http://www.asyura2.com/16/hasan114/msg/600.html
Tweet |
HDDの復旧、どうしてこんなに高いの?
(Yが)キーパーソンに聞く
データ復旧作業を行うAOSリーガルテックに聞く
2016年10月21日(金)
山中 浩之
ある日のことです。
15年分の家族写真を入れていた1テラバイト(TB)のハードディスクドライブ(以下HDD)が壊れました。
実は、こういうこともあろうかとRAID構成(※)にしていました。実際、おかげで復旧できたことも2度ほどあるのです。「またか」と思い、時間はかかっても元に戻せると考えていたのですが、今回はRAIDの管理画面すら出せません。電源を入れると「がりがり」と音がして、もはやどうにもならなそうな予感。
「こりゃ、プロの業者さんに頼むしかなさそうだ。たぶん、10万円くらいかかると思うんだけど」と、奥様に報告します。
RAID:複数のHDDにデータを同時に書き込むことで、万一の際に無事なHDDから復旧する仕組み。書き込み方は何通りもあり、「RAID0(ゼロ)」「RAID5」などと呼ばれる。
修理に対してこの金額、普段なら「あり得ない」と即断する我が奥様も、さすがに家族写真となると思い切れない様子(ちなみに、もし、子供が生まれる前の写真だったら間違いなく「捨てよう」と言われたはずです)。
修理代金はバカ高くても、家族写真は捨てられない
さて、どこに頼むか。「HDD 復旧」あたりで検索すると、もう山のように業者さんがひっかかってきます。どこもそれなりに実績がありそうで、「まずは持ち込んで無料相談を」と促してくる。予め電話で3つほどに当たりを付け、「10万とは約束出来ませんが、それに近い線でなんとかなると思います」と言われたA社(注:頭文字ではありません)に持ち込んでみました。
行ってみると普通の小さなオフィスビルで、応対もそつなく、HDDを預けると狭い部屋に通されて、そこで待つように言われます。やがて、「担当するBです」と、白衣を着た若い男性が現れました。どことなく白衣が身体に合っていない雰囲気に、ややはったりを感じたものの「ご安心ください、復旧は可能です」とのことでほっとしました。
が、示された見積書の金額を見て唖然。
え、30万円!?(注:金額は実際の額に沿っていますが、大まかなものです)
思い出はプライスレス、30万でも50万でも価値としてはそれ以上、とはいえ、お金はお金です。いくらなんでも高すぎる。あれこれ交渉すると、納期に余裕を見てくれれば価格を下げる余地がある、という。なんなら半年かかってもかまいません、と伝えると、「では上司と相談して参ります」と部屋を出て行くBさん。
奥様に状況をメールで説明していると、Bさんが戻ってきました。
「お待たせしました。RAID構成のHDDの復旧は大変なのでどうしても料金が上がるのですが、上司と交渉しまして、22万円にすることができました」
疑心暗鬼、どこかに隠しカメラが?
まだまだ高い。それに、いきなり8万円も引いてきた豪快さにかえって懸念を感じます。もしや「ぼったくり」に引っかかりつつあるのでは。ああでもない、こうでもないと食い下がると「わかりました、もういちど上司と交渉してきます」と、ふたたびBさんは部屋の外に出て行きました。これ、大昔の自動車セールスみたいじゃないか。上司が隠しカメラでこの部屋を見ているのでは、と、きょろきょろ探してしまいました。
「20万円になりました。もう無理だと上司も言っておりまして、なんとか決めて頂けないでしょうか」
と、戻ってきたBさん。狭い部屋で延々待っている間に、だんだんこちらの気持ちも弱くなってきて「とにかく、一刻も早く話を終わらせて、すぐにこの部屋から出たい」と思い始めています。初歩的なテクニックですが、「狭い部屋に缶詰」って、効きますね。
しかし、このままでは終われません。
「他を当たってみようかな…もちろん、今からHDDを返してもらうことはできますよね」
「はい、もちろんですが、なにせ精密機器ですので、いま、当社のクリーンルームで開封した状態ならば復旧が確実に可能ですが、お戻した後、お客様が次の会社に運んでいる間に何が起こるかはわかりません」
言葉に特に問題はないのに、なんとなく追い詰められていく。最近流行のランサムウェア(データをロックし、“身代金”を要求する不正プログラム)に取っ捕まったような気分。さりとて、この金額を無断で家に持ち帰る度胸はない私。切羽詰まって、Bさんの前で奥様に電話しました。
小芝居でさらに値切るも…
「かくかくしかじか。うん、困るよね、高いよね。うん、じゃ、18万円ならなんとかなる? わかった、それでお願いしてみるから」と、小芝居を打ちました。18万円と言ったのは、あと1割くらい引けるんじゃないか、というカンです。
「分かりました、もう一度、これが最後です。上司と相談して(以下略)」
と、出て行ったBさん、戻ってきたときは税込みで19万円をちょっと切る見積書を持っていました。
話がまとまり、無事データは回収されて別のHDDにコピーされ、壊れたHDDといっしょに戻ってきました。ただし、「納期は長くかかる、その分安くなる」と説明していたのに、実際は「30万円」と言われたときと大差ない、2日で届きました。喜ぶところかもしれませんけれど、どうもモヤモヤは収まりません。
納期を長くしたから安くなるんじゃなかったのか。そもそも、こんなにお金がかかる正当な理由があるのだろうか。最初の見積もりから約12万円安くなったので、ますます「ぼったくり」の疑念が高まります。心理的に圧迫するテクニックを使われたのも気に入らない。
と思っておりましたら、ひょんなことからHDDの修理などを手がける会社、AOSリーガルテックの方とお知り合いになりました。「社名も堂々と出して、業界事情の説明に応じます」とのこと。ならば是非、いろいろお聞かせいただきましょう。
意地悪な私は、ついでに、同じ壊れたHDDをお預けして、見積もりを出してもらうことにしたのでした。さて、金額は?
価格を相対で決める余地はあるの?
AOSリーガルテック執行役員・林 靖二さん(以下林):よろしくお願いします。さっそくですが、当社の見積もりはこうなりました。
――お手数をおかけしました。へえ、税込み16万5000円、ですか。
林:これには、お渡しする媒体(別のHDD)費が、コピー作業と合わせて1万2000円加算されています。それと、壊れたのがたまたま、当社が提携しているメーカー(今回はバッファロー製だった)さんのHDDですので、3割引になってこのお値段です。それがなければもう6万円ほど高くなりますね。
ちなみに、大手同業他社の価格(参考・取材時点)をネットで調べたところ、次のとおりでした。HDDの状態の呼称は会社によって違うので、Aが最も軽微な障害、B、C、D…と進むほど深刻な状態、として表記しています。たとえばB社の「C」とC社の「C」が同じ状態とは限りません
【B社】
RAID〜640GB A:70,000円×2本=140,000円
B:100,000円×2本=200,000円
C:200,000円×2本=400,000円
D:300,000円×2本=600,000円
E:都度見積
【C社】
RAID A:280,000円
B:380,000円
C:460,000円
D:別途お見積り
――なるほど…この金額は、お客さんと相対で調整して決める余地がありますか?
林:そこは、疑問というか不安を感じられるところでしょうね。業界的にも大きな課題です。というのは、やはりトラブルの内容が千差万別なんです。お客様のほうのご事情もこれまた千差万別です。お急ぎの方もいれば、そうでもない方もいる。正直言って、どうしても相対交渉になってしまう部分が残ります。
そんな中で、公明正大に行うにはどうしたらいいか、知恵を絞っているところです。我々にも若干は、ご相談できる部分はありますが、基本的にどなたでも同じ計算テーブルで算出した料金でご呈示します。お急ぎなら、特急料金で2割増しです。申し上げたとおり、業務提携パートナーの割引もあります。当社の条件は、ホームページで公開しています。
――納期は?
林:標準で2日ですね。特急の場合は、早い場合で数時間、となります。
――今回の事例では、仮に提携割引がなくて、媒体分を除くと、御社で20万円になりますね。ずばり、このHDDのトラブルで20万円という見積もりはどういうロジックで出てきたのでしょう。
林:今回の状況は、RAIDのHDDの2本のうち1本が、データを書き込む面であるプラッターが物理的に傷付いていて復旧不能でした。
――床に置いていたところに、妻が掃除機をぶつけたらしいです…。
林:ですが、同じデータがミラーリング(コピー)されているもう1本のHDDは軽い論理障害だったので、こちらからデータを完全に復旧できる、と判断して、あの見積もりになりました。ざっくり言えば、HDD上のデータは、プラッターさえ無事ならばだいたいなんとかなりますね。
「プラッター」とは、データが格納されている磁気ディスク。表面は平滑で鏡のようだ。一番上のプラッターだけが見えているが、この下に何枚も重ねて収納されている。動作時には高速で回転し、プラッターの隙間にヘッドが入ってデータを読み取る
――HDDのトラブルには、「物理障害」と「論理障害」があるんですね。
トラブルシューティングは切り分けから
林:はい、HDDのトラブルシューティングは、この2つの切り分けから始まります。ハードウェア的に故障しているのが物理障害、ハードは健全で、その上のシステム(ソフトウェア)に不具合があるのが論理障害です。当然ですが、まず物理障害のチェックから始めます。よく耳にされる「不良セクタ」などがこれですね。
――物理障害と論理障害の比率は?
林:60:40で、物理障害のほうが多いです。
――ハードの不具合が多いんですか。「HDDが故障したら、もういっさい何もしないで修理に出せ」と聞いたことがありますが、もしかしてそのためですか。
林:それもあります。たとえばハードディスクのヘッド部分が曲がっていたりすれば、電源を入れるだけで、プラッターをヘッドが擦って傷が付く可能性が増えます。極端に聞こえるかもしれませんが、たとえば、HDDを落っことしたら、本当は電源を入れないほうがいい。論理障害でも、起動のたびに上書きされる部分があるので、電源を入れることで復旧を難しくする可能性があります。USBメモリだって、リスクを避けるなら本当は抜き差ししない方がいいんです。
――なるほど。でも、思うのですが、データ復旧ってどこまで人手が、技術が必要なものなんでしょうか。復旧用のソフトをがーっと動かせば、それでなんとかなるものはなる、ある意味、とっても生産性のいいもの=お安くできるものなんじゃないか? と。
林:後でご覧頂きますが、物理障害の復旧はかなり職人技ですよ。論理障害も、もちろんどんどん自動で復旧できるように進めていますが、自動システムでは救えなかったデータを、技術者が推論を働かせて復旧することはざらにあります。
――「自動処理だけやってみて、うまくいかなかったら諦める」みたいな、お安いコースは作れないものでしょうか?
林:処理の自動化は可能かも知れませんが、作業を始める前にある程度、人間が推理推論を働かせることは必須ですね。例えば今回お預かりしたYさんのHDDもそうですが、RAIDをお使いの場合は方式がいろいろありますから、「このHDDはRAID0(ゼロ)だろうか、RAID1だろうか、RAID5だろうか」というのをデータから読み取るところから始めねばなりません。
――え、そんなのユーザーが教えるでしょう。
林:それが間違っていることもありますから。
――あ、そうか。
ユーザーの言うことも“信じ切らない”姿勢が必要
林:実際に自分が駆け出しの頃、「これ、RAID1だから」と言われて復旧したらデータが足りなくて、実はRAID0だった、という経験があります。もちろんユーザーさんの情報は大いに参考にしますけれど、ゼロベースで調べるのが基本です。だから、どうしても人と時間がかかります。それが、料金に跳ね返って「高い」と思われてしまう。
――うーん、でもまだ納得がいきません。例えば、この事業で一番コストがかかるのはどこですか。
林:意外にかかるというところでは、物理障害対策のためにストックしておく「ドナー」のHDDですね。故障したHDDの、動かない部品を交換するスペアパーツにするのです。当社ですと、いま数千台のストックがあります。その入手や保管に少なからぬ費用がかかっています。
――古いHDDのストックにですか。大げさな気がしますが。
林:実際に見てみますか。
(すみません!長くなったので後編に続きます)
このコラムについて
(Yが)キーパーソンに聞く
日経ビジネスの変わり種デスクYが、本人的に話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎月1人、興味深いキーパーソンに出会えます。
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/284031/101900016/
- 地方百貨店、大量閉店時代の救世主は? 経営者らが口々に挙げるとある商業施設 軽毛 2016/10/21 09:19:47
(0)
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民114掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。