょう。いや実に楽しかった。
明日はミシュランの技術をたくさん見て下さい。新しい研究施設の感想を聞かせて下さい。
素晴らしい環境の研究開発拠点。諸般の事情で建物をぐるりとしか見られなかったのが残念だ。
我々も日本に負けないクリエイティビティを持っています。日本人とフランス人は根本のところで良く似ているのだと思いますよ。新しいものが大好きだけど、古いものもキチンと大切にする。そしてミシュラン。履いて下さい。フェルディナントさん、履いていますか。
F:もちろんです。帰国したら、スタッドレスに履き替えないと。
デルマス:日本の研究所も見学して下さい。日本独自の研究開発を行っていますから。とても興味深い取材が出来ると思いますよ。日本のエンジニアはとても優秀かつユニークです。
F:分かりました。一度取材に伺います。今日は遅くまでありがとうございました。
兄さん中国からかい?え、日本?そりゃ遠いところからご苦労さん。今日は総理も来るからね。楽しんでいってね。
気が付けば他の客は全て引き上げており、ウェイター氏が手持ち無沙汰で立っていた。
ミシュランの副社長インタビュー。お楽しみ頂けましたでしょうか。
次回は試乗したまま記事にしていなかったトヨタ 86GRMNの試乗記と開発者インタビューをお送りします。お楽しみに!
欧州メーカーが採用する”承認タイヤ”とは?
こんにちは、ADフジノです。
クルマ好きの方なら、タイヤの大切さはよくご存知でしょうが、一見すればどれも黒くて丸いゴムなだけに、なかなかその重要性を理解してもらえないものでもあります。
一般的にタイヤ1本あたりの接地面積はわずかハガキ1枚分と言われます。クルマにおいて唯一路面と接するパーツであり、高性能化、省燃費化が進むなかで、タイヤが機能してはじめて、自動車は本来の性能を発揮することができます。そういう意味では、クルマにおいて何よりも重要なパーツの1つと言えると思います。
高速域で走れば走るほど、バーストなどの危険性は高まります。欧州メーカーはタイヤの重要性をよく理解しており、以前から車両開発と並行してタイヤ開発を行ってきました。なかでもRR(リアエンジン・リアドライブ)という特殊なレイアウトで、極めて後輪に負担の大きいポルシェ911は、その代表例として知られています。
ポルシェは、タイヤに対して独自の基準を設けており、それをクリアしたものだけがポルシェ承認タイヤとして“N”マークが付与されます。同じブランド、同じ銘柄であっても、Nタイヤはコンパウンドの配合やジオメトリーが異なるため、ポルシェはNマーク付きのタイヤを装着してはじめて走行性能と安全性を保証する、という厳密な対応をとっています。それほどまでにタイヤが重要だという裏付けでもあります。
ポルシェマカンに純正装着されるミシュラン製のポルシェ承認タイヤ。見にくいかもしれないが、「LATITUDE Sport 3」という銘柄のあとに「N0」のマークが入っている(赤で囲んだ部分)。Nの後ろの数字はN0、N1、N2、N3、N4、N5、N6というように、モデルチェンジなど承認のタイミングによって、どんどん大きくなっていく。ちなみにこの“N”とは ドイツ語の「NORM」(規格、基準)の頭文字
近年は、高性能化につれ、アウトバーンを擁するドイツメーカーなどがこうした承認タイヤのシステムを導入しており、メルセデスは「MO」、BMWは「☆」(スター)、アウディは「AO」や「RO」といったマークが入っています。またフェラーリやランボルギーニ、アストンマーティンなどもスーパーカーももちろんこの仕組みを導入しています。
国産車で、厳密にタイヤの指定を行っている代表例が日産GT−Rです。上記のような承認タイヤという形式ではなく、サマータイヤとしてはGT-R専用に開発されたダンロップ製のランフラットタイヤのみを純正装着しており、この純正品以外の使用はメーカー保証の対象外となるという力の入れようです。以前、開発過程を取材したことがありましたが、GT-Rの開発責任者だった水野氏は、「アウトバーンを300km/hで走行中にタイヤがバーストしても無事に戻ってこられる性能を実現しなければいけない」と話していました。たしかにタイヤは命をのせた部品なのです。
ポルシェのSUV、マカンGTSで、富士スピードウェイのフルコースを走る機会に恵まれた。3リッターV6ターボは360PS/500Nmを発揮し、とてもSUVとは思えない速さをみせる。しかし、何よりも驚くのが、ホームストレートでは約220km/hにも到達、フルブレーキングで1コーナーに進入するような走りを、複数のジャーナリストが丸一日試したというのに、マカンのブレーキとタイヤは音を上げなかったこと。これぞポルシェのポルシェたるゆえんだ。
ところで、本編にも話が出ていましたが、タイヤの交換時期を見極めは難しいものです。目視で、すり減ってスリップサインが出ていたり、ヒビ割れていたりすればわかりますが、長年屋根つきガレージで保管された車両のタイヤなど、状態によっては見た目では判断がつかないことも。フェルさんも本編で「3年経ったら交換しましょうと聞いています」と書いていますが、中古車の場合などは、その3年を判断するのが難しいこともあります。
これは中古車を買う際には必ずおすすめするチェックポイントですが、タイヤのサイドウォールには、DOTナンバーといって、サイズや製造工場などを表した記号があります。その中に製造週、製造年の情報が含まれています。上のポルシェのタイヤを見てみると、「DOT」の文字があり、その後いくつかの数字が並んでいます。その中にある「4615」が製造時期を表したものです。前半2桁が週、後半が年を意味しており、2015年の46週(11月中旬頃)に製造されたものということがわかります。これは、ミシュランにかぎらずどのメーカーのタイヤにも刻まれている情報ですから、クルマをチェックする際には、目安の1つとしてぜひ確認してみてください。
このコラムについて
フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える
この度、故有りましてこの日経ビジネスオンライン上で、クルマについて皆様と一緒に考えていくナビゲーター役を仰せつかりました。どうぞよろしくお願いします。
なに、“考える”と言ってもそれほど大袈裟なことではありません。クルマはこれからどうなって行くのか。現在売り出されているクルマは何を考え、何を目指して開発されたのか。実際にクルマに乗り、開発者に会ってお話を伺い、販売現場からの声にも耳を傾ける……。ビジネスはビジネスとして事実をしっかりと捉まえた上で、もうちょっとこう明るく楽しくクルマを味わって行こう、というのがこの「走りながら考える」の企画意図です。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/194452/102800085/
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