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世界中どこでも起業に失敗はつきものだが、失敗の「重大性」が日本ではより大きい(写真:antoniogravante / PIXTA)
日本はなぜ「起業後進国」に成り下がったのか
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20161026-00141627-toyo-bus_all
東洋経済オンライン 10月26日(水)6時0分配信
「日本人はリスクを嫌がって起業したがらない。自分で起業する満足感よりも、名の知れた大企業に勤める安定感を求める」というのは、よく聞く話だ。が、実際に日本人に起業家が少ないのは、日本の文化や、日本人の性質のせいだとするのは乱暴ではないだろうか。
それより問題なのは、日本は米国や欧州に比べて、起業のリスクが高すぎることだ。生涯雇用の慣行は、大昔からあったものではなく、戦後に統制的に導入されたものだ。多くの大企業は従業員の教育に投資した後、その知識や経験を他社に持って行かれるのを好まない。そこで日本の企業間には「引き抜き御法度」的な非公式ルールが生まれた。こうした中では、大企業の従業員が会社を離れて起業して失敗した場合、大企業での再就職は容易ではない。
また、日本ではいったん破産すると、その後の人生は過酷なものになる。一方、仮に起業が成功したとしても、資本市場の弱い日本では、米国の起業家のように大金持ちになれるわけでもない。よく日本の母親は娘を起業家に嫁がせたくないというが、日本の起業家が直面する実態をよく言い表しているのではないか。
■太っ腹だったHP
一方、米国ではどうか。たとえば、私の従兄弟は2000年代前半のドット・コム・ブームのときに、ヒューレット・パッカード(HP)で働いていた。そのときの上司はサーバー開発に従事しており、あるとき新たな会社を起こしたいと言って、私の従兄弟を連れてHPを出た。
このときHPは、彼らの新会社の株式10%を取得することを申し入れると同時に、もし新会社が失敗したとしても、彼らを元の職場に受け入れる約束をした。従兄弟の妻の母親が喜んだことは言うまでもない。
2014年に実施された起業家精神に関する調査(GEM)では、「革新主導型経済カテゴリー」において日本が対象24カ国中最下位となった。日本の18〜64歳のうち、起業しているのはわずか3.8%と、24カ国平均(8%)を大きく下回っている。「起業をよい職業選択だと考えている」と答えた割合も31%と最下位(24カ国平均は55%)だったほか、「自分に起業する能力がある」と答えた割合も12%(同40%)と他国と大きな乖離があった。
■日本では一度破産すると…
この結果はおおむね、今の日本の実態を表している。もちろん、世界中どこでも起業に失敗はつきものだが、失敗の「重大性」が日本ではより大きいのである。たとえば、日本の中小企業のオーナーは、銀行のローンを組むに当たり個人的に保証する旨のサインをし、事業の失敗の責任を個人で背負うことになるが、この負担は個人にはかなり重い。
現在、ネット通販大手「ゾゾタウン」を運営するスタートトゥデイで技術部門を率いる伊藤正裕氏は、日本での起業の厳しさを経験したひとりだ。伊藤氏は17歳で会社を立ち上げたが、失敗している。伊藤氏によると、たとえばビジネスの所有者が株式の80%を投資パートナーたちに売却したとしても、所有者は引き続きローンの100%の責任を負わなければいけない。加えて、日本では一度破産すると、将来にわたって信頼を得ることが非常に困難なため、起業の精神的ハードルは高い。個人が負う保証の負担を軽くする道が開ければ、より多くの人が起業に挑戦するのではないか、と伊藤氏は話す。
これとは別に、既存企業による競争抑止的な「商慣習」が挑戦者たちを阻むという現実もある。日本のある起業家団体のトップにこんな話を聞いたことがある。交通事故などの際に非常に便利な携帯型の医療装置を開発したベンチャー企業が、日本で特許を得るのを断念したという話だ。日本では特許は、米国や欧州同様、最初に技術などを創案した人物や企業ではなく、最初に申請を提出したところが得られるようになっているが、この会社は既存メーカーによるあの手この手の「妨害」に遭っただけでなく、特許まで横取りされてしまったという。結局、この会社はほかの複数の国で特許を取得し、海外市場での販売を始めたそうだ。
■起業家育成でも遅れている
一方、今夏数週間ドイツを訪れた際には、こんな話を聞いた。ベルリンに拠点を置くスコピス社は、外科手術などの繊細な処置に使われる手術用ナビゲーションシステムを開発した。「拡張現実(AR)」と呼ばれるソフトを使って外科医の内視鏡を誘導するのだが、視界がよりクリアになることで複雑な処置をより簡単にできるようになった。同社は設立してまだ6年しか経っていないが、同製品は世界50カ国で販売されている。同社によると、会社が特許を得るまでに、日本で聞いたような障害はまったくなかったという。
もし日本政府が、より多くの起業家の誕生を本気で望むのなら、独立禁止法を執行させ、特許取得プロセスをもっと公平にするべきだろう。
起業家を教育する面でも、日本は遅れている。経済協力開発機構(OECD)による起業家教育に関する調査でも、日本は最下位に位置する。
たとえば、日本で「事業を経営するうえで必要なスキルや心構えを学校が教えてくれた」と答えたのは20%と、OECD加盟24カ国平均(43%)の半分以下だった。また、「教育によって自発性を養われた」と答えた日本人は18%と、ドイツ(54%)に大きく水をあけられている。
■近年の大学生は「二分化」が著しい
こうした環境を改善しようという動きも進んでいる。たとえば、早稲田大学は「早稲田大学アントレプレヌール研究会(WERU)」を発足し、1995年からコースを提供している。同大の瀧口匡教授や東出浩教教授は、「ウエルインベストメント(WERU INVESTMENT)」と呼ぶベンチャーキャピタルも設立。ただ近年、日本の大学生では「二分化」が著しく、一部の学生は起業に意欲的なものの、大部分はリスクを回避する道を選ぼうとする傾向があるという。
もっとも、日本における起業は悪い話ばかりではない。GEMの調査によると、実際に起業しようと考えている人は米国でそう考えている人たちよりも行動的だ。たとえば、自分に起業する能力があると信じている日本人の19.5%が実際に起業しており、これは米国の17.4%を上回っている。
■破壊的企業トップは日本企業だった
米国を拠点とするコンサルティング会社Tällt Venturesは、2年おきに「破壊的企業トップ100」を発表しているが、2016年5月に発表された最新版では日本企業2社がランクインした。
そのうちのひとつは、100社のうちトップに選ばれたスパイバーだ。2007年に設立された同社は、クモの糸を原型としたフィブロインたんぱく質から人工素材を開発。仮に成功すれば、石油化学製品は今後必要なくなる技術革命をもたらす可能性がある。同社は、日本のスポーツウエアメーカー、ゴールドウインと提携し、世界的に人気がある米アウトドアブランド「ザ・ノース・フェイス(TNF)」ブランドの「ムーンパーカ」のプロトタイプを発表したことで一気に知名度を上げた。
現在33歳の設立者、関山和秀氏は自身が慶應義塾大学先端生命科学研究所の大学院生だったころにスパイバーを設立。2015年時点の同社の売上高は250万ドルで、100人の従業員を抱えている。これまでに、ゴールドウインやベンチャーキャピタルのJAFCO、慶応大学から1億3000万ドルの資金調達に成功している。
関口氏の例は決して珍しくない。振り返ってみれば、日本はそう遠くない昔、発明の中心地だった。日本の高度成長期(1950〜1973年)には、日本企業の多くは発明や大量生産が可能な新製品を生み出すことにおいて世界のトップランナーだった。それはビデオテープレコーダーからスーパータンカーまで、またテレビやトヨタ自動車の生産システムを支える鉄鋼の電気炉や継続的な鋳造プロセスまで「世界初」の技術や手法だらけだった。
■既存企業を保護する政治的圧力が…
残念なことに、1970年代の2回のオイルショックに続く急激な景気後退により、日本は未来の勝者を生むより、急激な構造変化に敗れた人々の保護に力を入れるようになってしまった。日本人に宿っている起業家精神と、既存企業を保護する政治的圧力の間にある緊張状態が、40年にわたる日本政府による起業促進政策の失敗の裏には横たわっている。
もちろん、日本政府、とりわけ経済産業省が起業促進に対して真摯であることは疑いの余地はない。それは、1980年代の「テクノポリス」構想や新興企業への助成、マザーズなど新興企業向けの株式市場の設立、ベンチャーファンドの促進などの取り組みを見ればわかる。
■右手で与えながら、左手で奪う
しかし日本では、起業を促進する取り組みは、意図のあるなしにかかわらず、既得権を守るための取り組みによって、矮小化されてしまう。つまり、右手で与えたモノが、左手によって奪われてしまうのである。
政府系列の日本政策金庫(JFC)は、中小企業約10万社に対して、ほとんどの場合、担保、保証人、個人保証なしで、平均700万円の融資を行っている。このうち2万3000社は、平均従業員数4人の新興企業である。
ただ、起業家で内閣府の参与を務める齋藤ウィリアム浩幸氏によると、貸し付けプロセスはほとんどまともに行われておらず、必ずしも有望な企業に資金が提供されているわけではない。「資金を得ているのは主に申請書を記入するのが得意な企業に限られている。申請書を記入するのを手助けする企業が複数あるほどだ」という。
同時にJFCと系列の信用保証協会は、貸付金として政府保証を提供している。政府保証は毎年国内総生産(GDP)のほぼ6%に達しており、日本の中小企業の4割がこれを利用している。仮にこうした貸付保証がなければ、中小企業のほとんどは銀行からローンを借りることはできないだろう。
■助成金の92%は大企業に提供されている
信用のない新興企業にとってはこうした信用保証プログラムは役に立つかもしれない。が、斉藤都美氏や鶴田大輔氏のような経済学者の研究によれば、こうしたプログラムは新興企業にとって有益であると同時に、不採算企業の「延命」も手助けしてしまう。ゾンビ企業が多ければ、それだけ成長株の新興企業も生まれにくくなる。
また、政府による企業への研究開発支援も大企業に偏っている。政府による研究開発に対する助成金の額はGDPの1.5%に達する。しかし、残念なのはこうした助成金の92%は大企業に提供されており、資金を最も必要としている有望な新興企業にはほとんど提供されていない。
■日本がすぐにできること
ある国が、革新的な企業の成長を促進できているかどうかを知るための試金石のひとつは、国の資本がこうした革新的な企業にどれだけ投入されているかを見ることだ。OECDのエコノミスト3人が9カ国を対象に、平均的な特許取得企業でパテントストックが10%上がった場合、その企業の資本(工場やオフィス、備品など)がどの程度拡大するか調べたところ、最も影響が大きかった米国では、革新的企業のパテントストックが10%上昇した場合、その企業の資本も3.2%伸びることがわかった。日本の場合はごく平均的で、1.5%の資本増大とドイツと同程度だった。つまり、同じ条件の場合、米国企業には、日本やドイツ企業の2倍の資本が流入するということだ。
OECDの報告によると、こうした差が生じる理由のひとつには、古い既存企業から有望な新興企業への資本の異動を妨げる多くの構造的問題を日本やドイツが抱えていることがある。構造的な問題とはたとえば、厳格な雇用保護や厄介な製品市場規制、未熟な資本市場などが挙げられる。こうした問題を是正するには時間がかかるが、それでも短期間でできることもある。
たとえば、ベンチャーファンドのジェイ・シードのジェフリー・チャーCEOは、助成金の対象を中小企業ではなく、設立から日の浅い若い企業に絞るべきだと提案する。日本政府はあらゆる助成金を中小企業に提供しているが、こうした企業のほとんどが革新的企業になることはない。確かに中小企業を支援することは重要だが、日本ではこれが新興産業の促進にはつながらない。なぜなら、中小企業におけるスタートアップの割合は5%と低い一方、75%もの中小企業が設立10年以上経っている会社であるからだ。
チャー氏が言うように、たとえば政府が備品などを調達する際、新興企業と既存企業の提供価格が同じ場合は積極的に新興企業との契約を交わすようにすべきである。これによって、若い企業は生き残るだけの資金を確保できるだけでなく、民間セクターの顧客を獲得するのに必要な信用を得られるようになる。こうしたシンプルな方法であれば、構造的障害を一から是正する必要はない。必要なのは、政府の意思だけだ。
リチャード・カッツ
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