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2016年10月31日 週刊ダイヤモンド編集部
窃盗、暴力、性…まるで“老成”していない高齢者たちの「裏社会」(上)
週刊ダイヤモンド2015年12月19日号特集「老後リスクの現実 [リアル]」より
日本人の長寿化に伴い、激増しているのが高齢者による犯罪だ。貧困や孤独だけが原因ではなく、現役時代はそれなりの地位にあった者もトラブル老人となるリスクをはらんでいる。(週刊ダイヤモンド2015年12月19日号特集「老後リスクの現実 [リアル]」より 取材・文/ノンフィクション作家 新郷由起)
「貧困」と「孤独」を理由とした犯罪だけでなく、金銭に困らず、対外的には孤独でない高齢者の間でも対人関係、とりわけ異性にまつわるトラブルが増えている(写真はイメージです。本文とは関係ありません)
2015年11月、宮崎県で71歳の男が、飼育調査に来た県職員に激高して自宅の檻にいたニホンザルを鉄パイプで撲殺して逮捕される事件があった。15年12月2日にも佐賀県で、万引きを注意された77歳の男が逆上し、相手の男性が抱いていた生後10カ月の赤ん坊を傘の先で殴打して逮捕された。
このところ、“老成”の沙汰とは思えない、“キレた”高齢者の暴行事件報道が続出している。大きな事件でなくとも、電車やバスの車内でケンカ腰に振る舞う、店先で無抵抗の店員へ怒声を浴びせる、暴れる等の光景は、今や「一度も目にしたことがない」という人の方が少数派だろう。粗野で乱暴な老人、自己中心的で傲慢な高齢者の暴行事例は、現代ではすでに“日常化”した感すらある。
15年11月発表の法務省「犯罪白書」(2015年度版)によれば、14年の一般刑法犯における65歳以上の検挙人員は4万7252人。横ばい、もしくは緩やかな減少傾向にある他の年齢層を抑えて2年連続のトップとなっている。
ここで、「高齢者数が増えているのだから、単純に犯罪の数も増えて当たり前では」と達観するのは現実に反している。
65歳以上の検挙人員は20年前と比較して約4倍で、人口構成比では約2倍と、高齢化率をはるかに凌ぐ実態にあるからだ。罪名別でも「遺失物等横領」を除く「殺人」「強盗」「傷害」「暴行」「窃盗」の全てで著しい右肩上がりを見せており、中でも「暴行」は1995年の77人から14年の3478人と、20年間で実におよそ45倍へ急伸している。
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こうした高齢の事犯者は、「検挙しても持病等をはじめとした諸事情から留置しづらく、また不起訴となるケースも多い」と、数多の警察関係者が口を揃え、「さらに手を焼くのが、この先の人生で失うものが何一つない、いわば“最底辺”の高齢者の扱いです」と嘆息する。
「彼らはすでに今の暮らしが最低レベルのため、捕まっても捕まらなくてもうまみがあるんですよ。留守宅を荒らして窃盗に及んでも、捕捉されなければ金品が手に入り、捕捉されたら冷暖房完備の留置所や刑務所で、栄養バランスの取れた三度の温かい食事と、同じ境遇の仲間たちと過ごせる生活にありつける。どちらに転んでもいいことずくめなので、改心もしなければ更生の意思もない。捕まっても『好きなようにしてくれ』と開き直るだけで、甚だ徒労感しかありません」(警察関係者)
年の数だけ人生経験を積んでいる分、嘘をつく頻度や程度、度胸が他の世代より上回っているのも特徴で、「反省を促して、未来を問える若年層よりも厄介」(同)なのが、もっぱらの共通認識だ。
こうした実態に、「高齢者犯罪なんて、ごく一部の生活困窮者やステータスを持たない連中が引き起こすのだろう。蓄えもあり、家族もいる自分には無縁」と切って捨てるのは早計だ。
実際、検挙された高齢者全体の約6割、女性に至っては8割超を占める「万引き」は、その半数以上に「暮らし向きに不自由はない」あるいは「裕福」との調査結果も散見され、「他に楽しみがないから」など、刺激を求めて常習化する類いも後を絶たず、必ずしも下位層に限った犯行でない点に高齢者犯罪の奥深さがある。
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現役警察官が吐露する。
「高齢者においては、ほとんどが『これを言ったら許してもらえるのでは』といった、誰もが分かりやすく、同情を誘う理由を口にします。『お金がない』と『寂しかった』はその最たるもので、1000万円超の貯金があっても『生活の不安』を動機に挙げた90代女性の万引き犯もいました」
このため、高齢者犯罪では「貧困」と「孤独」が犯行の二大理由として報じられることが多いが、必ずしも鵜呑みにはできない内実があるのだ。
ストーカーは元上司
恵まれた高齢者でも陥る異性トラブル
そして、金銭に困らず、対外的には孤独でない「恵まれた高齢者」において、身近な“落とし穴”となりがちなのが、対人関係──とりわけ異性にまつわるトラブルだ。
多くの高齢者事案に携わってきた弁護士の星千絵氏が指摘する。
「高齢世代の不倫トラブルや婚姻による遺産相続のもめ事も増えており、お金やステータスがあるからこそ老年になって問題を引き起こす事例は少なくないのです」
触法行為としては、顕著な例に「ストーカー」行為がある。警察庁の統計では、60代の行為者の増加は他世代より伸び率が著しく、14年度の認知件数(2199件)は10年前の4倍超となった。70歳以上も03年は90人だったのが昨年は654人と7倍以上に激増しており、数字の上では加害者総数の約10人に1人が60歳以上となる格好だ。
「バカバカしい。ストーカー行為など対岸の火事」と一笑に付すなかれ。15年前に施行(13年に改正)された「ストーカー規制法」は、ほとんどの求愛行動が相手の受け取り方次第で「ストーカー」行為として扱われる側面を持つ。
「面会、交際を要求し、拒まれたにもかかわらず、電話やメールを繰り返すことは、場合によってはストーカー行為と捉えられます。極端な話、一度断られているのに諦めず、道路に立ちふさがるかたちで相手の目前に現れただけで該当となるケースすらあるのです」(星氏)
かつての大ヒットドラマ「101回目のプロポーズ」のように、何度も相手へ交際を迫るアプローチは、今や「ストーカー行為者」として通報される時代なのだ。
「いい年をして色ボケに走るなど」と冷笑される向きは、考えてみてほしい。現役を退けば通勤もなくなって、日々の生活の行動範囲が極端に狭まる。と同時に、日常的に異性と接する機会が激減する。会社員であれば、社内のどこかで必ず目にしていた“年下の異性”の姿もなくなり、挨拶や他愛ない会話を交わす相手すら、ともすれば医療関係者やショップ店員だけとなるケースも珍しくない。
心を通わせる相手が身近にいない、あるいはすでに冷え切った関係のパートナーしかそばにいないとなれば、あり余る時間と自由になる小金があるだけに、時に思いがけない暴走を招くこともある。
「物腰の柔らかな人徳者の部長でした」と、退職した元上司の男(当時69歳)からストーカー被害に遭ったN子さん(41歳)は、3年を経ても動揺を隠せずにいる。
元上司宅が子供を預ける保育園に近いのを偶然出くわして知った彼女は、その後“なぜか”男と顔を合わせる頻度が増えていく。N子さんにとっては新入社員時代からの恩人であり、信頼できる元上司として、時に仕事や子育ての相談を持ち掛けたりもした。
ところが、保育園からの道すがら、不意に抱きすくめられた。
「ビックリして払いのけましたが、『どうしようもなく好きになってしまった』と」(N子さん)
男は妻帯者で、孫もいる身だったが、「妻とは長く家庭内別居状態で会話もない。君の家庭を壊す気はないが、気持ちを止められない」と、携帯電話を着信拒否にしても、さまざまなアドレスから毎日10通以上のメールが送り付けられた。
「夫に相談したら疑われると思い、一人で悩んだ末に奥さまへ手紙を書いたんです」(同)
その後、紆余曲折を経て事態は収拾に向かったが、N子さんは「親子ほど年が違うため、異性とは全く意識していなかった」と、今も苦々しい思いを引きずる。
>>(下)の内容…『「生」が延びれば「性」も長寿化 79歳のAV女優も』
2016年10月31日 週刊ダイヤモンド編集部
窃盗、暴力、性…まるで“老成”していない高齢者たちの「裏社会」(下)
週刊ダイヤモンド2015年12月19日号特集「老後リスクの現実 [リアル]」より
>>(上)より続く
「生」が延びれば「性」も長寿化
80歳のAV女優も
こうして、「高齢者だから」と優しく接せられる言動を都合よく解釈し、高齢男性が一方的に思いを募らせては迷惑行動に及び、トラブルを引き起こす事例は枚挙に暇がない。
15年10月にも、都内で行きつけの喫茶店に勤める20代の女性ウエートレスに、「結婚してほしい」などと書いたラブレターの受け取りを拒否され、激高した78歳男が「ぶっ殺してやる!」と脅迫したとして逮捕された。
『「ストーカー」は何を考えているか』の著者で、NPO法人ヒューマニティ理事長の小早川明子氏が言及する。
「『人生でやり残したことは恋愛だけ』と口にする高齢男性は大変多い。その恋愛願望の心底には、『まだプレーヤーとして現役でいたい』といった若さへの執着も潜んでいるのです」
結婚適齢期が現代より格段に早かったこともあり、今の高齢世代ではいくつもの恋愛を経験してパートナーを選んだ人はまれだ。人生経験は豊富でも恋愛体験に乏しければ、自己コントロールを失って猛進をも招きかねない。
しかも、現代では老いても性行為に及べる「バイアグラ」等のクスリが安価で入手可能とあれば、“老いらくの恋”への希望や、下半身も“生涯現役”を続ける夢は一層断ち切り難くなる。
「60代の男性は現役、70代はクスリ使ってハッスル。80過ぎだってちゃんと“ヤる”のよ。奥さんがいても『相手にならないから』と、スポーツクラブに行くふりをして利用する常連客も多い。だってシャワー浴びて帰っても怪しまれないでしょ」と笑うのは、71歳の現役ホテヘル嬢だ。実は今、性風俗業界で働く還暦過ぎの“超熟女”はまるで珍しくない。
「ほとんどは生活苦からこの仕事に飛び込むんだけどね。だって、手に職のない60過ぎの女が就ける仕事は清掃業か風俗しかないんだもの。ごくまれに好きでやってる人や、AVと掛け持ちしている人も交じるけど……」(同)
AV業界でも“JK(熟年高齢者)”市場は活気づいており、還暦女優はおろか、古希モノのタイトルも続々リリースされている。
制作プロデューサーが言う。
「近年では『若い男優とシてみたい』『人生の記念に』と、60歳以上の一般女性から問い合わせを受けることもしばしばです。近親相姦モノなど愛好家の支持層は厚く、流通量は少なくとも息は長い」
ちなみに現下、日本最高齢のAV女優の御年は80歳だ。「生」が長引けば、「性」も長寿化するのは必然の成り行きか。
ただ、金銭を介する異性関係なら互いの立場も明確で線引きも明快だ。問題は、表立った上下関係や組織のしがらみ抜きで、どれだけ上手な対人スキルを積んでいけるか、にある。特に仕事以外では異性の扱いに不慣れな向きも多く、加えて、現役時代に立身出世を遂げた人ほど、リタイア後にフラットな人間関係をうまく築けず、地域社会でも苦慮する例は多い。
証左に、地域の民生委員や町内会員らがこぞって口にする言葉がある。それは「エリートほど使いものにならず、対応が面倒」というものだ。
内容をまとめると、地域の会合等に出席しても、(1)他人の話を聞かない、聞き入れない、(2)尊大な態度を貫く、(3)命令口調が多い、(4)女性を軽視する、(5)肉体労働を拒む、などの特徴が挙げられる。
地域で嫌われ孤立
高慢な元エリートの悲しい末路
都内の地区会長の女性が渋面を作ったままで打ち明ける。
「公民館で開かれるイベントの会場設営をする際にも、自分はパイプ椅子一つ運ばずに、奥で踏ん反り返ってあれこれ周りに指示するだけ。『○○さんも一緒にやるんですよ』と声を掛けても、『何で俺が』といった風で、馬耳東風。一方で『このやり方は効率が悪い』など文句と理屈は人一倍で周りが疲れちゃうんですよ」
何度か注意や指摘を受けても言動を改めなければ皆から総スカンを食らい、結果として孤立する羽目に。となると、居場所もなくなり、「自分の価値を認めない奴らと一緒にいるのは不快」と、自ら接点を断って周囲とも距離を置き始める。近隣に近親者がいなければ、そのまま地縁も希薄になり、最終的に自宅で“閉じこもり”生活を続けた末に孤立死を迎える高ステータス・シニアは後を絶たない。
事実、配偶者に先立たれた高齢男性が、ゴミの分別や出し方が分からずに、室内に溜め込んだゴミに埋もれたままで孤立死し、腐乱死体となって発見されるのは今や日常茶飯事になっているのだ。
都内のハイヤー運転手歴20年の男性が話す。
しんごう・ゆき/1967年生まれ。元「週刊文春」記者。家族の在り方、老いと死をテーマに取材・執筆。高齢者の犯罪や心の闇に迫った近著『老人たちの裏社会』(宝島社)が反響を呼んでいる。今冬より『絶望老人(仮)』(宝島社)、『暴力老人』(朝日新聞出版社)続刊予定。
「組織や会社では、下の者は上の話を聞くのが仕事だから、どんなつまらない内容でも、興味を持ったようにして聞いてくれる。その環境が長く続いたお偉いさんほど、幾つになっても自分の話は面白く、価値があって、誰もが聞きたがると信じて疑わないんですよ」
さらには、ポジションが高くなるほど公に拒絶される機会や頻度も減って、他者からの苦言や否定的な言動に免疫が乏しく、脆弱となる一面も加わる。
己が築き上げてきた社会的地位やプライドは、生きる上でのアイデンティティでもある。が、年を取るに連れ、肩書を抜きにした“ただの人”としてどこまで通用するのか。特権意識を振りかざさずに“一人の人間”として、どのように振る舞えるか──。
丸裸の自分自身の市場価値を見誤って社会性を失ったが最後、犯罪をも辞さないトラブル老人に堕ちる道程が待っている。
(ノンフィクション作家・新郷由起)
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