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リスクの極小化に長けた日揮の強み
御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」
リスク・アドバンテージ再考(後編)
2016年10月31日(月)
御立 尚資
(写真:beeboys - Fotolia)
日揮(JGC CORPORATION)という会社をご存じだろうか。石油化学・エネルギー分野を中心に、さまざまなエンジニアリング・コンストラクションプロジェクトに従事している会社だ。たとえば、UAEでの発電、造水プラントを建設し運営するプロジェクトや、ロシア北極圏でLNGプラントを建設するプロジェクトなど、厳しい環境下でのビジネスを、80年以上マネージしてきている。
事業の特性上当然のことながら、厳しい地理・気候条件のみならず、海外各地の法制度、労働慣行、さらには政治的不安定さなど、幅広いリスクのある環境下でビジネスを行ってきた会社でもある。
図表1の左側(a)のグラフをご覧いただこう。これは、世界の主要な建設・エンジニアリング会社を、年間平均の株主リターンの大きさ順に並べたものだ(期間は、2005年から14年の10年間)。日揮は、上位4分の1のグループから少し下がったあたりに属している。良い結果ではあるが、スターパーフォーマーではない、という感じだろうか。
ところが、図表1の右側(b)の同様のグラフで見ると、グローバルトップクラスにある。こちらは、リスク調整後のリターンでの評価だ。
図表1 世界の主要な建設・エンジニアリング会社の株主リターン(年間平均)の分布
(出所: S&P Capital IQ; BCG ValueScience Center) Copyright © 2016 by The Boston Consulting Group, Inc. All Rights Reserved.
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/213747/102500035/z1.jpg
ご興味のある向きのために、少しだけ詳しく説明させていただく。まず、この業界の主要企業すべてについて、低リスクの会社の平均リターン、中リスクの会社の平均リターン、高リスクの会社の平均リターン、といった具合に、リスクに応じた平均リターンを求める。当然、高リスクなら高い平均リターン、低リスクなら低い平均リターンになる。この平均と比較してみると、JGCは得られたリターンに比して、平均的企業より圧倒的に少ないリスクとなっている。逆に言えば、リスクに対してリターンが高い。この平均値からのポジティブな「かい離」の大きさ順に、主要企業を並べたものが、図表1(b)である。
JGC自身の株主報告書やメディアでの記事で明らかなのだが、同社は厳しいリスクにさらされる環境下でビジネスを成功させるため、リスクをどう極小化するかに知恵を絞ってきた会社だ。
プロジェクト開始前にトラブル解決の場を設ける
たとえば、インドでの工業・商業の両方を複合させた開発案件での事例。ここでは、政府・民間を含め、数多くの立場が異なる参画者が存在するため、JGCが音頭をとって、参画者間での意見の相違からくる問題を解決するコミュニケーションの場が設けられた。プロジェクト開始前から、トラブルの発生原因を想定し、その解決の場を作ったということになる。
また、新興国では、突然、地域での開発反対運動が巻き起こることも多々ある。JGCの事例ではないが、海辺での開発案件がかなり進んだ段階で、それまでは見たことも聞いたこともなかった漁民と称する人々が数百隻の小舟で現れた、などという例もあったという。さきほどのプロジェクトの場合には、これまたJGCが主となって、地元との関係構築の施策が打たれ、その中で地元への貢献が繰り返し繰り返し、コミュニケーションされたという。
JGCのリスクに関わる強みは、これだけではない。
何年か前に、日本のゼネコン各社が海外ビジネスを伸ばそうと、ドバイの都市交通プロジェクトやアルジェリアでの道路建設プロジェクトに参画したことがあった。ご記憶の向きも多いだろうが、これらのプロジェクトは先方の政府など施主側からの度重なる仕様変更や、地元での数多くのトラブルで、大きな赤字をもたらした。
こういったケースの場合、さまざまな地域での契約を現地の法制度も熟知した上で、詰めに詰め、自分たちだけがリスクを背負わないようにすることが非常に重要なのだが、ご苦労されたゼネコン各社は、(外部の専門家の活用も含め)これに関わる組織能力と経験が、まだ不足していたのだろう。
このあたりも、JGCは世界トップレベルにあるとされている。契約マネジメントの面でもリスクをどう最小化し、他のプレーヤーとどうリスクをシェアしていくかについて、優位性をもっている。
これゆえに、相対的に低いリスクで高いリターンを継続的に獲得できているのだろう。
リスク・アドバンテージ構築には経営者自身が取り組むべき
さて、こういったリスク・アドバンテージをもたらす源泉は、実は業界によって異なるし、同じ業界の中でも各企業の事業ポートフォリオなどによって、企業ごとに異なる。
一般的なリスクマネジメントは、どの企業でも同じようなチェックリストにしたがって、「一般的なマイナス要素削減」を行うのが通例だ。これだけでは優位性は得られないことから、リスク・アドバンテージ構築においては、「自社が意思をもって対応能力を高めるリスク」を特定し、一定の時間とコストをかけて、それらを実質的に低下させる自社ならではの施策を考え、実行していくこととなる。
これを行うステップは、次の図表2のようなものだ。
図表2 リスク・アドバンテージ構築のステップ
Copyright © 2016 by The Boston Consulting Group, Inc. All Rights Reserved.
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前回述べたように、これから競争リスク以外も含めて、事業環境が激変する可能性はますます高くなるだろう。この中で、準備不足で立ちすくんだり、競争相手にリスク抵抗力で後れをとったりすることは、経営者にとって許されない。
リスクに関わる議論を、リスク担当者の世界に閉じ込め、チェックリストや確認プロセスだけが肥大化するのにまかせるのではなく、経営者自身が、企業戦略の重要な部分として、リスク・アドバンテージの構築にとりかかっていただければ、と心から祈っている。
このコラムについて
御立尚資の帰ってきた「経営レンズ箱」
コンサルタントは様々な「レンズ」を通して経営を見つめています。レンズは使い方次第で、経営の現状や課題を思いもよらない姿で浮かび上がらせてくれます。いつもは仕事の中で、レンズを覗きながら、ぶつぶつとつぶやいているだけですが、ひょっとしたら、こうしたレンズを面白がってくれる人がいるかもしれません。
【「経営レンズ箱」】2006年6月29日〜2009年7月31日まで連載
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/15/213747/102500035
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