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「親子の貧困連鎖」に立ち向かう民間研究会が見た現実
http://diamond.jp/articles/-/106073
2016年10月28日 みわよしこ [フリーランス・ライター] ダイヤモンド・オンライン
「子どもの貧困」状態のただなかにある親子たちは、「貧」「困」「貧困」にどのような影響を受けているのだろうか? どうすれば「貧困の連鎖」を食い止められるのだろうか? 調査・分析・提言を行う研究プロジェクトが、大阪市生野区で立ち上がった。
■「貧困の連鎖」を食い止められるか?
大阪市生野区で立ち上がった民間研究会
親子の貧困連鎖はなぜ立ちきれないのか。大阪で活動する民間プロジェクトの関係者が明かす
大阪市では、生活保護率の高さが長年問題視されているが、区別の保護率には、最高の西成区(24.0%)から最低の福島区(1.2%)まで、大きな開きがある(大阪市Webページ参照)。保護率の高い地域には、「長年にわたって寄せ場であった」「スラムが存在した」など数多くの背景があり、それと無関係に貧困だけを解消することは不可能だ。
大阪市の中でも、生活保護率が西成区(24.0%)・浪速区(8.3% )についで高い生野区(7.2% )で、2015年秋より民間の研究会「生野子育ち社会化研究会」が活動を開始している。コアメンバーの1人は、大阪子どもの貧困アクショングループ(NPO法人・CPAO)代表・徳丸ゆき子さんだ。
子どもの貧困問題への徳丸さんとCPAOの取り組みは、たびたび本連載で紹介してきた。「子ども食堂」ブームより少し前の時期に「CPAOしょくどう」活動を開始(休止を経て2016年度より実質的に再開)、ついで小中学校の給食がない夏休みに子どもたちの「食」と生活を多様な側面から支える活動も行なってきた徳丸さんが、なぜ研究会活動をするのだろうか。
「『地域で子育て』『社会で子どもを見守る』という言葉が使われてきていますが、『社会で見守る』の具体的な方法は、あるようでありません。どうすることが『地域で子育て』や『社会で子どもを見守る』ことなのでしょうか? 私自身、まったくわかりません」(徳丸さん)
「地域」「社会」「子育て」「見守る」といった言葉は、ある種のマジックワードだ。それらの言葉自体を知らない人はいない。使えば、容易に「課題を共有した」「相互理解した」という気持ちになれる。実際にそうなっていれば言うことはないのだが、しばしばそうはならない。
(上)2人の子どもたちが人数分の茶碗を数えて用意し、羽釜で炊き上がったご飯を手際よく盛りつけている。2016年8月、CPAO「ごはん会」にて。 (下)配膳終了。子どもたち・大人たちの手によって、人数分の夕ごはんが並べられたところ。2016年8月、CPAO「ごはん会」にて
こういった一般的な言葉には、100人いれば100人が異なったイメージを持っている。ある人の「見守り」の内容は、「管理」「監視」に近いかもしれない。別の人の「見守り」は、「何かあったら受け止める用意は一応しているけれど、放任主義」かもしれない。意味・内容が互いに異なったままでは、相互理解はできない。
「そういうことも整理していき、子どもたちにとって有益で害にならない『地域で子育て』『社会で子どもを見守る』の方法を見つけていきたい、と思っています。私自身、全くわからないので、私がまず知りたいです」(徳丸さん)
研究会が立ち上がった背景には、数十年にわたる生野区内での支援活動があった。
■アンケート調査に寄せられた
必死で働く親たちの切実な声
2015年夏、徳丸さんは、生野区で長年にわたって障害者支援に関わってきた男性と出会った。その男性は、「障害当事者・障害者の子どもたちだけではなく、障害者の親を支援しないと、どうしようもない」と気づき、「でも、どうすればよいのだろうか?」と悩んでいた。
男性の悩みを聞いた徳丸さんとCPAOのスタッフには、「自分たちもわからない」という気づきとともに、「でも、どうすればいいかを考えたい」という思いが生まれた。
間もなく生野区内で、障害者支援・空き家空き地の利活用など多様な活動に関わる民間・公共の団体のネットワークに、徳丸さんとCPAOが活動する中での発見と経験が共有された。すると、「貧困について自分たちは何も知らなかった、私たちは何をしていたのだろうか?」という反省と「まず現状を知らなくては」という意識が、自然に生まれた。
2015年秋から、まず現状把握のため、生野区内の小中学校に子どもが通っている親たちに対するアンケート調査が行われた。回答率は約25%だったが、それでも約300件の回答が得られた。
翌2016年、アンケートの集計と分析から立ち上がったのが、「生野子育ち社会化研究会」だ。10人ほどのコアメンバーには、長年にわたって障害者支援に関わってきた団体、同じく高齢者支援に関わってきた団体の関係者も含まれている。長年の関心が、子どもに「も」向けられた形だ。もちろん、子ども支援団体・CPAOのように親と子を支援する団体の関係者も加わっている。また大学教員たちも加わっており、所属大学も研究分野も様々だ。
分析を開始してみると、アンケートの自由記述欄に多数の記入が見られた。しかも「共働きで必死に働いても、子どもの教育に充分な費用を稼ぐことができない」「育児・教育に必要なお金を稼ぐのに精一杯、すると子どもと過ごす時間がなくなる」「思春期の子どもとの関係に悩んでいる」「子どもに対する社会の目が冷たくなっている中で、子育てが難しくなっている」「安心して子どもが遊べる場所がない」と、身を切られるような切実さの感じられる内容の記述が多い。
「お母さんたちが回答している場合が多かったんですけど、自由記述、まず分量が多くて。『こんなに書いていただけるんだ、話したいことがたくさんあるんだ』と驚きました。『こういうアンケートに積極的に回答する人たちでも、本当にしんどいんだ』ということが見えた感じです」(徳丸さん)
最初に必要な取り組みは、「しんどいのなら、まず居場所」、しんどい親たちに居場所を提供することになりそうだ。
研究会は「さらに質的調査も必要だ」と考え、現在はインタビュー調査も進めている。また、子ども自身に対する調査の必要性も痛感され、現在、研究会は子どもに対する調査の方法・手法を検討しているところだ。
では、子どもたちに対しては、どんな働きかけができそうか。
■子ども支援の目的は費用対効果のみ?
どんな人でも受容される社会に
いわゆる「子どもの貧困」に対するここ1〜2年の日本の取り組みを見ていると、「レールは用意するから、レールに乗れるようにしてください」という無言のメッセージを感じてしまうことが多い。たとえば「小学校でもプログラミング教育が必要だ」とカリキュラムが検討されるとき、どこかに「基本的なパソコンの操作ができる」「学年相当のテキストが読めて理解できる」「極度にお腹が空いているわけではない」「『スメルハラスメント』としてイジメの対象になるわけではなく、教室に平穏に存在できる」いった暗黙の前提があるだろう。でも最も手厚い関わりが必要なのは、そういった前提を満たせない子どもたちであるはずだ。
「子どもたちに対する支援は、何らかの成果に結びつくことを求められます。それは当然なのですが、『縦』の発達、学力発達や社会適応だけを問題にされている雰囲気を、私も感じています。でも、本当に深刻な状況にある子どもたちが、そういう評価をされると……難しいものがあります」(徳丸さん)
成果がない、メリットがない、だから支援しない……という方向性にも傾きがちだ。
「別のタイプの発達、『横』の発達は、どんな状況のどういう人にもあります。人間関係、情動などの発達です。『横』の発達に対する評価も必要なのだろうと感じています」(徳丸さん)
それでも、評価のモノサシにさらされて「居ていい」「居てはいけない」が決定される場面はあり、「横」の発達が評価されるだけでは厳しい。
「結局、どんな人でも、受容される社会が必要なんだと思います。さらに言うならば、『あるべき市民社会って、何なんだろう?』『官と民のあるべき在り方は、どういうものなのだろう?』という思いもあります」(徳丸さん)
子どもと親の支援から、「市民社会とは」「統治とは」までを考え続けるのは、なぜ?
「本当にしんどい状況に置かれている人たちに何ができるか、枠を越えて、官も民も考えていくことができればと、ずっと思っています」(徳丸さん)
■基本的な研究が必要なのに
費用を獲得しづらい現状
もちろんCPAOと徳丸さんは、誰も動かなくても自分たちが動き、「しんどい」親と子どもたちを支えてきた。でも、日本社会の格差・貧困の問題は、一団体による直接支援だけでは解決しない。
「地域社会で子どもや子育てを支えるなら、どうすればいいのか、何が必要なのか、提言したいです。そのために研究会活動を進めています。具体的方法と費用、たとえば人件費・食材費・固定費がどのくらい必要なのかを明確にして、民間でできるところ・民間ですべきところ・行政が恒久的な制度にしないと無理なところを、はっきりさせたいです。まず3年後くらいに、大阪市に提言することが目標です」(徳丸さん)
とはいえ、現在の日本では、調査研究や調査研究の手法のための研究は、盛んとはいえない。研究費が獲得しにくいテーマになっているからだ。
「一方で、エビデンスは求められています。ちょっとした応急手当てのような支援は、もちろん『ないよりマシ』なのですが、それだけを続けているのでは、貧困の連鎖や拡大は止められません」(徳丸さん)
貧困の中で、単にお金がないだけではなく多様な困難を抱えながら育ち、様々なハンディキャップを抱えて大人になる子どもたちが、現在この瞬間もいる。後天的な環境要因の巨大な力に抗うことは、子ども自身と周辺の支援者だけではできない。
「『生野子育ち社会化研究会』のコアメンバーの1人である教育学の先生は、『貧困の連鎖は、教育の敗北だ』と言っています。貧困の中で育った子どもが、大人になってからどういう影響を受けるか、たくさんの研究者に研究してほしいです」(徳丸さん)
■エビデンスなく生活保護基準が
切り下げられる子どもたちの未来
しかしながら、公的な研究費を獲得することが難しい現状を動かすことは、容易ではない。
とりあえず今、CPAOの生野区の拠点では、週に3回の「ごはん会」があり、食事とともに趣味・習い事など、様々な機会が提供されている。子どもたちの元気な顔と笑顔が弾け、暖かい雰囲気を共有し、手づくりの食事に「おいしいね」と語り合う時間がある。また週に1回ではあるが、いわゆる「子ども食堂」のようにオープンで地域に開かれた「ごはん会」も開催される。
この幸せな時間が、子どもたちの幸せな将来につながるためにも、何がどれだけ不足しているのかを明らかにする研究に期待したい。そのための費用は、公共と社会の問題である以上、国から責任を持って拠出されるようになってほしい。
しかし、現在進行中の動きは、まったく逆行している。エビデンスらしいエビデンスに基づかないまま、生活保護基準は引き下げられ、さらに切り下げられていく一方だ。生活保護世帯の子どもたちの将来は、どうなってしまうのだろうか。
次回は、社保審・生活保護基準部会で現在進行中の、目の離せない動きを紹介する。
本連載の著者・みわよしこさんの書籍「生活保護リアル」(日本評論社)が好評発売中
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